ポジティブ心理学は、人間のポジティブな側面に目を向けた心理学です。ここでは、ポジティブ心理学について解説します。
1.ポジティブ心理学とは?
ポジティブ心理学とは、本来あるべき姿に向かう状態に注目し、科学的検証を試みる心理学のことです。1998年に米国心理学会会長のペンシルベニア大学心理学部教授だった、マーティン・E・P・セリグマン博士が発議・創設しました。
ともにポジティブ心理学の創設にあたった心理学者たちにより、
- 心理学分野としての方向性の形成
- さらなる研究の推進
が行われたのです。
従来の心理学との違い
ポジティブ心理学には、従来の心理学と違う点があります。
- 従来の心理学は、臨床心理学を偏重した人間のネガティブな側面だけに焦点を当てたもの
- ポジティブ心理学は、人間の素晴らしい側面に焦点を当てたもの
ネガティブとポジティブ、両方に光を当てた点が、ポジティブ心理学の功績なのです。
ポジティブ心理学とポジティブシンキングの違い
ポジティブ心理学と類似した言葉に、ポジティブシンキングがあります。
- ポジティブシンキング:前向きな信念や価値観により、人生や物事を前向きに捉える思考方法
- ポジティブ心理学:人間のポジティブな側面に焦点を当て、統計学や脳科学により理論を構築する科学的学問
両者には、思考方法と科学的学問という違いがあります。
2.ポジティブ心理学で扱われるテーマ
ポジティブ心理学で扱われるテーマは、従来の心理学では扱われなかったものです。
- 幸福(happiness)
- 幸福感(well-being, subjective well-being)
- 性格的強み(character strength)
- 心的外傷後の成長(post-traumatic stress growth)
などがあります。
3.ポジティブ心理学とウェルビーイング
ポジティブ心理学には、ウェルビーイングという非常に重要な概念があります。
- ポジティブ心理学と持続的な幸福について
- ウェルビーイングとは?
- ウェルビーイングの種類
①ポジティブ心理学と持続的な幸福について
ポジティブ心理学とは、人間の素晴らしい部分に焦点を当てて持続的な幸福を追及するための研究・学問です。
持続的な幸福を追求するには、「一時的な幸福」「瞬間の快楽」ではなく、ウェルビーイング、すなわち幸福である状態を高いレベルで保つ必要があります。ウェルビーイングは、ポジティブ心理学から生まれました。
持続的な幸福とは?
持続的な幸福とは、多面的で満ち足りた幸福が長期間継続して続くこと。ポジティブ心理学のなかで持続的な幸福という言葉が用いられるとき、「フラーリシングな状態になる」「フラーリッシュを実現する」といった表現がなされます。
これは、自己実現を達成できているといった意味として解釈できるのです。
②ウェルビーイングとは?
ウェルビーイングとは、一般的に「幸福」と訳されています。
この場合の幸福は、「肉体的」「精神的」「社会的」な健康といった概念すべてを包括しており、「満足した生活」「多面的な幸せ」「持続的な幸福」といった意味合いで用いられているのです。
継続的な幸福という意味合いからも分かるとおり、瞬間的な幸福の概念はありません。
ウェルビーイングとは? 意味、注目の理由、メリットを簡単に
ウェルビーイングを取り入れている企業は徐々に増えており、その認知度は以前に比べて高まっています。しかしウェルビーイングは、企業の中でどういった重要性を持っているのでしょう。
ウェルビーイングとは?
...
