PDCAは、多くの企業で採用されているセルフマネジメントメソッドです。
改めてPDCAがどのようなメソッドなのかを考えるとともに、メリットや問題点、PDCAが失敗する要因や効果的に回していくポイントなどについて説明します。PDCAの実際の活用事例挙げて、PDCAの本質も見ていきましょう。
目次
1.PDCAとは?
PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4つのプロセスを繰り返し、業務効率を改善するフレームワークです。PDCAの最後のステップ、Actionが終了したら、また最初のPlanに戻って、プロセスを循環させることから、PDCAサイクルとも呼ばれます。
日本企業にも深く浸透しているPDCAは、1950年代、品質管理研究の第一人者であったアメリカの統計学者ウィリアム・エドワーズ・デミング博士とウォルター・シューハート博士によって提唱されました。
現在では、品質管理の国際基準となっている、
- ISO 9001
- ISO 14001
にもPDCAの手法が取り入れられており、業界や業種を問わずにセルフマネジメントメソッドの基礎として利用されています。
2.Plan・Do・Check・Action:各プロセスの詳細
Plan・Do・Check・Actionの各プロセスについて詳細を説明します。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(評価)
- Action(改善)
①Plan(計画)
Plan(計画)とは、
- 目標の設定
- 目標を達成するためのアクションプランの作成
を意味しています。プランニングを行う際は、
- 誰が(Who)
- いつ(When)
- どこで(Where)
- 何を(What)
- なぜ(Why)
- どのように(How)
- いくらで(How much)
という5W2Hの要素を意識して検討を重ねます。
目標やアクションプランの設定は、PDCAを回す際のスタート地点になるもの。数字で把握できる指標を積極的に用いるなどして、誰が見ても分かりやすく、具体性のある目標やアクションプランを設定することが重要です。
②Do(実行)
Do(実行)は、Plan(計画)で立案した目標やアクションプランをもとにした実行を意味しています。
ただし、ここでいう「実行」の意味は、「計画に従って着実に業務を遂行していくこと」だけではありません。「試行」という意味も含まれているのです。
Do(実行)では、
- 計画を実行に移してみた結果、それが有効だったのか
- もっと別の方法が考えられないか
などを検証する段階でもあります。よって、
- 一度にすべてを行わない
- 目標に対しての進捗度や結果を記録
- 時間を計るなどで数値的な結果が得られるように行動
- 計画通りに進まない場合にも、その旨を記録する
ということがポイントになります。
③Check(評価)
Check(評価)は、
- 設定した目標やアクションプランが達成できているか
- 計画通りに実行できたかどうか
について評価する段階のこと。計画通りに進まなかった場合は、その原因の分析をします。計画通りに事が進んだ場合も、成功要因の分析を行い、どちらにおいてもPlan(計画)で立てた数値目標を検証のテーブルに載せます。
数値を具体的根拠として、具体性を持った検証結果としてまとめあげることが求められるのです。
④Action(改善)
Action(改善)では、前段階のCheck(評価)で明らかにした分析・検証課題について改善点を考えていきます。改善点を考える際には、
- 引き続き計画通りに進める
- 計画を続ける中で、いくつかの視点を改善
- 計画を中止、延期する
など、選択肢を多く持つようにし、その中からこの先の課題を検討、決定していくのです。
3.PDCAのメリット
PDCAの導入には3つのメリットがあります。
- 目標・やることが明確になる
- 行動に集中しやすくなる
- 課題や不足が分かりやすい
①目標・やることが明確になる
1つ目は、目標ややるべき課題が明確になること。
- 組織や個人の目標を明確にできる
- 明確になった目標に向かって改善へのアクションを実行できる
2点が具現化されるのです。個人でも企業のように大きな組織でも、目標設定は不可欠でしょう。
目標がなければ、
- 本来達成すべき着地点とのズレを生じさせてしまう
- 具体的な施策を考えることが難しくなる
といった状況に陥ります。企業活動は、設定した目標をクリアしていくことで事業を拡大できるもの。
数値的指標などを用いて明確に目標設定を行うPDCAの導入は、
- 目標達成や問題解決に向けた道筋を立てることができる
- 個人や組織のやるべきことを明文化することで、明確な目標を掲げることができる
という点で、大きなメリットをもたらすといわれています。
②行動に集中しやすくなる
2つ目は、行動に集中しやすくなること。Plan(計画)の段階で、あらかじめ目標やアクションプランが定められるため、
- 自分が何をしなければならないか
- 組織に何が求められているのか
を明確に理解できます。
