「オフボーディングとオンボーディングはどう違うの?」「退職者との関係を良くするためにオフボーディングが効果的って本当?」
オフボーディングは、退職者との関係をよくするための取り組みです。海外では積極的に取り入れられているものの、日本ではまだなじみの薄い企業も多いでしょう。
オフボーディングに取り組むと退職者と良好な関係を築けるため、ブランディング向上や離職率の低下につながる可能性もあるのです。
この記事では、オフボーディングの意味やオンボーディングとの違い、具体的な施策内容やプロセスについて解説します。
目次
1.オフボーディングとは?
オフボーディングとは、会社と社員間で辞職や解雇、あるいは契約終了に伴う退職による正式な手続きを進めるプロセスのこと。具体的には退職する社員のため、アカウント削除や事務手続きを行うことを指します。これらのプロセスを「退職者と良好な関係を築くため」におこなうことがオフボーディングのポイントです。
2.オフボーディングとオンボーディングの違い
オフボーディングとよく似ている言葉に「オンボーディング」があります。オフボーディングとオンボーディングの言葉の違いを見ていきましょう。
オンボーディングは新入社員に対する施策
オンボーディングは、新入社員に向けて行う育成トレーニングのこと。飛行機や船に乗っている状態を表す「on board」が語源です。新入社員が企業に馴染み、早く力を発揮できるようにする施策で、社員のモチベーションアップやエンゲージメントの向上、早期離職の回避などにつながります。
一方、オフボーディングは退職者が円満に退職できるように準備を整えること。オフボーディングを行うと退職者と良好な関係性を築けるため、再就職や新しい社員を紹介してもらえる可能性も期待できます。
また、エンゲージメントや既存社員のモチベーションが向上するといった、オンボーディングの効果と共通する部分もあるのです。新入社員か退職者か、対象の違いはあるものの、どちらも企業のブランディング向上に役立つ施策といわれています。
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オンボーディングの代表的な施策
オンボーディングの代表的な施策例をご紹介します。記事の後半で紹介するオフボーディングの施策との違いに注目してみてください。
オリエンテーション、研修の実施
中途採用社員の指導に使われる場合も多く、即戦力になれるよう育成するのが目的です。中途入社の場合、会社や業務について詳しく知る機会がないと、全体像がわからないまま業務に臨んでしまうため、帰属意識が芽生えにくいと考えられています。
オリエンテーションや研修を積極的に行って、仕事の全体像をつかむ機会を提供するのです。
短期目標の設定
主に、新入社員を対象とした施策です。短期目標を設定すると早いうちに成功体験を積めるため、自信がつきます。短期目標を設定したら可能な限り多くの人に共有し、応援されやすい環境をつくるとよいでしょう。
定期面談の実施
何でも相談できる場を提供します。定期面談を設定してこまめに社員の状況や希望を聞けば、抱えている悩みや課題を解決できる可能性も高まるでしょう。それにより、早期離職も防げます。
3.オフボーディングが注目される背景
オフボーディングが注目されるようになった背景にあるのは、主に下記の3つです。
- 個人の情報発信が活発化してきた
- 雇用形態・個々のキャリアの変化
- アルムナイの一般化
①個人の情報発信が活発化してきた
SNSで個人の情報発信が活発化した現代、退職時の対応が悪いと、SNSや口コミに書き込まれる可能性が高くなりました。
企業だけが発信する時代から誰もが発信できる時代になり、口コミひとつで企業の業績や採用状況を左右できるようになってきています。企業のSNSアカウントやSNSの口コミをもとに就職活動をする学生もいるため、企業側はSNSに悪く書かれるような対応をしないよう、注意を払う必要があるのです。
②雇用形態・個々のキャリアの変化
雇用形態が多様化し、転職・早期離職の増加やパラレルキャリアの実現、フリーランス化や再雇用など、個々のキャリアが幅広く変化してきました。
多様な雇用形態が浸透している海外ではオフボーディングは比較的早く馴染んでいるものの、終身雇用がメインだった日本企業は雇用形態の多様化にまだ不慣れというのもあり、オフボーディングに注目が集まっています。
③アルムナイの一般化
雇用形態が多様化したために終身雇用が減り、人材が流動しやすくなりました。そのため、「アルムナイ」を行う企業が増えたのも、オフボーディングが注目された要因のひとつです。
アルムナイとは?
