一方で、過度な配慮は表現の自由を損なう懸念もあるため、バランスの取れた対応が求められます。言葉の使い方の見直しなど、具体的な取り組みも進められています。
目次
1.ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)とは?
ポリコレとは、表現・創作物・社会制度といったモノや概念に対する人種・性別・宗教・障がいの有無などの差別や軽蔑をなくすべきという考え方です。マイノリティや社会的弱者を守る活動ともいえ、多様性が重視される現代ではポリコレへの重要度が高まっているのです。
ポリティカル・コレクトネス(political correctness)の略称です。「PC」と略されることもあり、直訳では「政治的正当性」を意味します。
2.ポリコレの具体例
日常生活やビジネスシーンでは、ポリコレが影響している部分も多く見られます。ここでは、さまざまな観点からポリコレの具体例を紹介します。
人種に関する表現
ポリコレの発祥にも大きく由来するのが、人種に関する表現です。人種に関するポリコレでは、民族の差別化につながるような名称の変更や、肌の色に対する固定観念を脱却するために表現を変更するといった方法があります。
人種の呼称変更
人種の呼称変更もポリコレの1つです。代表的なものとしては、アメリカの先住民族を「インディアン」と呼称していたことが挙げられます。なお、現在では人種の呼称が以下のように変更されています。
人種 | 変更 |
アメリカ先住民族 | インディアン→ネイティブ・アメリカン |
アフリカ系アメリカ人 | ブラック→アメリカン・アフリカン |
上記のような人種に関する名称は、世界共通です。
肌の色に関する表現の変更
人種とあわせて肌の色もポリコレに含まれます。肌の色は、人種の違いにも大きく関係しているためです。肌の色に関する表現は人種差別の助長につながる可能性があります。
そのため、肌の色に対する固定観念を脱却する目的で表現を変更したり、表記を取りやめたりするケースもあるのです。代表的な例は以下のとおりです。
色鉛筆やクレヨンの色 | 肌色→うすだいだい、ベージュ等 |
美白・ホワイトニング等の表現 | 表記の取りやめ |
「モノ」に対する表現については「企業がポリコレを意識しているか」によって、表現の変更有無や表現方法が変わってきます。
性別に関する表現
性別を特定させるような表現も、ポリコレの観点から見直しが進んでいます。近年、性別を特定するような名称が廃止され、中立的な表現へと変更されるシーンも珍しくありません。具体的なものは下記のとおりです。
職業の名称変更
職業の名称において「マン(man)」や「婦」といった特定の性別を連想させる表現の見直しが進んでいます。これらの職業においてはポリコレの浸透によって、以下のように名称が変更されています。
看護婦 | 看護師 |
保母・保父 | 保育士 |
ビジネスマン | ビジネスパーソン |
カメラマン | フォトグラファー |
ポリスマン | ポリスオフィサー |
スチュワーデス | キャビンアテンダント、客室乗務員 |
アナウンスの表現変更
公の場でのアナウンスにおいても、性別を特定するような表現が取りやめられています。代表的なものとしては、JALの機内放送です。かつては「Ladies and Gentlemen」だったのが、現在では「all passengers, everyone」に変更されています。
服装の選択
企業や学校の制服にもポリコレが影響しつつあります。男性はズボン、女性はスカートという固定観念を解消するため、とくに女性側が自由に服装を選択できるようになっているのです。
福利厚生の適用範囲
企業の福利厚生においてもポリコレは影響を与えています。代表的なのが育児休暇制度の取得です。これまでは「子育て=女性の役割」という固定観念のもと、育児休暇を取得するのは主に女性でした。
しかし、近年は不公平感への対策やポリコレへの意識づけもあり、男性の育児休暇取得を推奨する企業も増えています。
性的指向に関する表現
ポリコレは性的指向にも影響を与えます。かつては特定の指向性が非難されたり侮辱されたりすることが多くありました。
しかし、近年では「LGBTQ」として、多様な性的指向を認知する動きが広まっています。国内の例でいえば、特定の自治体で同性カップルを認めるパートナーシップ制度の導入が挙げられます。
なお、パートナーシップ制度は法律上の結婚とは異なるものの、自治体による証明書が発行されることで「家族」と同様に扱われるようになりました。
そのため、民間のさまざまなサービスや社会的配慮を受けやすくなるメリットがあります。2024年5月時点では、450を超える自治体でパートナーシップ制度が施行されました。
宗教に関する表現
ポリコレは宗教にも大きく影響します。世界には多くの宗教が存在しており、特定の宗教を信仰する人を差別・非難する実態があります。その差別を減らすためにポリコレの考え方が活かされるのです。
具体的な例としては「メリークリスマス」や「ハッピーホリデー」などが挙げられます。メリークリスマスはキリスト教徒を対象とした言葉のため、キリスト教以外の宗教を信仰している人へ配慮するために「ハッピーホリデー」が用いられるのです。
なお、日本ではキリスト教徒の割合が少ないため、ここの影響は低い傾向にあります。しかし、国内で人種の多様化が進んでいることを加味すると、ポリコレへの着目は不可欠です。
