社外取締役とは? 役割や取締役との違い、ふさわしい人材を解説

社外取締役とは、社外から招いた取締役員のこと。社内から選ばれた人材ではなく、企業内の派閥や管掌部門を持っていないため、客観的で公平な判断を行えます。

1.社外取締役とは?

社外取締役とは、社外から雇う取締役員のことです。社内取締役との違いでもあるその設置目的は社内情勢に左右されず客観的な視点から企業の経営向上を行うこと。よってただ外部から来た取締役員というだけでなく、完全に社内情勢と関係のない、派閥や利害関係を度外視した客観的判断のできる人材でなくてはなりません。

社外取締役の役割として挙げられるのは、企業の経営指針や業績向上のための監督、企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の改善など。コーポレートガバナンスが重要視されている近年、経営向上だけを考えて監督する社外取締役が注目されているのです。

独立社外取締役について

社外取締役のなかでも、経営者や株主から完全に独立しているのが独立社外取締役です。経営者や株主から干渉される可能性が低いため、客観的なコーポレートガバナンスの実現が期待されています。

独立社外取締役の定義は明確になっていません。一般的には金融商品取引所や企業独自の基準を満たすことが求められています。

社外取締役は増加傾向にある

東部一部上場企業にて社外取締役を選任した企業数を調査したところ、2004年で選任したのは企業全体のうち30.25%でしたが、2021年には99.95%と大幅に増加。なお99.95%のうち99.86%が独立社外取締役でした。

業界や企業によっては、女性や外国人の社外取締役も見られます。

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2.社外取締役についてのルール

会社法では企業の規模によって社外取締役の設置要件が定められています。それは最低限設置する社外取締役の人数と社外取締役の任期です。

社外取締役の設置義務

2019年の会社法改正で、上場企業には社外取締役の設置が義務づけられました。要件は以下のとおりです。

  • 取締役が10人以上いる企業:最低2人の社外取締役の設置義務
  • 取締役が5人以上10人未満の企業:最低1人の社外取締役の設置義務
  • 取締役が4人以下の企業:社外取締役を設置しない相応の理由の開示が必要

社外取締役の要件

社外取締役は、取締役となる企業とかかわりのない無関係な人間でなければなりません。具体的には以下の要件が定められています。

  • 現在から過去10年以内にわたって、その企業の業務執行にかかわっていない
  • その企業グループの業務執行にかかわっていない
  • その企業グループの親類縁者ではない

その企業とまったく関係ない人材である点が、コーポレートガバナンスを発揮できる取締役の条件です。

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3.社外取締役の具体的な役割

社外取締役の具体的な役割は、CGコード(コーポレートガバナンスを行ううえでのガイドラインで、金融庁と東京証券取引所が策定)で規定されています。

CGコードの規定について

CGコードの規定には、社外取締役の役割や責任が明記されています。大きくわけると以下の4つです。

  1. 社外取締役の知見により、企業の持続的な反映と成長を促す
  2. 経営陣やそのほかの取締役と意思疎通を図り、経営監督を行う
  3. 経営陣や株主たちの利益相反を監督する
  4. 経営陣や株主から独立した立場を生かし、少数株主やステークホルダーの意見を反映する

社外取締役の役割一覧

社外取締役には、企業にて求められる役割もあります。それはその企業のコーポレートガバナンスを実現するため、取締役として社内外の人々と接してさまざまな業務を行うことです。

  1. 取締役会への参加
  2. 機関投資家との対話
  3. 業務執行権の付与
  4. 指名・報酬の決定プロセスへの関与
  5. 危機的状況下での対応

①取締役会への参加

経営の監査や監督を行うため、取締役の一人として取締役会に参加し、決議に参加して意見を述べます。取締役会では中立的な立場として、取締役のなかで意見が偏らないよう客観的視点から観測した意見を投じなければなりません。

