人事評価でAIは活用できるのか? メリット、デメリット、事例

AIはあらゆる業種業界で活用されています。人事領域でも採用や勤怠管理などの領域で導入されており、2020年5月にはソフトバンク株式会社が、新卒採用の動画面接にAIを導入すると発表し話題になりました。ただしAI導入にはメリットだけでなくデメリットもあります。

この記事では人事評価におけるAI活用の最新事例や、メリット、デメリット、導入するうえでの注意点などをくわしく解説していきます。

1.人事評価で注目されるAI

2020年1月に防衛省がAIシステムを人事評価や異動に導入すると発表しました。2020年度予算に約2億7,000万円を計上し、向こう2年で開発をするとのこと。ただしいきなりすべての自衛官を対象にするのではなく、約4万人の幹部に絞るとしています。

2010年以降、機械学習とディープラーニングと呼ばれる手法が確立されてから、さまざまな産業でAIの活用が進みました。人事領域も例外ではなく、すでにAIは採用や問い合わせ対応などの業務で導入されています。

では人事評価業務はというと、国内で実際に導入されているケースはまだ少ないです。一方、海外では導入が進み成果を出している事例も評価の業務負荷やこれからの人事のあり方を考えると、今後は国内でも導入する企業が増えていくと予想されます。

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2.人事評価にAIを導入するメリット

人事評価にAIを導入するメリットは複数あります。いくつかご紹介します。

①業務負荷の軽減

AIを導入することで、評価業務の負荷軽減ができます。評価シートの配布や記入、回収や催促といった一連の業務は負担が大きく、効率化したいというニーズが強いでしょう。評価項目や制度が複数あったり、チームによって違ったりする場合はさらに業務負荷が高まります。

IBM社やマイクロソフト社のように、AIを導入することでそのプロセスを大きく効率化でき、空いた時間を他の戦略的業務に費やせます

②公平かつ迅速な意思決定

Iが評価業務を支援することで、評価の透明性や公平性が増し、意思決定のスピードも速くなります。複数の評価軸をもとに適切な意思決定をするには、評価シート以外にも複数のデータを参照するなど一定の時間が必要。AIによって分析にかける時間を短縮し、アジャイル(迅速)な意思決定ができます。

③評価項目の多角化

テンシー評価など、新しい仕組みを導入する際に人的リソースがネックになって、踏み切れないケースは少なくありません。

AIの強みは高い処理能力です。項目軸が増えたところで、処理にかかる時間はほとんど変わりません。複数の評価軸を設定すれば、より適切に従業員の能力やパフォーマンスを評価できます。

④未活用人材の発掘

は対象者のほんの一側面にすぎません。十分な機会を与えられないまま、離職に至るケースもあるでしょう。AIを評価に活用できれば、人間では見過ごしていた新たな可能性を見つけやすくなります。

⑤エンゲージメント向上

業務は評価する側もされる側にとっても負荷が重たいもの。AIで効率化すれば、評価業務に対するネガティブなイメージも払拭できます。また浮いた時間を1on1などのコミュニケーションに時間を費やせば、エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。

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3.人事評価にAIを導入するデメリット

AIの導入はメリットばかりではありません。AIならではのデメリットもあります。実際に起こった事例も交え解説します。

①ブラックボックス化すると従業員の理解を得にくい

AIの評価基準や評価理由をしっかり説明できず「ブラックボックス化」してしまうと、いかに公正な判断だったとしても従業員の理解は得にくいでしょう。評価に対する納得感は損なわれ、エンゲージメントの低下や評価制度そのものに対する不満につながります。

②評価者がAIに依存する

評価者が自分の頭で考えず、AIの判断に依存してしまうことも考えられます。複雑な要素を分析し、評価結果をレコメンドしてくれるAIですが、あくまで意思決定の支援ツールにすぎませんAIを過大評価し、従業員とのコミュニケーションを軽んじてしまっては本末転倒でしょう。

