パワーカップルとは、共働きでともに高収入を得ている夫婦のことです。ここではパワーカップルの定義や注目される背景、世帯割合や課題について解説します。
目次
1.パワーカップルとは?
パワーカップルとは、高収入を得ている共働き夫婦のこと。夫婦ともに高い購買力を持ち、情報収集および情報発信に秀でています。夫あるいは妻ひとりだけで1,000万円近く稼いでいる世帯に比べ、月間支出総額が高いのもパワーカップルの特徴です。夫または妻のどちらかが高収入を得ている場合はパワーカップルには該当しません。
またパワーカップルは、時間を生み出したり余暇の時間を充実させたりすることにお金を惜しまない傾向にあるため、企業にとって有力なターゲットになっています。
対義語
パワーカップルの対義語はウィークカップル、つまり夫婦ともに低い収入で貧困に陥っている夫婦のこと。パワーカップルが増えている一方、日々の生活に困窮するウィークカップルも増加傾向にあります。
2.パワーカップルの定義
パワーカップルに明確な定義はありません。そのためさまざまな書籍やメディアが独自の定義を設定しています。
書籍「夫婦格差社会 ―二極化する結婚の形」
本書では「ウィークカップル」の対比として高学歴、高所得の夫婦を「パワーカップル」と定義しています。「夫の年間所得が1,600万円以上、妻の年間所得が1,000万円以上」をパワーカップルの象徴としているのです。
参考 夫婦格差社会 二極化する結婚のかたち中央公論新社ニッセイ基礎研究所
2017年に発表された『ニッセイ基礎研REPORT』では「夫婦とも年収700万円超」の世帯をパワーカップルとして定義しています。また総務省が2021年に行った調査によると近年、パワーカップルの割合は増加傾向にあると判明しているのです。
参考 パワーカップル世帯の動向ニッセイ基礎研究所三菱総合研究所
三菱総研によるパワーカップルの定義は「夫の収入が600万円以上、妻の収入が400万円以上で、世帯年収が1,000万円以上の夫婦」です。同社の調査では、夫婦とも管理職や役員など社会的地位の高いケースが多いとも報告しています。
参考 高い購買力・情報発信力…企業が熱視線 共働き高収入夫婦「パワーカップル」産経新聞3.パワーカップルの世帯年収
パワーカップルの定義が一律ではないため、世帯年収には多少の差が生じます。一般的な指標として、以下の夫婦がパワーカップルと呼ばれるのです。
- 世帯年収が1,000万円以上
- 夫婦のどちらも正社員でそれぞれの年収が700万円以上
- 夫の収入が600万以上、妻の収入が400万円以上
夫あるいは妻単独の収入が1,000万円以上の場合、パワーカップルには当てはまりません。夫婦どちらも一定の収入のある世帯がパワーカップルです。
4.パワーカップルが注目される背景
パワーカップルに注目が集まる理由として以下の3つが挙げられます。
- 消費の拡大
- 女性の活躍推進
- 情報発信
①消費拡大
パワーカップルの注目には、消費拡大の背景があります。パワーカップル世帯は「時間がない」ことを生活上の大きな課題としています。そのため家事代行やベビーシッター、料理キットや時短家電などのニーズが高まり、結果として消費活動が拡大するのです。
また日常生活でお金をかけたいものとして「海外旅行」や「外食」「自己啓発」など高額消費のものが多く挙げられています。
②女性の活躍推進
かつて日本の結婚観は「男性が稼ぎ、女性が家庭を守る」というスタイルでした。しかし共働きがスタンダードになりつつある現代、若い世代ほど「家庭もキャリアも両立させたい」と望む女性が増えています。
男性と肩を並べた活躍が増えてきている現代の女性にとって、仕事は収入を得るものでもあり、自己実現の手段でもあるのです。
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③情報発信
パワーカップルは情報発信にも積極的で、「インフルエンサー」としての役割も持っているのです。これは「自分が購入した製品やサービスのよさを多くの人に伝えたい」という意識が強いためといわれています。
つまり企業は彼らに自社製品を気に入ってもらえれば、SNSや広い交友関係をとおして多くの人々にリーチすできるのです。
5.パワーカップルの職業
パワーカップルの職業として多いのは何でしょう。それぞれについて見ていきます。
- 公務員
- 大企業勤務
- 医師
- 弁護士や公認会計士
①公務員
公務員同士の夫婦はパワーカップルになりやすいといわれているのです。総務省は、2020年度における公務員の平均年収を下記のように報告しています。
- 地方公務員:約430万円(平均月額給与約36万円×12か月)
- 国家公務員:約480万円(平均月額給与約約40万円×12か月)
つまり夫婦そろって公務員の場合、パワーカップルとしての目安である世帯年収1,000万円を超える可能性が高いのです。
②大企業勤務
夫婦のどちらか、あるいは2人とも大企業で働いている場合もパワーカップルになりやすいです。厚生労働省は2020年の役職別平均賃金(雇用期間の定めがない場合)を次のように報告しています。
- 係長級:男性約460万円、女性約400万円
- 課長級:男性約600万円、女性約530万円
- 部長級:男性約720万円、女性約620万円
夫婦とも大企業で役職に就いていれば、世帯年収2,000万円のパワーカップルも夢ではありません。
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③医師
厚生労働省による「2021年賃金構造基本統計調査」では、医師の月収(きまって支給する現金給与額)を80~100万円と報告しています。これを12か月分、さらにボーナスを加えると年収が1,000万円を超える可能性は一段と高くなります。