また経営層に利害関係やしがらみ、不正などが生じていないか、厳しい目で監視する役割も担います。

②機関投資家との対話

経営を監視する社外取締役は、機関投資家と質疑応答し、経営戦略や投資戦略、報酬制度や人材育成などさまざまな情報を提供します。投資家と信頼関係を構築するのもコーポレートガバナンスに必要だからです。

多くは、半年に1回ほどのペースとなっています。また近年、オンラインのビデオミーティングで機関投資家との対話を行うケースもあるのです。

③業務執行権の付与

「社内の取締役が業務を執行すると株主の利益が損なわれる」「企業と取締役の利益相反の可能性がある」場合、社外取締役に業務執行権を委託できるのです。

会社法では社外取締役の業務執行を禁じていますが、こうした場合は例外と見なされます。たとえば「MBO(Management Buy Out:経営陣による株式の買収)を実施すると、一般株主の利益を害する」場合です。

④指名・報酬の決定プロセスへの関与

社外取締役が役員の指名や報酬の決定プロセスに参加すれば、部門や派閥による役員決定の偏りを防げます。そのため社外取締役のみ、あるいは全体の半数で構成された「指名・報酬委員会」を設置する場合があるのです。

この委員会で会長や社長に対して諮問し、役員の指名や報酬の決定が公平的であるかどうか、検討して判断します。

⑤危機的状況下での対応

企業が危機的状況に陥ったとき、対応するのも社外取締役の役割です。不祥事や法的な問題が発生した際は第三者委員を設置し、経営陣の交代や選任のプロセスにかかわります。

もし社内の取締役が対応できない場合は社外取締役が対応し、企業の経営やコーポレートガバナンスを守っていくのです。

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4.社外取締役を登用するメリット

社外取締役を設置すると、経営が健全化するのはもちろん、企業に付加価値をもたらします。

  1. コーポレートガバナンスに寄与する
  2. 外からの有益な知見を得られる
  3. CSRへの取組みをアピールできる

①コーポレートガバナンスに寄与する

企業内の派閥や社内ルールなどのしがらみにとらわれず、社外取締役が利害関係から離れた立場で経営を監視すると、コーポレートガバナンスの強化につながるのです。

公平な立場から経営者に意見し、監視にて不正を防止すれば、健全な経営が実現できます。それにより株主や投資家、取引先など利害関係者から信頼を得られるでしょう。また利益も最大化できます。企業成長に社外取締役は必須といえるのです。

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②外からの有益な知見を得られる

社外取締役は、株主や投資家と対話をして意見交換する役割を担います。つまり外部の株主や投資家の意見を得られる重要な存在なのです。社内の役員は企業の内部情勢を管掌している半面、外部の意見を得る機会は少なくなります。

そうなると新しい事業や制度、システムなどへの対応が後手にまわりかねません。社外取締役であれば、会社の外にある有益な意見をくみ取り、刷新的な提案を行えるでしょう。

③CSRへの取組みをアピールできる

社会問題に関するCSR(企業が担う社会的責任)に取り組んでいる場合、その社会問題に知見を持つ社外取締役を採用すると、自社の取り組みを世間にアピールできます。

たとえば女性管理職の増加に取り組んでいる場合は女性の社外取締役を、ダイバーシティに取り組んでいるなら外国人の社外取締役を雇用すると、社外へのアピールとして有効です。

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5.社外取締役を登用するデメリット

中立的で客観的な立場を活かした経営監督やコーポレートガバナンスの改善など、社外取締役にはさまざまなメリットがあります。その一方でデメリットも存在するのです。

  1. 内部の事情を把握していない
  2. 天下りを疑われる

①内部の事情を把握していない

社外取締役は社外から登用された取締役ですから、どうしても内部の事情を把握しきれません。表面上の数字や経営方針を理解していても、内部情勢や過去の取締役会の状況、各部署の実務などの情報が不足してしまうと、的確な判断が行えないのです。

