認知的不協和とは、矛盾する認知を持った時の感情を表す言葉です。その意味、具体例、解消法だけでなく、ビジネスにおける活用術や関連書籍などを詳しく紹介します。
目次
1.認知的不協和(理論)とは?
認知的不協和(cognitive dissonance)とは、自身の思考や行動と矛盾する認知を抱えている状態、またその際に覚える不快感を意味する言葉です。たとえば、「ダイエットしたい」と「カロリーが高いものを食べたい」という矛盾する認知が、ストレスになっているような状態を指します。
個人が矛盾する二つの認知を持つこと
認知的不協和理論は、自分の中に矛盾する2つの認知が生じたときにあらわれる不快感を表す用語で、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガー氏によって提唱されました。
認知的不協和から生じる不快感によって、人は自らの態度や行動を変容させていると考えられているのです。
また人は不協和を解消させたいがために、過去の認知または新しい認知のいずれかを否定する傾向にあります。「矛盾する認知の定義を変更もしくは過小評価する」「自身の態度や行動を変更する」とも考えられているのです。
2.認知的不協和の実験と具体例
レオン・フェスティンガー氏は、「単調な作業を行わせた学生に対しては報酬を支払う」「次同じ作業をする学生には作業の楽しさを伝えさせる」という実験をしました。
その結果、報酬が少ない学生は、報酬が多い学生よりも楽しさを伝える度合いが強かったのです。そこから同氏は割に合わない報酬に対して「本当は面白かったのかもしれない」と、認知に修正を加えて不協和を解消しようとする心理が強く働いているとしました。
認知的不協和の具体例
日常的な認知的不協和の例を3つ、説明しましょう。
- 煙草がやめられない
- 恋人に尽くしてしまう
- 飲食店の行列に並んでしまう
①煙草がやめられない
喫煙者によっては「たばこは体に悪いと分かっていてもやめられない」という矛盾行為が生まれます。そこには「たばこが吸いたい」けれど「体に悪いから辞めたほうが良い」という認知的不協和が生じているのです。
そのとき喫煙者は、煙草を吸い続けるために自らの行為を正当化します。矛盾行為を正当化して、認知的不協和を低減しようとしているのです。
②恋人に尽くしてしまう
恋人に「お金を貸して」と頼まれて断り切れず貸してしまった、という場面があったとしましょう。その際「本当は貸したくなかったのに貸してしまった」という気持ちと行為の間に、認知的不協和が生じます。
この矛盾行為を低減しようとして「恋人を愛しているのだからしかたない」という心理が働き、行為を正当化してしまうのです。
③飲食店の行列に並んでしまう
行列に並んで入った飲食店に持つ不満が少ない人ほど、待ち時間が長いとされています。「不協和の度合いが強いほど、並ぶ時間が長い」のです。
「これだけ大勢の人が並ぶ店なのだから、美味しいに違いない」と認知して、不協和を解消しているともいえます。
3.ビジネスシーンに見られる認知的不協和の悪い例
ビジネスシーンに見られる認知的不協和の悪い例2つについて、見ていきましょう。
- ブラック企業に勤め続けてしまう
- 自分より年下にもかかわらず出世している人を良く思えない
①ブラック企業に勤め続けてしまう
たとえば、
- 安い給与で長時間労働する状況にある
- 会社の朝礼で「感謝」「貢献」「価値ある仕事」といった社訓を読みあげている
としましょう。この場合、読みあげている言葉で自分をごまかしてしまうため、なかなか会社を辞められません。これはブラック企業が認知的不協和を利用する手口で、「やりがい」だけで働かせる「やりがい搾取」にあたります。
やりがい搾取とは? 事例、ブラック企業の特徴、対策
やりがい搾取とは、労働者のやりがいを悪用した企業の行為です。本記事では、やりがい搾取について解説します。
1.やりがい搾取とは?
やりがい搾取とは、企業が労働者に対して「仕事のやりがい」を悪用すること...