「アルムナイ」は離職した人、離職者を再雇用することを意味します。終身雇用が当たり前ではなくなった今、人手不足の解消や企業の成長につなげるための施策として注目されています。
アルムナイとは? 注目される理由、メリット・デメリット、事例
アルムナイとは自社を離職あるいは退職した人の集まりのこと。今回はアルムナイについて詳しく説明します。
1.アルムナイとは?
アルムナイ(alumni)とは、自社の離職者やOB・OGのことです。もとも...
アルムナイの価値
アルムナイとの関係構築により、再雇用やリファラル採用が可能になるといわれています。市場でゼロから人材を採用するより、すでに企業の内情を知っているアルムナイからの紹介、またアルムナイの再雇用のほうが、人材のミスマッチも少ないためです。
そのため、オフボーディングでスムーズな退職をサポートすれば、企業に対するアルムナイからの評価も高くなるでしょう。それにより、リファラル紹介による優秀な人材の獲得やアルムナイ自身の再就職で、企業に貢献するのも期待できます。
4.オフボーディングで良好な関係を築くことが重要な理由
オフボーディングで重要なのは退職をスムーズにするだけではなく、退職者と「良好な関係を築くこと」。オフボーディングで退職者と良好な関係を築くことが重要な理由は、下記のとおりです。
事業のリスクを回避できる
退職手続きを丁寧に行うと貸与品の未回収や情報漏洩などのリスクを回避します。また、既存社員への引継ぎを十分に行えば、業務上のミスや損失を防げるため、事業で発生し得るリスクも回避しやすくなるでしょう。
さらに退職者への対応が悪いと、極端な場合訴えられる可能性もあります。退職者に丁寧に対応すると、訴訟リスクの回避も可能になるのです。
企業のブランディング向上につながる
退職時の体験がよければ、退職者も企業に好印象を持って退職できます。退職時の対応がよかったと思える企業には再度就職したいと感じる可能性もありますし、企業を応援したいという想いから退職者が新しい人材を紹介してくれる可能性も高まるでしょう。
5.オフボーディングに取り組む4つのメリット
オフボーディングに取り組むことで得られる4つのメリットをご紹介します。
- 離職率の改善
- 突発的な退職を回避
- 企業価値の向上
- 既存社員のロイヤリティ向上
①離職率の改善
オフボーディングでは、退職者に対し面談を行う施策がよくつかわれます。退職者の不満を知り改善に努めて既存社員の労働環境がよくなれば、離職率の改善も期待できるでしょう。
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②突発的な退職を回避
退職を検討している社員に事前にヒアリングができるので、前触れもなく社員が辞めたり突然会社に来なくなったりする事態を防げます。また面談を通じてヒアリングすることで、退職を思いとどまらせる可能性もあります。
③企業価値の向上
退職時の対応がよいと、企業への好感度が高まります。退職者と企業が良好な関係を築くことで、会社に適した新たな人材の紹介採用や再雇用の可能性が高まり、業績向上、ひいては企業価値の向上にもつながるでしょう。
④既存社員のロイヤリティ向上
オフボーディングの施策で退職者の意見・不満をヒアリングすれば、既存社員のロイヤリティ向上につながります。退職者の不満を反映すれば既存社員にとっても働きやすい職場環境になり、業務効率化に貢献できるでしょう。また、いじめや社内不正の早期発見にもつながります。
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6.オフボーディングを成功させる3つのポイント
オフボーディングを成功させる3つのポイントがあります。かんたんにご紹介しましょう。
- 退職者の転職をサポートする
- 企業に対するフィードバックを聞く
- 入社時から包括的にオフボーディングを進める
①退職者の転職をサポートする
退職者が次の職場に転職するのを、しっかりとサポートしましょう。
オフボーディングにおいて最も重要なのは、退職者がどう感じるか。「有給休暇の希望があれば受領する」といった、退職準備を快くサポートすると、退職者の企業に対する好感度も上がるでしょう。
終身雇用が根づく日本企業では「有給休暇の希望を退ける」「必要な書類作成を遅らせる」などの嫌がらせや妨害を行うケースもゼロではありません。退職する人を気持ちよく送り出しましょう。
