パートタイマーにも人事考課は必要なのでしょうか。ここでは、パートタイマーの人事考課について詳しく解説します。
目次
1.正社員だけじゃない!パートタイマーにも人事考課が必要な理由とは?
正社員以外に、パートタイマーなどに対する評価制度を設けている企業があります。有期雇用研究会の雇用主調査によると、パートタイマーなどに対し、「評価制度」「育成支援」をともに導入しているのは5割弱だそうです。
厚生労働省もパートタイマーの人事考課を支援
厚生労働省も人材育成を目的として、パートタイマーの人事考課を支援しています。
パートタイマーに対して人事考課を行えば、「パートタイマーの能力発揮と能力の向上」「人事考課によるモチベーションの向上」「パートタイマーの職場への定着率向上」などを実現できるからです。
パートタイマーの人事考課におけるメリット
パートタイマーの人事考課における大きなメリットは、モチベーションアップです。パートタイマーに適切な基準に従った人事考課を実施すると、承認欲求を満たせます。
結果、パートタイマーに「自分の働きが会社から適切な評価を得ている」という自信が生まれるため、高いモチベーションを維持したまま業務を遂行できるようになるのです。
資格等級制度を用いると成長するための目標が決定できる
人事考課で資格等級制度を用いると、パートタイマーが成長するための目標を決定できます。資格等級制度は別名「職能資格制度」とも呼ばれ、能力に応じて社員をランク付けするために制定されるのです。
つまり資格等級制度により、「パートタイマー自身が現在の立ち位置を知る」「成長するために必要なものが分かる」ようになるのです。
賃金アップにつながる
パートタイマーの人事考課を実施すると、時給の見直しや昇給の基準が明確になります。
どのようなスキルや能力を身に付ければ昇給するのかが可視化されるため、パートタイマーは自身の能力を向上しながら賃金アップを目指せるのです。生産性の向上にも役立つでしょう。
2.パートタイマーの人事考課は何から作るべきか?手順を紹介
パートタイマーの人事考課を創設する際、設計手順への理解が必要不可欠です。ここではパートタイマーの人事考課の手順について、5つの観点から解説します。
- 等級
- 職務内容の洗い出し
- 能力
- 役割
- 賃金
①等級
等級とは、パートタイマーの活用戦略を具体化するために設定する役割等級のこと。等級設定には、職務内容の洗い出しやグルーピング、役割等級の定義設定が必要です。
設定後は、「パートタイマーの役割等級制度」と「既存の正社員の職能資格制度」との整合性を調整します。
②職務内容の洗い出し
等級を設定する際、職務内容の洗い出しも必要です。
パートタイマーが、「どのような業務をどの程度まで達成できればどの等級に評価されるのか」を決めるためには、職務内容の正確な把握が必要です。そこで職務内容を洗い出し、グルーピングして設定する等級に振り分けます。
③能力
等級を設定する際、それぞれでどのような能力が求められるかを明確にして分かりやすくすることも重要です。
設定した各等級の職能要件を達成するために必要とされる能力を、「職務知識」「判断力」「折衝力」「リーダーシップ」「専門的技能」「企画力」「個別具体的な公的資格や民間資格」などの複数の項目で設定します。
④役割
等級を設定する際、企業がパートタイマーに求める役割についても検討して設定します。
業績を向上するには、正社員やパートタイマーを問わず一人ひとりが自らの役割を果たさなくてはなりません。そこでそれぞれの等級に求める役割を、具体的に設定します。
⑤賃金
パートタイマーの等級を設定する際、等級と賃金の関係についても設定します。
等級が上がって昇給や時給改訂が行われれば、パートタイマーのモチベーションもアップします。それぞれの等級に見合った労働の対価を支給できるよう、どのように評価結果を賃金に反映させるか、検討が必要です。
3.パートタイマーの人事考課を作る際のポイント5つ