②自分より年下にもかかわらず出世している人を良く思えない
後輩が自分よりも格上の肩書きを持っていた場合、居心地の悪さを感じてしまう人もいるでしょう。
状況に対して、「今は年功序列じゃない」「上司にうまく取り入ったんじゃないのか?」などと自分に言い聞かせ、認知的不協和の解消をしています。芸能界やアートの世界など評価基準が曖昧な場面でよく見られるケースです。
4.認知的不協和の解消法
認知的不協和の不快感を抱えたまま生きていくのは残念なこと。プラス思考に切り替えて、前向きでいたほうが人生は楽しいでしょう。ここでは認知的不協和を改善する方法2つについて、見ていきましょう。
甘いレモンという考え方:古い認知を否定して新しい認知を肯定する方法
手に入れた果物がレモンしかなかったとき、「このレモンは甘いに違いない」と思って満足しようとするのです。
この場合、ほかの果物が手に入らなかった、という事実があります。認知的不協和を解消するため、「手に入れたレモンは甘いからほかの果物は必要ない」と思い込み、ほかの果物が手に入らなかった点を否定するのです。
すっぱいブドウという考え方:新しい認知を否定して古い認知を肯定する方法
食べたかったけれどどうしても手に入らなかったブドウを「すっぱいに違いない」と思おうとします。また食べたいという感情の重要度を低くして、食べられなかった状況を正当化するのも認知的不協和の解消法です。
たとえば試験の点数が悪かったとき、「先生の教え方が悪い」「どうせ将来使わない科目だ」などと考えるのも同じ理論の解消法といえます。
5.ビジネスにおける認知的不協和の活用術
ビジネスの場における認知的不協和の活用術4つについて、解説します。
- アフターフォローを徹底する
- 認知的不協和を解消する提案
- 営業の際、顧客にお願いをする
- キャッチコピーに矛盾した表現を入れる
①アフターフォローを徹底する
商品やサービスを購入した直後、正しい買い物をしたかどうか不安になったら、認知的不協和によって自分の判断は正しかったと思い込もうとします。
営業担当者はこうした心理を生かし、顧客に対して「正しい買い物をした」という認知を後押しするのです。すると顧客は自分の判断が間違っていなかったと実感できます。
②認知的不協和を解消する提案
「買うべき理由」を提示すると、顧客の認知的不協和が解消されるため、買ってもらいやすくなるのです。
たとえば顧客が「必要というわけではないものの欲しい」と商品の購入に悩んだら、販売スタッフはその商品が生活に必要な理由を提示します。すると顧客は「やっぱり必要だから買おう」という気持ちになり、購入につながるのです。
③営業の際、顧客にお願いをする
顧客に何かお願いをすると、好感度が上がります。たとえば、顧客に「ティッシュもらえますか」とお願いして顧客が承諾したとしましょう。
そのとき顧客には、「営業を警戒している」にもかかわらず「願いを承諾した」という矛盾した認知が生じます。それにより顧客は「承諾しているのだから営業に好意があるかも」という勘違いを起こすのです。
④キャッチコピーに矛盾した表現を入れる
矛盾した表現を入れたキャッチコピーで、敢えて顧客に認知的不協和を起こせます。たとえば3つのキャッチコピーを並べ、そのうち2つに「偏差値をあげたいなら勉強しない」「食べて痩せる」といった矛盾した内容を入れるのです。
このように矛盾を含むと顧客に認知的不協和が起こるため、キャッチコピーが注目されます。
6.認知的不協和とあわせて覚えたいビジネスに使える用語
認知的不協和は、コピーライティングやマーケティングなどでも広く活用されています。ここでは、認知的不協和とあわせて覚えたいビジネスに使える用語を4つについて、解説しましょう。
- 返報性
- ベン・フランクリン効果
- ハロー効果
- ホーンズ効果
①返報性
返報性の法則とは「人は他人から報酬・メリットを受けると、何とかその人にお返しをしないと済まない感情に支配される」という考えになる心理作用のこと。
たとえば、親切な営業に商品を勧められ、欲しいと感じなくても、「買わなければ申し訳ない」という心理にさせられるケースがあります。これが返報性の法則を用いたビジネスの方法です。
②ベン・フランクリン効果
ベン・フランクリン効果とは、助けてくれた人を好きになるのではなく、助けた人を好きになること。
アメリカの物理学者で、政治家ベンジャミン・フランクリンの戦法だった点から付けられました。ビジネスでは1人で仕事をこなすより、同僚や先輩などに助言を求めるほうが、円滑に仕事が進んだりコミュニケーションがうまく取れたりする場合もあります。
③ハロー効果
ハロー効果とは、ある対象を評価する際、目立ちやすい特徴に引きずられてほかの特徴についての評価が歪められる現象のこと。ポジティブ・ハロー効果とネガティブ・ハロー効果の2つがあります。人間心理を指しており、光背効果や後光効果とも呼ばれるのです。
たとえばテレビCMで好感度の高いタレントを起用するのは、ハロー効果に則った手法といえます。
ハロー効果とは?【意味を図解でわかりやすく】具体例と対策
人事評価の実施において気になるのは、評価者による評価エラーでしょう。こうした評価エラーの中に、ハロー効果と呼ばれるものがあるのですが、一体どのようなものなのでしょう。
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④ホーンズ効果
ホーンズ効果とは、物や人の悪い特徴が原因で、因果関係がない点にも否定的な評価をしてしまう認知バイアスのこと。
たとえば、盛り付けの雑な料理を出された際「美味しくなさそう」と思ってしまうのは、見た目が悪いためです。本来、見た目と味は関係ありません。しかしそこで否定的に評価してしまうのは、ホーンズ効果の影響なのです。
7.認知的不協和に関する書籍
最後に、認知的不協和に関する書籍を2つ、ご紹介しましょう。
- 『認知的不協和の理論―社会心理学序説』
- 『社会心理学 補訂版』
①『認知的不協和の理論―社会心理学序説』
『認知的不協和の理論―社会心理学序説』は、社会的比較理論の提唱者として知られる、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガー氏(LeonFestinger)が執筆しました。前述した実験の内容も書かれています。
参考 認知的不協和の理論―社会心理学序説amazon②『社会心理学 補訂版』
『社会心理学補訂版』は、心理学の専門家たちによる基礎知識から最新の問題関心まで網羅した書籍です。
私たちが日常直面する、現代の幅広い社会的事象や問題に対し、構造的な洞察力を養うための決定版テキストといえます。社会心理学のガイドブックを探す人にもおすすめです。
参考 社会心理学 補訂版amazon