「複業」とは本業として営む仕事を複数抱えている状態のこと。ここでは「複業の定義」や「副業や兼業との違い」「実態や形態」「広まる背景」「メリットやデメリット」などについて、事例を示しながら詳しくご紹介しましょう。
目次
1.複業とは?
複業とは、本業として営む仕事を複数抱えている状態のこと。またこの状態を「パラレルワーク」、複業をしている人を「パラレルワーカー」と呼ぶこともあります。
パラレルワーカーの意味
ここでは「パラレルワーカー」について少し掘り下げてご紹介しましょう。
パラレルの意味
パラレルとは英語で「parallel」と表記し、平行であるまたその様を意味するのです。たとえば「パラレルな直線」という使い方があります。
ワーカーの意味
ワーカーは英語で「worker」と表記し、働く人や労働者を意味します。また「ケースワーカー」の略として使用されることも。
2.副業や伏業との違い
「副業」「伏業」とは何でしょうか。それぞれの違いについて詳しく説明します。
副業とは?
厚生労働省が2018年に発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業を本業とは別の意味を持つ仕事と定義しています。つまり、あくまでも本業が主体的で、副業はサブの位置付けとなっているのです。
また副業を行う理由として、自分がやりたい仕事である、スキルアップや資格の応用、収入アップなどがあると分かりました。
現状、副業への法的な規制はありません。しかし厚生労働省が示すモデル就業規則では、労働者の遵守事項に「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定があります。
兼業とは?
兼業とは同時に2つ以上の仕事を掛け持ちしている状態のこと。先述した、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、兼業を行う際は労働者と企業双方が合意して進めることを重要としています。
また過労で健康を害したり、本来の業務に支障を来したりすることがないよう、時間や健康状態を管理する必要があると注意しています。
兼業とは? 副業との違い、メリット、解禁の注意点を簡単に
働き方の自由度が上がり、兼業や副業への注目度は高まる一方です。今回は、兼業と副業の違いや従業員側・企業側それぞれのメリット・デメリット、兼業の注意点などを解説します。
1.兼業とは?
兼業とは、本業...
伏業とは?
伏業とは会社に黙って行う仕事のことで、本業以外の仕事が許可されない企業にて多く見られます。伏業は、企業情報の流出など懸念材料が多いため、注意が必要です。
ある会社が行った調査によると、伏業の経験があるかという質問に対して「ある」と回答した人は26%(全国のさまざまな業界で働く22~45歳が対象)。この結果からは、伏業をする人が意外に少なくないことが分かります。
3.複業の実態
ここでは、日本における複業の実態について具体的にご紹介していきましょう。
5人に1人が複業を実施
インターネット接続サービスの「So-net(ソネット)」は、働き方改革の流れを受けて全国の20~50代の2,500名を対象に「パラレルワーク(複業)に関する実態調査」を実施しました。その結果、「5 人に1 人」がパラレルワークをしていると判明したのです。
また複業を認めている会社は全体の3割程度でした。さらに複業をする理由については、最多が「収入を増やす」で77.8%、以降「好きな事をしたい」が32.2%、「得意なスキルを生かせる」が27.7%と続きました。
増加する複業系パラレルワーカー
フリーランス・タレントプラットフォームを運営する「ランサーズ」が行った調査「【ランサーズ】フリーランス実態調査2019年版」によると、複業系パラレルワーカー(雇用形態に関係なく、2社以上の企業と契約ベースで仕事をこなすワーカー)の人数は280万人。
また副業系や複業系の複数企業と契約をする個人は700万人を超えることも分かりました。働き方に変化が見られることが窺えます。
4.複業の形態
複業と一口にいってもさまざまな形態があると考えられています。たとえば社員として企業に勤務せず独立して複数の事業を行う複業もあれば、企業に在籍しながらさらに他の企業の仕事をこなすという複業もあるのです。