パートタイマーの人事考課を作成する際、押さえておきたいポイントがあるのです。ここでは、5つの視点からポイントについて解説します。
- 現状把握は正確に
- どの社員に対しても公平な人事考課か
- 人事考課と賃金の関係が明確になっているか
- 評価のタイミングは年1回以上で
- 評価者によってばらつきが出ないか
①現状把握は正確に
人事考課の実施では基本、できる限り主観を排除して客観的な基準をもとにします。パートタイマーの人事考課を作成する際は、パートタイマーの置かれている現状を、数字に表れないものも含め客観的に把握しましょう。
②どの社員に対しても公平な人事考課か
人事考課で、パートタイマーの間に不公平感を生み出してはなりません。またパートタイマーと既存の正社員の間に、整合性を取る必要もあります。客観的で公平な人事考課になるよう気を付けましょう。
③人事考課と賃金の関係が明確になっているか
人事考課をしただけでは、モチベーションの向上につながりません。設定した人事考課が、「時給の構成要素や上限」「昇給基準」といったパートタイマーの賃金体系とどのようにリンクしているのか、分かりやすい関連付けも重要です。
④評価のタイミングは年1回以上で
人事考課は、最低でも年1回以上行います。可能であれば、年2回は実施しましょう。人事考課制度を設けても評価されなければ、冷遇したと見なされかねず、結果、パートタイマーのモチベーションが下がってしまうかもしれません。
⑤評価者によってばらつきが出ないか
部門や業務の違いによって、人事考課の項目や評価配点に違いが出てくる場合も考えられます。人事考課の公平性を担保するためにも、評価者の違いによる評価項目や評価内容のばらつきを可能な限り排除しましょう。
4.パートタイマーの人事考課表を賃金に反映させるには?
パートタイマーの人事考課表を賃金に反映させる際に用いるさまざまな手法について解説します。
- 等級、時給、職務範囲を明確に定める
- 支援ツールの活用
- ランク型賃金表の活用
- 希望に応じて正社員へ昇格
- 業務奨励手当
①等級・時給・職務範囲を明確に定める
たとえば、「職務内容やその習熟度に応じて5つの等級を設定し、格付けする」「等級ごとに職務評価ポイントを設定」「設定した職務評価ポイントに応じて、昇格や昇給を決定」といった手法は、パートタイマーのモチベーション向上に大きな役割を果たします。
②支援ツールの活用
長野労働局では雇用管理の改善を目的として、パートタイマーを雇用する中小企業に対し簡易支援ツールを提供しています。
支援ツールでは、「基本給表や人事考課表に基づく賃金決定」「スキル評価シートや教育訓練計画表といった教育訓練」「定期面談などの労使コミュニケーション」を管理できるのです。
③ランク型賃金表の活用
ランク型賃金表とは、「役割責任」と「実力」2つを軸として報酬を決定する賃金表のこと。「役割責任は等級」「実力は評価」によって可視化されるため、パートタイマーの賃金を合理的に決定できます。
④希望に応じて正社員へ昇格
正社員転換制度とは、「人事考課による評価結果が一定の基準をクリアしている」「本人に希望がある」という2つの条件を満たした場合、パートタイマーから正社員へ転換できる制度のこと。正社員への道が開かれるため、モチベーションが向上します。
⑤業務奨励手当
業務奨励手当とは、会社が期待する一定レベル以上の成果を出したパートタイマーに対して、業務奨励手当を支給するもの。制度を活用する際は、「支給資格の公平性」「明確な支給基準」を設定し、事前に丁寧に説明しておくことも重要です。
5.パートタイマーの人事考課導入事例
パートタイマーの人事考課導入事例3つについて解説します。事例は、パートタイマーの人事考課制度を導入する際の大きなヒントになるでしょう。
事例①貸金業、クレジットカード業