③社内から反発される可能性がある

AIの導入を必ずしも全員が歓迎するとは限りません。中には導入によって不利益を被ったと反発するケースも。2020年4月に起こった日本IBM社の事例をご紹介します。

日本IBM社の事例

2020年4月3日、日本IBMの労働組合である「JMITU日本アイビーエム支部」は、Watsonを利用した人事評価がラックボックス化し透明性に欠けていると、その判断基準に関する情報開示を求めました。

同社は組合側の要求を拒否しており、現在(2020年6月15日執筆時点)も動きはありません。組合側は団体交渉に応じないのは違法だとして、東京都労働委員会に申し立てをしています。もちろん、この例だけで同社の取り組みが失敗したと断じるのは早計でしょう。いずれにしても今後の動向に注目です。

④AIの評価に不適切なバイアスが生まれる危険性

AIの学習が意図しない方面に進んでしまい、差別的なバイアスが生まれた事例も。米国Amazon社の事例をご紹介します。

米国Amazon社の事例

2018年10月、米国のAmazon社は、以前から積極的に推進してきたAIによる人材採用システムの運用を停止しました。理由はシステム内に女性を差別する類いの欠陥が発覚したからです。

このシステムは過去の履歴書データをもとに、応募者を5点満点でランクづけするというもの。過去10年において特定の職種では男性からの応募がほとんどだったため、AIは男性を採用した方が好ましいと判断してしまったのです。

実際に、ある女子大の卒業生は女性というだけで評価を落とされました。

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4.人事評価でのAI活用事例

日本国内で評価業務にAIを採用している事例はまだ少ないのですが、海外では導入が進んでいます。いくつかご紹介します。

①約37万人の評価業務をAIが支援|IBM

らは自社の人事領域にフル活用しています。文字通り評価業務だけでなく、人材採用や人材開発、エンゲージメントなどあらゆる分野です。

従業員の報酬を決める際に、AIはマネージャーにアドバイスをします。その際にAIが分析する指標は、従業員の成果だけでなくスキルの市場価値や需要など実に多様人間がいくつもの要素を分析し、評価をするには膨大な時間を必要としますが、AIならば瞬時に算出できます。

IBM社におけるAIの位置づけはあくまでも補助的なもの。AIはマネージャーに意見を述べますが、マネージャーはその意見に対し「上書き」が可能AIはその内容をまた学習します。

②約9万人の評価を3ヶ月から15日に短縮|Vodafone

25か国で約9万人が働くボーダフォン社は、販売員の給与や賞与、手当などの決定プロセスにAIを導入しました。競争が激しいモバイル業界で、自社の戦略を即座に現場へ反映し市場シェアを維持するために、複数のシステムを使って決めていた報酬決定プロセスをAIへ一元化したのです。

結果的に、給与決定のプロセスが3ヶ月から15日まで短縮評価に対する透明性や公平性が増し、従業員の個々の目標とパフォーマンスが明確に紐づけられるようになりました。

③AI活用で年間約4,900万ドルの削減効果|Microsoft

マイクロソフト社は約3万人にもおよぶ販売員の報酬管理を、旧式のプラットフォームからAIへ移行しました。同社は世界190か国以上で事業を展開し、年間収益は約1,100億ドル(約12兆円)。13万人以上の従業員が働き、人事チームは世界約3万人にのぼる販売員のインセンティブについて、戦略設計から実装まで行っています。

変化が激しいクラウドビジネスへと戦略転換した同社にとって、セールスチームの活動に直結する報酬システムは、「アジャイル(常に改善している状態)」であることが求められました。AIへ移行することで、セールスチームの時間が節約され、報酬に対する信頼感も向上。報酬管理業務も効率化され、不正な支払いが削減された結果、年間約4,900万ドル(約52億円)の節約になりました。

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5.日本での人事評価へのAI導入は進みにくい?

