プロスペクト理論とは、「予想利害額」「予想確率」による意思決定をモデル化したものです。ここでは、プロスペクト理論について解説します。
目次
1.プロスペクト理論とは?
プロスペクト理論とは、予想した利害額や確率などの諸条件により、人間が行う意思決定をモデル化したもの。ここでは、下記3点について解説します。
- 行動経済学とは?
- プロスペクト理論の具体例
- コンコルド効果との違い
①行動経済学とは?
行動経済学とは、経済学と心理学をミックスした学問で、人間の行動の不合理性・心理的な側面に着目した経済現象の研究を行うこと。
従来の経済学における前提は、「人間はつねに合理的な行動を取る」でした。行動経済学の前提は、「人間は合理的な行動を取らない」になっており、複雑化した現代社会にあった経済学として注目を集めています。
②プロスペクト理論の具体例
プロスペクト理論について、二者択一の実験例で具体的に解説しましょう。
「100万円もらえる確率は90%」「90万円もらえる確率は100%」の場合、期待値90万円にもかかわらず、多くは90万円貰えるほうを選択します。
一方、「100万円損する確率は90%」「90万円損する確率は100%」の場合、期待値-90万円にもかかわらず、多くは100万円を選びぶのです。このように損失の度合いに応じて人間は異なる意思決定をすると分かります。
③コンコルド効果との違い
コンコルド効果とは、失敗予測を予測できているにもかかわらず、今まで投資した金銭や時間、労力を取り返そうと投資を継続する心理のこと。両者の相違点は、下記のとおりです。
- 損失覚悟でリスクを取りに行く点は同じ
- プロスペクト理論にある「利益を求めるよりも損失を避ける」という視点が違う
2.身近にあるプロスペクト理論
プロスペクト理論は、実は私たちの身近に存在します。ここでは、身近にあるプロスペクト理論について下記3つの事例から解説します。
- 恋愛
- FXや株式投資
- くじ
①恋愛
恋愛中には、「マンネリ化」「浮気」「失恋を引きずる」などが起こります。プロスペクト理論では、下記のように結論付けるのです。
- 継続的な刺激があると記憶が継続しやすいため、イベントを都度設定するとマンネリ化が防げる
- 損失を嫌がる傾向や現状が変わる点を好まないことから、浮気が続く
- 損失を嫌悪して現状維持を求める傾向や曖昧さを嫌うことから、新しい恋愛を楽しめない
②FXや株式投資
「利益を確保したい」「損失は回避したい」といったプロスペクト理論は、FXや株式投資で顕著に現れます。
たとえば、「含み益が出ている場合、利益が最小になっても利益確保のために売却した」「含み損が出ている場合、想定外の損失が出ても損切りによって損失を確定させたくない」といった心理です。
③くじ
プロスペクト理論では、「利益を前にすると、確実に取れる利益を取る」「リスクを前にすると、リスクすべてを回避しようとする」のです。
そのため「当選金額は少なくても、必ず当たるくじを引く」「損失のリスクは追いつつ当選確率を上げるため、くじをまとめ買いする」してしまうと結論付けています。
3.プロスペクト理論の特徴
プロスペクト理論の特徴をおさえると、より理解しやすくなります。ここではプロスペクト理論の代表的な特徴として下記3つを解説します。
- 損失回避性(そんしつかいひせい)
- 参照点依存性(さんしょうてんいぞんせい)
- 感応度逓減性(かんのうどていげんせい)
①損失回避性(そんしつかいひせい)
損失回避性とは、利益を追い求めるより、損失を避けるという人間の心理的傾向のこと。損失回避性が働くと、損すると感じたその瞬間から損失に対して、「過剰に反応する」「不必要に保守的になる」「極度の恐怖心を抱く」といった心理状態に陥ります。
②参照点依存性(さんしょうてんいぞんせい)
参照点依存性とは、「物事の主観的な価値は絶対的な価値にならない」「物事の価値は参照点からの距離で決定する」心理的傾向のこと。
たとえば、「金メダルを確実視されていたが、銀メダルを取った」「メダルは困難といわれていたが、銅メダルを取った」場合、銅メダルをとったほうが主観的価値は高まります。
③感応度逓減性(かんのうどていげんせい)
感応度逓減性とは、扱う金額が増すと、損得のインパクトそのものが減少するという心理的理論のこと。
「安価な買い物は、できるだけ安く手に入れようとする」「あまりに高額な買い物をする場合、少額の誤差をかんたんに受け入れ、少し高くても購入する」といった場面で感応度逓減性が働きます。
4.プロスペクト理論の二大柱とは?
