人間が人間らしく仕事ができるようにする取り組み「QWL」。この記事では、国際機関や国の支援を受け、世界各国の企業で実施され「働きがい」を高めることを目指す世界的な運動へと広がっていったQWLについて詳しく紹介します。
「QWL」とは?
QWLとは”Quality of Working Life”の略で、「労働者の労働生活の質」を指します。近代産業以降の労働の機械化や画一化により、人間性の喪失や健康への影響などの課題が発生しました。その反省から、人間が人間らしく仕事ができるようにする取り組み「QWL」運動が提唱されました。
では、世界的に展開されたQWL運動とはどんなものでしょうか。QWL への関心は、1960年代後半から現れ始め、1970年代になって国際労働機関(ILO)やヨーロッパ共同体(EC)、経済協力開発機構(OECD)などの国際機関が積極的に関与することで世界的な注目を集めるようになりました。
ILO は、 1972 年の理事会で、労働時間、余暇の利用、賃金体系、肉体労働者と非肉体労働者の調和、作業組織などの改善を目指すことを明示しています。ECは、1972 年に社会行動計画を発表。「ベルトコンベア廃止宣言」で、組立てライン作業や単純反復作業は職務満足を高める作業方法にするべきだとしています。
また、各国のQWL改善への取り組みも盛んになり、ノルウェーでは「労使協調プロジェクト」の運営費を政府が負担。アメリカでは、1975 年に「国民の生産性および労働生活の質的向上に関する法律」が制定され、QWL の改善、生産性向上に関する技術的援助や情報を収集するナショナル・センターが運営されるようになりました。
このように国際機関や国の支援を受けたQWL改善の取り組みは、各企業で実施されやがて「働きがい」のある職場環境を目指す世界的な運動として展開されたのです。
1980 年代以降のQWL運動
1980 年代になると、経営の国際化に伴い、大量生産方式の製品の生産は発展途上国に移転。先進国内の単調な仕事は、パート、派遣、アルバイトなどの非正規労働者が担うようになりました。また、女性の職場進出が増え、仕事と家庭生活のバランスを重視する傾向が強まります。
やがて、雇用の安定・継続、労働と家庭生活の両立など、労働生活全体に関わる問題に関心が集中。そして、90年代以降は、QWLへの社会的な関心は徐々に薄れていきました。
働きがいのある人間らしい労働「ディーセント・ワーク」
1999 年に ILO の事務局長に就任したフアン・ソマビアは、働きがいのある人間らしい労働として、ディーセント・ワーク(Decent Work)という新しい概念を提示し、ILO活動の主目的として位置づけました。ディーセント・ワークとは、権利が保障され十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる仕事、つまり働きがいのある人間らしい仕事のことを指します。
ディーセント・ワークは、以下の4つの目標を通じて実現できるとしています。
- (1)雇用の促進
- (2)社会的保護の方策の展開及び強化
- (3)社会対話の促進
- (4)労働における基本的原則及び権利の尊重、促進及び実現
ILOは、この4つの戦略的目標に沿って技術協力や調査研究を行い、各国の実情に合わせたディーセント・ワーク・カントリー・プログラムを策定・支援しています。なお、日本では平成24年に閣議決定された「日本再生戦略」で、ディーセント・ワークの実現が盛り込まれています。