取締役会の議論内容に重要な課題を挙げられず、表面的かつ希薄な議論で終わってしまう可能性もあります。

②天下りを疑われる

企業によっては社外取締役を官公庁の出身者から選びます。それにより社外取締役に天下りの疑惑がかけられてしまうのです。社外から人選して雇い入れた社外取締役であっても、「数合わせの天下り人材ではないか」と疑われてしまいます。

人選には細心の注意が必要でしょう。

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6.社外取締役にふさわしい人物像

社外取締役は当然社外の人物から選びます。しかしどのような人物を選任すればよいのでしょうか。社外取締役にふさわしい人物像を解説します。

  1. 経営経験がある
  2. 公認会計士や税理士としての経験がある
  3. 弁護士である

①経営経験がある

経営層や外部の株主、投資家との対話が求められる社外取締役には、経営のノウハウと実績を持つ経営経験の豊富な人材が適任です。

経済産業省が発表している「社外取締役に関するアンケート調査結果」によると、指名委員会等設置会社(指名委員会と監査委員会、報酬委員会の3つを設置する企業)では、社外取締役の6割が経営経験者となっています。

また社外取締役の72%が「現在あるいは過去に数社の社外取締役に就いていた」と答えているのです。

②公認会計士や税理士としての経験がある

会計や税務に詳しく金銭管理を行える公認会計士や税理士といった人材も、社外取締役に向いています。企業が正しく決算や納税を行っているかを会計のプロが厳しく監視すれば、不正を防止でき、健全な運営を行えるでしょう。

2020年に公表された経済産業省の調査によると、社外取締役における割合は元経営者が46%、公認会計士および税理士は全体の約11%でした。

③弁護士である

法令に順守して精通している弁護士を社外取締役に雇用すると、法令に則った経営を行えるため、経営層の不正や誤った経営を防げます。実際に2020年に公表された経済産業省の調査では、社外取締役全体のうち11.8%が弁護士でした。

女性の弁護士も増えてきた結果、女性の活躍や雇用に取り組む企業が女性弁護士を社外取締役に迎えるケースも少なくありません。

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7.社外取締役を選任する流れ

社外取締役を選任するには、どうしたらよいのでしょう。ここでは社外取締役を選任する流れについて解説します。

①社外取締役の任期を決める

法令上の任期は、選任後2年または1年以内と定められています。指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社の場合は選任から1年以内、監査等委員取締役は2年以内と定められており、延長はできません。

長期で勤めてしまうと社外取締役が企業になじみすぎて、公平で客観的な判断ができなくなる可能性も高まります。そのため任期は短く設定されているのです。なお株式非公開企業であれば、社外取締役の任期を最長10年まで延長できます。

②社外取締役の報酬を決める

選任前に、社外取締役に対する報酬を決定します。2019年に朝日新聞と東京商工リサーチが行った調査によると、社外取締役の報酬平均は年収663万円でした。

なかには年間報酬が1千万円を超えるケースや、社外取締役の実績を得るために無報酬で社外取締役を引き受けるケースもあります。状況と企業によって報酬金額はさまざまといえるでしょう。

③株主総会決議

社外取締役候補者が選定されたら、社内の取締役選任と同じように株主総会による決議を行います。過半数の株主が出席する普通決議にて、過半数の賛成が得られれば合意が得られたことになるのです。

否認された場合、別の候補者を選定しなおさなければなりません。なお株主総会議事録は10年間の保存が義務づけられています。社外取締役が退任しても破棄したり紛失したりしないよう注意しましょう。

④役員変更の登記申請

正式に社外取締役の登用が決定したら、登記申請書といった必要書類を法務局に申請します。必要書類をそろえて2週間以内に申請しましょう。

必須なものは以下のとおりです。ただし取締役会設置会社か否かで多少変わるため、あらかじめ確認しておきましょう。

  • 会社実印が捺印された登記申請書
  • 株主総会議事録
  • 会社実印が捺印された株主リスト
  • 就任承諾書

2週間を過ぎても申請は可能です。しかし過料という余分なコストが発生する可能性もあるため、決定後は早めに登記申請を行ったほうがよいでしょう。