年次有給休暇管理簿とは、従業員の年次有給休暇取得状況を管理するための文書です。適切な作成方法、書き方例、作成しなかった場合の罰則などについて解説します。
目次
1.年次有給休暇管理簿とは?
年次有給休暇管理簿とは、企業が従業員の年次有給休暇取得状況を管理するための帳簿です。従業員ごとに作成し、有給休暇の付与日数、使用した日数、残りの休暇日数などを記録します。
企業は、年次有給休暇が付与される従業員に対して、1年間に5日以上の有給休暇を取得させなければなりません。また年次有給休暇管理簿の作成と保存の義務も発生しています。
現行の労働基準法では、年次有給休暇管理簿を含む労働関係の記録の保存期間は3年間。ただしこれは経過措置であり、将来的には年次有給休暇管理簿の保存期間が5年間に延長される予定です。
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対象者
年次有給休暇管理簿へ記載する対象者は、年次有給休暇が10日以上発生する従業員です。雇用形態にかかわらず年次有給休暇が付与されるすべての従業員が対象で、正社員のほかに派遣労働者、アルバイト、パートタイムなども含まれます。
この規定の根底にあるのは、2019年4月施行の労働基準法の改正。この改正により、年次有給休暇が10日以上付与される従業員には、年に少なくとも5日の有給休暇を取得させる必要があります。
2.年次有給休暇管理簿の作り方
年次有給休暇管理簿の作り方はとくに定められていません。主な作成方法は以下の3つです。それぞれのメリットやデメリットを解説します。
- 紙で作成
- エクセルで作成
- 労働管理システムで作成
①紙で作成
年次有給休暇管理簿を紙で作成する場合、以下のメリットとデメリットがあります。
メリット
- 紙に記入する方法は、すぐに始められる
- ITスキルやPC操作の知識がなくても作成できる
- PCや特別なソフトウェアがなくても作成できる
デメリット
- 手書きのため、作成や日数計算に時間がかかる
- 従業員が多いほど、一人ひとりの記録を管理するのが難しい
- 3年間の保存義務があるため、適切な保管場所が必要となる
- 紙の管理簿は、紛失や破損のリスクがある
年次有給休暇管理簿を紙に作成する方法では、従業員ごとに個別の管理簿を作成しなければなりません。そのため従業員数が多いほど作成の負担が増大するでしょう。
②エクセルで作成
エクセルで年次有給休暇管理簿を作成する場合、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- エクセルには自動計算機能があり自動計算できる
- 厚生労働省の提供する無料のテンプレートなどを利用できる
- 業務でエクセルを使用していれば、新たにソフトやツールを導入する必要がない
デメリット
手入力するときに入力ミスや漏れが生じる恐れがある
- 従業員数が多いとファイル数が増えて管理が複雑になる
- 誰でも操作できるため、データが改ざんされる可能性がある
- 保存のミスでデータが失われる可能性がある
エクセルで作成すると紙の作成と比べて入力、計算、保管が容易です。ただし結局従業員数と同数のファイルを管理しなければなりません。
③有給管理ソフトで作成
有給管理ソフトを利用して年次有給休暇管理簿を作成する場合、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- 従業員ごとに個別の管理簿を作成する必要がない
- クラウドシステムを利用すれば、最新の法令に準じた管理が可能
- システムによっては勤怠データと連携できる
デメリット
- 導入時に初期費用やランニングコストがかかる
- データ保管が社外になるため、セキュリティリスクへの対策が必要
有給管理ソフトを利用すると、勤怠や賃金、社会保険加入などさまざまな情報を一元管理でき、データの自動集計や自動反映も可能です。年次有給休暇管理も含めて労務管理業務の負担が大幅に軽減されるでしょう。
ただしシステムの操作にはある程度のITスキルや知識が求められるため、労務管理担当者への研修などが必要となる可能性もあります。
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3.年次有給休暇管理簿の項目と書き方例
年次有給休暇管理簿に記載しなければならない項目は以下の3つです。
- 基準日(年次有給休暇権が発生した日)
- 日数
- 時季(年次有給休暇を取得した日付)
それぞれの項目について概要と書き方の例を説明します。
①基準日
年次有給休暇管理簿に記載する基準日とは、企業が従業員に有給休暇を付与した日付です。一般的に有給休暇は1年ごとに付与されます。
各従業員の基準日から1年以内に最低5日の有給休暇を取得させなければなりません。そのため年次有給休暇管理簿で基準日を正確にする必要があるのです。
基準日の設定は、主にふたつの方法があります。
- 全従業員に同一に設定する方法(一斉付与)
- 各従業員の雇入日によって異なる日付にする方法
従業員数の多い大企業や大規模な採用を実施する企業では、管理の負担の軽減やミス防止のために、基準日を1月1日や4月1日など分かりやすい日付に統一する方法が推奨されています。
②日数
基準日から1年以内に従業員が保有する有給休暇日数と、実際に取得した日数を記録します。記載方法は、1日取得なら「1」、半日取得なら「0.5」です。
保有日数とは、付与された有給休暇の日数に、前年度からの繰り越し日数を加えたものです。繰り越し日数とは、前年度に使い切れなかった有給休暇を繰り越した分を指します。
なお一斉付与を設定した場合、ふたつの基準日が発生する点に注意が必要です。この場合は、ひとつ目の基準日からふたつ目の基準日の1年後までのそれぞれの期間ごとに、保有している有給休暇日数を記載します。
給休暇の日数は労務監査時にチェックされる重要な項であるため、記入漏れや入力ミスにも気をつけましょう。
③時季
時季とは、従業員が年次有給休暇を取得した具体的な日付のことです。
たとえば2023年9月1日に有給休暇を取得した場合は「2023年9月1日」と記載します。詳細な記載欄を設けておくと、時間単位での有給休暇取得も記載が可能です。
従業員が有給休暇を取得する時季を知っておくと、利用を促進するタイミングが把握できます。特定の時期に多くの従業員が休暇を取得する場合、業務の継続性を確保するために代替スタッフの手配や業務量の再配分が必要になるでしょう。
有給休暇取得者の優先順位や業務量の調整などを検討する際にも、時季の情報が役立ちます。
4.年次有給休暇管理簿のフォーマット
厚生労働省のホームページでは、年次有給休暇管理簿の記載例やExcel形式のフォーマットが公開されており、無料でダウンロードできます。
厚生労働省「年次有給休暇管理台帳」
※リンクをクリックするとExcelファイルがダウンロードされます
必須項目である基準日、日数、時季も含まれているため、ダウンロードしたらすぐに作成することも可能。フォーマットをベースとして、自社で管理しやすいようにカスタマイズしても問題ありません。
5.年次有給休暇管理簿を作成しなかった場合の罰則
年次有給休暇管理簿の作成や保管を怠った場合の罰則は定められていません。しかし年次有給休暇管理簿がないと、企業が従業員の有給休暇管理を適切に実施していないと見なされ、法的トラブルに巻き込まれるリスクが高まります。
規定されている5日の有給休暇取得を従業員にさせていない場合、労働基準法違反として従業員一人あたり最大30万円の罰金が科される可能性があります。
年次有給休暇管理簿がなければ、労務監査や訴訟の際に有給休暇を取得させたことを証明するのが困難になるでしょう。年次有給休暇管理簿の適切な作成と保管は、トラブルを防ぎ、適切な労務管理に不可欠なのです。