のれんとは、企業が持つ無形資産のなかの営業権のことで、企業間の買収や合併時に出てくる概念です。または広い意味でブランドを指します。
目次
1.のれんとは?
のれんとは、企業がM&A(買収・合併)で支払った金額のうち、買収先企業の純資産を上回った差額のこと。企業間におけるM&Aで用いられる勘定科目のひとつです。
もう一方では、広い意味でブランドを日本の伝統的な「のれん」で表現したものを指します。企業や従業員は、ブランドの名のもとに優れたサービスを提供し、顧客は信用して利用するという結びつきが生まれるのです。
いずれも目に見えない資産価値を意味します。
2.のれんの具体例
A社がB社(純資産80億円)を100億円で買収する場合について説明しましょう。このとき「買収金額(100億円)ー純資産(80億円)=のれん(20億円)」となります。
ここでは買収金額と純資産との差額をのれんと呼んでいるのです。A社が、社のブランド力・技術力などの見えない価値を評価して、お金に換算したものと考えます。逆に、買収金額が純資産額より下回ったときには「負ののれん」となるのです。
3.のれん償却
のれんは20年以内の期間で均等に減価償却し、費用化します。のれんという資産が持つ付加価値は、消費して初めて会社利益に貢献すると考えるのです。のれん償却の仕訳について説明しましょう。
たとえばA社が当座預金100億円でB社(資産80億円、内訳:貸付金50億円、現金30億円)を買収したとします。この場合、A社の仕訳は以下のとおりです。
- (借方)貸付金50億円
- 現金 30億円
- のれん20億円
- (貸方)当座預金 100億円
償却期間20年で償却を行うとき、初年度の決算期に起こす仕訳は、
- (借方)のれん償却 1億円
- (貸方)のれん 1億円
となり、以降20年間、毎年1億円ずつ、のれんを償却します。
4.のれんの会計処理
のれんの会計処理は下記2つあり、それぞれ方法が異なります。大きな違いは、日本会計基準で行うのれんの償却を、国際会計基準では行わないこと。それぞれを採用している企業にとって、どのような影響があるか見ていきましょう。
- 日本会計基準
- 国際会計基準(IFRS)
①日本会計基準
日本会計基準はのれんの処理について、20年以内の一定期間で規則的に償却するルールになっています。のれんの収益性が下がって減損の兆候がある場合、のれんを減損するかどうか減損テストを行うのです。
日本会計基準のメリットは、のれんが規則的に償却されるため、実務上の負担が小さい点。なおのれんの金額について、とても少額で重要性がない場合、その買収した年の費用として計上してもよいとされています。
②国際会計基準(IFRS)
国際会計基準では「のれんは償却されない」「兆候の有無に関わらず、減損テストを毎年行う」点が、日本会計基準と異なります。
国際会計基準を適用している企業では、日本の会計基準に比べて営業利益への負担が軽くなるのです。多数の買収を実施したり大型の買収を実施したりした企業では、高額なのれんの償却を避けるため、国際会計基準を採用する傾向にあります。
減損テストは、毎年の同じ時期であれば決算期でなくても構いません。
5.のれん分けとは?
従業員が独立する際に、「のれん(屋号)」の使用を許可する仕組みのこと。古くから日本にある独立制度で、商店の店頭にかけられた「のれん」が呼び方の由来です。
のれん分け制度には、雇用のパターンにより下記2種類にわかれます。
- インセンティブ型(キャリアプラン型)
- 加盟前提型(ステップ型)
なおフランチャイズは、新規に独立する事業者が、ブランド本部と契約を結んで開業するもので、のれん分けとは異なるのです。
①インセンティブ型(キャリアプラン型)
これまでの「のれん分け」に近い形態のもの。企業が正社員向けのキャリアパスとして設けており、従業員の独立を支援します。これまでの従業員の貢献に対し、インセンティブの意味合いが強いものになっているのです。
独立に際して、企業の本部から以下のような支援があります。
本部による貸付制度の設定
- 銀行からの借入をする際の本部による保証
- 加盟金やロイヤルティの免除や減額
企業本部は、一般的なフランチャイズ事業より財務的なメリットが減る場合もあります。
②加盟前提型(ステップ型)
フランチャイズ加盟を目的として、加盟前に一時的に労働契約を締結し、独立(=加盟)を目指すもの。
「フランチャイズに加盟して、自分の店を持ちたい」と思ってもすぐには実現できません。そこでまずは企業に就職し、複数店舗に勤務して経験を積み、経営者として必要な能力を身につけます。
企業が定めた基準に達すると独立資格が得られるのです。しかし独立まで数年かかることもあり、途中であきらめる場合も多くなります。とはいえ独立資格を与える基準が高いものであるほど、企業にとっては独立支援した店舗の成功率が高くなるのです。
6.のれん分けのメリット
のれん分けには企業と労働者、双方にとってメリットがあります。
- 従業員のモチベーション向上
- 効率的な多店舗展開とブランド力の向上
