ニーズとは、相手が求めている姿や状態のことです。ニーズの重要性やその種類、顧客ニーズを知る方法やニーズ発想、シーズ発想などについて解説します。
目次
1.ニーズとは?
ニーズとは、「要求」「求めているもの」といった意味を持つ言葉で、語源は英語のNeedです。ビジネスにおけるニーズは「相手が求めている理想的な姿や状態」を指します。
また置かれている状況に不満があり、不足している物を補いたい、という状態や心理を「顧客ニーズ」と呼ぶのです。
多くのビジネスはニーズをベースとして展開しています。人の不満や欠乏から生まれるニーズを満たすため、何かを提供したり不安とのギャップを解消したりすることが求められているのです。
ウォンツとの違い
ニーズは不足部分を補う「目的」で、ウォンツは不足部分を補う「手段」です。
不足している状態に違和感を覚えると、人は何かで満足できる状態に近づけたくなります。ウォンツとは、そういったニーズを満たしてくれる特定のモノに対する欲求です。
2.ニーズが重要な理由
より多角的なビジネスを展開するためには、ニーズの把握が必要です。たとえば「鍋がほしい」というウォンツがあった場合、そこから推測されるニーズは、「料理がしたい」「美味しい物が食べたい」。
とはいえこのニーズを満たす方法は「鍋を手に入れる」だけではありません。「気軽に利用できるレストランを見つける」といった方法でもニーズを満たせるのです。ウォンツから本質的なニーズを把握すると、顧客に対してさまざまなアプローチができます。
3.ニーズの種類
ニーズの定義は細分化され、それぞれの種類に意味があります。7種類のニーズについて解説しましょう。
- 顧客ニーズ
- 顕在ニーズ
- 潜在ニーズ
- 基本的ニーズ
- 副次的ニーズ
- 機能的ニーズ
- 情緒的ニーズ
①顧客ニーズ
顧客が必要としている状態のこと。生活や仕事の中で感じる不満や欠乏を、理想の状態にしたいと考えたときに生まれる、現実とのギャップを解消する欲求です。
商品を買う際の必要性や目的がこれに当たります。この「現実とのギャップを解消する欲求」を満たす商品が、顧客ニーズに合ったものと呼べるのです。
②顕在ニーズ
顧客が欲しい物またはサービスを自覚している状態のこと。顧客が自覚しているので、欲しい物やサービス、そしてなぜそれが欲しいのかも説明できます。そのため企業が把握するのはかんたんなのです。
ライバル企業も同じニーズを把握しているので、同じような商品やサービスを売り出してくるケースも多く見られます。
③潜在ニーズ
何か欲求があるにもかかわらず顧客に明確な自覚がなく、何が欲しいかを理解できない状態のこと。
まったく無自覚の場合もあれば、不満は感じているものの何がどうなってほしいか、具体的な形にはなっていないニーズもあります。この場合、顧客本人も自覚していないため、企業が潜在ニーズを把握するのは難しいでしょう。
④基本的ニーズ
人間としての生活に最低限必要とされるもの。たとえば「食糧や衛生的な飲料水」「雨風をしのぐ住居」「衣類」「衛生設備」「保健医療」「教育」などです。
基本的人権として挙げられるようなものが基本的ニーズといわれます。ビジネスの場合、顧客が最低限必要としているものを基本的ニーズと考えるのです。
⑤副次的ニーズ
副次的ニーズとは、基本的ニーズが満たされた後、さらに必要だと感じるもの。たとえば、「もっとこうだったらいいのに」といった欲求を満たす物やサービスです。顧客の基本的ニーズと副次的ニーズは、分けた把握が必要になります。
⑥機能的ニーズ
製品がもつ機能面や品質面において顧客に提供できる価値のこと。
近年、優れた機能を備えたさまざまな商品が流通しているので、機能的価値だけでライバル他社と差別化を図るのは難しくなっているのです。また製品の機能が、ライバル企業にマネされてしまうケースも見られます。
したがって機能的ニーズを満たすだけで市場の優位性を維持するのは、困難です。
⑦情緒的ニーズ
商品やサービスを使用した顧客が体感できる精神面や感情面に作用する価値のこと。たとえば商品を使用して顧客が感じる、喜びや楽しさ、プライドなどです。
人気のスマートフォンや有名ブランドのバッグなどを持つことがある種のステータスになるように、商品イメージが情緒的ニーズにつながる場合も多くあります。
4.顧客ニーズを知る方法
顧客ニーズを知る方法には何があるのでしょう。それぞれについて解説します。
- インターネット上の情報をチェックする
- 顧客をイベントに招く
- アンケートを取る
- 顧客データを分析する
①インターネット上の情報をチェックする
顧客ニーズを知るにはSNSが便利でしょう。TwitterやInstagramなどでどのような評価をされているか瞬時にわかるうえ、顧客の生の声を聞けるので、顧客ニーズも洗い出せるのです。
昨今、SNS上で投稿した日常的な会話や行動データを収集し分析するソーシャルリスニングが注目を集めています。手軽に利用できるものの発言者の性別や属性などを把握するのは難しいため、データの信頼性が低くなりやすいのです。
②顧客をイベントに招く
参加型のイベントにリピーター客や新規顧客などを招待して、ニーズが引き出せる機会を設ける方法です。ポイントは、さまざまな客層を招待すること。
リピーター客は既存の商品をすでに知っているため、新商品に興味を示す場合も多いです。そして新規顧客はすべての商品に目を向ける傾向があるとされています。
多くの人が集まるブースは人気商品で、わかりやすいでしょう。一方、人が少ないブースについてなぜ人気がないのか、その場で直接、顧客に聞いてみるのをおすすめします。
③アンケートを取る
顧客のニーズを知るためにとても有効で、最も実施しやすい方法でしょう。企業側が知りたい情報に対して回答してもらえるうえ、回答者の性別や属性などが把握できます。
またアンケートは、オンラインや紙を使用したものなどさまざまあり、回答人数が多いほど確実な情報が得られるのです。さらに製品やサービスに対して顧客の反応を知っていけます。ただしアンケート設計や集計に手間がかかるでしょう。
④顧客データを分析する
潜在ニーズを知るための方法として顧客の基本データや購買情報などを分析する方法があります。データを分析する際に必要となる有名なフレームワークは次の3つです。
- RFM分析…最近の購入日、利用頻度、金額の大きさの3つを指標にして分析する方法
- CTB分析…カテゴリ、テイスト、ブランドの3つを指標にして分析する方法
セグメンテーション分析…年齢や性別、職業などを基準にし、その基準を基に市場を分割(細分化)する方法
5.ニーズ発想とは?
