ピーターの法則とは、「階層組織における昇進」に着眼して導き出した社会学の法則の一つです。
- ピーターの法則の概要
- 法則通りになった場合の解決方法
- 個人ができる対応策
などについて詳しく解説しましょう。
目次
1.ピーターの法則とは? 簡単に説明すると・・・
ピーターの法則とは「能力主義の階層組織の中において、人は自らの能力の極限まで出世する。しかし、能力を有する人材は、昇進することで能力を無能化していく。そして、いずれ組織全体が無能な人材集団と化してしまう」という衝撃的な内容のこと。
会社など組織を構成するメンバーの労働に関する社会学の法則の一つです。ピーターの法則通りだとすれば、私たちはそれについての対策を講じる必要があるでしょう。
2.ピーターの法則と階層社会学の概要
ピーターの法則は、南カルフォルニア大学教授で教育学者でもあったローレンス・J・ピーターと、レイモンド・ハルの共著である『ピーターの法則〈創造的〉無能のすすめ』の中で提唱されたものです。著書には、
- 人は自己能力の限界まで出世する
- 無能な人はそのポジションに留まり、有能な人は限界まで出世するがそのポジションで無能化する
- 組織の中では、まだ限界に達していない人たちによって進められ、機能していく
といった内容が記されています。
創造的無能とは?
ビジネスでは、ピーターの法則を逆手に取って、昇進を固辞し、現在の職位にとどまることを選択するメンバーもいるでしょう。
昇進を断り現職にとどまれば、いつまでも創造的に活躍を続けられます。しかし、そのままでいるには、自らを「無能」と取り繕う必要があるのです。このようなケースは「創造的無能」と呼ばれています。
3.有能な人材が無能化するメカニズムと条件
ピーターの法則をそのままビジネスの世界に適用した場合、階層組織を構成するメンバーは職務上最高の地位に達した後、さらに昇進することで無能化するのです。それは、
- 昇進後の地位がそのメンバーにとって「不適当」と判断される地位
- これ以上の昇進は望めない
ことを意味します。同時に、現在の業績を基準にしてピーターの法則を使うことで、メンバー一人ひとりが今後昇進できるかどうかの判断材料となることも意味しているのです。
4.組織内でピーターの法則が成立する理由・背景
具体的には、企業においてどのように無能な社員が発生するのでしょうか。組織の仕組みに焦点を当て、その理由を解説します。
①昇進・昇格制度における問題
外資系の企業など成果主義を厳格に導入している場合を除くと、人事制度上、昇進の目安はあっても、降格の具体的な要件が定められている企業はなかなか少ないのではないでしょうか。そのようなケースでは、人材は一度昇格してしまえば、降格は起こりにくいため、ピーターの法則が適用されやすくなります。
組織に無能な管理職が発生する理由
企業では階層ごとに評価され、昇進していきます。現在ついている地位において有能と評価された人材は、次の階層に昇進されます。昇進後の地位において必要な職務遂行能力がなかった場合には、人材はそれ以上昇格することなく、無能化し、その地位を維持することになります。
そうして無能な管理職が各地位を占めるようになり、組織全体がだんだんと無能化していくのです。
②人事評価制度における問題
人材を適切に評価するのは、どの業界・業種においても難しいものです。とくに数値等による客観的な評価をしにくい場面では、管理職の主観によって評価が行われることが常でしょう。
無能な管理職によって人材の評価が行われる場合、正しく有能さが評価されるとは限りません。主観的な評価では、上司と部下の個人的な関係などが影響し、バイアスのかかった状態で評価が行われてしまうことも珍しくありません。
間違った評価が無能な社員を増やす仕組み
上記のような状況下では、部下は業績を上げることよりも、上司の意に則して行動するなど、組織内で器用に立ち振る舞うことに注力するようになりがちです。無能な管理職の存在が、さらに無能な社員を増やす結果となり得ると言えるでしょう。
5.ピーターの法則を回避するための解決方法
ピーターの法則通りに階層組織のメンバーが動いたら、組織は無能化します。それを回避する解決方法には何があるのでしょう。3つの解決方法を解説します。
- 昇進させず、昇給
- 昇進前に訓練
- 昇進後に「無能」になった場合、一度降格
①昇進させず、昇給
1つ目は現在の職務に専念しているメンバーは昇進をさせない方法。しかし、昇進させないだけで給与に変動がなければ、メンバーのモチベーションは著しく低下するでしょう。
そこで、昇進させずとも昇給はするという状況により組織の無能化を回避する方法が編み出されました。
②昇進前に訓練
2つ目は、昇進前に訓練を行う方法。
昇進後の新たな地位が求める水準に達するよう、事前に十分な訓練を施し、一定水準に達した場合にのみメンバーを昇進させるというものです。昇進する前の段階で管理能力が欠如している人物を発見できるメリットもあります。
③昇進後に「無能」になった場合、一度降格
昇進後、無能な状態に陥ってしまったメンバーがいても、慌てることはありません。昇進後にピーターの法則を回避する方法として、一度降格させるという手段があるからです。
「無能である位置」というのは、自らの能力を発揮できない地位のこと。そのままの地位にいれば本人には苦痛が、また周囲にも悪影響を及ぼしてしまうリスクが発生します。
思い切った降格はリスクを回避する有効な対策の一つといえるでしょう。