目標やアクションプランへの理解は、行動や作業への集中に大きく影響を及ぼすもの。Plan(計画)で立案した目標や計画に向かって集中力を高められれば、生産性の向上も見込めるでしょう。
③課題や不足が分かりやすい
3つ目は、課題や不足が分かりやすいこと。
PDCAは最初の段階で、数値的指標や定量化できるものをフルに活用して目標が設定されます。その目標の達成やアクションプランの実現に向けて集中し、行動していくことで、
- 目標に対する成果や失敗
- アクションプランに対する達成度や未完成度
といった目標と結果の乖離も明確に見えてきます。
その結果、
- どのように行動すれば改善できるのか
- 何を変えれば向上するのか
などについて考えやすくなるのです。
4.PDCAが失敗する要因
PDCAが失敗する要因についても説明します。
- Plan(計画)における失敗要因
- Do(実行)における失敗要因
- Check(評価)における失敗要因
- Action(改善)における失敗要因
①Planにおける失敗要因
Plan(計画)における失敗要因は、
- 設定した目標までの工程が描けていない
- 現状分析や現状把握ができていない
PDCAの考え方の根本は、仮説と検証にあります。PDCAは、仮説を立てて仮説に基づき実行し、その結果を検証することで新しい仮説を立てていく循環構造。
しかし、最初の仮説がお粗末であれば、仮説に基づく実行やその検証作業もお粗末なレベルに終始し、満足な結果は得られません。
仮説でも、目標の達成や課題を解決できるアクションプランとして具体的なイメージを持てるかが、成否の大きな分岐点となるのです。
②Doにおける失敗要因
Do(実行)における失敗要因は、計画性のないプランの実行にあります。
- がむしゃらに頑張ればいい
- とにかくやるだけやるしかない
- できることからどんどん始めよう
といった無計画なプランの実行は、効果的な結果を生み出しません。また、目標が長期的だった場合、直近の進捗が見えにくいようでは、結果を意識するチャンスを逸します。
長期目標を短期目標にブレイクダウンしたり目標達成に向けて綿密な計画を立案したりといったことは、PDCAに欠かせない要素です。
③Checkにおける失敗要因
Check(評価)における失敗要因は、チェック基準の曖昧さです。
- 全体的に合格点だ
- そんな感じで進めていいと思う
- もう少し頑張ってみてほしい
といった抽象的で曖昧なチェック基準では、PDCAを効果的に活用できません。
PDCAにおけるチェックは定量的な視点から結果を判断したり数値的指標を基準として、具体的な検証作業をしたりする必要があるのです。
また、内部チェックだけで済ませようとすれば、
- 判断基準が甘くなる
- 見逃してしまう部分が出てくる
ことも。その場合、外部の視点から厳しくチェックしましょう。確実な業務改善へと組織や個人を導いてくれます。
④Actionにおける失敗要因
Action(改善)における失敗要因は、改善に向けた確実な行動があるかどうか。
- 数値化された指標
- 外部の厳しい視点
からチェックして改善点が分かっても、改善に向けた行動が着実に実行されなければPDCAのサイクルは途中で頓挫してしまいます。
- 改善に向けて、可能性のあるものはすべて試してみる
- 改善に向けて行動してもらちが明かなければ、思い切って課題自体の見直しにも着手する
- 途中で投げ出さず、目標に向かって実行と検証と再設定を何度でも繰り返す
といった高い志を持ってPDCAのサイクルを回す覚悟がないと、PDCAの失敗という最悪な状態に陥りかねません。
5.PDCAを効果的に回すポイント
PDCAを効果的に回すポイントは4つ。
- 目標は数値で、計画は具体的に詳細に
- 計画通りに実行する
- 無理のない計画にする
- 定期的に評価・確認する
①目標は数値で、計画は具体的に詳細に
1つ目は、目標を数値で提示し、計画は具体的に詳細に立案すること。PDCAがうまくいかない一番の原因は、最初のPlan(計画)。
その理由は、
- 目標を数値で定量的に示していない
- 抽象的な計画で深掘りされていない
という点にあります。
「営業成績を向上させよう」という目標設定より、「新規顧客を10件獲得し、既存顧客300件にもアプローチをして、売り上げを前年同月比20%アップさせよう」といった数値的指標のほうが次のアクションを実行しやすくなります。
具体的な数字を意識した目標設定は具体的なアクションにつながり、結果、効率的な業務推進へとつながるからです。
- 目標を設定する際には、現状分析から出発
- 目標には定量的、数値化できる指標を活用
- 目標の達成をジャッジするため、目標に期限を設定
などができれば、PDCAを効果的に回すことができます。SMARTの法則を活用するなどして、目標設定には十分な配慮をしてください。
SMARTの法則とは? 目標設定の重要性、目標の立て方、具体例について
目標を立てるにあたって、全く実現不可能なものであっても意味がないですし、簡単に達成できそうなものであっても目標になりません。達成可能な目標の立て方として注目を集めているのが、SMARTの法則と呼ばれる...