メリットもデメリットもある評価業務へのAI導入。日本では欧米ほど導入は進んでいませんが、これから拡大していくのでしょうか? 考察しました。

日本でAI導入が進まない3つの理由

日本と欧米では歴史的背景や文化も違います。ことはそう簡単には運ばないかもしれません。その理由を3つ解説します。

(1)欧米よりも安定志向な国民性

浸透してきました。それでも終身雇用や年功序列型といった雇用形態は日本の根底に残っています。ベースアップや定期昇給といった考え方も海外ではあまり見かけません。ダイナミックな賃金変動に抵抗感をもつ人も多いのが実情でしょう。

AIが公平性という観点から、給与を下げるという判断を下す可能性もあります。そうなったときに従業員は納得できるでしょうか? もしも評価の基準や理由をマネージャーがきちんと説明できなければ評価はブラックボックス化し、不満を招く結果になるでしょう。

日本は経済成長も鈍化しており、安定志向を後押ししています。IBM社の労働組合が反発したように、諸手をあげて喜ぶという状況ではなさそうです。

(2)きちんと整理されていない評価データ

AIはデータを学習することで分析の精度を高めます。もとになるデータがそもそも整備されていなければ、AIの導入は難しいでしょう。日本は欧米ほどデジタル化が進んでいません。評価業務も紙やExcelで行い、データの書式や保存場所もバラバラというのが現状。AI導入の前に、まずはデータの整備をする必要があります。

(3)旧式のプラットフォームの存在

の例であるように、マイクロソフト社でさえ15年前のシステムを使っていました。こうした古いシステムは「技術的負債」として重くのしかかっています

技術的負債とは、端的にいうと短期的な視点で仕組みを構築することによって、後から生み出される余計な工数や費用のこと。独自のシステムを抜本的に見なおすことなく、その場しのぎの対応を続けることで、技術的負債は膨らんでしまいます。中には開発担当者が退職し、運用すらままならないというケースも。

旧式プラットフォームへ新たにAI機能を追加するのは技術的にもコスト的にも難しいのが現実。新たに刷新するには、蓄積した膨大なデータの整理や移行の手間がかかります。

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6.人事評価でAI導入を進めるために留意すべきこと

人の価値観が多様化し、流動性が増す現在、人事部門は変革を求められています。生産性を向上させ、より戦略的かつ迅速に業務を推進しなければなりません。AIは変革のための強力なエンジンになり得ますが、上手に付き合う必要があります

①手段と目的をはき違えない

AI導入の目的と手段をはき違えないようにしましょう。評価業務の効率化やエンゲージメントの向上といった、本来の目的を忘れて、AI導入だけが一人歩きするとプロジェクトは失敗します。あくまでAI導入は手段のひとつ。Amazon社のように、ときには「やめる」決断も大切です。

②意思決定は人間が行う

す。IBM社のWatsonも評価を決定するのではなく、決めるのはマネージャー。AIによる評価を過信せず、自分の目や耳で聞いたことと照らし合わせて、その評価はほんとうに正しいのかという疑問を常にもつようにしましょう。

従業員がほんとうに求めているのは、AIの評価ではありません。上司や同僚からの期待や賛辞です。AIがこういったからではなく、自分がどう評価したかを必ず伝えるようにしましょう。

③従業員への説明をしっかりと行う

導入に際しては従業員への説明を丁寧に行いましょう。AIがどんな要素をどのような基準で判断するのか可能な限り明確にし、彼らにどんなメリットがあるのかを伝える必要があります。こうした説明を省いて一方的にシステムを導入すれば、従業員の不満や反発を招きかねません

評価制度で大切なのは公平性よりも「納得感」です。オリエンテーションや勉強会などで徐々に理解を深めたり、マネージャーなど現場のメンバーを巻き込んだりするのも有効です。

④まずはスモールスタートからはじめる

いきなり全社導入するのではなく、役職者限定などスモールスタートからはじめてみましょう。先に述べたマイクロソフト社やボーダフォン社も販売員に限定していますし、防衛省も対象者を幹部だけに絞っています。評価制度は従業員のエンゲージメントに大きな影響を与える仕組み。十分なトライアル期間を設けたうえで、進めるようにしましょう。

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7.人事評価以外のHRテック領域でも活用されるAI

AIは評価業務以外のHRテック領域でも活躍しています。とくに進んでいるのは採用でのエントリーシートチェックですが、RPAと組み合わせて給与システムへの入力を効率化するというものも。主な活用事例を5つご紹介します。

