パートナーシップ制度とは、地方自治体などが同性カップルを法的婚姻と同等だと認める制度のこと。その内容や種類、制度のメリットやデメリットなどを解説します。
目次
1.パートナーシップ制度とは?
戸籍上同性のカップルに対して、地方自治体が婚姻と同等の関係を承認する制度のこと。
日本では法律上、同性同士での結婚はできません。そのため戸籍上同性のカップルには、「税制優遇措置や住宅ローン審査を受けられない」「病院での面会、立ち合いの権利がない」など、さまざまな支障が生じています。
こうした支障をクリアするため、地方自治体や民間企業でパートナーシップ制度の導入が進んでいるのです。なお2022年11月時点では、240を超える市区町村がパートナーシップ制度を導入しています。
2.パートナーシップ制度は結婚と何が違うのか?
海外の主要国における同性婚は、法的に認められた婚姻です。法的に「家族」として認められるため、一般的な夫婦と同じようにさまざまな制度を利用できます。
一方パートナーシップ制度は、特定の地方自治体がパートナーに対して「家族と同等であると認める」制度です。そのため「婚姻」とまったく同じ権利を得られるわけではありません。
3.パートナーシップ制度に法的効力はあるのか?
海外の主要国では同性婚の制度が整っており、同性で結婚した場合でも法的に家族として認められます。しかし日本のパートナーシップ制度の場合、法律上ではパートナーであっても「他人」と扱われるため法的効力がありません。
そのため日本国の制度においては婚姻と同等の権利を得られず、当事者たちにとってはさまざまな問題が生じます。
たとえば「配偶者控除を受けられない」「相続税の優遇措置を受けられない」「遺言状がないと相続権が発生しない」「パートナーが亡くなったときに遺族給付金を受給できない」「パートナーが生んだ子どもであっても親権を取得できない」などです。
4.2種類のパートナーシップ制度
日本で最初にパートナーシップ制度が施行されたのは、2015年11月。東京都の自治体で、渋谷区と世田谷区です。2区の事例をきっかけに、現在では200以上の自治体でパートナーシップ制度が施行されました。
パートナーシップ制度が最初に始まったのが渋谷区と世田谷区であるため、パートナーシップ制度は現在「渋谷型」と「世田谷型」の2種類に大別。渋谷区は条例として区内の効力を持たせており、世田谷区は要綱として実務上の対応を可能としています。
渋谷区型
条例として定められているのが渋谷型。正式名称は「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」です。
条例は都道府県や市区町村における独自の法律。
成立すると、条例はその地域における法律として発布され、地域内の行政機関や企業、個人も含めて努力義務が生じます。違反すれば罰金、拘留、科料などが課せられるため、国の法律よりは効力が劣るものの法的な強制力を得られるのです。
渋谷型のパートナーシップ制度は、利用する際に時間がかかる傾向にあります。たとえば渋谷区では公正証書や戸籍などの書類をそろえたうえで、当事者2人で申請し、区長の審査にとおれば証明書が発行されるという流れです。
審査中に質問への回答や文書の提示を求められる場合もあり、手間と時間を要します。
世田谷区型
要綱をもとに定められているのが世田谷型。正式名称は「世田谷区パートナーシップの宣誓の取扱いに関する事務処理要綱」です。行政機関における要綱は、制度の運用や実務上の処理、指導方針などにおける規程を指し、条例のような法的効力を持ちません。
世田谷区のパートナーシップ制度は、区役所内でパートナー2人が宣誓書に署名するという事務手続きだけで利用できるのが特徴です。
申請後に区から宣誓時間や場所を通知されるので、必要書類をそろえて当日来場し、宣誓書に署名します。署名後には区が宣誓書を受領し、宣誓書の写しと受領書を交付され、宣誓書は区役所で10年間保管されるのです。
5.パートナーシップ制度でできること・メリット
パートナーシップ制度を利用すると、サービスを一般的な夫婦と同じように受けられる可能性があります。たとえば以下のようなサービスが一例です。
- 公営住宅に家族として入居できる
- 生命保険の受取人を指定できる
- さまざまなサービスにおいて家族割が受けられる
- クレジットカードで家族カードが作れる
企業によっては、パートナーシップ制度に登録していると報告すると、家族に適用している福利厚生を受けられるケースもあります。
パートナーシップ制度は、法律上の婚姻と同じ効果を持ちません。しかし少なくとも自治体や一部の企業からの理解を得られ、受け入れられたことを意味します。この点は精神的な安心感にもつながるでしょう。
6.パートナーシップ制度でできないこと・デメリット
パートナーシップ制度はあくまで自治体(地域)に限定したもので、日本全国共通で利用できるわけではありません。そのため転居で住む地域が変わると、それまでのパートナーシップ制度を受けられなくなる可能性もあるのです。
たとえば条例を設ける渋谷型はその自治体内でのみ効果を発し、ほかの地域ではその拘束力が適用されません。そもそも移住先でパートナーシップ制度を設けていない場合もあります。
さらに法的なデメリットも多数存在するのです。たとえば権利関係で生じるデメリットとして以下の例が挙げられます。
- 配偶者控除を受けられない
- 子供が生まれても親権を持てない
- パートナーが外国籍の場合、在留資格が得られない
- パートナーが亡くなったとき、遺族給付金を受給できない
7.パートナーシップ制度の問題点