貸金業、クレジットカード業等非預金信用機関を営むA社では、全社員250名のうち約100名がパートタイマーとして在籍しており、重要な戦力になっています。そんなA社におけるパートタイマーの人事考課は、下記のとおりです。
- 職種別、地域別の時給設定
- 人事考課に連動させた昇給の実施
- 職種別に育成型の人事考課表を運用
- 毎年恒例の全社員参加イベントにてパートタイム労働者を表彰
事例②食料品製造業
食料品製造業を営むB社では、全社員55名のうち17名がパートタイマーとして在籍しています。制定された「パートタイム社員就業規則」では、下記のような内容が盛り込まれているのです。
- パートタイマーの業務や能力を3つの等級に分類する
- 年1回上司と面接を行い、等級を決定する
- 人事考課の結果で時給を決定する
- 勤務成績や所属長の推薦を条件に正社員へ転換ができる
事例③小売販売業(スーパーマーケット)
スーパーマーケットをチェーン展開しているC社では、全社員5,500名のうち約5,000名がパートタイマーやアルバイトとして在籍しています。接客業を営み、パートタイマーも多く活躍しているため、下記のような制度を設けているのです。
- パートタイマー職階制度を利用したリーダー制度の導入
- リーダーに対してリーダー手当を支給
- おもてなし教育を重視した教育訓練制度
6.【職種別】パートタイマーにおける人事考課の書き方を紹介
パートタイマーの人事考課の書き方には、職種別に押さえておきたいポイントがあります。3つの職種から、それぞれに適した評価コメントのポイントおよび例文を紹介しましょう。
- 事務職
- 接客業
- 製造業
①事務職
人事考課の書き方に関するポイントは、下記のとおりです。業務を数値化できない分、公正で丁寧な評価が必要です。
- 自主的に業務に取り組む姿勢があるか
- 作業ペースをアップさせられたか
- 苦手な作業の克服状況に変化があるか
- 積極的に業務改善を行ったか
- 周囲とコミュニケーションを取りながら業務を推進したか
例文
事務職のパートタイマーにおける人事考課の例を見てみましょう。
- スムーズな来客案内や丁寧な電話応対は、取引先から評価を得ていた。引き続き、積極的に明るく丁寧な接客を心がけて欲しい
- 手が空いている時間の使い方には、もう一段の工夫が必要。積極的に周囲と連携を取り、持ち前のバイタリティを生かして新しい業務にもチャレンジしていくことを望む
②接客業
人事考課の書き方に関するポイントは、下記のとおりです。
- 接客態度や身だしなみが顧客へ不快感を与えていないか
- 気配りや心配りなどの配慮をする努力はしているか
- 積極的に業務改善へ取り組んでいるか
- 顧客の要望に対して臨機応変かつ真摯に対応できているか
- 協調性を発揮して、チーム全体で業務に取り組んでいるか
例文
接客業のパートタイマーにおける人事考課の例を見てみましょう。
- クレームにも冷静かつ丁寧に対応できた。顧客の信頼を得るための努力がサービスの向上にもつながっている
- チーム内で積極的にコミュニケーションを取れている。周囲への気配りも行き届いており、安心して仕事を任せられる。今後は、ペースを少し上げた取り組みが課題。
③製造業
人事考課の書き方に関するポイントは、下記のとおりです。
- ルーティンワークに対して真摯に取り組んでいるか
- 決められた業務を、決められた方法で、決められた時間内に完結できているか
- 上司への報告、連絡、相談を適宜行っているか
- 同僚などと円滑にコミュニケーションを取れているか
- 挨拶がしっかりできているか
例文
製造業のパートタイマーにおける人事考課の例を見てみましょう。
- 想定外のトラブルが起きた際の上司への報告、連絡がスムーズ。同僚などとのコミュニケーションも積極的に図られており、チームの中に溶け込んで自分の能力を発揮している
- ルーティンワークで集中力に欠けるときが見受けられる。時間の短縮や製造工程の改善提案などに取り組みながら持ち前の積極性を生かして欲しい