昇給とは、企業が定める基準を満たした場合に従業員の基本給が上がる仕組みです。昇給制度は従業員や企業にとってさまざまなメリットがあるものの、うまく仕組みを構築して運用できないとメリットが発揮できなくなってしまいます。
今回は昇給について、平均金額、相場や昇給を実施する時期、昇給額の決め方や計算方法などをわかりやすく解説します。
目次
1.昇給とは?
昇給とは、基本給の金額が上がることです。年齢や役職、勤続年数や能力など、企業が定める基準にもとづいて給与の金額が上がります。昇給で上がるのは、ボーナスを含まない基本給です。
ボーナスや手当が基本給をベースとする場合、昇給に伴いそれらの金額も上がります。なお昇給にはさまざまな種類があり、一般的なものが毎年定期的に昇給していく「定期昇給」です。
2.昇給の平均金額・相場
どれくらい昇給するかは、企業によって基準はさまざまです。また、もとの基本給や業績によっても昇給の平均金額は変わってきます。ここでは、昇給の平均金額や相場をみていきましょう。
企業規模別
厚生労働省「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」によると、企業規模別にみた昇給の平均金額は下記のとおりです。
1人平均賃金の改定額(円) | 1人平均賃金の改定率(%) | |
5,000人以上 | 12,394 | 4.0 |
1,000〜4,999人 | 9,676 | 3.1 |
300〜900人 | 9,227 | 3.2 |
100〜299人 | 7,420 | 2.9 |
出典:厚生労働省「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」
規模が大きい企業ほど、昇給額や昇給率が高い傾向にあります。
組合規模別
日本労働組合連合「2024春季生活闘争 まとめ」によると、平均賃金方式による5,284組合の昇給平均額は15,281円でした。組合規模別の昇給平均額は、以下のとおりです。
集計組合数 | 昇給額 | 昇給率 | ||
全体平均 | 5,284組合 2,933,902人 |
15,281円 | 5.10% | |
300人未満 | 300人未満計 | 3,816組合 359,093人 |
11,358円 | 4.45% |
〜99人 | 2,333組合 97,385人 |
9,626円 | 3.98% | |
100〜299人 | 1,483組合 261,708人 |
12,004円 | 4.62% | |
300人以上 | 300人以上計 | 1,468組合 2,574,809人 |
15,874円 | 5.19% |
300〜999人 | 979組合 528,881人 |
14,032円 | 4.98% | |
1,000人〜 | 489組合 2,045,928人 |
16,362円 | 5.24% |
出典:日本労働組合連合「2024春季生活闘争 まとめ」
平均で1万円以上昇給しており、昨年よりも3,000〜5,000円増えています。
産業別
同じく、厚生労働省「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」によると、産業別にみた昇給の平均金額は下記のとおりです。
1人平均賃金の改定額(円) | 1人平均賃金の改定率(%) | |
鉱業,採石業,砂利採取業 | 18,507 | 5.2 |
建設業 | 12,752 | 3.8 |
製造業 | 9,774 | 3.4 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 10,131 | 3.3 |
情報通信業 | 15,402 | 4.5 |
運輸業、郵便業 | 6,616 | 2.7 |
卸売業、小売業 | 8,763 | 3.1 |
金融業、保険業 | 10,637 | 3.2 |
不動産業、物品賃貸業 | 11,560 | 3.7 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 10,642 | 3.2 |
宿泊業、飲食サービス業 | 8,401 | 4.4 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 6,832 | 2.5 |
教育、学習支援業 | 7,682 | 2.7 |
医療、福祉 | 3,616 | 1.7 |
サービス業(他に分類されないもの) | 6,343 | 2.2 |
出典:厚生労働省「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」
令和5年は2〜3.5倍に昇給している産業も多くみられます。社会情勢などによって産業ごとに景気も変わるため、各業界で見ても昇給の平均額にばらつきが多くなっています。
最新の昇給平均額
厚生労働省「令和6年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」では、最新の産業別の昇給額を公表しています。妥結額は、原則として定期昇給込みの賃上げ額です。