②計画通りに実行する
2つ目、計画通りに実行すること。目標やアクションプランを設定したら、必ず計画通りに実行しましょう。計画通りに実行しなければ、その計画が良かったのか悪かったのかという検証が不可能になってしまうからです。
- あとあと、評価や分析がしやすいように活動記録を残す
- 計画通りにいかなかった場合には、その状況や課題が分かるように記録しておく
- 結果の良し悪しを客観的に分析し、なぜそのような結果が導き出されたのかを振り返る
これらの行動を含めて、Do(実行)の中身を構築することが、PDCAを効果的に回す鍵になるのです。
③無理のない計画にする
3つ目は、無理のない計画にすること。これは、PDCAにおけるすべての過程でいえることでしょう。
- 曖昧な計画を立てれば、実行すべき内容も不明確になってしまう
- 根本的な原因を見つけても、実行性の高い改善案に反映できなければ無駄に終わってしまう
ということになります。
回避するには、無理のない計画を立てることが重要でしょう。背伸びをせず、自分のできる範囲でPDCAを考えてください。自分の業務量との兼ね合いを考えることも、PDCAを循環させるうえで大切です。
④定期的に評価・確認する
最後は、定期的に評価・確認すること。一般的にPDCAは、通常業務にプラスして導入されることが多いため日々の業務に追われて、長期目線の目標を後回しに考えてしまうことが多いでしょう。
目先の業務で手いっぱいになれば、PDCAの循環スピードは落ちます。しかし、PDCAを効果的に活用するには、定期的な確認や分析といったPDCAのメンテナンスが欠かせません。
毎週金曜日にPDCAを評価・確認する時間を設定するなどPlan(計画)に対する進捗の確認や現状の分析、次の改善策の提案を定期的に行うことで、PDCAの好循環を維持できます。
6.PDCAによる改善の具体的事例
PDCAを導入する企業の中でも、PDCAによる改善効果が具体的に進んでいる2社の事例を説明しましょう。
- トヨタ
- ソフトバンク
①トヨタ
トヨタ自動車の事業運営は、
- 現状把握の上での実行計画立案
- 高い精度での実施
- 成果の検証
- 改善
というまさにPDCAサイクルを活用したものとなっており、この基本に沿って、トヨタはPDCAを回していきます。
トヨタにおけるPDCAの流れ
まず、「PLAN」(計画)として「トヨタ生産方式」を採用。「ムリ・ムダ・ムラ」を排除して生産効率を高め、最短時間で車を製造するシステムを構築しました。
次に、「DO」(行動)では、
- 必要なときに、必要な量だけ、停滞なく生産する「ジャストインタイム」体制の導入
- 異常発生時に不良品を連続して造らないように機械が自動停止する「自働化」の採用
などを現場の隅々まで徹底して実行に移しました。
そして「CHECK」(検証)では、不良品が発生したり問題の兆候が見えたりした時点で停止。支援を要請する権限を持つ現場の作業員と管理者とが一緒に問題の「検証」を実施します。
最後、「ACTION」(改善)として、
- 技術者、管理者、ライン労働者が協力した「改善提案」の実施
- できることはすぐに取り入れるという企業文化の醸成
- コールセンターを中核都市、24時間365日対応のカスタマーサポート
- 故障したときのきめ細かな修理サービス
といったサポートにも力を注ぎました。こうしてトヨタは抜本的な組織・人事改革を進めることにも成功し、グローバル企業としての確固たる地位を築いたのです。
②ソフトバンク
ソフトバンクは、「高速PDCA」の考え方を取り入れ、30数年で8兆円を売り上げる企業となりました。ソフトバンクのPDCAは、独自の視点をプラスして進化したものになっています。
独自の視点とは、
- PDCAをやったという雰囲気で終わらせない
- スピードと精度の高いPDCA
の2点。実効性が高く細やかでスピーディーなPDCAは、企業を大きく成長させました。
ソフトバンクにおけるPDCAの流れ
