介護離職とは? 離職防止策、支援制度、取り組み事例など

介護のために離職する「介護離職」は社会問題になっていますが、高齢化が進む日本では、さらに介護離職者が増えると予想されているのです。 なぜ介護離職を選択してしまうのでしょうか。

原因や理由をはじめ、介護離職の事例や政府が掲げる防止策、企業でできる対応策や介護離職防止に向けての取り組みなどについて幅広く紹介します。

1.介護離職とは?

介護離職とは、介護と仕事の両立が困難となって、家族の介護のために会社を辞めること。多くの場合、親の介護が必要となるのは40~50代の働き盛りです。企業は、経験を積んだ中堅社員が抜けるため大きな損失となってしまうでしょう。

介護離職者にとっても、収入源がなくなるため経済的に困窮する状態に陥ることも。それにより生活保護に頼らざるを得ないケースも多く、高齢化社会が進む現代において看過できない社会問題のひとつとして懸念されているのです。

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団塊世代が70代に突入し、今後ますます介護離職者が増えると予測されています。喫緊の対策が必要でしょう

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2.介護離職の現状と実態、増加の背景

介護離職の現状や実態、介護離職が増加している背景について説明します。

介護離職した人の割合

平成28年10月から平成29年9月の1年間に、介護・看護のために前職を離職した人は9万9千人。うち男性は2万4千人、女性は7万5千人で、女性が8割を占めていました。

前職を離職したものの新たに職に就いている有業者は2万5千人ですが、無業者は7万5千人と3倍近くに上ります。働きながらの介護がいかに困難かが分かるデータです。

都道府県別に見ると、介護・看護のために前職を離職した人が最も多いのは和歌山県(3.3%)で、次いで長野県(3.2%)、福島県および山梨県(両県共に3.0%)と続きます。

介護離職した人数と損失額

大和総研が2019年1月に発表した「介護離職の現状と課題」によると、介護・看護のために介護離職した人の数は2017年でおよそ9万人。2007年と比較して約2倍に増加しています。

経済産業省によると、介護離職による経済損失はおよそ6,500億円で、介護離職の増加は人材の流出や労働力不足の深刻化を招き、経済の減速につながるのではないかと懸念されています。これを受けて政府は「介護離職ゼロ」を目指し、各種対策を進めているのです。

介護離職者のうち再就職できたのは

正規社員で介護頻度が週3日以上ある人は、多くの場合離職を希望するようになります。しかし離職後の再就職率は低く、介護離職者全体の3割程度にとどまるのが現実です。

介護離職者の再就職状況を見ると、40代が53%、50代が38%、60代が18%で、年齢が上がるほど再就職が難しくなります。離職期間が長引くと、正規社員に復帰することはさらに困難になり、多くの場合非正規社員に転じてしまうのです。

また無職の介護離職者のうちおよそ3割が再就職を希望していますが、実際に求職しているのはその半分以下。ここから、再就職活動に躊躇している人が多いと分かります。

働き盛りの年齢でも離職期間が長引けば、再就職は困難になります。仕事を持ちながら介護を実現できるような仕組みの構築が急がれます

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3.なぜ介護離職に至るのか?原因とその理由

なぜ介護離職に至ってしまうのでしょうか。その原因と理由を説明します。

介護離職に至る理由

介護は休みなく続くもの。昼間はフルタイムで仕事をして帰宅後は介護を行う状況が長く続くと、身も心も弱っていき、少しでも楽になりたいと考えるようになるのです。

日々の介護量が増えていき、認知症による徘徊で眠れないことが多くなれば、「介護に専念するために仕事を辞めたほうがいいのではないか?」と思い込んで離職を選択してしまいます。

介護離職後に抱える後悔

介護中は親の年金などで何とか生活できたとしても、仮に看取りとなった場合、離職によって無職となった自分だけが残されてしまいます。

離職を後悔して求職を始めても、長年離職していた40~50代での再就職は考えているよりも難しく、求職活動自体を諦めてしまう人も少なくありません。収入もなく、生活も難しくなって、心身が孤独に蝕まれていってしまうのです。