ハラルフード(イスラム教徒が食べてよいとされる食品類のこと)などの浸透や、宗教上の問題で特定の食材が食べられない児童に配慮するなど、宗教による生活の違いへの理解はこれからも進むとされています。
3.行き過ぎたポリコレの問題点
多様性の受容において重要なポリコレですが、行き過ぎたポリコレによって生じる問題も多く見られます。
たとえば、ポリコレを意識するあまり表現の自由が奪われて創造性に制限がかかることで、作品がつまらなくなってしまう恐れがあります。また、過去にはプロモーションで女性キャラクターを起用したことから「性的搾取」として批判されたケースも見られました。
行き過ぎたポリコレ意識はイノベーションの喪失や過剰な批判の原因となるため、企業においては注意が必要です。近年はSNSの影響もあり、企業の対応の対応や配慮に関して一部が過剰に反応してしまうことも多く見られます。
しかし、ポリコレの本来の概念は「多様性の受容」です。ポリコレを意識することで、多様性を受け入れられる社会作りを行えるのです。
4.企業がポリコレに注目する理由
世界的にもポリコレが浸透している中、企業のさまざまな活動・取り組みにもポリコレが反映されています。ここでは企業がポリコレに注目する理由を紹介します。
- 雇用拡大のため
- 新たなイノベーション創出のため
- 企業価値向上のため
雇用拡大のため
国内は少子高齢化の進展により、労働人口の減少が深刻な問題となっています。労働人口の不足は企業にとって大きな痛手です。
企業が雇用の安定や拡大を目指すには、多様性を受け入れる必要があります。高齢者や外国人の採用、障がい者雇用などさまざまな働き手を確保するために、ポリコレの概念は重要なポイントです。
新たなイノベーション創出のため
ポリコレに注目することは、イノベーションの創出にもつながります。人種や国籍、性別や年齢などさまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まると、あらゆる視点から社会課題の解決に取り組めます。
企業としては、既存の枠組みに囚われない、画期的な製品やサービスが生まれやすくなるのです。
企業価値向上のため
社会的にもポリコレが注目されているため、企業がポリコレに配慮しているかは、社会からの評価や信用にも関わってきます。ポリコレを意識している姿勢を社会にアピールできれば、企業イメージの向上や信用獲得にもつながります。
企業はイメージアップや信用獲得により価値が高まることで、持続的な成長・発展が期待できるのです。
5.企業がポリコレを意識するメリット
企業がポリコレを意識することで以下のようなメリットを期待できます。
- ステークホルダーからの信頼が獲得できる
- 従業員のモチベーションが高まる
- リスクヘッジになる
ステークホルダーからの信頼が獲得できる
ポリコレを意識した経営は、人的資本経営でも求められる「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性を認め、組織に活用する考えのこと)」な経営の実現につながります。
消費者や投資家などのステークホルダーは、企業が多様性に配慮する姿勢を好意的に評価する傾向にあります。企業が外部から評価と信頼を得ている点は、従業員にとっても誇りを感じられる要素です。
社内外からの評価が高まることで企業のブランド価値が向上し、市場での競争力強化にもつながります。
従業員のモチベーションが高まる
ポリコレが意識されることで、従業員間の差別や偏見が抑制され、個人が尊重される風潮も生まれます。従業員がマイノリティを感じてしまうことは、組織に属する不安感を高めてしまう要因になりかねません。
ポリコレ意識によって従業員が「自分が受け入れられている」と感じられると、組織内での心理的安全性が高まり、モチベーションも向上します。結果として、生産性の向上やコミュニケーションの活性化といった副次的な効果も期待できるのです。
リスクヘッジになる
世間のポリコレに対する意識の高まりは、企業の行動や対応に対しても同様です。企業がポリコレに配慮しない発言やプロモーションを行ってしまうと、SNSでの炎上や不買運動に発展してしまうリスクがあります。
世間の信頼を失うことは、企業の今後に大きく影響します。ポリコレを意識して経営を行うことは、企業におけるリスクヘッジにもなるのです。
6.企業がポリコレに対応しない場合の悪影響
企業がポリコレに対応しない場合、以下のような悪影響が考えられます。
- 人材を確保できない
- 新たなイノベーションを創出できない
- 社内外からの信頼を獲得できない
- 従業員のモチベーションが低下する
- 企業価値・イメージが低下する
ポリコレに対応しないことによる最大の影響は、社会的信用の低下にあります。ポリコレ意識が高まる中、社会に大きな影響を与える企業がポリコレを意識せず活動を行うのは困難です。企業イメージが低下すると顧客離れが起こるだけでなく、人材確保にも支障をきたします。
7.企業ができるポリコレ対策
企業のポリコレ対策実施はイメージの向上やダイバーシティ経営を実現するために必要です。ここでは企業ができるポリコレ対策を紹介します。
- ジェンダー平等の推進やマイノリティの受け入れ
- 平等な社内制度の設計
- 公正な人事評価の実施
- ポリコレに注意した採用活動
- ハラスメント予防の研修
- グローバル対応