フリーランス・タレントプラットフォームを運営するランサーズでは、副業を「雇用形態に関係なく2社以上の企業と契約ベースで仕事をこなすワーカー」(ランサーズ資料より引用)と定義しています。
働き方の形態の変化が著しい昨今、今後も新しい複業スタイルが誕生する可能性は高いでしょう。
5.複業が広まる背景
ここでは、日本で複業が広まっている背景について掘り下げていきます。
日本ではこれまで、副業や複業は企業の就業規則の下に禁止とされてきました。しかし「人材の成長や生産性向上」といったメリットを得るべく、副業や複業を解禁する企業が増加しているのです。
働く人にとっては収入が得られるだけでなく、自己実現など多種多様なメリットがあります。働き方改革の後押しもある現代、さらに増加する可能性は高いでしょう。
6.複業のメリット
ここでは複業のメリットについて具体的にご紹介していきましょう。
働く側のメリット
まずは「働く側」のメリットについて詳しく見ていきます。
スキルアップ
会社を退職しなくとも別の仕事に就くことができるため、さまざまな知識や経験が得られます。また新しい価値観を得たり視野が広がったりするため、主体的にキャリアを形成しやすいのです。
自分自身の能力を1つだけの会社にとらわれずに幅広く発揮したい、積極的にスキルアップを図りたいといった目的を持つ人にとっては、魅力的な働き方でしょう。
自律・自立心が養われる
複業を行うと、1つの会社だけでなく、さまざまな会社での仕事に携われます。そのためそれぞれの会社で責任感を持ちながら働くことができるので、自然と自律・自立心が養われるのです。
複業する会社で自立心を身に付けたメンバーに出会い、そのメンバーとチームで仕事を行ってスキルアップを図ることもできます。こうした人との出会いも複業のメリットでしょう。
得た知識やスキル、人脈を応用できる
本業とは違う会社やコミュニティに属することで、知識やスキルが習得できますし、そこで構築した人脈を他の仕事に応用することも可能です。これらが循環することで、成長が期待できるでしょう。
企業側のメリット
ここでは、複業における企業側のメリットについてご紹介していきます。
人材育成と成長
複業は組織を超えて仕事の機会を得るため、成長するスピードがはやまります。また、より専門スキルを高めるチャンスも増えるので、得意分野がさらに向上することも。つまり、企業がコストをかけずとも人材育成ができるのです。
また複業によって事業全体に結び付くような経験を得ることで、経営者ならではの視点が強化しやすくなります。属する企業とは異なるメンバーとの協働によって、能力が伸ばしやすくなると考えられているのです。
生産性向上
複業によって人材育成を実現すると、企業の生産性向上が見込めます。
企業が複業を認めたり推奨したりすることで、社員は時間の使い方や配分に注意するようになるのです。よって2社以上で働くことで本業での仕事がより一層効率的になるというケースが生まれます。
ある会社が行った調査では、複業を行う社員の残業が従来よりも大幅に減ったという回答があったそうです。複業の容認によって、個人だけでなく企業全体の生産性向上が狙えるといっても過言ではないでしょう。
組織改革
複業の容認によって、組織はより柔軟な体制へと変化します。他の企業でも十分に能力を発揮し、活躍できる有能な人材によって組織が構成されるため、柔軟性が強まる体制に導かれるのです。
よって企業が、複業によって自立心がある、明確な目的意識を持っているといった人材を採用することは合理的といえます。組織の柔軟性を目的に、他社で活躍するプロフェッショナルを採用するという事例も実際にあるのです。
7.複業のデメリット、問題点
一方で、複業にはデメリットや問題点もあると考えられているのです。
働く人側のデメリット、問題点
まずは働く人側のデメリットや問題点をご紹介していきましょう。
自己管理能力
複業では2社以上の企業にてさまざまな仕事に携わります。よってそれぞれの仕事のバランスを自己管理する能力が求められるのです。
複業する仕事へのコミットメントの程度にもよりますが、どの仕事にどれくらい労力を費やすかというようなバランスを自分自身で調整することは欠かせません。
時間管理や自己管理能力が少ないと、タスクやスケジュール管理といった面で他者に迷惑をかけてしまうことがあるのです。
高い意識が求められる
