NPO法人とは「特定非営利活動法人」と呼ばれる法人団体のひとつです。ここではNPO法人設立のメリットやデメリット、設立の手順などについて解説します。
目次
1.NPO法人とは?
NPO法人(Non-Profit Organization)とは、特定非営利活動法人のことで、株式会社や合同会社と同じ法人団体の一種です。株式会社や合同会社と比べ、利益を目的にしないという特徴を持ちます。
1998年には社会貢献活動を行う団体が活動しやすくなる「特定非営利活動(NPO法人)制度」が、その後2012年にはNPO法人の財政基盤強化を目的とした法改正が行われ、NPO法人はより身近な存在になりました。
種類
「NPO」といっても、厳密には4つの法人団体に分かれます。
- 認定NPO法人
- 仮認定NPO法人
- 認定を受けていないNPO法人
- 任意団体のNPO
そもそもNPOは社会問題を解決するための民間団体ですので、団体発足における規定はないのです。
しかし任意による団体のままでは税法上の優遇措置を受けたり、団体名義で契約を結んだりできません。法人格を有するとこれらが可能になり、給与を払って職員を雇えます。
活動内容
NPO法人として活動できる内容には「特定非営利活動促進法」という法律にもとづいた一定の制限があります。
- 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
- 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
- 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
- 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
- 国際協力の活動
このほか、およそ20分野の活動内容に制限されています。
主な資金源
NPO法人の資金源は次の6つです。
- 会費:会員から毎月(毎年)継続的に払われる資金
- 寄付金:事業に賛同した者から見返りを期待せず拠出される金銭
- 助成金:民間財団から事業遂行の手助けとして提供される資金
- 補助金:行政機関から事業遂行の手助けとして提供される資金
- 受託事業収入:企業や行政機関から委託された事業に提供される資金
- 借入金や利息収入
NPO法人は株式会社や合同会社と比べて、収入源が多様です。
一般企業との違い
NPO法人と一般企業との大きな違いは「事業目的」。株式会社は会社の株主に対して「経済的利益」を追求することが基本的なミッションです。
一方のNPO法人は株式会社のようにオーナーを特定できません。NPOは事業を通じて地域社会に貢献する、すなわち「社会的利益」の追求がミッションになるのです。
一般社団法人との違い
NPO法人と一般社団法人も、まったく性質が異なります。大きな違いは「活動内容の制限」。NPO法人は利益を追求せず、公的な価値のある活動のみを行う団体で、活動内容は先に挙げた20分野の内容に制限されているのです。
これに対して、一般社団法人にはNPO法人ほどの強い制限はありません。NPO法人に比べて幅広い活動が認められています。
2.NPO法人を設立するメリット
株式会社や合同会社とは異なる形態のNPO法人。設立にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここではNPO法人設立のメリットについて、6つの視点から説明します。
- 税金が優遇される
- 人を雇用できる
- 社会的信用度が上昇する
- 社会的課題に対する公的機関と事業を連携しやすい
- 設立費用が軽減できる
- 補助金や助成金制度を利用できる
①税金が優遇される
「NPO法人は社会貢献活動を行うため、税金が課せられない」と思う人がいるかしれません。しかしNPO法人にも税金が課せられるのです。
ただNPO法人には、「法人団体加入の入会金や会費などは税金対象としての収益にならない・法人住民税の均等割が免除になる」など、ほかの営利法人と違いがあります。
②人を雇用できる
NPO法人になると、活動を行うために必要な職員を雇用できます。社会的な信用力が高まるため、人材も集まりやすくなるのです。
もちろん厚生年金や健康保険、雇用保険などへも加入できます。法人化すればボランティアだけに頼らない組織的な活動が可能になるでしょう。
③社会的信用度が上昇する
NPO法人には厳格な情報公開義務があります。よって毎年の事業報告書をはじめとする一定の情報を、都道府県庁や内閣府のホームページ上で公開しなければなりません。