①採用や選考

採用や選考の場ではAIの活用が進んでいます。具体的には、履歴書や職務経歴書の内容をAIが読み取り評価、チャットボットが自動で採用スケジュールを調整するといった具合です。顔認識や音声認識のテクノロジーを使いAIが面接をするケースも。

国内で活用が進んでいるのはソフトバンク株式会社です。2020年5月には新卒採用における動画選考で、AIを導入すると発表しました。もともと同社はIBM社のWatsonを活用し、エントリーシート選考にかける時間を75%削減しています。今回のAI導入によって、動画選考にかける時間を70%削減することが狙いだとか。

参考 新卒採用選考における動画面接の評価にAIシステムを導入ソフトバンク株式会社

②エンゲージメント管理

パルスサーベイをはじめとする従業員に関するデータを、AIが分析することによりエンゲージメント管理に役立てるケースも。行動を分析することで、モチベーションの低下や離職リスクなどを事前に察知し、アクションを起こせます。

ユニークで先進的な例をひとつご紹介します。オムロン株式会社では1on1の振り返りにマイクロソフト社と共同で独自のAIシステムを開発もともと1on1に興味があり、実戦したもののうまく機能しなかったという同社。発話比率と表情をベースにした「感情シンクロ」という指標で、1on1の改善に着手しています。

参考 1on1 ミーティングを AI でデータ化して分析。上司部下のコミュニケーションを改善し,より良いチーム作りに貢献する日本マイクロソフト

③タレントマネジメント

に活用するケースもあります。株式会社セプテーニ・ホールディングスでは、採用にAIを導入。学生の考え方や経験などのアンケート調査と、選考結果など約100項目をAIで分析し、「活躍可能性」を算出しています。

同社では10年以上前から人事評価データを蓄積しており、データにもとづく「活躍可能性」の的中率は8割にのぼります。

アサヒグループホールディングス株式会社では社員の異動や退職などのデータをRPAが自動入力しています。同社の人事部門に各グループから寄せられる人事データは年間36,000件。今まではすべて人手で行っていた作業を自動化することで、1,300時間もの削減につなげています。

参考 社内の人事労務管理業務にAI・RPAを導入し、業務品質を向上、業務効率化・働き方改革を推進!アサヒグループホールディングス株式会社

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④問い合わせ管理

チャットボットが人事労務に関する社員の質問に答えてくれるサービスもあります。各種申請の出し方や、記入方法など人事部門に届くたくさんの問い合わせ。これらを自動化することで、人事担当者は他の業務に集中できます。

三菱ケミカル株式会社は人事部門にチャットボットを採り入れ、従業員からの問い合わせ回答を自動化しています。結果として、人事部門と問い合わせをする従業員双方の負担軽減につながりました。

参考 チャットボットによる社内問い合わせ、成功・失敗事例を紹介しますAISmiley

人事評価 aiのQ&A

人事領域ではAIの活用が広がりをみせています。人事評価業務に関するAI導入も推進されており、2020年1月には防衛省がAIシステムを人事評価や異動に取り入れることを発表しました。 実際にAIを人事評価に導入した国内企業の事例はまだ少ないものの、すでに海外企業では成功事例も多く見受けられます。
たとえばIBMでは、約37万人の従業員の人事評価をAIが支援しています。従業員の評価や報酬額を決定する際、AIからマネージャーに対しアドバイスが送られる仕組みです。 AIが分析する指標は、人材の成果のみならず、スキルの市場価値や需要など、実に多様です。それらを瞬時に算出することで、評価業務の効率化を実現しています。
人事評価にAIを導入すると、たいていの場合、AIが評価結果をレコメンドしてくれるようになります。しかし、AIはあくまでも意思決定の支援ツールにすぎません。AIを過大評価し、従業員とのコミュニケーションを軽んじてしまうリスクもあります。 またAIの導入により、評価基準や評価理由のブラックボックス化が懸念されます。AIによる公正な判断だとしても、従業員の理解を得にくいケースもあらわれるでしょう。