複業はその名の通り複数の仕事を持つことを意味します。いわば本業をいくつか抱えているというイメージです。
いくつもの会社で業務を経験できれば、スキルアップしやすいでしょう。しかし高い意識を持ち続けていなければ、ただやみくもに時間が過ぎてその場限りで終わってしまいます。
複業を通して得たスキルなどをどう活用していくかなど、その先の明確な目的を掲げることも非常に重要でしょう。
企業側のデメリット、問題点
次に企業側のデメリットや問題点について見ていきましょう。
どこで何をしているかつかみにくい
複業を容認すると、属する社員がさまざまな企業や組織で働くため、社員がどこで何をしているか、どういった状況なのかがつかみにくくなるのです。
そのため複業を行う際は、企業と社員の間でできるだけ情報を共有しましょう。また本来の就業時間の把握や管理、社員の健康管理への対応も重要です。
情報漏えい
複業を推奨、容認する企業側には、社員の秘密保持義務、競業避止義務をどう管理するか、という課題が生じます。複業によって機密情報などの漏えいが引き起こってしまう可能性が考えられるからです。
また、複業先で得た情報を社員がどのように管理するかについて、あらかじめ定めておくことも必要となります。また、社員が負う守秘義務に留意し、さらに労働条件通知書や契約書などを作成するケースも昨今では珍しくないといえるでしょう。
8.複業の事例
ここでは日本における複業の事例について個別にご紹介します。
カオナビ
クラウド人材管理システムを提供するカオナビでは、社員のライフスタイルに合わせて能力を最大限に発揮できるよう、社内制度を通じて複業をサポートしています。たとえば「フレックス±20時間制度」という制度を活用すると、柔軟に複業が実施できるのです。
業務以外でも自己実現ができるような体制を持ちます。社内規定はありますが、ヨガインストラクター、ボイストレーナー、他社広報、他社健康経営コンサルティングなどの複業が容認されているのです。
エンファクトリー
オンラインショッピング事業を手掛けるエンファクトリーでは、社員の働く場所や機会、収入を増やすだけでなく、自発的に業務を進める能力や意識向上を目的に複業が認められています。
たとえばアドバイザーやコンサルタント、ECサイト運営などさまざまなパラレルワークがあるのです。
自ら稼ぐスキルを習得することで、「自分はどこでもやっていける」という自信を得られるという考え方がベースにあります。そして、複業によって社員のプロ意識やマネジメント能力を高めることを目指しているのです。
ダイヤモンドメディア
不動産ITサービスを提供するダイヤモンドメディアは、「個人が自分の意思で自己管理を行う」ことを基本として、社員に起業を推奨しているのです。
働く時間や休みは、会社側が設定するのではなく、すべて個人に任せています。さらに社員一人ひとりが自然な形で組織に調和し、各々の価値を最大限発揮することで組織の価値向上を目指しているのです。
これをダイヤモンドメディアはホラクラシー経営と呼んでいます。
フローレンス
「訪問型病児保育」「障害児保育」「小規模保育」などの事業を展開するフローレンスでも、複業が認められています。
目的は、社員の技能やスキル、人脈、経験を社内だけでなく社外でも磨いてアウトプットし、さらにインプットすること。
本来の業務への支障や競業とならない範囲、という条件が設けられているものの、社員は多様性を深めていくための良きチャンスを得やすいといえるでしょう。
ベーシック
SaaS事業やメディア事業を行うベーシックでは、上記のフローレンス同様に、本業に支障が出ない、競業とならないことを条件に複業を認めています。
ベーシックでは複業をするにあたって承認制というシステムを設けました。これには、他企業での業務によって社員の問題解決能力を向上させるという狙いがあるのです。
9.複業向けのサービス
2019年、日本初となる副業事前申請ソフトが誕生し、話題となりました。
「フクスケ」は企業が社員の副業によるリスクを管理できる副業事前申請ソフトです。今後増加が見込まれる社員の副業に対して人事や経営、管理部門が行う、事前申請のチェックを自動化できます。
管理部門が携わることになっている業務は、サービスを活用することで、ガイドラインの作成や申請された内容の確認、収集したデータの管理などが可能となるのです(ただしまだアルファ版で機能は今後追加予定)。