レディネスとは「準備性」を意味する心理学用語です。ここではレディネスの重要性や注目される理由、レディネスが活用できる場面などについて解説します。
目次
1.レディネスとは?
「レディネス(Readiness)」とは、学習のために必要な準備状態を意味する心理学用語のこと。学習の前提となる知識や経験、環境などが整っている状態を指しており「心身の準備性」といわれる場合もあります。
レディネスがある学習者は自ら興味を持って学習を進められます。一方、レディネスのない学習者は学習そのものに興味がなく、効果を上げることが困難とされているのです。
ゲゼルのテスト
アメリカの心理学者であり小児科医でもあったアーノルド・ゲゼルは一卵性双生児を使って「成熟優位説」を裏付けたのです。双子の一方に早期から階段登りの訓練をさせ、もう一方は先に訓練していた双子が登れるようになってから訓練を開始しました。
この結果、先に訓練していた双子よりあとに訓練を始めた双子のほうが階段を登りきる時間が早かったのです。効率的な学習には早期教育よりも発達基礎の醸成、つまりレディネスの成立が欠かせない点を裏付ける結果といえます。
2.レディネスの重要性
レディネスがない状態で教育や学習を行っても効率を高められません。それどころかマイナスの効果を及ぼす可能性もあります。
それを防ぐためには、レディネスのなかに「学習可能性」と「学習適時性」の視点を取り入れるとよいでしょう。指導者は早すぎず遅すぎない、学習に最適な時期を見極める点が重要なのです。
レディネスの重要性を示唆した有名な実験として、ゲゼルの一卵性双生児を対象とした「階段登り」の実験があります。
デジタルレディネスについて
時代の潮流や外部環境の変化に基因して、デジタル化の流れに適応することを「デジタルレディネス」と呼ぶのです。現代では国内企業の多くが「デジタルトランスフォーメーション」を進めています。
デジタルレディネスはこのデジタルトランスフォーメーション、つまり進化したデジタル技術の浸透による生活の変革に備えられる能力として注目を集めているのです。
レディネステストについて
「レディネステスト」とはテスト受験者のレディネスを把握し、受験者が持つイメージのチェックや選択への動機付けを促すテストのこと。
自己進路を探求し将来の職業に対するレディネスを把握する「職業レディネステスト」や、離職について考えている人を対象に厚生労働省が作成した「離職レディネスチェックシート」などがあります。
3.レディネスが注目される理由
レディネスは教育やビジネス、看護などさまざまなシーンで取り入れられているのです。レディネスが注目されるようになった背景について、下記4つから説明しましょう。
- 新社会人の育成
- ミスマッチの解消
- 早期離職の防止
- 社会の変化に即した人材育成
①新社会人の育成
働くにあたって新社会人は、社会人としての基礎力を養う必要があります。職場や地域社会でさまざまな人と仕事をするために必要な基礎的能力を「社会人基礎力」と呼ぶのです。
2006年に経済産業省が提唱した「社会人基礎力」は、「考え抜く力」「チームで働く力」「前に踏み出す力」の3つの能力から構成されています。
人生100年といわれる現代にて「社会人基礎力」はますます重要性を増す一方です。自らキャリアを切り開くためには、自己を振り返りながらレディネスを形成していくとよいでしょう。
②ミスマッチの解消
新規学卒労働市場における入社3年以内の離職率はm2000年以降ほぼ横ばいで推移しています。現在、採用時点におけるマッチング精度の向上が叫ばれて久しいです。ここにレディネスをうまく取り入れるとミスマッチを解消できるでしょう。
現実に即した仕事情報を開示すると、学生にむけた誠実なコミュニケーションとなります。包み隠さず話すと学生の納得度が高まるため、レディネスの向上やミスマッチの解消につながるのです。
③早期離職の防止
大卒若年者の離職増加として、長期的に安定して働けるシステムが取られていない産業分野の存在が指摘されています。企業内での変化にうまく適応できないとレディネスは低下し、早期離職につながる可能性も高いでしょう。
転職市場の活発化が叫ばれる現代で早期離職を防ぐには、レディネスを高める必要があるのです。
④社会の変化に即した人材育成
経済社会の活性化および産業競争力の強化には、社会の変化に則した人材の育成、そして既成概念にとらわれないアイデアやビジネスモデルを構築する「競争力人材」の確保が必要不可欠。
この競争力人材を確保・育成するには今日の社会状況の変化、そして部下のレディネスにあわせて関係を構築していかなければなりません。
4.レディネスの活用場面
ビジネスのさまざまな場面でレディネスを活用できます。6つのシーンを例に挙げながらレディネスの活用場面について説明しましょう。
- インターンシップ
- 企業内研修
- メンター制度
- 越境学習
- 社会人大学
- 海外留学
①インターンシップ