顧客のニーズや欲求をベースに、「このような商品や事業があれば受け入れられるだろう」と考える発想方法のこと。たとえば困っていることや、不便だと感じていることです。顧客ニーズからの発想なので、実現すれば市場には受け入れられやすいでしょう。
しかしその反面、自社の強みを生かしにくくなります。またそれまでに無い、まったく新しい市場を開拓するのには向かないともいわれているのです。
シーズ発想との違い
シーズ(Seeds)発想とは、企業が持っている技術やノウハウを新製品にいかし、新たな開発をするという発想方法のこと。
ニーズ発想は、顧客のニーズをもとに新商品を開発していきますが、シーズ発想は独自技術で商品開発を進めるため、高品質で競争力の高い製品やサービスを提供できるのです。シーズ発想による製品はパソコンやテレビなどハイテク製品に多く見られます。
6.ニーズ発想のメリットとデメリット
ニーズ発想は、売れやすい一方、同じような商品を開発する競合も多いなど、メリットとデメリットがあります。
メリット
ニーズ発想で開発した商品は、調査や分析などから顧客からの需要があるとわかっているため、売れやすいです。需要が途切れる心配もありません。
すでにニーズに対応した製品やサービスが市場に出ていても、さらに上をいく高機能で、低価格の製品を開発すれば、顧客のニーズにこたえられる製品になるでしょう。
デメリット
他社もニーズが多い層をターゲットにした商品開発を実施します。よって同じような競合商品がすでに出回っている場合も多く、シェアの奪い合いになるのです。市場の独占が難しい点はデメリットでしょう。
その場合、他社商品との差別化やアプローチ方法の変更、市場範囲の絞り込みなど工夫が必要になります。
7.シーズ発想のメリットとデメリット
シーズ発想は大ヒット商品を生み出す可能性も高いです。しかしまったく売れない場合もあるといったメリットとデメリットがあります。
メリット
シーズ発想により誕生した商品やサービスは、同業他社にはない独自のノウハウやアイデアがもとになっています。生産者の熱い思いが根底にあるため、ユニークで秀逸な商品が誕生する可能性も高いでしょう。
多くの顧客の関心や興味をつかめば、その時代を象徴するような大ヒット商品になる可能性もあり、市場の独占も見込めます。
デメリット
顧客のニーズとはまったく無関係のため、たとえユニークで高性能でも、顧客の興味や関心を得られない場合があります。
市場に存在していない新しい製品を開発したものの、それは生産者側の考えだけで、売上につながらないというリスクがあるのです。多様な製品やサービスが市場に出回っており、新しいヒット商品を誕生させるのは難しいでしょう。
8.ニーズ発想とシーズ発想のどちらが重要か
ヒット商品を目指す際に、ニーズ発想とシーズ発想のかかわりについて考えてみましょう。
商品開発ではまず、どのような顧客ニーズがあるのかを把握します。いくらシーズ発想の価値が高い製品やサービスを開発しても、顧客ニーズを把握していなければ、売上の見込みは期待できません。
しかしニーズ思考だけで市場を独占するのは困難です。すでにニーズがある市場で売上を伸ばすには、低価格を目指すしかありません。そこで自社のシーズ発想と、顧客のニーズを合わせて新しい商品を開発できれば、大ヒット商品も夢ではないのです。
9.ニーズ発想の事例
ニーズ発想で大ヒット商品を生み出した代表的な事例は、ソニーのウォークマンです。
外出先で音楽を聞くには大きなステレオラジカセを持ち出すしかなかった1979年に発売され、初回生産分をわずか2カ月で完売しました。その後、6カ月に渡って注文が殺到する爆発的な人気商品になったのです。
そのほか、
- パナソニックのパソコン「レッツノート」
- カメラ機能付きスマートフォン
なども消費者のニーズを掘り起こして大ヒットした事例になります。