PERとは企業の成長性を分析する指標のひとつです。ここではPERの種類や目安、PERを読み解く際の注意点などについて解説します。
目次
1.PER(株価収益率)とは?
PERとは(Price Earnings Ratio)とは、1株当たりの純利益に対して、株価が何倍になっているかを表す指標です。株価が企業の利益と比べて割高か割安かを判断するために用いられます。一般的にPERの数字が大きいほど割高、小さいほど割安であると考えられます。
計算式は「PER=株価÷EPS(一株あたりの純利益)」です。ここでいうEPS(一株あたりの純利益)には、一般的に当期の予想数値が用いられます。また株価には将来に期待する収益拡大が盛り込まれるため、利益成長の高い企業ほどPERは高くなる傾向にあります。
2.PERの意味
PERからは何が読み取れるのでしょう。ここではPERの種類とそこから読み取れる具体的な内容について説明します。
PERの種類
PERには下記2種類があります。
- 金額といった単純な平均値をベースにした指数ベース
- それぞれのウエイトを加味した平均値をベースにした加重平均
①金額といった単純な平均値をベースにした指数ベース
指数ベースの計算式は「日経平均株価÷日経平均EPS(一株あたりの当期純利益)」。ここでいう日経平均EPSは、「Σ(予想1株利益×50÷みなし額面)÷除数」の計算式で求めた数値です。
加重平均は時価総額の大きい銘柄の影響力が強いのに対して、指数ベースは日経平均株価に影響を与える銘柄の影響力が強いという特徴を持ちます。
②それぞれのウエイトを加味した平均値をベースにした加重平均
加重平均とは、日経平均株価の算出に使う225銘柄の時価総額を合計して、それぞれの利益を合計した数値で割るという考え方のこと。加重平均の計算式は、「時価総額合計÷予想利益合計」です。
日本経済新聞朝刊には「加重平均」が掲載されているものの、実態に即しているのは「指数ベース」だとする見方もあります。
PERから読み取れること
PERでは一株あたりの利益に何倍の株価がついているか計算します。同時に投資した金額が何年くらいで回収できるか、調べるのも可能です。
一株あたりの当期純利益が1万円の企業を例に見てみましょう。この企業の株価が15万円の場合、PERは株価15万円÷一株あたりの当期純利益1万円の式になり、10年で回収できるとなります。
ただしここでは投資時点における当期純利益を用いているので注意が必要です。向こう15年間、まったく同じ当期純利益で推移することはありえないため、あくまで目安に留めておく必要があります。
PERと株価の関係性
PERが高ければ、その銘柄は高い評価を受けています。たとえばEPSが500円のA社とB社があったとしましょう。A社のPERが10倍だった場合、株価は500円(EPS)×10倍(PER)=5,000円になるのです。
一方、B社はPERが20倍でした。B社の株価は500円(EPS)×20倍(PER)=10,000円となり、PERの高い銘柄は株価も高くなるとわかります。
3.PERの目安
上場企業の場合、一般的なPERは15倍といわれています。理論上、PERが15倍より高ければ株価は割高に、15倍より低ければ株価は割安になるもの。
ただしPERは業種によって大きく変動します。また優良株か急成長株かによっても変わるため、PERが15倍より低いからといって一概に割安だといえません。また中小企業は未上場株で流動性がないため、PERの平均値も低くなる傾向にあります。
PERの市場別・規模別・業種別平均
PERの平均値は業種だけでなく企業規模や取引市場によっても異なります。株式会社東京証券取引所の情報サービス部が公開している、市場別・規模別・業種別の平均値について説明しましょう(2021年12月時)。
PERの市場別平均
PERの市場別平均は以下のとおりです。
- 市場第一部:25.0倍
- 市場第二部:42.4倍
- マザーズ:105.8倍
- ジャスダック:25.3倍
いずれの市場も上位を占めるのはサービス業や情報通信、精密機械などです。
PERの規模別平均
PER平均値を規模別にみると、規模の大きいものから次のようになります。
- 総合(市場一部):21.9倍(会社数2,165)
- 総合(ジャスダック):32.7倍(会社数688)
- 総合(金融業を除く)(ジャスダック):32.8倍(会社数671倍)
反対に規模の小さいものだと「倉庫運輸関連」の28.8倍、「保険業」の17.7倍などが並んでいます。