産業 | 昇給額(妥結額)(円) | 昇給率(%) |
建設 | 21,548 | 5.94 |
食料品・たばこ | 18,057 | 5.36 |
繊維 | 18,235 | 5.59 |
紙・パルプ | 13,439 | 4.39 |
化学 | 18,416 | 5.30 |
ゴム製品 | 15,776 | 5.15 |
窯業 | 18,426 | 5.75 |
鉄鋼 | 37,090 | 12.49 |
非鉄金属 | 17,961 | 5.82 |
機械 | 21,385 | 6.45 |
電気機器 | 18,391 | 5.32 |
造船 | 23,057 | 6.53 |
精密機器 | 17,582 | 5.06 |
自動車 | 16,189 | 4.82 |
その他製造 | 15,804 | 4.91 |
電力・ガス | 12,841 | 4.44 |
運輸 | 9,829 | 3.25 |
卸・小売 | 16,192 | 5.22 |
金融・保険 | 15,756 | 4.58 |
サービス | 17,739 | 5.79 |
出典:厚生労働省「令和6年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」
令和5年の昇給額と比べると、およそ1.5倍の伸び率となっています。
3.昇給と昇格、昇進の違い
昇給と類似するものに昇格や昇進がありますが、それぞれの違いは上がる対象です。
- 昇給:基本給
- 昇格:等級
- 昇進:役職
昇格すると社内での等級が上がり、業務内容や権限、責任の大きさが変わります。昇進では、一般から主任、課長から部長といったように役職が上がります。一般的には等級や役職が上がると給与も上がるため、同時に昇給するケースが多いでしょう。

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4.定期昇給とベースアップの違い
ベースアップは通称「ベア」と呼ばれ、基本給を一律にあげること。昇給との違いは、以下にあります。
定期昇給 | ベースアップ | |
目的 | 昇格や昇進、社内評価や成果に応じた給与を支給するため | 物価上昇などから相対的に下がった賃金を回復するため |
対象 | 対象の従業員 | すべての従業員 |
実施タイミング | 賃金規定にもとづく (年1〜2回など) |
春季闘争の結果にもとづく (2〜3月の間に交渉) |
大きな違いは、昇給の対象です。定期昇給は個人の成績や評価など、企業が定めた基準によって昇給し、必ずしもすべての従業員が昇給するとは限りません。対して、ベースアップはすべての従業員を対象に一律で基本給を上げるものです。

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5.昇給の種類
一般的な定期昇給のほか、以下のようにさまざまな昇給があります。臨時昇給や特別昇給のように不定期に行われる昇給もあれば、自動昇給や考課昇給のように定期昇給の性質を持つ昇給もあります。ここでは、昇給の種類を詳しくみていきましょう。
- 定期昇給
- 臨時昇給
- 自動昇給
- 考課昇給
- 普通昇給
- 特別昇給
①定期昇給
日本で最も一般的な昇給制度で、年齢や勤続年数に応じて、毎年定められた時期に定期的に昇給する仕組みです。定期昇給は、年功序列や終身雇用を象徴する制度といえるでしょう。
近年は年功序列や終身雇用制度の実質崩壊、グローバル化による外資系企業の参入や賃金制度の見直しにより、定期昇給を採用する企業は以前よりも減少傾向にあります。
②臨時昇給
臨時昇給は、会社の業績がよかった時などに臨時で行われる昇給です。昇給時期に定めはなく、不定期に実施されます。一律で引き上げればベースアップになり、業績に貢献した従業員を対象に行う場合は、このあとで紹介する特別昇給となります。
③自動昇給
自動昇給は、年齢や勤続年数など一定の基準を満たした場合、自動的に昇給する仕組みです。定期昇給の一部は、自動昇給の性質を持ちます。業績や能力に関係なく、すべての従業員が自動的に昇給する仕組みです。
④考課昇給
考課昇給は、評価を基準に昇給する仕組みです。従業員個々の成果や実績が昇給の基準になり、企業ごとまたは職種や職務内容ごとに昇給条件は異なります。
⑤普通昇給
普通昇給は、個人の業務成績や職務遂行能力や資格取得など、会社が規定する基準を満たした場合に行われる昇給です。自動昇給や考課昇給との区別が曖昧であるものの、一般的には、特別昇給と区別する際に用いられます。
⑥特別昇給
特別昇給は、業績への大きな貢献や功労、実績などを上げた際に特別に行われる昇給です。基準以上の評価を得たことにより飛び級で昇給するなど、通常の事由で行われない昇給を指します。
すべての従業員に適用されるとは限らず、ごく一部の人に不定期で実施されることが多い昇給です。
6.昇給の時期・頻度