6.「無能」にならないために個人が心掛けるべきこと
「無能」にならないために、組織メンバーの一人ひとりが心掛けるべきことがあります。
- ピーターの予防薬:無能レベルへの昇進を未然に防ぐ方法
- ピーターの痛み止め:無能レベルに達しても健康と幸福を維持する方法
- ピーターの気休め薬:終点到達症候群を抑える方法
- ピーターの処方薬:世界に蔓延する病を治療する方法
①ピーターの予防薬:無能レベルへの昇進を未然に防ぐ方法
1つ目は、マイナス思考を持つことと創造的無能を活用すること。
この場合のマイナス思考とは、「昇進したら、自分はさらに高い目標の仕事をこなせるのか?」と自問自答して、「現在の地位で満足だ」と自らを納得させることを指します。
創造的無能の活用とは、昇進の打診が来ないよう、周囲に欠点をアピールすること。これにより、無能になるための昇進を未然に防ぎ、現在の地位で能力を発揮し続けることができます。
②ピーターの痛み止め:無能レベルに達しても健康と幸福を維持する方法
昇進後、無能レベルと見なされても、
- 再度同じ課題に取り組むことができる特別コース
- 特別研修
などの制度を活用すれば、無能レベルから脱出し昇進合格レベルに到達できる場合もあります。無能と判断されても、その後の本人の努力と周囲のサポートで、痛みが出た後の痛み止めが可能となるのです。
③ピーターの気休め薬:終点到達症候群を抑える方法
昇進後、自らの無能さによって非常に好ましくない現状に直面してしまった場合、これ以上の悪化を防ぐ手段を取らなければなりません。昇進後に実績を上げることができないメンバーは、
- 昇進に前のめりになることをやめる
- 現状の労働に関する価値や尊さを語る
ことで無能の烙印を押されてしまう終点到達症候群を抑える必要があります。
④ピーターの処方薬:世界に蔓延する病を治療する方法
- 昇進により無能になることを未然に防ぐ予防薬
- 無能になってもその程度を軽減させる痛み止め
- 完全に無能になる手前でも気休め的な対処
を行うことで、完全な無能という終着点に達するのを防ぐことができます。これらの処方薬は、有能、無能を問わず、ピーターの法則にあるような世界的に蔓延している症状を治療する有効な処方薬です。
5.関連する2つの法則
ピーターの法則には、関連した法則が2つあります。それらの関連した2つの法則について、簡単に解説しましょう。
- ディルバートの法則
- パーキンソンの法則
①ディルバートの法則
1つ目は、ディルバートの法則です。
ピーターの法則の変化形で「無能な者は害(製品の品質低下、顧客の機嫌を損ねる、他の従業員を不愉快にするなど)をなさないように意図的に昇進させられる」と説いています。
また、「(ある条件下では)組織の上層部は実質の生産にほとんど寄与しておらず、大部分の現実的、生産的な仕事は下層部の人々によってなされている」とも述べられており、同じ組織内で、ピーターの法則とディルバートの法則の両方が同時に成り立つ場面も少なくありません。
②パーキンソンの法則
2つ目は、パーキンソンの法則です。
政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソンの著書『パーキンソンの法則:進歩の追求』の中で提唱されました。
- 第1の法則:仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する
- 第2の法則:支出の額は、収入の額に達するまで膨張する
という2つの法則から成り立っており、役人の数は、業務量とは無関係に増幅し続けることも記されています。
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7.ピーターの法則について解説した本
ピーターの法則について深く学ぶことができる、おすすめの書籍を紹介します。
『【新装版】ピーターの法則――「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』
ピーター博士による法則の解説書です。新装版の発売まで約30年ほど経っていますが、時代の経過が気にならないほど、現代の組織にも当てはまることばかり。ピーターの法則について初めて学ぶ方におすすめの本です。
『【新装版】ピーターの法則――「階層社会学」が暴く会社に無能があふれる理由』
『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』
2003年に発売され、多くの人に愛された一冊。職場の上司や研修などで勧められる場合には、もしかしするとこちらの旧版の書籍名かもしれません。
現在は中古などで取得できるので、お手軽に読むことができるはずです。ピーターの法則に半信半疑なら、ぜひ一度探してみてください。
『10年後、君に仕事はあるのか?―――未来を生きるための「雇われる力」』
ピーターの法則を打破し、組織の内側で安住することなく社会全体の視点から個人の能力を見つめ直すことができる、きっかけをもらえる一冊です。
AIの発展による機械化や自動化、またグローバル化の影響などにより、労働力は他の手段に代替可能となってきています。ピーターの法則のように、企業の中で安易に落ち着くことが難しい時代となりました。
そのような時代で、どのように「雇われる力」を高めればよいのか、具体的な手法が解説されています。高校生に語りかけるスタイルで書かれているため、非常に読みやすくおすすめです。