内部留保とは? 目的、高める方法

内部留保とは、企業が生み出した利益から税金や配当などを差し引いたお金で、社内に蓄積されるもの。今回は、内部留保の概念や経営分析における内部留保、内部留保を高める方法などについて解説します。

1.内部留保とは?

内部留保とは、企業の税引き後利益から、配当や役員賞与などの社外流出分を差し引いた額のこと。社内留保ともいい、かんたんにいえば企業が儲けた分の蓄えです。ここからは、内部留保の果たす役割と預金残高との違いについて解説します。

内部留保の果たす役割

内部留保は、企業を拡大するほかに大きな役割を担っています。より顕著に現れるのは、企業間取引でしょう。企業間取引で多くの日本企業は、長期取引を前提としています。長期取引において必要不可欠となる企業間の信頼を高める手段のひとつが内部留保なのです。

また内部留保が多い企業は、倒産のリスクが低く、金融機関からの信頼も得られます。このように内部留保の蓄積は、企業にさまざまなメリットをもたらし、さらなる相乗効果を生むのです。

預金残高との違い

内部留保と混同されやすいのが「預金残高」です。財務諸表の賃借対照表では一般的に、「利益剰余金」を指します。しかし内部留保は、会社設立から現在に至るまでに得た利益の蓄積のうち、配当といった事柄をしていない部分が示されるのです。

企業の資産のうちどれだけを現預金とするかは経営戦略のひとつで、内部留保とは無関係となります。

内部留保は、経営数値として大切なものです。内部留保の水準が高い場合、企業の健全性・安全性は高いでしょう

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2.内部留保の概念

内部留保の概念には広義と狭義があります。会計学といった有識者の間でも、内部留保の計算に用いる勘定科目をめぐっては意見の相違が見られるほどです。ここからは、内部留保の概念について詳しく見ていきましょう。

内部留保の狭義

狭義の内部留保は、利益剰余金(繰越利益などを積み上げたもの)のこと。内部留保は、財務諸表の賃借対照表にて、「利益準備金・任意積立金・繰越利益剰余金」いずれかの形で賃借対照表の「純資産の部」に計上されるのです。

では「狭義の内部留保」といわれる利益剰余金の構成について、見ていきましょう。

利益剰余金の構成

企業の純資産は「資本金・資本剰余金・利益剰余金・自己株式」で構成されており、そのうちの利益剰余金は「利益準備金・そのほかの利益剰余金」で構成されます。

「そのほかの利益剰余金」はさらに種々の「任意準備金(任意積立金)」と「繰越利益剰余金」に区分されるのです。ここからは、法定準備金である利益準備金と任意準備金について解説しましょう。

利益準備金

利益準備金は用途が資本の欠損填補などに限定され、会社法で毎決算期に一定額を積み立てるよう義務付けられています。積み立ての目的は、企業の財政基盤の強化と債権者保護。

企業は営業活動によって得た利益を株主に配当できます。しかし配当が無制限に行われると、財政基盤が揺らぎ、債権者に不利となってしまうでしょう。そこで利益準備金によって、これを抑止し、一定の利益を社内に留保するのです。

任意準備金

任意準備金は、会社の定款や株主総会の決議によって任意に用途目的を決定できるもので、任意積立金ともいいます。会社法にて積み立ては義務付けられていません。

任意準備金は、特定の目的がある「目的積立金」と、特定の目的がない「無目的積立金」に分かれます。なお財務諸表における賃借対照表には「任意準備金」の項目はなく、具体的な名称の積立金として記載されるのです。

内部留保の広義

広義の内部留保として、利益剰余金のほか「各種引当金・減価償却費・剰余金・包括利益の全体もしくは一部を内部留保として捉える」という意見があります。企業の決算にて、賃借対照表上のこれらの項目を合計すると、内部留保の積み上げ額が計算できるのです。

では、それぞれの勘定科目について見ていきましょう。

利益の費用化として捉える部分

利益の費用化として捉える部分は、各種引当金と減価償却費の2項目あります。各々を個別に計算し、合算したものを利益の費用化として捉えるのです。これらは賃借対照表では、賃方の「負債の部」へ計上されます。

これらのなかでどの程度が過大計上分となるのかについては、議論が分かれています。では、それぞれの項目について見ていきましょう。

各種引当金

各種引当金とは、将来の特定の支出や損失に備えるため、貸借対照表の負債の部(または資産の部の評価勘定)に繰り入れられる金額のこと。全体または過大計上分を利益の費用化として捉える部分にします。

引当金の代表例は、「貸倒引当金や賞与引当金、修繕引当金や退職給付引当金」など。引当金は将来の負債を想定して計上しており、実際に現金を積み立てているかはまた別の問題です。