昇給の時期や頻度は、企業によって異なります。一般的には年1〜2回の頻度で、4月や10月を昇給時期とする企業が多い傾向にあります。能力主義や成果主義を採用している企業では、四半期に1回などの頻度で昇給を行うケースもあるでしょう。
7.昇給制度のメリット
昇給制度は従業員だけでなく企業側にもメリットが期待できます。従業員、企業それぞれの観点から昇給制度のメリットをみていきましょう。
従業員側
従業員側の主なメリットは、以下のとおりです。
- モチベーションが保てる
- ライフプランを立てやすい
①モチベーションが保てる
定期昇給や自動昇給では、安定的な昇給に期待できます。たとえば、勤続年数を昇給要件の一つとしている場合、企業に在籍し続ける動機づけにもなるでしょう。考課昇給や特別昇給、臨時昇給があれば、業績や成果を上げるために意欲的に仕事に取り組めるようになります。
②ライフプランを立てやすい
昇給の比率やタイミングが決まっている昇給制度の場合、給与テーブルにもとづき将来の収入の見通しが立てやすくなります。定期的な昇給で給与アップが見込めることで、住宅ローンや子どもの教育費などの資金計画やライフプランを検討しやすくなるでしょう。
企業側
一方、企業側では以下のようなメリットに期待できます。
- 従業員のエンゲージメントを高められる
- 経営計画を立てやすい
①従業員のエンゲージメントを高められる
明確な基準のもと確実に昇給が行われる環境では、従業員のモチベーションが向上します。昇給が業績や成果を上げるための動機づけとなり、生産性の向上にも期待できるでしょう。
昇給制度により従業員が給与に満足すれば定着率が上がり、人材確保にもつながります。
②経営計画を立てやすい
昇給額や昇給率、昇給タイミングが決まっていると、固定費となる人件費を予測しやすくなります。人件費は、固定費でも大きな割合を占めるもの。人件費を予測しやすいほど、より実態に即した経営計画を立てやすくなるでしょう。
8.昇給制度のデメリット
一方、昇給制度は企業側にとって、下記のようなデメリットが生じる恐れもあります。
- 従業員の不満の原因になる可能性がある
- 人事考課の負担が大きい
①従業員の不満の原因になる可能性がある
年功序列による昇給や曖昧な評価基準による昇給は、従業員の不満につながる可能性が高いです。近年は終身雇用制度の実質崩壊により、年功序列が強い昇給制度は減りつつありますが、それでもまだ年功序列が残っている企業は多いでしょう。
成果を上げても、勤続年数や年齢が上の先輩社員の方が給与が高いと、モチベーションが下がってしまう恐れもあります。
②人事考課の負担が大きい
人事考課を基準とした昇給を取り入れている場合、その負担はかなり大きくなるでしょう。適切な評価ができないと従業員の不満につながってしまうため、いかに公平かつ適切に評価が行えるかが重要です。
単なる評価業務だけでなく、評価と連動した昇給制度や給与テーブルの設計・運用なども必要なため、人事担当者や評価者である管理職や上司の負担が大きくなってしまう可能性は否めません。
9.昇給の基準
昇給の基準は、企業によってさまざまです。昇給の種類によって基準は異なるものの、一般的には下記のような要素が昇給の基準とされます。
定期昇給・自動昇給 | 年齢、勤続年数 |
臨時昇給 | 業績、個人の成果や業績への貢献度 |
考課昇給 | 個人の成果や実績 |
普通昇給 | 業績、職務遂行能力、資格取得 |
特別昇給 | 業績への貢献度、功労、実績 |
どれか一つの基準のみで昇給するというより、複数の基準から総合的に判断するケースが一般的です。そのなかでどの基準に比重を置くかは、企業によって異なります。
10.昇給率の決め方
基本的な昇給率の決め方は、下記のとおりです。
- 昇給前の全従業員の給与合計を算出
- 業績などからどれくらい昇給額を払えるか算出
- 算出後、昇給後の給与総額を算出
昇給後の給与総額が算出できれば、「昇給後の給与÷昇給前の給与」で会社全体の昇給率が決まります。
昇給率を決める基準
昇給率は、社内外の状況を考慮して決める必要があります。基本的には、下記のような基準から昇給率が設定されます。
- 経済状況
- 企業の財務状況
- 競合他社や業界全体の動向
- 従業員の業績、パフォーマンス
昇給率は適切な範囲で決めることがポイントです。そのためにも、世の中の経済状況や競合他社、業界の状況をふまえて昇給率を検討しましょう。
また、従業員の業績やパフォーマンスにより、昇給率にもバリエーションをもたせるのも一つの方法です。目標の達成率が高かったり、業績を上げたりした従業員には高い昇給率を適用するなどすると、従業員のモチベーションや仕事への意欲向上に有効です。
11.昇給金額の計算方法
昇給額の計算方法は「昇給前の給与×昇給率」です。昇給前の給与は、基本給が対象となります。
たとえば、昇給前の給与30万円が昇給率2%だった場合、昇給金額は「30万円×2%=6,000円」です。昇給率ではなく、昇給金額が決まっている場合はそのままその額がプラスされます。