高PERの業種別平均ランキング
加重PERの高い業種を順にみると、次のようになります。
- サービス業(マザーズ):336.6倍
- 情報通信(マザーズ):197.0倍
- 電気機器(マザーズ):188.8倍
- 総合(非製造業)(マザーズ):185.8倍
- 輸送用機器(市場二部):181.7倍
いっぽう、加重PERの低い業種は以下のとおりです。
- 電気、ガス(市場二部):8.2倍
- 電気、ガス(市場一部):9.1倍
- 海運業(市場一部):9.7倍
- 石油石炭製品(市場一部):10.3倍
- 銀行業(市場一部):10.3倍
このように業種によってかなりの違いがあるとわかります。
高PERになる業種の特徴
サービス業や通信、電気機器など、PERが高くなる業種にはどのような特徴があるのでしょう。ここではPERの高い業種に見られる「ディフェンシブ銘柄」について説明します。
ディフェンシブ銘柄
日常生活に欠かせない事業を手がける銘柄のこと。
情報や通信、食料品などは景気が悪くなっても利益が落ち込みにくく、リスクが低いです。景気動向に左右されにくく、守りに強いためその名が付けられました。「ディフェンシブストック」と呼ばれる場合もあるのです。
ディフェンシブ銘柄とは対照的に景気による影響が大きい銘柄を「景気過敏銘柄」といいます。化学や鉄鋼といった素材産業や運輸産業などが代表的な業種です。
4.PERを読み解く際の注意点
「PERは低ければ低いほど割安だから買いどき」と判断するのは危険です。ここではPERを読み解く際の注意点について説明します。
- 不況時におけるPERの考え方
- 高PERでも、将来予想はできない
- PERがマイナスになる場合も
- 過去のPERと現在のPERとを比較する
- もともとPERが低めにでる業種もある
- 新興企業のPERは高めに出る場合も
①不況時におけるPERの考え方
不況時は株価が下落し、さらに利益が大幅に落ち込むためPERは異常に高くなります。思わず「PERが高くて割高なら売るべきだ」と考えたくなるでしょう。しかし景気は必ず循環し、待てば利益が戻ると期待できるため、焦りは禁物です。
不況時こそ今期の利益でPERを計算するのではなく、過去の利益平均を見ながら計算しましょう。今利益が減っているのは不況のせいなのか、もしくは企業の稼ぐ力が落ちてきているのか、見極める必要があります。
②高PERでも、将来予想はできない
PERの計算式は「株価÷EPS(一株あたりの純利益)」です。前述のとおり、EPSには当期の予想数値を用います。つまりこの数式では「当期の純利益と同じ利益水準がこの先も続く」という仮定で計算しており、将来の業績が反映されていないため注意しましょう。
企業の将来株価を考える際は当然、数年先の利益を見て判断しなければなりません。PERの計算式を「株価=EPS(一株あたりの純利益)×PER」に置き換えて、企業の利益成長を反映させた数値を見るのが重要です。
③PERがマイナスになる場合も
当期純利益が赤字になれば「PER=株価÷EPS(一株あたりの純利益)」の式にマイナスの数字がくわわるため、PERもマイナスになります。
発行済株式枚数が1万株で株価が10万円、当期純利益が1億円の赤字である銘柄を例に計算してみましょう。この場合のPERは10万円÷(-1億円÷1万株)の計算式によって-10となります。
しかしPERがマイナスの銘柄は必ずしも避けたほうがよいかというと、そうともいえません。
たとえば経常利益が黒字でマイナスになった場合、損失の影響が短期的なものであれば経常利益そのものは黒字です。株価の下落によってはかえって割安となる可能性もあります。
低すぎるPER企業は注意が必要
ただしPERが極端に低い企業には注意したほうがよいといえます。たとえばPERが5倍以下で放置されている銘柄は「株価が上がる見込みがない」と評価されている状態です。
これは一般的に業績に何らかの不安があって低いPERで放置されている、リスクの高い銘柄と判断できます。
PERが低い=業績に比べて安い株価で放置されているわけです。当然、購入後に株価が上昇しなければ意味はありません。安易に「PERが低いから割安、買いどき」と判断せず、業種別の利益成長率やさまざまなリスクを考えたうえでの判断が重要です。
④過去のPERと現在のPERとを比較する