減価償却費

減価償却費は、企業会計に関する購入費用の認識で、計算方法のひとつです。過大計上分を利益の費用化として捉える部分とします。

減価償却費は資金の流出を伴わない項目のため、減価償却を実施すると、社内に減価償却相当分の資金が内部留保されるのです。減価償却費分の資金が回収される内部留保を自己金融効果といいます。

剰余金

剰余金とは、純資産から資本金を差し引いた額のこと。株主からの払い込み金額である資本剰余金と企業内に留保された利益から構成されます。

企業内に留保された利益は利益剰余金といい、企業会計上、資本剰余金と利益剰余金を混同してはならないとされているのです。資本剰余金は資本取引から生じた剰余金で、利益剰余金は損益取引から生じた剰余金となります。

包括利益

包括利益とは、長期保有する株式の評価益や金融商品の評価益などを純利益に加えたもの。純資産の変動額のうち、出資者との直接取引によらない部分です。

概念として損益計算書の「純利益」より広義になり、包括利益には含まれるが純利益には認められない項目を「そのほかの包括利益」と呼びます。

狭義の内部留保は利益剰余金を指し、広義の内部留保は各種引当金や減価償却費、剰余金や包括利益を指すのです

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3.財源や余力としての内部留保とは?

経営分析にて内部留保は重要な役割を果たします。内部留保が役割を果たす財源の種類は3つに分かれるのです。ではそれぞれの財源について見ていきましょう。

  1. 株主資本を構成する経営資源としての役割
  2. 取り崩して配当に当てることが可能な配当財源としての役割
  3. 増配能力を示す指標である配当余力としての役割

①株主資本を構成する経営資源としての役割

企業が資金調達として株式の発行や社債の発行、銀行借り入れを行うと、株主・債権者からリスクに応じた資本コストを要求されます。内部留保は、株主資本を構成し、このコストを負担するのです。

総資本に対する負債比率は低下傾向にあるため、企業は内部留保を含めた株主資本の調達を強化しています。結果的に、株式資本コストが負債資本コストの割合が上昇し、企業が負担する全体の資本コストは上昇しているのです。

②取り崩して配当に当てられる配当財源としての役割

会社の配当財源の大きさは、内部留保と当期純利益を通して調べられます。当期純利益に前期繰越利益(狭義の内部留保である利益剰余金の一部)を加えると、当期未処分利益となり、それが配当財源になるのです。

任意積立金も株主総会の承認があれば、取り崩して配当に当てられます。

③増配能力を示す指標である配当余力としての役割

内部留保率とは、当期純利益が利益剰余金に分配される割合のこと。最も狭義の内部留保は、利益剰余金を指します。そのまま配当余力という増配能力を示す指標に置き換えるのも可能です。

一方、当期純利益が株主配当金に分配される割合を配当性向と呼びます。これが低い場合、配当余力の高さを意味するのです。

内部留保は、2008年リーマン・ショックを契機に、企業の「緊急予備資金」としての役割も果たしています

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4.日本においての内部留保

日本の上場企業は欧米の企業と比較して、内部留保を重視し、株主への配当を低く抑える傾向にありました。しかし大株主の要求や敵対的買収からの防衛策として、大幅な増配に踏み切る企業も増えているのです。

では、日本における内部留保の傾向について見ていきましょう。

内部留保の増加傾向

狭義の内部留保である利益剰余金は増加傾向にあります。1988年に100兆円、2004年に200兆円、2012年には300兆円を突破。2019年度の内部留保は475兆円超となり、2018年から11兆円余り、率にして2.6%増加し、8年連続で過去最高額を更新しました。

内部留保が増えている理由として、リーマン・ショックといった金融危機があります。

内部留保の活用

潤沢な内部留保がある企業はキャッシュを使うべきだというとき、使い道としてよくある例が、従業員の賃金の引上げや設備投資、株主配当です。

いずれもキャッシュを使う状況に変わりはないものの、内部留保の減少傾向が変わります。このなかで株主配当は、m、流出額がそのまま内部留保の減少につながるため、使い道としては最も有効だといえるのです。

内部留保への課税

内部留保は税を課した後の余剰金であるため、内部留保に対して課税すれば二重課税と見なされます。二重課税を容認すると、担税力以上の課税などさまざまな問題が発生するでしょう。そのため租税の原則として、同一の取引には1回の課税があるのです。

これは税制面から見た課税の問題ですが、経営面から見ても会社の発展の妨げとなる可能性があります。よって内部留保への課税は、慎重にならざるを得ないのです。

日本企業の当期純利益は、2000年代を通じて増加傾向にあり、利益の増加とともに内部留保も増加しています

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5.特定同族会社における内部留保

一定の法人では、内部留保に対して課税される場合もあります。課税対象となるのは、特定の同族会社です。ここからは、同族会社の定義や課税される理由、留保金課税の計算方法や節税について詳しく解説します。