法的に婚姻として認められない点がパートナーシップ制度の問題点です。また同じパートナーシップ制度でも実施する自治体ごとにルールや規定、承認する範囲などが異なるため、証明書としての効力が発揮されにくいのも課題でしょう。
8.パートナーシップ制度の企業事例
近年、地方自治体だけでなく民間企業でもパートナーシップ制度を導入し始めているのです。たとえば社内規定を改訂して、同性パートナーにも出産や育児における福利厚生を認めるなどの措置が挙げられます。
企業がこのような取り組みを行うのは、社員と企業双方にとってメリットがあるからです。
社員側は福利厚生を受けてライフワークバランスが高まります。企業側は、社員のモチベーションの高まりから生産性や定着率が向上。さらに「ダイバーシティとインクルージョンを実践する企業」だと社会的にアピールできます。
そのため制度の内容は、単に福利厚生の面だけでなく社員教育やワークショップの実施などにもおよんでいるのです。ここでは国内の大企業が導入しているパートナーシップ制度の例を説明します。
楽天グループ
楽天グループは企業戦略の柱としてダイバーシティの推進を掲げ2016年に社内規定にて配偶者の定義を「同性パートナーも含む」という内容に変更。ほかにも以下のような取り組みを実施しています。
- 性別問わずすべての社員が自由に使用できる多目的トイレの設置
- LGBTQ+の当事者に配慮した社内サービスの整理
- LGBTQ+に関することをいつでも相談できるペルプデスクの設置
また楽天グループが展開する事業内で、LGBTQ+の当事者に向けて、以下のようなサービスを開始しました。
- 同性パートナーも保険金受取が可能
- 楽天カードで、同性パートナーも家族カードの申し込み可能
- 楽天銀行で、LGBTQ+の当事者を対象とした住宅ローンの提供
ほかにLGBTQ+への理解を社内で広げるための活動として、有志による「LGBTQ+ネットワーク」を構築。全社員が参加できるセミナーを実施し、情報共有の場を提供しています。
大和ハウス工業
大和ハウス工業は2021年から同性パートナーも一般的な配偶者と同様の優遇措置を受けられる「同性パートナーシップ制度」を導入しています。
同社は以前からLGBTに関する取り組みを積極的に実施。全社員を対象としたLGBTに関する意識調査や、eラーニングを使った社内啓蒙活動などを通してダイバーシティ経営を推進してきました。
2021年から実施された制度では、同性パートナーを配偶者とみなして既存の規定や福利厚生の内容を改定。以下のような補助を受けられるようになりました。
- 最大17万2,500円の社宅補助の支給
- 赴任手当における転居補助金を12万円以上に増額
- 旅費や慶弔見舞金の増額
- 家族の看護休暇付与を受けられるようにする
- 性別適合手術やホルモン治療での有給休暇を認める
今後大和ハウス工業では、LGBTのみならず障害者やシニアを含めたダイバーシティ経営の推進強化を行うとしています。
KDDI
KDDIはLGBTに対する取り組みを多数進めている企業です。2013年から性的マイノリティへの配慮を実施し、以下のようなルールを定めました。
- ワーキングネーム(仕事だけで使用する本名以外の名前)の使用の許可
- ユニバーサルトイレの設置と推奨
- eラーニングを活用したLGBT関連の社員向けコンテンツの配信
- 服装規定の廃止
2016年からは採用面においても取り組みを開始し、エントリーシートへの性別欄の記載を廃止。2017年には同性パートナーの社内定義の改訂を実施しています。
この改訂では同性パートナーも配偶者として認め、社内の一般的な配偶者と同等の優遇措置(祝い金や休暇など)を受けられるようになりました。
また2020年には「ファミリーシップ申請」という新しい制度も実施。ファミリーシップ申請とは、同性パートナーとの子どもを社内規定において家族として認める制度のこと。同性パートナー間に出生した子どもと同様、手当や祝い金、休暇取得などを認めています。
パーソルグループ
パーソルグループではパーソルキャリアやパーソルチャレンジ、パーソルサンクスの3社で「同性パートナーシップ制度」を導入。制度では同性パートナーが一般の法律婚と同等の福利厚生(転勤手当や休業手当、弔金や育児休暇など)を受けられます。
またパーソルキャリアでは、2021年からLGBT当事者および障がい者が利用できる「転職・就職支援サービス」も開始しました。
このサービスは、性的マイノリティや特定の障がいを抱える人を対象とした就職支援です。専門のキャリアアドバイザーが本人の悩みや不安に寄り添いながら、キャリアプランの提案や求人情報の提供、転職や就職時におけるアドバイスなどを行います。
また有志社員によるグループ全体のコミュニティ「Rainbow PERSOL」を立ち上げ、社内の啓蒙活動を促進。LGBTQ+に関する知識が記載されたガイドブックの作成や配布、社内イベントを実施しています。
リプセンス
リブセンスは2019年、「差別、ハラスメントの根絶と平等の実現」を経営方針へ追加し、性や家族の多様性の尊重を就業規則に反映。以下のような対応を認めました。
- 同性パートナーシップや事実婚を一般的な婚姻と同等と認め、見舞金の支給や各種休暇の対象とする
- 病気や看護で認められていた「保存年次有給休暇(期限切れの年次有給休暇を積みたてる制度)」の適用範囲に、性別適合手術や不妊治療なども含める
社内研修面では、2020年からジェンダーバイアスに関する知識を深める「常識を考え直すワークショップ」を実施。このワークショップは、数人のグループを作って対話を中心としたワークを行い、社外も含め多くの人が参加しています。