パートの有給とは、一定期間勤務した労働者に対して付与される休暇のこと。ここではパート有給の取得状況や取得条件、付与日数、年次有給休暇管理簿について紹介します。
目次
1.パートの有給とは?
半年間継続して雇われており、全労働日の8割以上を出勤しているという2点を満たしていれば取得できる年次有給休暇のこと。年次有給休暇は労働基準法で定められた労働者に付与される権利です。
パートの有給休暇の取得状況
パート有給休暇の取得状況は正社員と比べて少ないものの、上昇傾向にあるといえます。たとえば高山市では、パートタイマーに付与されている有給休暇日数は正社員より少なく平均で15.8日。しかし取得率は高く28.5%となりました。
付与日数がもっとも多い業種は「医療・福祉」の21.1日、次に「金融・保険業」の20.4日となっています。
働き方改革関連法で義務化された
2018年6月29日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立し、同年7月6日に公布。これによって各種労働関係法令のルールについても改正されました。
正社員だけでなく、所定労働日数が少ないアルバイトやパートでも一定の条件を満たすと、年次有給休暇の取得が可能になったのです。
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2.パートの有給休暇の取得条件
前述のとおり正社員に限らず、パートやアルバイトでも2つの条件を満たしていれば、年次有給休暇を取得できます。これは事業所の業種や規模に関係なく、すべての事業所の労働者に適用されるのです。
- 6カ月以上継続して勤務している
- 全労働日の8割以上出勤している
①6カ月以上継続して勤務している
契約の更新が行われ、継続して使用されている状態であれば条件に該当します。契約期間満了から数日後に更新された場合でも、勤務が中断していなければ継続勤務に当てはまるのです。
②全労働日の8割以上出勤している
採用されて間もない頃は、はじめ6カ月間の出勤状況から判断します。しかしそれ以降は1年ごとの出勤状況から判断していくのです。また業務上の負傷や疾病のために休職した期間や育児休業、介護休業や産前産後については出勤したものと見なされます。
3.パートの有給休暇の付与日数
パートの年次有給休暇の付与日数は、法律(労働基準法第39条)によって定められているのです。ここでは以下の項目について説明しましょう。
- 週所定労働時間30時間以上の場合
- 週所定労働時間30時間未満の場合
- 有給休暇の有効期限
- 有給休暇の繰り越しについて
①週所定労働時間30時間以上の場合
1週間の所定労働時間が30時間以上の場合通常の労働者と同一日数の年次有給休暇が付与されるのです。また勤続期間が半年以上で全労働日の8割以上を出勤している、という条件を満たす必要もあります。付与される有給休暇の日数は以下のとおりです。
- 継続勤務年数:0.5年 付与日数:10日
- 継続勤務年数:1.5年 付与日数:11日
- 継続勤務年数:2.5年 付与日数:12日
- 継続勤務年数:3.5年 付与日数:14日
- 継続勤務年数:4.5年 付与日数:16日
- 継続勤務年数:5.5年 付与日数:18日
- 継続勤務年数:6.5年以上 付与日数:20日
②週所定労働時間30時間未満の場合
週所定労働時間が30時間未満、かつ週所定労働日数が4日以下の場合有給休暇の付与日数は以下のとおりです。(週の所定労働日数が4日、または年間の所定労働日数が169日から216日までの場合)
- 継続勤務年数:0.5年 付与日数:7日
- 継続勤務年数:1.5年 付与日数:8日
- 継続勤務年数:2.5年 付与日数:9日
- 継続勤務年数:3.5年 付与日数:10日
- 継続勤務年数:4.5年 付与日数:12日
- 継続勤務年数:5.5年 付与日数:13日
- 継続勤務年数:6.5年 付与日数:15日
③有給休暇の有効期限
労働基準法第115条によって付与された年次有給休暇の有効期限は2年と定められています。その期限を超えると行使しない権利は消滅するため注意が必要です。これは正社員やパート、アルバイトなど雇用形態をと問わずすべての労働者に該当します。
有効期限を見るときは、「年次有給休暇の発生する月」を確認するとよいでしょう。
④有給休暇の繰り越しについて
その年度に年次有給休暇を取得しなかった場合、翌年度に限って繰り越せます。たとえば2021年7月10日に年次有給休暇が付与され、2021年度に有給をまったく取得しなかった場合、2022年に繰り越せるのです。
ただし付与された年次有給休暇の権利を2年間行使しないと、時効により消滅しますので繰り越せません。
4.パートの有給休暇の付与日数は記録義務がある
労働基準法施行規則が改正された結果、平成31年4月から事業主には各労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成すると義務づけられました。また「年次有給休暇管理簿」は3年間保存しなければなりません。
「年次有給休暇管理簿」には以下の3点について記載します。
- 時季:労働者が有給休暇を取得した日付。記載の際は、正確に取得日を記さなければならない。「全休」や「半休」などの表記を採用すると、正確な資料になる
- 日数:労働者が取得した有給休暇の日数。取得期間が半日以上1日未満の場合、半日分として記載する
- 基準日:労働者の有給休暇取得権が発生した日付。労働基準法第39条では、雇い入れから6カ月後に最初の有給休暇を付与し、以降は1年ごとに基準日を更新するよう定めている
年次有給休暇管理簿とは? 作り方や保存義務・期間を簡単に
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1.年次有給休暇管理簿とは?
年次有給休暇管...