②企業に対するフィードバックを聞く
退職の理由や不満をヒアリングしたら、改善につなげましょう。企業に対するフィードバックを受け止めて実際に改善すれば、既存社員にとってもよい環境をつくれます。
ヒアリングによって改善する姿勢を見せれば、退職者はもちろん既存の社員も、今後の企業のあり方に希望を持てるでしょう。
③入社時から包括的にオフボーディングを進める
オフボーディングはスムーズに退職するための施策です。しかしできることなら、入社時から包括的なオフボーディングを進めておくとよりよい効果を発揮します。
採用時点から社員の希望するキャリアプランに向き合い「企業内で希望するキャリアアップが可能か」定期的な面談を通じて検討します。普段から面談をする習慣がないのに退職時にだけ面談しても、企業への適切なフィードバックが得られにくいです。
また採用時点から社員の希望するキャリアプランを知っておけば、個人目標の達成に向けた企業内での異動、あるいは他社への転職が必要かどうか、判断できます。企業内外の異動を管理職が素直に認められる体制をつくっておけば、退職する側も退職しやすくなるでしょう。
7.オフボーディングの内容と進め方の具体例
オフボーディングの内容や進め方の具体例をご紹介します。細かい部分はアレンジして実践に移すとよいでしょう。
- 退職が決まってから
- 退職日直前~当日
- 退職後
それぞれのフェーズについて、具体的な実施策を洗い出してみましょう。「退職者がスムーズかつ気持ちよく退職するには」という観点をつねに持って考えることが大切です。
①退職が決まってから
退職が決まったら、退職に向けて準備を始めます。細かくは企業によって異なるものの、具体的には下記のような作業が発生します。いつ退職しても社内業務に支障がないよう、引継ぎも念入りに進めましょう。
社内への公表
大々的に発表する必要はないものの、退職予定の社員がいると社内に伝えます。事前に社内に伝えておくけば、引継ぎも慌てず余裕を持って進められるでしょう。
書類準備
退職の際、必要な書類を準備しておきます。源泉徴収票といった退職後も必要な書類は先に準備し、当日までに渡せるようにしておきましょう。
業務やノウハウ・スキルの引き継ぎ
退職者がいなくなってもスムーズに仕事できるよう、顧客情報といった基本情報のほか、ノウハウ・スキルを引き継ぐようサポートします。
退職時インタビュー
退職者に対して面談を行い、企業への不満やキャリアプランのミスマッチについてヒアリングします。
②退職日直前~当日
退職日の直前と当日は「抜けていることはないか」最終確認を行いましょう。とくに社内備品の返却やアカウントの管理については、社内業務が滞ったり大切な情報が漏れたりする危険性も高いです。
会社資産、備品の改修
企業から貸し出しているものは、退職日当日中に必ず回収します。特にパソコンは機密情報の宝庫です。別の人に引き継いで使ったり、廃棄する際に前のデータの消去が不十分だったりすると、情報漏えいにもつながりかねません。
不要なインシデントを避けるためにも、最終チェックを怠らないようにしましょう。
社内システム・ツールへのアクセス制限やアカウント管理
退職後もアルムナイと良好な関係を築くため、連絡を取り合う場合があります。しかし社内で使用していたアカウントやツールはつかわず、退職後はアクセスできないようにしましょう。万が一にも社内情報が漏えいすることのないよう、最善を尽くします。
③退職後
退職後も良好な関係を築けるよう、仕組みを整えておきましょう。退職後に必要な書類も、要求される前に企業から送付して、退職者の負担が減るよう配慮します。また退職後もアルムナイとして企業と情報交換するため、連絡しやすい場をつくるのもよいでしょう。
アルムナイの案内(社内イベント、同窓会など)
アルムナイとの関係構築のため、アルムナイも参加できる社内イベントや同窓会などを定期的に行うとよいでしょう。
退職手続きに伴う書類(源泉徴収票や離職票)の送付
退職手続きで必要な書類は企業によって異なるものの、源泉徴収票や離職票の送付は必須です。源泉徴収票は次の職場で年末調整をするときに必要になり、離職票は次の仕事を探す間に失業手当をもらうために必要になります。
「退職手続きにともなう書類を要求される前に送付する」といったように、送付のタイミングにも気を配りましょう。