同族会社の定義

同族会社とは、会社の株主などの3人以下、並びにこれらと特殊な関係にある個人および法人の所有する株式が、発行済株式の総数または出資金額の100分の50を超える会社のこと。

たとえば、会社を友人2人で設立したとしましょう。株式の保有が、「社長:40%・友人1:20%・友人2:20%」の場合、3人で保有する株式が50%を超えるので同族会社となるのです。

オーナー社長など一人で株式を50%以上保有する場合もあります。このように一つの株主グループで株式・出資金の割合が50%を超えると、特定同族会社になるのです。

特殊な関係にある個人や法人とは?

特殊な関係にある個人および法人とは下記のとおりです。

  • 株主の親族
  • 株主と事実上婚姻関係にある者
  • 株主の個人的な使用人
  • 株主から受ける金銭やそのほかの資産により生計を立てている者
  • 株主や株主と特殊関係のある個人および法人で、ほかの会社を支配している場合の当該他社(支配されている側)

内部留保に税金がかかる理由

前述したように、内部留保は税を課した後の余剰金であるため、内部留保に対して課税すれば二重課税と見なされるはずです。本来、会社であれば利益を配当という形で株主に分配する必要があります。

しかし株主が一つの親族だけでは、配当が大きくなると、株主である親族に多額の所得税が発生するのです。利益が出ても配当金を出さず、内部留保にする可能性があるため、回避策として内部留保への課税制度が導入されました。

特定同族会社の留保金課税制度

一定の特定同族会社には、内部留保に課税される留保金課税制度があります。対象となる法人は、同族関係者1グループで株式50%超保有の法人です。

また改正により内部留保に対する控除額が大幅に引き上げられ、平均的な配当を行えば、課税はされなくなりました。では、留保金課税の計算方法について見ていきましょう。

留保金課税の計算方法

留保金課税は、「(内部留保金-留保控除額)×税率」で計算します。留保控除額は、「所得基準額・定額基準額・利益積立金基準額」のうち最も大きい金額です。税率は下記のようになります。

  • 内部留保金-留保控除額=年3,000万円以下の場合、税率は10%
  • 内部留保金-留保控除額=年3,000万円超1億円以下の場合、税率は15%
  • 内部留保金-留保控除額=年1億円超の場合、税率は20%

留保金課税の節税

留保金課税は、内部留保の金額から一定の控除額を差し引いた金額に税率をかけて計算するため、節税(資本金を減らす方法と内部留保金を減らす方法)が可能です。では、それぞれについて見ていきましょう。

資本金

資本金1億円以下の同族会社は、留保金課税の適用対象外です。そのため留保金課税の節税として一番に挙げられるのが、資本金を1億円以下にすること。資本金を1億円以下に減らすと、中小企業に対するさまざまな特例の対象にもなり、節税効果があります。

内部留保金

留保金課税は、内部留保金に対して課税されます。そこで節税として内部留保金を減らす方法が考えられます。たとえば内部留保金を事業拡大のための投資や機械などの設備投資に使えば、留保金課税の税額を減らせるだけでなく会社の発展にもつながるのでしょう。

適切な内部留保の実現には、留保金課税に対する節税が重要です。会社の将来にもかかわるため、自社に適した対策を検討しましょう

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6.内部留保を高める方法

内部留保が高い水準なら、社会情勢の変化で一時的に損失が出ても、会社の存続には影響しません。一方、内部留保が低い水準なら、少しの損失で会社の存続が危機的状況に陥ります。最後に、内部留保を高める方法についてご紹介しましょう。

既存事業の強化や新たな事業のチャレンジ

中小企業は特に、大企業と比べて事業リスクが高いため、防御をしているだけでは中長期的に内部留保は高められません。そこで重要となるのが、既存事業の強化や新たなチャレンジに有効なヒト・モノへの投資です。

内部留保は守りだけでなく、攻めの投資にも使われます。既存事業で獲得した内部留保を新規事業に回すのがその一例です。

長期的な経営戦略

単年度の利益に一喜一憂しない会社の指針をもち、長期的な計画の立案も大切です。もちろん既存事業で単年度の赤字であれば、全社的に収支改善に取り組まなければなりません。

そのうえで「内部留保を何年後にどの水準に目指すのか」「そのためにどのように利益を得て、何に投資をするのか」などについてしっかりとした検討が必要となります。

内部留保を高めるためにも、短期的視点と中長期的視点をうまく組み合わせ、どのように利益を配分していくのか考えましょう