「年次有給休暇管理簿」の保存期間
労働基準法施行規則第24条の7では時季や日数、基準日を労働者ごとに明らかにした書類「年次有給休暇簿」を、有給休暇を付与した期間中あるいは当該期間の満了後3年間保存する必要があると定めています。
ペーパーレス化を進めている事業所で、必要なときにいつでも出力できるのであれば、システム上での管理も可能です。
労働者名簿または賃金台帳との調製も可能
「年次有給休暇管理簿」は必ずしも単体で作成される義務はなく、労働者名簿や賃金台帳とあわせた調製も認められています。
「年次有給休暇管理簿」「労働者名簿」「賃金台帳」とあわせた調製については、厚生労働省のリーフレットで、必要事項を組み込んだ表が紹介されているのです。
立ち入り調査が実施される際、出力できる仕組みになっていればシステム上で管理しても問題ありません。
5.パートが有給取得した際の受給額
事業者はパートが有給休暇を取得した際、就業規則やそれに準ずるものに則って、適切な受給額を支払う必要があります。ここではについて詳しく説明しましょう。
- 通常の賃金
- 平均賃金
- 健康保険の標準報酬日額
①通常の賃金
パートが有給取得した際の受給額の代表的な計算方法として、「通常の賃金」があります。計算方法は「時給×所定労働時間」です。
パートやアルバイトの多くは時給制で雇用されるため、この計算方法で支払う事業所が多いとされています。最もシンプルな計算方法で、双方ともに納得しやすい方法でしょう。
②平均賃金
パートやアルバイトの「平均賃金」を計算して支払う方法です。計算方法は労働基準法で定められており「有給休暇取得日以前3カ月間の賃金総額÷総日数」。
事務処理が面倒という点はデメリットではあるものの、土日祝日が多い場合、支払金額が下がる可能性もあります。
③健康保険の標準報酬日額
健康保険の標準報酬日額から算出する方法で計算方法は「健康保険の標準報酬月額÷30」です。
標準報酬月額は毎月変わらないため、平均賃金に比べると計算しやすいでしょう。ただし健康保険未加入のアルバイトやパートがいる場合、この方法では計算できません。また労使協定締結をしていない場合も利用できないため、注意が必要です。
6.パートが有給取得する際、企業側の注意点
パートやアルバイトが有給取得を行う際、企業は何に注意するのでしょうか。以下の4点について説明します。
- 有給休暇取得時に与える賃金
- アルバイトの時季指定権
- 企業側の時季変更権
- 有給休暇を取得させなかった場合の罰則
①有給休暇取得時に与える賃金
先ほど述べたように有給休暇取得時、労働者に与える賃金にはいくつか種類があります。労働基準法で定める「平均賃金」、所定労働時間労働した場合に支払われる「通常の賃金」、「健康保険法に定める標準報酬日額」のいずれかを支払う必要があるのです。
どの方法を選ぶのか、事前に就業規則へ明確に定めておきましょう。
②アルバイトの時季指定権
2019年4月からすべての事業所で、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年次有給休暇の日数のうち年5日は、使用者が時季を指定して取得させると義務化されました。
「職場に遠慮してしまい、取得しにくい」といった理由から取得率が上がらず、取得促進が大きな課題になっている、という背景に起因しています。
③企業側の時季変更権
労働基準法第39条第4項は、年次有給休暇を原則、労働者が請求する時季に付与しなければならないと定めています。
一方、労働者から請求された時季に有給休暇を与えると事業活動を妨げる場合、例外的に使用者は時季を変更可能です。これを時季変更権といいます。
④有給休暇を取得させなかった場合の罰則
使用者が労働者に年次有給休暇を取得させなかった場合、罰則が課される場合もあります。
- 年5日の年次有給休暇を取得させなかった:30万円以下の罰金(労働基準法第120条)
- 労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった:6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第119条)
事業者はどんな状況であれ、労働者に年次有給休暇を取得させる必要があるのです。
7.パートで有給休暇を取得できない場合
年次有給休暇の付与は、労働基準法39条で認められた労働者の義務です。しかし事業所によってはこれを拒絶し、有給休暇を取得させないことも珍しくありません。ここではパートやアルバイト職が有給休暇を取得できない場合の対処法について説明します。
社内相談窓口
有給休暇の取得が認められなかった場合、まずは事業所内の相談窓口に相談するとよいでしょう。さらにコンプライアンス窓口や労働組合などがある場合、こちらに問い合わせするのもひとつの手段です。
一方、事業所窓口に相談すると、事業所内部に相談した内容が漏えいする可能性もあります。事前に信頼できる上司へ窓口について尋ねておくとよいでしょう。
労働基準監督署
事業所内の労働に関する窓口やコンプライアンス窓口への相談が難しい場合、各都道府県にある労働基準監督署を尋ねてみるのもひとつの手段といえます。
労働基準監督署は、管轄エリアの事業者が労働関係の法令を守っているかを監視する機関です。「有給休暇の申請が不当に受け入れられない」といった場合に申告できます。
弁護士
年次有給休暇取得に関する相談では、弁護士事務所も利用できます。「弁護士に相談をする」と聞くとハードルが高く感じるかもしれません。しかしさまざまな事例を解決に導いているプロとして、相談に応じてくれるでしょう。
有給の取得が困難なときはもちろん、申請にあたってのトラブルについても受け付けています。