8割が正社員から離職を決める

みずほ情報総研が2016年12月に、正社員として働きながら在宅介護をしなければならなかった40~50代の男女を対象に行った調査では、介護に対する負担感が浮き彫りになっています。

介護転職者、介護離職者、就業継続者のいずれの立場でも、8割以上が「介護に負担を感じている」と回答しました。

その理由として挙げられたのは、「介護がいつまで続くのか分からず将来が不安」「介護制度等が分かりにくく使いづらい」「介護による疲労が溜まるがなかなか休めない」など。介護の負担の大きさが、離職に導いてしまったのです。

仕事と介護の両立には、多大なる周囲のサポートと実態に合った使いやすい介護・医療制度の整備が必要です

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4.介護離職の事例

介護離職は介護する側の生活に大きな影響と負担を及ぼします。ここでは、そんな介護離職の実例を2つ紹介しましょう。

貯金で生活する日々

52歳独身のある男性は、母の介護を手伝えなかった後悔から、父の介護を機に仕事を辞めて地元に帰りました。しかし、家で毎日父と向き合うことが思いの外ストレスとなり、また無職であることへの罪悪感から次第に精神状態が悪くなっていったのです。

少しでも働こうと動くも再就職は叶わず、父が亡くなった後、都内に戻って就職活動をしたもののそれもうまくいかず。「何とかなるだろう」は通用しないと身にしみて分かりました。貯金を切り崩しながら生活する日々に、不安を抱え、焦燥感に駆られています。

配偶者の介護

介護というと親の介護を思い浮かべる人が多いですが、配偶者や子どもの介護も存在します。ある研究職の男性の妻は、結婚後まもなく病気入院となり、退院後は車椅子の生活となりました。介助者がいなければ生活が難しいため、男性は離職してしまいます。

介護中心の生活のため、仕事は主にアルバイトです。将来的には本来望んでいる研究職に戻りたいと思っていますが、ブランクがあると再就職できないかもしれないと不安が募っています。

介護離職は再就職の足かせになることがあります。思い詰めて離職を決める前に、介護休業制度を利用できないかどうか、会社とよく話し合いましょう

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5.政府が掲げる介護離職防止策

政府が掲げている介護離職防止策について、詳しく見ていきましょう。

「介護離職ゼロ」を掲げる政府

2015年9月に安倍首相が掲げた「新・三本の矢」には、安心につながる社会保障の一環として「介護離職ゼロ」が目標として盛り込まれています。具体策として、介護施設を増やすために国有地を貸し出すことなどが提示されているのです。

また2016年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」にも「介護離職ゼロ」という明確な目標が掲げられています。内容は、介護をする人材の処遇改善や多様な人材確保・育成、介護の受け皿の拡大、仕事と介護の両立が可能な働き方の普及促進などです。

介護と仕事を両立するための支援制度

介護と仕事を両立するための支援制度には、下記のようなものが挙げられます。

介護休業制度

介護休業制度とは、けがや病気、身体または精神上の障害などにより、2週間以上にわたって介護を必要とする家族を介護するために休みを取得できる制度のこと。

同じ事業主に1年以上雇用されていることなどが条件として課されますが、この制度を利用すれば対象家族1人につき3回、通算93日まで休みを取得できるのです。

介護休業を希望する場合、事業主に申し出る必要があります。事業主は、申し出を受けたら速やかに介護休業開始予定日・終了予定日などを通知しなければなりません。

介護休暇

介護休暇とは、要介護状態の家族の介護や病院への付き添いなどの世話を行う際、1年に5日まで休暇を取得できる制度のこと。対象となる家族が2人以上の場合、1年に10日まで取得できます。