③ウェルビーイングの種類
ウェルビーイングは、「医学的ウェルビーイング」「快楽的ウェルビーイング」「持続的ウェルビーイング」3つに分類できます。それぞれについて解説しましょう。
医学的ウェルビーイング
医学的ウェルビーイングとは、病気ではない状態のこと。フェリシア・ハパートとティモシー・ソーはウェルビーイングを「精神疾患と正反対にあるもの」と位置付けました。
そしてウェルビーイングにある10の構成要素を、「有能感」「情緒的安定」「没頭」「意義」「楽観性」「ポジティブ感情」「良好な人間関係」「心理的回復力」「自尊心」「活力」にまとめたのです。
快楽的ウェルビーイング
快楽的ウェルビーイングとは、その瞬間に快楽を感じること。
ダニエル・カーネマンの考察によって人間の意志決定は、「感情と合理的判断の2つの要素が関係する」「判断は感情に大きく左右される」と分かりました。
さらにカーネマンは「経験における快苦の記憶はピーク時・終了時における快苦の程度で決定される」というピークエンドの法則を提唱したのです。
持続的ウェルビーイング
持続的ウェルビーイングとは、「潜在能力の発揮」「人生の意義の発見」に関するウェルビーイングのこと。ウェルビーイングの特徴である、「持続的」「包括的」な幸福の指標で、開花を意味するフローリシングと呼ばれる場合もあります。
「自律性」「有能感」「関係性」といったモチベーションについての基本理念です。
4.ポジティブ心理学におけるPERMAモデル
ポジティブ心理学には、PERMAモデル(ウェルビーイングを高めるためのフレームワーク)があります。PERMAモデルを構成する5つの領域について解説しましょう。
- P(Positive emotion,ポジティブ感情)
- E(Engagement,没頭や没入)
- R(Relationship,良好な人間関係)
- M(Meaning,人生の意味や意義)
- A(Accomplishment,達成したり完遂したりする感覚)
①P(Positive emotion,ポジティブ感情)
ポジティブ感情とは、「ネガティブ感情を打ち消し、対処力や回復力を高める」「思考、行動の選択肢を広げる」などにより、人生の幸福度を向上させる要素が創造される感情のこと。
「歓喜」「愛」「笑い」「感謝」といった感情があります。
②E(Engagement,没頭や没入)
没頭や没入とは、時間を忘れて「物事に没頭して集中する」「物事に夢中になる」こと。
スポーツ選手などが語る「ゾーン」のような感覚です。没頭や没入の領域に入れば、「集中力が高まる」「効率性が良くなる」「生産性が向上する」といった状況になります。
③R(Relationship,良好な人間関係)
ウェルビーイングに大きな影響を与えるのは、社会における人間関係です。「パートナー」「家族」「友人」「仲間」といった他者とのかかわりは、人生に幸福をもたらします。
また「自己と他者を比較しない」「他者に貢献する」なども、幸福をもたらすとされているのです。
④M(Meaning,人生の意味や意義)
人生の意味や意義とは、「価値観」「人生の目的」といった人の本質に関係する領域のこと。
人生を考えるうえで、「何に価値を見出すか」「何を大切にするのか」「何を優先するのか」「何を求めていくのか」などを明確にしていくと、ウェルビーイングが高まります。
⑤A(Accomplishment,達成したり完遂したりする感覚)
物事を達成すると、幸福感が向上するという感覚のこと。
「会社を起業する」「資格を取得する」「会社で昇進する」「目標を達成する」などの体験は、ポジティブ感情の源になります。高い目標を設定して追求すると、より幸福度が高まるのです。
4.ポジティブ心理学をビジネスで活用するために
ポジティブ心理学をビジネスで活用するにはどうしたらよいのでしょうか。ここでは、下記2点について解説します。
- ポジティブ心理学をビジネスで応用する意味とは?
- ポジティブ心理学を応用したマネジメント方法
①ポジティブ心理学をビジネスで応用する意味とは?
ポジティブ心理学をビジネスで応用する意味にあるのは、「従業員一人ひとりが自身の強みを発揮する」「組織として互いに連携する」によってダイバーシティを推進すること。
ポジティブ心理学を用いれば、従業員同士で強みを発揮して、弱みを補完し合えるため、組織として最大のパフォーマンスを生み出せます。
②ポジティブ心理学を応用したマネジメント方法
ポジティブ心理学を応用したマネジメント方法があります。ここでは、「ポジティブアプローチ」「AI(価値探求)」について解説しましょう。
ポジティブアプローチ
ポジティブアプローチとは、「従業員や組織の強み、特性や価値に焦点を当てる」「それぞれの強みを連携させる」などにより、個々で生み出す成果よりも高い成果を生み出すアプローチです。
手順は、「従業員や組織の理想像を描く」「理想像から目標、アクションプランを導く」になります。
AI(価値探求)
AI(価値探求)とは、インタビューやディスカッションを用いて基本プロセス「4Dサイクル」を推進する手法のこと。「4Dサイクル」は、下記のとおりです。
- 相互で良い点を認め合い、強みを発見するDiscover(発見)
- 全員で理想像を描くDream(理想)
- 理想実現に向けた行動を決定するDesign(設計)
- 理想に向け全員で実行するDestiny(実行)