医師の存在も、パワーカップル比率の向上に一役買っているのです。
④弁護士や公認会計士
弁護士や公認会計士なども高収入職の代表格です。厚生労働省の統計によれば、弁護士、公認会計士とも平均年収は1,000万円弱といわれています。
また独立開業して自分の事務所を経営している人のなかには、年収3,000万円を超える士業の人も。夫婦とも士業に就いていれば、世帯年収2,000万円が可能なパワーカップルになるでしょう。
6.パワーカップル世帯の割合
ニッセイ基礎研究所ではパワーカップルの年収分布や世帯数の推移などを報告しています。2020年の報告によると、パワーカップルの世帯数は34万世帯、総世帯数の0.62%。
さらに共働き夫婦の世帯数は1,621万世帯と総世帯数の約3割で、共働き世帯の2%がパワーカップルです(総務省『令和2年労働力調査』)。
また同調査ではパワーカップルのうち夫婦と子どもの世帯が約6割、夫婦のみの世帯が約3割を占めることもわかっています。
7.パワーカップルで妻が就労する割合
夫の年収にかかわらず、妻の労働力率は上昇傾向にあります。総務省の「労働力調査」によると、夫の年収が1,500万円以上の場合、妻の労働力率は2014年の48.8%から2020年の61.5%まで上昇。世帯数も20万世帯から32万世帯に増加しています。
さらに夫が高収入の場合、妻も週35時間以上のフルタイムで働く世帯が増えているのです。しかし一方で妻の年収が低いほど夫も比較的低年収の割合が高いという傾向もあります。ここから世帯間の経済格差がうかがえるでしょう。
ダグラス=有沢の法則の崩壊
労働経済学には古くから夫の収入と妻の収入には関連があり、夫の収入が高いほど妻の就業率が下がると唱えた「ダグラス・有沢の法則」があります。
しかし現代では夫が高収入の世帯でも多くの妻が働くようになっており、法則の一部が崩壊しつつあるといわれているのです。
8.パワーカップルの課題
パワーカップルは年々増加傾向にあるものの、ひとつの定義である「年収700万円」を超える女性はまだまだ少数派です。またパワーカップルには「収入は高いが支出も多い」という課題があります。
- 女性の就労環境
- 家庭環境
- 支出や支払い
- 老後
①女性の就労環境
女性の就労に関する課題はいまだ数多く残されているのです。前述したニッセイ基礎研究所のレポートでは、就業意欲はあるのに働けない女性の数を約300万人と報告しています。おもな理由は出産や育児、勤務時間や賃金が希望に合わないなどです。
女性の就労を妨げる最大の障壁は、出産後の就業継続。育休を取得しにくい非正規雇用者の4分の3は出産を機に退職しています。正規雇用者でも、出産前のキャリアコースから外れたことによるモチベーション低下の問題があるのです。
②家庭環境
共働きのパワーカップルにとって、家庭環境の整備も課題のひとつ。互いに仕事が慌ただしく、一緒にいる時間が少ないなかで育児や家事の決めごと、住宅の相談や将来の計画などを話し合わなければなりません。
しかし家事や育児の分担は妻に大きく偏っているのが現実です。6歳未満の子どもがいる場合、1日あたりの家事育児関連時間は夫が1.1時間なのに対して、妻は7.7時間となっています(内閣府「平成29年版男女共同参画白書」)。
相手の立場に立って、パートナーと協力しながら家庭を作り上げる努力が互いに必要といえるでしょう。
③支出や支払い
パワーカップルだからといって生活に余裕があるとは決していえません。とくに税金に関する問題は深刻です。
高所得者はたしかに平均を大きく上回る収入を得ているものの一方で、支払う税金や社会保険料も高額になります。所得が増えれば健康保険料や厚生年金額も高くなり、実際の手取り額は支給額から大きくダウンしてしまうのです。
さらに補助金の所得制限もあります。高所得者は補助金の対象外になりやすく、結果として自由に使える額はさほど変わらないケースもめずらしくありません。
④老後
老後に関する問題もあります。たとえば夫婦の合計年金が30万円だったとしても、現役時代と同じ感覚でお金を使い続ければあっという間に赤字になります。収入に見合う生活のダウンサイジングが必要です。
また介護が必要になれば、さらにお金が必要になります。生命保険文化センターの調査によると介護費用の総額は平均500万円程度といわれているのです。
さらに企業年金についても注意が必要でしょう。かつて企業年金といえは終身受取が主流でしたが、今の主流は有期型です。企業年金が終わった途端に生活が厳しくなった、という話も他人事ではありません。
9.パワーカップルと似た語
パワーカップルは「高所得夫婦」や「セレブ家族」などとも呼ばれます。また夫婦の在り方を指す言葉として「DINKs」や「DEWKS」「シーソーカップル」などさまざまな種類があるのです。
ここではそれぞれの意味とその特徴について説明します。
- DINKS(ディンクス)
- DEWKS(デュークス)
- シーソーカップル
①DINKS(ディンクス)
子どもを産まずに2人で生活を続けようと決めた夫婦のこと。「Double Income(共働き)」と「No Kids(子どもを持たない)」を略して「DINKs」といいます。厳密にいうと、なんらかの事情で子どもが欲しくても持てない夫婦はDINKsに含まれません。
②DEWKS(デュークス:Double Employed With Kids)
「DINKs」の対義語で共働きをしながら子どもを育てる家庭を選択した夫婦のこと。夫婦それぞれが仕事と家事、育児の役割を分担して両立に取り組んでいます。
③シーソーカップル
夫婦のどちらか一方が働いているときにもう一方が休みを取る夫婦の在り方のこと。文字どおり夫婦の活動をシーソーになぞらえており、夫と妻が交互に大黒柱になります。互いに主体性をもって家事育児、そして仕事にあたり、日常的にこれらをシェアするのです。