まず目標設定に関して、
- 大目標を立て、ブレイクダウンして小さい目標を立てる
- 小さい目標を、日・週・月単位でチェックする体制をつくる
という方針を定めます。
実行プランに関しては、比較検討の効果を高めるために、複数の商品を一気に試すなど、比較検討の趣旨を見事に反映したアクションプランの実行を試みます。
検証では、
- 毎日の検証が基本
- 個人目標も1日単位で検証
- うまくいった点、いかなかった点を洗い出し、翌日からの素早い改善につなげる
といったスピードを全面的に打ち出します。改善行動では、最も効果のあった方法を採用し、さらにその方法をブラッシュアップさせるなど、最善策をさらに改良する意欲的な展開を進めました。
これは、一日一日を勝負の日としてPDCAを細かく回し、PDCAの要素に具体的で合理的な検証や改善につなげるスピードをプラスして、企業を大きく成長させていった成功事例といえます。
7.PDCAに代わる概念OODAループとは?
PDCAに代わる概念として、OODAループが注目されています。OODAループとは何でしょうか。PDCAとの違いとともに見ていきます。
OODA(ウーダ)ループとは? 具体例やPDCAとの違いを簡単に
OODAループとは、迅速な意思決定・行動を行うためのフレームワークです。「Observe(観察)」「Orient(状況判断)」「Decide(意思決定)」「Act(実行)」4つから構成され、目標や課題...
OODAループとは?
OODA(ウーダ)は、
- 見る(Observe)
- 分かる(Orient)
- 決める(Decide)
- 動く(Act)
の頭文字を取った言葉で、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐が提唱しました。
OODA(ウーダ)の大きな特徴は、
- 一度きりの実行ではなく、ループしながら調整機能を働かせ、何度も素早く繰り返す
- 何度も素早く繰り返す中で、相手を圧倒し、自分にとって優位な立場を獲得する
①Observe(観察=見る)
とにかく相手を観察することです。自らが立案した計画に固執せず、相手を観察することで相手の出方を窺います。意思決定者である自分が観察を行うことで、外部状況に関する「生きたデータ」の収集を可能とするのです。
②Observe・Orient(状況判断、方向付け=分かる)
「今、現実に何が起きているのか」という現状把握、理解に意識を集中し、集めたデータの意味するものに深く思考をめぐらせます。そして、データの本質を理解し、それによって状況判断を行うのです。
Observeのステップで収集した「生きたデータ」を、価値判断の材料として価値のある情報に変換していきます。
③Observe・Decide(意思決定=決める)
価値判断の材料である情報をもとに意思決定を行うのです。本質を理解した現状や状況に対しての具体的な実行計画を決定します。
④Observe・Act(実行=動く)
最後は実行で、。前のステップで決定した計画を実行に移します。そして、またObserve(観察)段階へ戻り、OODAのループを繰り返します。
PDCAとOODAの違い
PDCAは、最初に立案した目標やアクションプランがスタート地点になります。それらは、数値的な指標を用いたり定量化できる基準を活用したりしているため、非常に具体的といえるでしょう。
一方、OODAは、観察と状況判断が最も重要視されます。OODAの提唱者はアメリカ空軍の大佐。自分の置かれている状況を瞬時に判断しなければ命を落とすことにもなりかねない、そんな緊迫した戦場から生まれた機動性重視のメソッドといえるのです。
- PDCA:プロセスを重視、数値的な裏付けや指標をもとに目の前の課題や中長期的な視点から企業を成功に導くメソッド
- OODA:現場適合性を重視、迅速な周囲の観察や迅速な判断、実行が常に求められる市場の動向や顧客ニーズに適合した対応ができる