インターンシップは「在学中の学生が自らの将来キャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義されています。学生が企業で働く人材になるための準備段階です。
「インターンシップの経験が大学生の就業意識におよぼす効果」の研究によれば、インターンシップ経験の満足や関与が職業レディネスに促進的な影響を与えていると、示唆されています。
②企業内研修
企業内研修もレディネスを活用していく場面のひとつ。戦後最悪の平成不況期にともない、企業内の研修にも大幅な見直しが迫られています。現代ではコストダウンや営業教育と異なる、経営体質の強化に直結するような研修が望まれているのです。
社員が今後歩んでいくキャリアを確立させるには、企業内研修を通じてレディネスを活用しましょう。
③メンター制度
メンター制度とは、経験豊かな先輩社員(メンター)が対話を通じて、後輩社員(メンティ)のキャリア形成における課題や悩みの解決を援助する個別支援活動のこと。
定期的な面談を重ねるなかで仕事上の課題や悩みに耳を傾け、課題解決や個人の成長をサポートする制度です。年功序列に代表される従来の師弟関係が築きにくい現代だからこそ、レディネスを活用したメンター制度が必要とされています。
④越境学習
越境学習とは、普段勤務している会社や職場を離れ、まったく異なる環境に身を置いて新たな気付きを得る学習方法のこと。越境学習をとおすと、「自分の当たり前を疑う」「自分の今が当たり前でなかった」などに気付けます。
組織の枠を超え、実際に業務を行いながら必要なスキルを準備すると、新たなレディネスを探る手掛かりになるのです。
⑤社会人大学
キャリア形成の手段である「社会人大学(大学院)」も、レディネスの活用場面として注目されています。
働きながら「スキルアップのためにもっと専門的な知識を身に付けたい」「大学に行ってもう一度勉強し直したい」と考える人も、少なくありません。社会人大学(大学院)によって、キャリアオプションの幅を広げられるのです。
⑥海外留学
日本が経済成長を遂げるためには、企業のグローバル展開を支える「グローバル人材」の確保が欠かせません。国際交渉力の向上や人的ネットワークの構築など、海外留学で得た経験は今後のキャリア形成に役立ちます。
また本人が得た経験を社内で生かすと、周囲にプラスの影響を与えるため、レディネスの向上も期待できるのです。
5.レディネスのメリット
レディネスを高めるとどのようなメリットが得られるのでしょう。ここでは3つの観点からレディネスのメリットについて、説明します。
- 人材の確保
- 生産性の向上
- 企業のイメージアップ
①人材の確保
適切な研修によってレディネスを高められれば、離職を防止できます。若年層の早期離職は中小企業にとって喫緊の課題。企業は資金負担が過大にならない「内発的動機付け」による離職抑止制度を考えなければなりません。
育成の前提となる知識や経験などを研修によって身に付けられれば、レディネスが内発的動機付けの要因になるのです。
②生産性の向上
一般的に企業は「ヒト」「モノ」「カネ」で成り立っているといわれます。とりわけIT革命以降は「ヒト」の重要性が増しているのです。マイクロソフト社成長の半分近くは人材が生み出したアイデアや知識ともいわれています。
これまで労働生産性の向上に必要な要因として注目されていたのは、就業前の資質でした。しかし近年、「適切な人材育成を経た終業後の成長」が生産性の向上に影響を与えると考えられています。
③企業のイメージアップ
従来、中小企業には「3K(きつい、危険、汚い)」のイメージが付きまとっていました。専門的知識や技術が求められるにもかかわらず低賃金・長時間労働のイメージが先行していたためです。
人材育成に力を入れ、レディネスを確立していけば人材の確保はもちろん、企業のイメージアップにもつながります。
6.レディネスを活用する際に大切なこと
企業がレディネスを活用する際、何に気を付ければよいのでしょうか。下記2つから、レディネスを活用する際のポイントを説明します。
- 適切なコミュニケーション
- 社員が悩みや相談事を話せるようなフォローアップ
①適切なコミュニケーション
誠実なコミュニケーションは人材定着につながるもの。厚生労働省の報告によれば、働き方の希望やキャリア展望について意思疎通ができている企業は、できていない企業に比べて離職率が減少し、定着率が上昇するそうです。
「自分はこんなキャリアプランを描いている」「それに対して上司は適切なアドバイスをくれる」と実感できれば、人材は会社を離れたくないと思うでしょう。
②社員のフォローアップ
悩みや相談事を話せる雰囲気、企業風土や環境づくりもレディネスの活用には必要です。
担当者のフォローアップによって話しやすい、相談しやすい雰囲気を生み出せれば「目指す姿を実現するにはどんな手段を取るべきか」「目標に向けて現状足りないものは何か」などさまざまな改善点を見つけられます。