これは運営透明度の高さを裏付ける要因になります。特に行政と連携して事業を行う際、社会的信用が非常に重要な要素になるのです。
④社会的課題に対する公的機関と事業を連携しやすい
国や地方公共団体では、福祉関係を中心とした事業委託が増えています。法人格を持って事業の実施に必要な職員を雇用すれば、ボランティアだけに頼らない組織的な活動ができるでしょう。
それにより公共事業に参加するチャンスが広がり、雇用の受け皿として社会的役割を果たせるようになるのです。
⑤設立費用が軽減できる
株式会社を設立する場合、定款認証代や定款に貼る収入印紙代、登記時の登録免許税などさまざまな経費が発生します。しかしNPO法人の場合、設立経費が免除されるため、設立がしやすくなるのです。
⑥補助金や助成金制度を利用できる
NPO支援の取り組みが進むなか、NPO法人専用の補助金や助成金を出す行政機関や民間団体が増えてきました。これらの補助金や助成金は金融機関から受ける融資と違い、返済義務がありません。
審査を通過し、受給基準を満たしていると認められた団体にとって、この補助金や助成金は事業を円滑化するうえでの貴重な収入源になります。
3.NPO法人設立運営のデメリット
NPO法人の設立にはデメリットも存在します。ここではNPO法人設立運営のデメリットについて、4つの面を解説しましょう。
- 活動内容に制限がある
- 事務処理に労力がかかる
- 設立に時間がかかる
- 事業報告義務がある
①活動内容に制限がある
NPO法人を設立する際は、団体の「主たる活動内容」を記載した定款や設立趣旨書を提出します。この「主たる活動内容」は、先に触れた20分野の非営利活動のいずれかに該当しなければならず、それ以外の非営利活動は行えません。
②事務処理に労力がかかる
NPO法人は「事業報告書・収支計算書・財産目録・社員名簿(正会員名簿)」などを管轄する都道府県庁(または内閣府)に毎年提出しなければなりません。書類を毎年作成するだけでなく、民間企業に比べて定款の変更手続に時間がかかる点もデメリットです。
③設立に時間がかかる
営利法人を設立する際、通常1週間から2週間程度で手続きを完了できます。一方、NPO法人は所轄庁に提出する書類作成におよそ1カ月、住民票の請求や定款の作成におよそ2カ月、さらに申請書類の縦覧や審査が待っています。
最短でも3カ月、長ければ半年から1年程度、時間がかかる場合もあるのです。
④事業報告義務がある
事業年度終了後3カ月以内に事業報告書を作成し、所轄庁に提出しなければなりません。この事業報告書や収支計算書などの届け出は、民間企業や任意団体では基本、不要です。
あわせてNPO法人では年に一度「社員総会」を行います。事業や決算の報告を行い、事業活動を説明するのです。
4.NPO法人の設立手順
NPO法人を設立するには、どのような準備や手続きが必要なのでしょう。またNPO法人として認められるためにはどのような条件を満たす必要があるのでしょうか。ここではNPO法人設立の条件、そして具体的な設立手続きについて解説します。
NPO法人設立の条件
NPO法人を設立するには、8つの条件を満たさなくてはなりません。
- 特定非営利活動を主たる目的とする
- 営利を目的としない(団体の構成員に対して収益を分配したり財産を還元したりすることを目的としない)
- 主たる目的が宗教活動や政治活動ではない
- 10人以上の社員を有する
- 社員の資格の得喪に関して、不当な条件を付さない
- 特定の公職者または政党を推薦、支持、反対することを目的としない
- 報酬を受ける者の数が、役員総数の3分の1以下
- 暴力団または暴力団、もしくはその構成員の統制下にある団体ではない
NPO法人設立の手続き
NPO法人の設立までは以下7つの手順を踏みます。それぞれにかかる費用は少ないものの、設立完了までは時間がかかるのです。
申請した申請書類などを所轄庁が縦覧するのに1カ月、所轄庁による審査に2カ月、その後ようやく法務局へ登記申請します。書類作成から設立登記完了までは一般的に4カ月程度かかると理解しておきましょう。
- 活動分野の確認
- 設立発起人会の開催
- 設立総会の開催
- 設立認証の申請
- 法人設立の登記申請手続き
- 所有庁へ法人設立の届け出
- 設立後に必要な申請の手続き
①活動分野の確認
はじめに活動分野を確認します。NPO法人を設立するためには、活動分野がNPO法で定められた下記の20分野の特定非営利活動に該当していなければなりません。
