PoCとは新技術や理論などを検証する概念実証のことです。ここでは実証実験との違いや実施の目的、メリットや検証内容について解説します。
目次
1.PoC(概念実証)とは?
PoC(読み方:ピーオーシーまたはポック)とは、新しい事業や技術、アイデアなどの実証を目的とした試作開発前の検証のこと。目指すコンセプトが正しいかどうか、新規事業アイデアが実現可能かどうかを証明する工程で、日本語では「概念実証」と訳されるのです。IoT関連用語としては効果の最大化や導入後のトラブルを防止する意味もあります。
PoCは何の略?
PoCは「Proof of Concept」の頭文字を取った略語で、事前に検討した理論やアイデアが課題解決に有効なのか、技術的に実現可能なのかなどを判断するのです。想定どおりの結果になった場合は「PoCを確保した」や「PoCを得た」といいます。
2.PoCと実証実験の違い
PoCは「概念実証」と訳される場合が多いです。しかし文脈によっては「実証実験」と同じ意味で使われるときもあります。2つのおもな違いは実験の目的です。
問題点の洗い出しが目的
PoCの目的は、概念や技術、アイデアなどの実現可能性を検証すること。対する実証実験は製品の問題を洗い出すことが目的です。新開発の製品やプロダクトを実際の環境で使用して、実用上の問題点や課題を検証します。
ただしPoCで製品の課題や問題点が明らかになる場合もあるため、実際のところ実証実験とPoCのあいだに明確な線引きはありません。
3.PoCとプロトタイプの違い
試作品の使い勝手を試しながら機能や精度の問題点を検証するものとしては、ほかに「プロトタイプ開発」という工程も存在します。
プロトタイプの目的
プロトタイプは技術的な実現性やアイデアの方向性が確定したうえで試作品をつくります。一方のPoCは技術的な実現性やアイデアを検証するために行われるのです。
ゴールが明確に設定されているものの最終確認をするのがプロトタイプ、そもそものゴールを探すのがPoCといえます。PoCで実現性を確認したあと、プロトタイプを制作する、という手順です。
4.PoCを実施する理由と目的
近年、ITシステムの開発プロジェクトはじめ、医薬品業界やエンタメ業界など幅広い分野でPoCが行われています。ここでは企業がPoCを実施する理由とその目的を3つにわけて説明します。
- 製品化までのスピード重視
- 実験を通じた検証
- ステップの細分化
①製品化までのスピード重視
PoC実施の背景にあるのは、競争環境の激化。GAFAを筆頭としたグローバルトップ企業の強みは開発の「スピード」です。
トップ企業は社内議論を重ねて検討するよりも、顧客評価や反応を重んじる傾向にあります。これは企業全体にPoCの考えが浸透しているためです。事実、社内の合意形成重視で形式を重んじる日本国内の企業は、グローバルトップ企業に歯が立ちません。
②実験を通じた検証
PoCは単に机上でシミュレーションを繰り返すのではなく、検証のためにモノをつくり上げて実際に使用してもらいます。これは会議での話し合いや書類検討だけではプロジェクトの実現性はわからない、という考えにもとづいた検証です。
実際に作り上げたもの実験的に使ってもらったり見てもらったりして、関係者からのフィードバックを集めます。それにより、これまで見えてこなかった課題や軌道修正の方向性などが見えてくるのです。
③ステップの細分化
現代のビジネスでは事業化のステップが細分化しています。はじめに大規模な投資を一度に行うのではなく、小規模な投資からはじめて有用性や実効性を検証しながら最終的な成立を目指す考え方が浸透しているのです。
ここで有効なのが、PDCAを細かく回せるPoC。コストを最小限におさえて短期間で試作品をつくり、顧客の反応を取得してから満足度の高い製品やサービスを開発していく、という意味では「リーンスタートアップ」も同じでしょう。
5.PoCのメリット
PoCのメリットは大きくわけて3つです。
- リスクの回避
- コストパフォーマンスの検証
- 実現可能性の確認
①リスクの回避
新規プロジェクトの立ち上げや新システムの導入によって成果を出すには、PoCを実行して起こり得るリスクをあらかじめ見つけ出しておく必要があります。最新の技術がつねに成功に結びつくわけではありません。
あらかじめ十分にリスクを確認しておかないと、のちのち欠陥が出てきてプロジェクトが頓挫してしまう可能性も高いです。
②コストパフォーマンスの検証
あらかじめコストパフォーマンスを検証できるのもPoCのメリット。PoCでは試作品やテストシステムを使って直接ユーザーの声を集めます。
開発の前段階で、制作側が期待していた成果と実際のユーザー評価にどの程度ギャップがあるのか確認しておくと、投資に対する費用対効果を割り出しやすくなります。
コストパフォーマンスを検証した結果、もしも想定していた効果が十分に見込めないとわかったら、速やかに計画を変更してリスクを回避するのも可能です。
③実現可能性を確かめる
新システムの開発やアイデアなどの実現性を空論だけで検証するのは困難です。実際の利用環境で使ってみて、はじめて発見できる課題も多くあるでしょう。
そこでPoCを実行し、具体性を検証します。実際の業務プロセスと新システムのギャップがどの程度存在するのか事前に明らかにできれば、より質の高い開発も可能になります。
6.PoCで検証する内容
PoCではどのような内容を検証するのでしょうか。ここではPoCの検証内容を3つ説明します。
- 実現できるか、検証
- 効果の検証
- 具体性の検証
①実現できるか、検証
PoCでは新しいアイデアや手法が技術的に実現できるのかを検証します。どれだけ厳密に要件を整理して企画を練っても、実際に動かしてみてはじめてわかる課題は多くあるもの。
