日本特有の雇用制度といわれる年功序列。成果主義が台頭しつつある現代でも、年功序列を導入している企業はまだ多くあるようです。
- 年功序列とはどんな制度なのか
- 意味や特徴
- 成果主義との違い
- 年功序列のメリットやデメリット
などについて解説しましょう。
目次
1.年功序列とは?
年功序列とは、勤続年数や年齢といった要素を重視して、組織の中で役職や賃金などを決定する慣習や人事制度です。年功序列は、勤続年数や年齢が高くなればなるほどスキルやノウハウ、経験といったものが蓄積され、組織内における職務上の重要度が高まるといった前提に基づいています。
年功序列の大きな特徴は、一つの会社で長く勤務すればそれだけで自動的に一定の役職を得ることができる点。この安定的なシステムが、戦後日本の経済発展を支えてきたのです。
年功とは?
「年功」という言葉には、
- 長年にわたる功労や功績
- 長年にわたって積み重ねられた経験
- 長年の訓練で習得した技術
などの意味があります。日本の雇用制度上の用語としては、「一つの企業で長きにわたり業務に携わることで蓄積された経験や技術、功労」という意味で使われていると考えてよいでしょう。
2.年功序列と成果主義との違いは?
「年功序列」と比較して用いられる言葉に、「成果主義」があります。成果主義とは従業員の能力や会社に対する貢献度といった業務の成果に応じて、役職、賃金などの報酬を決定する人事制度のこと。
年功序列は勤続年数や年齢を基準に構築された人事制度でしたが、成果主義では、勤続年数や年齢はまったく考慮されません。あくまで仕事の成果で、昇進や昇給などの人事が決定されるのです。
成果主義とは? メリット・デメリット、問題点をわかりやすく
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1.成果主義とは?
成果主義とは、仕事の成果や成績に応じて、昇給や昇格などの処遇...
3.年功序列制度のメリット
勤続年数や年齢をもとに人事制度を構築する年功序列には、3つのメリットがあります。
- 会社への帰属意識が高まり、従業員が定着しやすい
- 人事評価システムが複雑化しない
- 人材の育成計画が立てやすい
①会社への帰属意識が高まり、社員が定着しやすい
1つ目は、会社への帰属意識です。帰属意識とは、集団の中に自らが属しており、その集団形成に関わる一員として自らが存在しているという意識のこと。
昇進、昇格の基準は長く勤務を続けること、と明確になっているため、年功序列では離職率が低下します。それは職場への定着率を高めることと同じ意味でもあるでしょう。
また、従業員の「自分は会社を構成する一人」という自覚を高めてくれるのです。研修などで帰属意識を説くより「従業員自身が継続する日々の就労から帰属意識を習得する」ほうが、より確実に従業員が会社に定着します。
②人事評価システムが複雑化しない
2つ目は、人事評価システムの複雑化を防ぐ点。年功序列では、勤続年数や年齢に従って役職や賃金が上昇すると明確になっています。
勤続年数と年齢という2つの指標をもとにして人事評価制度の基準や賃金体系を構築するという単純明快な仕組みにより、管理しやすくなるでしょう。また、年功序列により社員の勤続年数も延びるため、
- 一人ひとりの特性
- 能力
- 適性
なども把握しやすくなります。それらを生かして異動や配置転換などを進めれば、企業内で人材の適材適所を実現することも容易です。
③人材の育成計画が立てやすい
3つ目は、人材育成計画の立案に良い影響を及ぼす点。現代では、入社後数年で退職する若者が社会問題となっています。しかし、年功序列の下では、若者を含めた離職率が低下するのです。
それにより、採用コストや人材育成に投じたコストを無駄にすることなく人材の確保が可能となります。勤続年数が長くなれば、短期的な人材育成のみならず、長期的な育成計画を構築しやすくなるでしょう。
従業員同士も成果を競い合うライバルにならないため、先輩から後輩へとノウハウの伝承がスムーズに行われるでしょう。つまり全社的に豊かな人材育成を可能とする文化が形成されるのです。
4.年功序列制度のデメリット・廃止の理由
年功序列制度には、問題点もあります。特徴的な問題点を3つ挙げましょう。
- 事なかれ主義の風土が醸成されやすい
- 社員が高年齢化すると、人件費が増大する
- 有能で向上心が強い人材ほど離職しやすい
①事なかれ主義の風土が醸成されやすい
1つ目は、社風に事なかれ主義が醸成されやすい点。
年功序列では成果と無関係に人事評価が行われるため、加点方式より、減点方式での評価に偏る傾向があります。そうなると新しいことへのチャレンジより、
- ミスや損失を出さない
- 現状維持を心掛ける
などの事なかれ主義の風土が醸成されやすくなるのです。変化や競争の激しいビジネスの世界にて、与えられた仕事をこなすだけの従業員ばかりを雇用していては、市場の動向についていけなくなる可能性も高まるでしょう。
②社員が高年齢化すると、人件費が増大する
2つ目は、人件費の高騰です。
年功序列により勤続年数が長い社員が増加した場合、当然、賃金の上昇から人件費の高騰が予測されます。また、離職率が低下するため、採用を重ねるほど従業員数も増加。企業規模は拡大するでしょう。
すべての従業員に対して同様の賃金上昇を確約している以上、企業規模拡大に伴って年々人件費が増加するのです。これは、企業経営の大きな足かせとなるでしょう。
③有能で向上心が強い人材ほど離職しやすい
3つ目は、有能で向上心の強い人材ほど離職しやすい点。
年功序列の特徴として一般的には、離職率の低さが挙げられます。しかし、高い能力を持った人材は、能力を発揮して一定以上の成果を上げても成果に対する満足な評価は得られません。
有能で向上心がある従業員は、年功序列の下では充分な評価を受けられないと感じた場合、成果主義に基づく人事評価制度を導入する企業に惹かれ、今の会社を辞する可能性も高いです。
5.日本型雇用システムとは?