プロスペクト理論は、二大柱で構成されています。ここでは、2つについて解説します。
- 価値関数
- 確率加重関数
①価値関数
価値関数とは、「横軸に人間が感じる損失や利得の程度」「縦軸に価値の大きさ」を設定して、それをグラフ化したもの。グラフ化したものの中心には、参照点が置かれています。参照点とは、損得に関係なく、物事を考える際、基準を置くために参照する点です。
②確率加重関数
人間は確率を主観的に感じるため、確率の感じ方のゆがみを示します。確率加重関数では、「高い確率はより低く過小評価」「低い確率はより高く過大評価」されるのです。
境界点は確率0.35付近で設定され、「0.35より高いと過小評価」「0.35より高いと過大評価」になります。
5.マーケティングにおけるプロスペクト理論の活用
マーケティングでは、プロスペクト理論をどう活用しているのでしょうか。下記3つから解説します。
- 価格決定への応用
- 商品価値の訴求への応用
- コピーライティングへの応用
①価格決定に応用
価格決定への応用でポイントになるのは、消費者が妥当と思う金額すなわち参照価格を重要視した価格設定です。ここでは、「期間限定キャンペーン」「全額返金保証」「松竹梅モデル」3つの例から見ていきます。
期間限定キャンペーン
期間限定キャンペーンとは、期間を限定して「特典を付ける」「特別な商品を用意する」「金額を下げる」などを実施すること。
期間限定のキャンペーンが実施されている間に、「サービスを利用しなければ損をする」「商品を購入しなければ損をする」というプロスペクト理論における消費者心理を、うまく利用しているといえます。
全額返金保証
全額返金保証とは、購入後でも気に入らなかった場合、かかった費用の全額返金を保証すること。購入しても最悪の場合は全額が返金されるというお得感から、とりあえず購入するケースは多くあります。
「利益を前にすると、確実に得られる利益を取りたくなる」というプロスペクト理論を活用しているのです。
松竹梅モデル
松竹梅モデルとは、商品に3つのランクを用意した場合、真ん中の竹に該当する商品が多く売れる仕組みのこと。
松竹梅モデルでは、「ランクの高いものを購入すれば価格に喪失感を覚える」「ランクの低いものを購入すれば、機能を省いた点に罪悪感を覚える」「よって、真ん中のランクが選ばれる」といったプロスペクト理論における極端の回避性が生かされています。
②商品価値の訴求に応用
マーケティングにおいて、商品やサービスの価値をどうやって訴求するのかは重要な課題です。
「プロスペクト理論の「損をしたくない」という心理で内容を決定する」「フレーミング効果で伝え方にフォーカスする」などで、消費者に対して競合優位性を与えられます。
無料キャンペーン
無料キャンペーンとは、「○○人に1人だけ購入金額を無料にする」といったキャンペーンのこと。
「自分が無料になるかもしれない」といった思考を顧客に働かせるため、さまざまな人が商品を購入します。それによって全体の売上を高める効果が期待できるのです。
ポイントの付与
「あと1カ月でポイントが失効します」「あと〇〇ポイントで買い物券が発行できます」といった謳い文句により、「ポイントを使わないと損をする」という消費者心理を刺激します。結果、消費者は余計な買い物をしてしまうのです。
特別待遇
特別待遇とは、「雨の日だけ、10%割引キャンペーン」「小学生以下、デザート無料!」といった、期間や対象が限定された待遇を用意すること。「特別待遇を使わないと損になる」といった心理を誘うため、より多くの集客を見込めます。
③コピーライティングに応用
「商品を買わないと損をする」「期間中に商品を買わないと、手に入らなくなる」といった損失のリスクを消費者にアピールして、損失回避すなわち購入行動に誘います。コピーライティングでは、損の大きさを具体的にアピールする点がカギになるのです。
6.人材育成におけるプロスペクト理論の活用
人材育成においても、プロスペクト理論は活用されているのです。ここでは、人材育成におけるプロスペクト理論の活用について2つから解説します。
- 失敗を恐れず挑戦できる環境づくり
- 人材確保や離職防止
①失敗を恐れず挑戦できる環境づくり
プロスペクト理論には、損失をできるだけ回避したがる損失回避性があります。そこで「・失敗を恐れず、逆に失敗を事前に想定する」「想定した失敗を成功へと導けるように取り組んでいく」という人材を育成していくのです。
②人材確保や離職防止
プロスペクト理論における損失回避性から考えると、「人材に不利や損害が生じた場合の心理的損害を考える」「参照点を把握する」必要が生じます。労働者が被った不利や損失以上の利益を用意しておけば、労使関係を良好に保てるでしょう。