- 保険や医療または福祉の増進を図る活動
- 社会教育の推進を図る活動
- まちづくりの推進を図る活動
- 観光の振興を図る活動
- 農村漁村又は中山間地域の振興を図る活動
- 学術や文化、芸術またはスポーツの振興を図る活動
- 環境の保全を図る活動
- 災害救援活動
- 地域安全活動
- 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
- 国際協力の活動
- 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
- 子どもの健全育成を図る活動
- 情報化社会の発展を図る活動
- 科学技術の振興を図る活動
- 経済活動の活性化を図る活動
- 職業能力の開発または雇用機会の拡充を支援する活動
- 消費者の保護を図る活動
- 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
- 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例に定める活動
20分野すべてに該当する必要はありません。1つでも該当していればよいのです。
②設立発起人会の開催
続いて「設立発起人会」を開催して定款など重要書類の草案を作成します。「発起人」とはNPO法人と設立する人たちのこと。この発起人たちで以下を議論します。
- 法人名や代表者
- 設立の趣旨や活動目的
- 主たる事務所や会員
- 事業年度や設立までのスケジュール
設立発起人会は、設立を考えているNPO法人の基礎を決める場です。
③設立総会の開催
「設立発起人会」で決めた内容をもとに、社員全員で「設立総会」を開き、最終的な意思決定を行います。次の「設立認証の申請」では意思決定の証明記録が必要になるため、設立総会の内容は議事録にまとめましょう。
議長と議事録署名人2名の署名または、記名押印をして議事録は完成です。登記手続きには原本が必要になるため、設立申請には謄本(コピー)を提出します。
④設立認証の申請
作成した設立総会議事録や設立認証申請書、定款や役員名簿などを持って設立認証の申請を行います。申請先は事務所設置場所を所管する所轄庁です。
形式上の不備がなければ書類は受理されます。もしかしたら提出後、不備や記載漏れがあると気付くかもしれません。この場合、軽微な不備にかかる事項に限り、認証申請書を受理した日から1カ月を経過するまでの間に訂正できます。
⑤法人設立の登記申請手続き
NPO法人の設立について所轄庁から認証されたら「認証書」が届くのです。認証書の交付を受けた日から2週間以内に「NPO法人設立登記申請」の手続きを行います。申請先は主たる事務所の所在地を管轄する法務局です。
NPO法人の設立登記に費用はかかりません。設立登記申請には設立登記申請書のほか認証書や定款の写し、設立当初の財産目録の写しや代表者の印鑑証明書などが必要です。
⑥所有庁へ法人設立の届け出
設立登記が完了したら、正式にNPO法人として成立します。所轄庁からの「認証書」をもって完了ではないため、必ず法務局で「法人登記」を行いましょう。
「法人登記」とは、法人が組織の重要事項を登録して社会に公開する制度のこと。認証日から6カ月を過ぎても設立登記をしていない場合、認証が取り消される可能性もあるため注意が必要です。
⑦設立後に必要な申請の手続き
登記完了後も設立後の手続きや各種届け出が必要になります。税金関係の届け出は税務署が窓口になるのです。
- 収益事業を行う場合:税務署・都道府県税事務所・市町村の税金担当窓口の3つに「法人設立届出書」や「収益事業開始届出書」を提出
- 収益事業を行わない場合:都道府県税事務所と市町村の税金担当窓口の2つに「法人設立届出書」を提出
5.NPO法人が使える補助金を調べる方法
NPO法人は非営利活動の実施主な目的としているため、活動資金の確保に苦労する場合も少なくありません。そんななか、NPO法人専用の補助金を用意する行政機関や民間団体も増えてきました。
以下サイトではNPO法人などの非営利団体の活動を対象とした補助金を掲載しています。
NPO施策ポータルサイト
内閣府では、中央省庁や地方公共団体の協力を得て、全国のNPO法人を対象とした支援・協働施策に関するデータベースを公開しています。
この「NPO施策ポータルサイト」では資金に関する支援はもちろん、人材育成や人材交流に関する支援、連携協働や情報発信なども行っているのです。