- 労務関連のリスクの軽減
- 長期的な収益の向上
①従業員のモチベーション向上
従業員を雇用してサービスを提供する一般的な店舗ビジネスの場合、働き手のキャリアアップに限界があります。
働き手ひとりが生み出せる利益には限界があるため、従業員に還元できる給与にも上限があるのです。よって従業員のモチベーション維持は難しくなります。
のれん分け制度を導入すれば、従業員は、独立して自分が経営者になることを目標にできるでしょう。こういった目標はモチベーションの維持や向上に役立ち、業績にも貢献するでしょう。
②効率的な多店舗展開とブランド力の向上
優秀であり、自社の業務をよくわかっている従業員にのれん分けすると、新しい店舗の質が確かなものとなり、ブランド力の維持や向上が見込めます。
もし自社をよく知らない経営者にフランチャイズを行ったらどうなるでしょう。軌道に乗るまで時間がかかり、もしかしたらブランドの信用を損なうようなトラブルが起きてしまうかもしれません。
もともと優秀で業務を熟知した従業員にのれん分けすれば、ブランドの価値を落とさず、さらなる価値向上も可能にしながら、多店舗展開が行えます。
③労務関連のリスク軽減
のれん分けをした場合、元従業員が店舗の経営者となり、自分で人員を雇用し、店舗を運営していきます。そのため本部は、のれん分けした店舗に対する労務関連のリスクから解放されるのです。
「欠員が出たとき、補充するための採用活動」「労務管理」「人件費」「福利厚生」など、負担が減るのは大きなメリットでしょう。
④長期的な収益の向上
のれん分けは、短期的な視点から見ると本部が得られる収益は低下するのです。しかし長い目で見れば、収益性が高まる傾向にあります。
なぜならのれん分けした元従業員の仕事に対する向き合い方が大きく変わり、店舗の業績が上がるからです。店舗の業績が上がるにつれ、本部が得るロイヤリティも増えていくでしょう。
またのれん分けした店舗では、退職者が出ないよう独立者が懸命に努力するため、離職率も低くなります。これらも本部の収益につながるでしょう。
7.のれん分けのデメリット
のれん分けにあるのはメリットだけではありません。下記のようなデメリットもあります。
- 加盟金やロイヤリティの料率が低い
- のれん分け後に分裂する可能性もある
①加盟金やロイヤリティの料率が低い
のれん分けは、フランチャイズ契約と比べると、加盟金やロイヤリティの料率は低い傾向にあります。元従業員という関係なのでフランチャイズより優遇され、料率を抑えるためです。
また元従業員を対象にのれん分けをし、効率的に多店舗展開を行える一方、実際には業績が上がらない可能性もあります。すると本部の受け取れる収益が減ってしまったり、店舗が維持できなかったりしてしまうのです。
②のれん分け後に分裂する可能性もある
のれん分け後、何らかのトラブルで分裂してしまう可能性もあるのです。のれん分けでは元従業員が自分の会社として独立する形になります。そこで経営方針の逸脱や不祥事の発生、意見の相違などが起きてしまうかもしれません。
そうなると店舗やビジネスの維持は難しくなるでしょう。また本部と独立した事業者間で店舗の場所が近く、同一地域内での顧客の取り合いでトラブルになる場合もあります。意図せぬ競争を招かないよう契約の際、競業避止義務の設定が必要です。
8.のれん分けを成功させるポイント
のれん分けを成功させるポイントは何でしょうか。それぞれについて見ていきます。
- 信頼できる従業員にのれん分けする
- のれん契約書の作成
①信頼関係を築ける従業員であるか
本部と価値観や志を共有でき、信頼関係が築けている従業員を選んでのれん分けしましょう。
店舗では、多くの顧客を相手にサービスを提供するもの。また店舗と本部とのやり取りも多くなります。そういったなかで、何かのトラブルはつきものです。
本部と独立した者との間で厚い信頼関係を築けていれば、多少の問題が生じても、お互いの信頼関係をベースにして容易に解決策を見つけられます。
②のれん分け契約書を作成する
のれん分けの際、契約書が必要です。企業の本部、独立する元従業員がどれほど信頼できる関係だったとしても、トラブルを避けるために契約書を作成しておきましょう。契約書に含めるおもなポイントは以下のとおりです。
- のれん分けの違約金
- 競業避止義務
- 保証金の規定
保証金とは、債務を担保する目的でのれん分けの際に、独立者が本部に支払う現金のこと。ロイヤリティが払えないとき、債務の弁済にあてられます。
9.のれんチャイズという方法
のれん分けとフランチャイズの双方の良いところを合わせ、デメリットを補うものが「のれんチャイズ」です。初期は援助を受けられ、店をオープンしたあとは自由に経営してよくなります。飲食チェーンの「大阪王将」では、以下のように行われているのです。
- ロイヤリティはなしで、1%の商標使用料の支払い
- オープン前後の研修、指導あり
- 必要なときに必要な分、本部からのサポートを受けられる
- メニューや店舗の内外装に独自性が認められる