その時点のPERひとつを見て、株価が割高か割安かは判断できません。場合によっては単年で突然PERが大幅に増加(減少)する場合もあり、これに必ずしも企業の実態があらわれているとはいえないからです。
PERを見る際は複数年のデータを並べてその推移を見ていきましょう。過去のPERが高く今のPERが低い場合、成長株であると考えられます。しかし反対に過去のPERが低く今のPERが高い場合、事業がうまくいっていない可能性も高いです。
⑤もともとPERが低めにでる業種もある
先に述べたとおり、PERの平均値は業種や市場、規模によって異なります。
「PERが10倍で格安だったからある銘柄を買ってみた。しかしリスクの大きい業界だったため業績が悪化して一株あたりの純利益(EPS)が半分に。結果としてPERは20倍の割高水準になってしまった」という話も決してめずらしくありません。
PERの計算に使うEPSはあくまでも直近の予想数字。もしも期の途中に下方修正が入れば途端に割高になります。なぜその銘柄のPERが低いのか、その理由を業界全体から読み解かなくてはなりません。
景気過敏銘柄
景気による影響が大きい銘柄のこと。前述した「ディフェンシブ銘柄」と反対の意味を持ちます。設備投資関連をはじめ、鉄鋼および化学、紙パルプなどの素材産業、不動産や証券などが景気過敏銘柄の代表的な業界です。
これらは好況時には多くの素材や設備が必要になり株価も上昇しますが、不況時には需要が低迷し、業績も悪化します。「景気循環株」あるいは「シクリカル株」と呼ばれる場合もあるのです。
⑥新興企業のPERは高めに出る場合も
PERの高低は会社の成長フェーズによって異なるのです。成立から間もなく経営基盤や規模の小さい新興企業のPERは、高めに出る傾向にあります。成立から間もない企業は借り入れが多くなり、負債比率が高くなるためです。
長期借入金などが大きくなるのに応じて純資産比率は低くなり、その結果PERは高くなります。ここからもPERが高い=株価が割高とは言い切れないとわかるでしょう。PERだけでなく、後述するPBRやROEなど複数の指標を見るのが重要です。
5.PER以外の類似指標
企業の成長性を示す指標はPERだけではありません。ここでは「PBR」と「ROE」の意味、またPERとの違いについて説明します。
PBRとは?
会社の準資産にたいして株価が適切な水準であるかを判断する指標のこと。Price Book-valueRatioの頭文字を取った略語で、日本語では「株価純資産倍率」となります。計算式は「株価÷BPS(一株あたりの純資産)」です。
かつて「PBR=1倍(株価と資産価値が同じ)」が株価底値のひとつの目安でしたが近年、長い間1倍を下回ったままの銘柄も多くなってきました。
PERとPBRとの違い
PERとPBRはどちらも株価の妥当性を表す指標です。一般的にどちらも数値が大きければ株価は割高に、数値が小さければ株価は割安になります。
PERとPBRはよく似ているため混同されがちです。しかしPERでは「純利益」を、PBRでは「純資産」を基準としている点が異なります。
純資産とは貸借対照表(B/S)の「資本金」、「資本剰余金」、「利益剰余金」のこと。これらをベースにして「株価に対してどれくらいの資産を持っているか」を判断する指標がPBRです。
一方PERは、企業の出す利益に対して株価の算定価格が割高なのか割安なのかを測ります。
ROEとは?
「当期純利益÷自己資本」の計算式にて、資本に対して企業がどれだけの利益を生み出しているかを測る指標のこと。Return onEquityの略で、日本語に訳すと「自己資本利益率」あるいは「株主資本利益率」となります。
数値が高いほど経営効率がよく、効率的に資本を使って利益を生み出せたと判断できるのです。反対にROEの低い会社は経営効率の悪い会社と判断され、投資家からのお金が集まりにくくなります。一般的にROEが10%を上回ると優良な企業と評価されるのです。
PER、PBR、ROEからわかること
PERとPBR、そしてROEの関係は「PER=PBR÷ROE」で表せます。この数式は「PBR=ROE×PER」とも置き換えられるのです。つまりROEが高くなればPERは低くなり、株価の上昇が期待できるといえます。
ただし株価とROEに直接的な関係はありません。ROEが10%の銘柄は1,000円なら割安だが2,000円なら割高、という使い方はできません。単純にROEの数値だけに注目して銘柄を選ぶのではなく、業績や財務面の安全性も考慮した総合的な判断が重要です。