実現性の検証はノウハウがないと理解しにくい内容も多いです。PoCの前段階から技術者を参加させ、専門的な見解を得ながら進めるとよいでしょう。
②効果の検証
実際の現場環境に近い状況で、期待している効果が実際に得られているか確認するためPoCを実施します。投資判断のフェーズではこの効果検証が欠かせません。
期待しているほど効果が生み出せなければ、投資家は当然導入見送りを考えます。効果の検証では実現性の検証も行えるため、無駄な研究開発が行われるリスクを防ぐ効果も期待できるのです。
③具体性の検証
実際にシステムを使用する際、何が必要なのかを見極めます。たとえばデータ分析システムを導入する際、画面上にいくつかのボタンを設置して使い勝手を確認する工程です。
具体性の検証は、一般的に実現性や効果がある程度担保されてから行います。またどの検証も実際に使用する現場の人員を巻き込んで行うのが理想です。
7.PoCの進め方
PoCはどのように進めるのでしょう。それぞれのステップで具体的にどのような内容を実施するのか、説明します。
そのようなプロジェクトチームが同じ方向性を向いて行動できるよう、PoCで知りたいことや得たいゴール、それに必要な検証作業などを定めておきましょう。ゴールの設定は可能な限り数値を使って定量化しておくと理解されやすくなります。
プロトタイプモデルは関係者や投資家に共有するものではないため、最終製品のように洗練された状態にまで仕上げる必要はありません。
PoCは実証してこそ意味があります。はじめから必要以上のディテールを求めるとPoC実行そのものが目的になってしまうため「スモールスタート」ではじめるのがオススメです。
技術的な実現性を検証する場合、エンジニアの協力が必要になります。彼らのレビューが入ることで本開発時の手戻り防止や費用対効果を検証できるでしょう。
またユーザーニーズを検証するPoCでは、KPI計測やユーザビリティテストを活用して、説得力のある検証にします。
PoCでポジティブな結果が出れば、本導入に向けて前進できます。もちろんネガティブな結果が出るときもあるもの。その際は改善と検証を繰り返し、精度を高めて本開発につなげましょう。
8.PoCを実施のポイント
PoCの失敗事例として多いのが「PoCは完了したが、本プロジェクトに役立たない」「PoCをはじめたものの、ゴールがあやふやになっていつまでも終わらない」といった問題です。ここではPoC実施のポイントを以下3つに絞って説明します。
- 小さなスタートとステップで開始
- チーム全員で目的を共有
- 同じ環境でPoCを繰り返す
①小さなスタートとステップで開始
PoCの実施は「スモールスタート」ではじめます。
PoCはあくまでも検証を目的としたもの。投資の是非を検証するためのPoCだったはずなのに、そこに多額のコストを費やしてしまっては本末転倒です。PoCに必要以上のコストを割いた結果、本開発が大きく遅れてしまう可能性もあります。
PoCはよりコンパクトな環境と条件で、スピード感を持って検証を進めましょう。
②チーム全員で目的を共有
綿密なPoC実証はたしかに有効です。しかし強いこだわりは不要なコストと時間をかける可能も高いです。PoCはあくまでもメインコンセプトを実証する手段のひとつ。ここですべての課題をクリアしようとすると工数や時間がかかりすぎて企画倒れになります。
有意義なPoCにするためにもチーム全体で目的を共有し、優先順位に沿った実行を心がけましょう。
③同じ環境でPoCを繰り返す
PoCは実際の現場、あるいは現場と同じ環境で実施します。これにはPoCを通じて現場の声を収集する意味もあるのです。
「実務運用の観点から見ても問題がないか」「発見した課題にはどのような改善策が必要なのか」など、現場環境からしか見えてこない問題は多くあるもの。
システムによっては時間帯や天候、気温などに左右されるものもあります。あらかじめシステムの動作やユーザーの行動に影響を与える要因を洗い出しておくとよいでしょう。
9.PoCの事例
PoCは以前からさまざまな分野で実施されています。代表的なのが製薬業界や医療分野です。ここでは各分野で実施されているPoCの事例について説明します。
業務フローの自動化
賃貸住宅の家賃保証事業などを展開するオリコフォレントインシュアでは、属人化の解消、また業務負荷を軽減する目的でビジネスルール管理システムの導入を検討していました。
本システムはあらかじめ設定したルールに応じて業務フローを自動で判断、実行する仕組みです。しかし業務フローが複雑なため、そもそも自動化できるのかという課題を抱えていました。
そこで複雑な業務をターゲットにPoCを実施。あらかじめ設定した機能や費用、スケジュールなどの指標をクリアし、実運用に結びつけました。
IoTセンサーで積雪状況の計測
アクセルマークおよびMomoは除雪の効率化を目的としてPoCを実施。日本は世界でも有数の雪国であり、約2,000万人が豪雪地帯に暮らしています。
適切な除雪作業を行うため、多くの自治体は目視で積雪状況を確認しているものの、人口減少や高齢化にともなう人手不足により、状況把握が困難な地域も発生しています。
そこでIoTセンサーをとクラウドシステムを活用して積雪状況を24時間リアルタイムに可視化。これにより目視監視が不要になり、効率的な除雪作業が実現できるようになりました。
音楽ゲームアプリの新規ユーザー獲得
日本の大手電子楽器メーカーローランドは、リズム感やテンポ感を鍛える音楽ゲームアプリ「Rhythmeal(リズミール)」を開発。本アプリのコンセプトは「個々が持つリズムを尊重」で、ユーザーの感性に合わせてリズムをアレンジできる仕様を採用しています。
このアプリ開発にあたって同社ではモックアップを制作しPoCを繰り返しました。音楽ゲームの核となるレスポンス性を高め、新規ユーザー層の獲得につなげた事例です。