1日単位、または半日単位で取得可能ですが、1日の所定労働時間が4時間以上、半日単位で取得することが困難といった場合、1日単位での取得となります。

なお、介護休暇は法律で守られている権利のため、事業主は申し出があった際に拒否したりこれを理由に解雇したり降格・減給・賞与の削減などをしたりすることはできません。

所定外労働や時間外労働、深夜労働の制限

要介護状態の家族を介護する従業員から請求があった場合、事業主は、所定外労働や時間外労働、深夜労働をさせてはいけません。

従業員から請求があった際は、1回の請求につき所定外労働と時間外労働で1カ月以上1年以内の期間、深夜業で1カ月以上6カ月以内の期間において残業などを制限します。

いずれも請求回数に制限はありません。しかし事業の妨げになる場合、事業主は従業員からの請求を拒むことができます。また対象外となる場合もあるので、請求する場合は事前に要件を確認しましょう。

介護休業給付

介護休業給付とは、家族の介護のために介護休業を取得して介護を行う労働者が受け取る給付金のこと。

雇用保険の被保険者、家族の常時介護が2週間以上必要、職場復帰を前提とした介護休業を取得するといった要件を満たせば、最長93日を限度に3回まで支給されます。

介護休業給付金の支給額は、給与の67%で、給付額は、日額賃金×休業日数×67%で計算します。なお、介護休業給付金の申請は、介護休業終了の翌日から2カ月後の月末までに、会社を通してハローワークで行う必要があるので、忘れないように気を付けてください。

介護休業給付金は、入社間もない、月の半分以上出勤している、休業中に会社から80%以上の給与をもらっているといった場合、受給できません

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6.介護離職の予防、防止策、改善策

介護離職は企業にとっても従業員にとってもデメリットがあります。介護離職者を減らすには、以下のような対策が必要です。

保険や支援など介護制度を周知

休業や休暇を取得できたり、短時間勤務や残業免除を選べたりすることを知らず、制度を利用しないまま苦しんでしまう人もいます。そのため、介護保険制度や介護休業制度などの各種制度について、周知することは重要なのです。

介護保険制度とはどのような制度で、どのような介護サービスを利用できるのか、どうしたら利用できるのかといったことを、従業員に知らせましょう。

突然、家族が要介護状態になっても、支援する制度があると分かっていれば、従業員の不安を取り除くことができます。

短時間勤務など制度の見直し

育児・介護休業法では、介護のための制度として「短時間勤務制度」「フレックスタイム制度」「時差出勤制度」「労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度」のいずれかを設ける必要があるとしています。

いずれかひとつに限らず、複数の制度を設けたり、制度の内容を介護する人が働きやすいように整えたりするとよいでしょう。それにより、介護と仕事を両立できる可能性が高まります。またこうした制度は介護だけでなく、育児にも活用できるでしょう。

情報共有と声掛け

社内で情報共有と声掛けを徹底することも大切です。家庭のことでも、気がかりなことや困ったことがあった際、すぐに相談できるような環境を整えると、介護が始まっても速やかに申し出てもらえるようになります。

介護の悩みを一人で抱え込まず、会社全体でサポートできるような制度が整っていれば介護離職の抑止へとつながるでしょう。悩みを口に出しにくい人でも気軽に相談できるよう、上司から部下に対して日頃から積極的に声掛けしていくことも有効です。

公的な機関についての周知

各地域には地域包括支援センターなどの公的機関が存在します。

地域包括支援センターは、高齢者が必要とする介護・医療・保険・福祉などの総合相談窓口で、介護や介護予防サービス、保健福祉サービス、日常生活支援などの相談を受けるほか、介護保険の申請窓口としても機能しているのです。

従業員には、介護が必要な家族の自宅周辺にある地域包括支援センターについて知っておくように周知しましょう。従業員が相談窓口があることを知っていれば、何かあっても迅速に対応できます。

社内に相談窓口を設ける

社内に相談窓口を設けることも有効です。口にしたら迷惑になるのではないかと考えて「誰にも相談しなかった」という介護離職者は数多くいます。

相談窓口があれば、SOSを発しやすくなるため、介護離職を決断する前に何らかの手を打てるでしょう。

企業内で相談担当を決めて窓口を開設する以外に、たとえば24時間相談できる外部のフリーダイヤルサービスや専門の介護相談室などを提供するのもよいでしょう。安心して相談できる環境があれば、介護をする人の負担を減らすことができます。