ジェンダー平等の推進やマイノリティの受け入れ
ジェンダー平等の実現やマイノリティの受け入れは企業が果たすべき社会的責任の一つです。具体的な取り組みとしては以下が挙げられます。
- 男女間の雇用条件・待遇格差の解消
- 女性管理職の起用
- 育児休暇復帰後の研修制度
- 障がい者雇用の実施
- 同性パートナーへの家族手当支給
企業が主体となり多様性を受け入れ、それを示す制度を確立することで、社内でのジェンダー平等やマイノリティの受け入れが進みます。
平等な社内制度の設計
福利厚生や給与制度、人事評価制度などの社内制度の内容が性別や年齢などによって差が生まれないよう、平等に設計することもポリコレ対策です。
具体的には、男性の育児休暇取得、宗教的な理由による特別休暇などが挙げられます。従業員のバックグラウンドを理解したうえで制度を設けることは、従業員のエンゲージメントの向上にも有効です。
公正な人事評価の実施
年齢や性別、人種など、能力や実績に関係ない要素で評価されていないかを確認することも重要です。
例えば「女性であることを理由に課長に昇進できない」「女性であるという偏見から実績を上げていても標準以下の評価をつける」などといった行為はポリコレに反します。企業は公正な人事評価が行われているか、組織内でチェックする体制を構築しなければなりません。
ポリコレに注意した採用活動
採用活動においてもポリコレ対策は重要です。たとえば、求人広告を掲載する際は性別によって待遇を変えていないか、服装を指定していないか、また性別による差別・区別が生じていないかに注意します。
採用活動のなかでも、応募までのプロセスでは多くの人の目に留まったり、関わったりする機会が多いため、ポリコレの配慮が欠かせません。
選考が進むタイミングにおいては、書類選考で性別や年齢、人種など個人の属性を理由に可否を判断しない。また、面接時に差別的な質問をしないなど、気をつけるべき点は多くあります。
ハラスメント予防の研修
ポリコレを意識したハラスメント対策は、ポリコレ対策としても有効です。ハラスメントのなかには性別や年齢、人種などの差別につながるものも見られます。ハラスメント予防の研修を実施することで、ポリコレに反するリスクの軽減につながるのです。

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グローバル対応
グローバルに対応できる体制や環境を構築することもポリコレ対策の一つです。少子高齢化に伴う人口減少から国内市場は縮小傾向にあり、今後もその状況はさらに進むとされています。
そうした状況でも企業を成長させるには新たな顧客獲得が必要です。新規顧客の獲得はこれまでの市場だけでなく、規模の大きい海外に進出することも求められます。
海外進出を考えると、多様な人材の採用や文化の違いの受容、グローバルに対応できるマニュアルの作成や研修の実施などが新たに求められます。
そのため、ポリコレ対策をすることは、人材確保や新たな市場の獲得にもつながるのです。国外でビジネスを展開し、成功させるには、文化や言語の違いによるトラブルを回避する必要があります。グローバル対応にポリコレの考えを取り入れる意識は不可欠です。
8.ポリコレ対応の企業事例
近年、世間のポリコレ意識の高まりに伴い、ポリコレに対応する企業が増えています。ここではポリコレ対応の企業事例を紹介します。
三菱鉛筆株式会社
三菱鉛筆株式会社では色鉛筆の呼称を改めています。「はだいろ」の呼称は人の肌の色に固定観念を与える可能性があるとして、以前から指摘されていました。
そこで2000年9月の生産から、これまで使用されていた色鉛筆の「はだいろ」の呼称を「うすだいだい」に変更しています。
なお、市場の混乱を避けるため、株式会社トンボ鉛筆と株式会社サクラクレパスとも協調し、色鉛筆全体の呼称が変わった点がポリコレの重要性を表しています。
参考 はだいろがなくなった三菱鉛筆株式会社花王株式会社
花王株式会社では2021年3月に発売したスキンケア商品から、すべてのブランドで「美白」の表現を取りやめました。この背景には、2020年5月にアメリカで起こった、黒人差別への抗議運動があります。
なお、この抗議運動を受け、外資メーカー各社が肌の色の優劣を想起させる「ホワイトニング」の表記を取りやめています。花王の例は、外資メーカーの動きに配慮し、リスクヘッジにも対応した事例としても重要です。
参考 花王、「美白」表現を撤廃 人種の多様性議論に配慮日本経済新聞ユニリーバ
ユニリーバでは100を超えるブランドにおいて、商品パッケージから「ノーマル」という言葉を取り除きました。同社が実施した国際的な調査の結果、「ノーマル」という言葉にネガティブな印象があると判明したことがきっかけです。
同社では肌や髪の状態を説明する際に「ノーマル」という言葉が使われていると「自分が排除されているように感じられる」といった声が挙がったそうです。
このことから、ユニリーバのビューティ・パーソナルケア部門の社長は、問題の根本的な解決にはならないことは承知の上で、ポリコレに対応する重要な一歩として「ノーマル」の使用禁止を実施しました。
参考 Say no to ‘Normal’ and yes to Positive Beautyユニリーバ・ジャパン【人事評価運用にかかる時間を90%削減!】
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