日本型雇用システムは、欧米の雇用システムとはその性質を異にしているといわれます。そもそも、日本型雇用システムはどのような特徴を持っているのでしょう。
- 終身雇用
- 企業別組合
①終身雇用
1つ目は、終身雇用です。終身雇用とは採用した社員を、特別な場合以外解雇せずに人事制度における定年に該当する年齢まで雇用し続けること。
終身雇用制度の下では、解雇事由に当たるような特別な理由がない限り、社員を解雇することはできません。崩壊したとはいえまだまだ日本社会では当たり前に存在する終身雇用制度。安定志向の強い若者を中心として最適な制度と見なされています。
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②企業別組合
2つ目は、企業別組合です。企業別組合とは企業ごと、または事業所ごとに組織された組合のこと。
企業別組合は職場に密着している組織のため、企業の実態に即した組合活動を行えます。しかし、あくまで企業内にある組織。経営に対する独立性の低さや活動の閉鎖性が問題視されているのです。産業別組織の交渉権があっても、個別企業内部には影響を及ぼしにくいことも。
- 個別企業の枠を超えた横断的労働条件の獲得
- 産業別組織の運動強化
によって企業別組織の弱点を補う必要があるでしょう。
6.年功序列から成果主義へ
日本の雇用システムの基幹を担っていた年功序列。現代社会ではどれほどの企業が年功序列を導入しているのでしょう。いくつかの実態調査結果から考察してみます。
「年功序列」と「成果主義」どちらが多い?
「日本の人事部 人事白書2017」の調査によると、
- 成果主義を導入している企業:74.5%
- 年功序列を導入している企業:46.7%
これまで日本企業の多くで取り入れられていた年功序列が少しずつ成果主義へと切り替わっている、その様子が調査結果から読み取れます。
従業員は成果主義を求めている
朝日生命による「従業員は成果主義を求めているのか?」という意識調査の結果によると、7割以上の従業員が成果主義、実力主義を重んじている企業を希望しているそうです。
「自らの能力を磨き成果を上げることで、成果に見合った報酬を得たい」という従業員像が見て取れます。
7.年功序列を成立・維持させるための条件
年功序列は、メリットとデメリットの両方を持ち合わせています。デメリットを克服し、メリットを生かして年功序列を成立・維持させるには、どのような条件が考えられるでしょう。
継続的な業績向上、企業成長
年功序列を成立・維持させるには、企業業績の継続的な向上、すなわち企業の成長が大前提となります。雇用年数の経年に伴い賃金が上昇する年功序列。企業が自社の歴史を積み重ねるほど、人件費の負担は思った以上のスピードで増加するでしょう。
増大する人件費に対応できるだけの継続的な業績向上は、年功序列を成立・維持する上で絶対条件といえます。逆に言えば、業績向上が見込まれない企業は、年功序列の成立自体が困難となるのです。
継続的採用
年々増加する人件費に対応するには、継続的な業績向上が欠かせません。安定して企業業績を向上させ、企業を成長に導くための手段とは何でしょう?それは、事業拡大です。
事業を拡大するには新たな人材雇用が望まれますし、年功序列を成立・維持させるには、事業拡大に対応できる人材を継続的に採用しなくてはなりません。
新卒社員だけでなく、スキルや経験のある有能な人材も採用するなど人材を継続かつ安定して採用することが重要なのです。
従業員の知識・スキルの継続的上昇
年功序列の成立・維持には、企業業績の向上や継続的な人材採用が欠かせません。しかし、それだけでは安定した年功序列の成立・維持は難しいでしょう。
そこで重要となるのが、年功序列の下に雇用する従業員の知識やスキルを継続的に上昇させること。
会社に長期勤務する人材ほど、業務上の経験値が増加します。これらの経験値をスキルや能力にしっかりと反映させれば、従業員のレベルを継続的に上昇できるでしょう。それを活用すれば、企業業績の向上も見込めます。