メンタルヘルスケア

メンタルヘルスケアに気を配ることも大切です。仕事をしながら日々の介護を行うことは、想像以上に心身をすり減らすもの。出口の見えない辛い状況が続けば、どんなに前向きな人でも離職を考えてしまう場合があるでしょう。

介護離職は企業にとっても従業員にとっても大きな損失となります。介護離職に至る前に、介護に携わっている従業員の精神状態を細やかにケアして、仕事を続けていけるようにサポートすることが事業主に求められるのです。

介護離職防止対策アドバイザーの資格取得

一般社団法人介護離職防止対策促進機構が提供する「介護離職防止対策アドバイザー」の資格取得者を人事部などに配置することも有効な手段です。この資格では、介護離職防止や仕事と介護の両立支援など、専門的な知識を習得できます。

人事担当者やダイバーシティ推進担当者などが介護について学ぶと、介護に関わる従業員に対して初動支援を速やかに行えるほか、社内の介護対策が促進される可能性が高まります。

介護離職防止支援コース

介護離職防止支援コース(両立支援等助成金)とは、介護離職などの予防を目的に、仕事と介護を両立するための取り組みを行った中小企業事業主に支給される助成金制度のこと。

助成金を受給するには「介護支援プラン」を策定する必要があり、プランでは、介護制度を利用する従業員の労働条件や、介護休業を取得する従業員のの業務整理や引き継ぎ、職場復帰後のフォロー方法などについて定めます。

これによって、介護休業(休業取得時・職場復帰時)や介護両立支援制度利用時にそれぞれ28.5万円(要件によっては36万円)が支給されるのです。

介護保険制度は、40歳以上の人が支払う介護保険料と税金で運営されています。介護保険サービスを利用できるのは、65歳以上または40歳以上~64歳以下の医療保険に加入している人です

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7.介護離職防止に向けての取り組み、事例

介護離職防止に向けての企業の取り組みや事例を以下に紹介します。

日本アイ・ビー・エム

日本アイ・ビー・エムでは、従業員のパフォーマンスをより高めるために、両立支援制度や多様な働き方ができるような選択肢を提供しているのです。

たとえば介護休職制度は、上限を1年間と定め、期間内であれば何度でも再取得できますし、短時間勤務制度では、1日の所定労働時間を4.5時間または6時間とするか、1週間の勤務日数を3日または4日とするか、どちらかから自分に合った働き方を選べます。

介護を手厚くサポートする制度を整備しているため、従業員の介護とキャリアの両立が実現しているのです。

ベネッセコーポレーション

ベネッセコーポレーションが重視するのは、「ワーク・ライフ・マネジメント」。従業員自身が家庭と仕事の両立について考えられるよう、スーパーフレックス制度や在宅勤務制度などを早い段階から導入しており、社内には働きやすい環境が築かれているのです。

介護においても、介護休職制度や介護時短勤務制度を導入するほか、介護休暇を有給化することも行っています。従業員が介護と仕事を両立できるよう会社全体で強力にサポートしているのです。

福井県民生活協同組合

パートタイム、アルバイトを含めた女性職員の割合が74.5%という福井県民生活協同組合では、設立以来、特に女性職員が働きやすい環境づくりを目指してさまざまな取り組みを講じてきました。

さらに男女共同参画の考えから、介護や育児に際して男女共に家庭と仕事を両立できるよう、各種支援制度を整備しています。

職員は、最長1年半取得できる介護休業制度や介護短時間勤務制度、取得期間を超えた場合に利用可能な「一時パート制度」による短縮勤務や短時間勤務などを利用できます。

企業が、介護を手厚くサポートする制度を設け、働く環境を整えれば、従業員は介護と仕事を両立しやすくなるでしょう