リアルタイムフィードバックとは、上司が部下に対して高い頻度で行う人事評価制度のこと。メリットとデメリット、やり方や注意点などを解説します。
目次
1.リアルタイムフィードバックとは?
リアルタイムフィードバックとは、組織内において上司が部下に対して高頻度で行う人事評価手法のこと。日常業務のなかで上司が部下にフィードバックして、業務内容の振り返りや具体的な指摘、改善策やアドバイスなどを伝えます。
リアルタイムフィードバックのポイントは「高頻度」「迅速さ」「具体性」の3つ。これらのポイントを意識してリアルタイムフィードバックを実施すると、効果的な業務改善や成果の向上を図れます。
2.リアルタイムフィードバックと一般的なフィードバックの違い
業務におけるフィードバックとは、目標達成をサポートするために行われる指摘や評価のこと。フィードバックの手法では、口頭での直接的なコミュニケーションや文章による報告書、電子メールなどが活用されます。
頻度
多くの企業において、一般的な業務におけるフィードバックの頻度は半年や1年に1回程度。通常の業務フィードバックは、従業員の人事評価や給与査定など一定の期間ごとに行われる評価の一環だからです。
一方リアルタイムフィードバックは、業務の改善や、成果の向上、従業員の成長の促進などを目的として日常的に行われます。
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3.リアルタイムフィードバックのメリット
リアルタイムフィードバックを実施すると、さまざまなメリットが期待できます。ここでは5つのメリットを解説しましょう。
- 具体的なフィードバックが可能
- 上司と部下間のコミュニケーションが増加
- 納得感のある人事評価が可能
- 成長スピードが加速
- 目標への軌道修正に対し柔軟な対応が可能
①具体的なフィードバックが可能
フィードバックが即座に行われるため、記憶が新鮮な状態で具体的な指摘やアドバイスを伝えられます。上司や同僚から具体的な改善点や行動の方向性を示されるため、社員はすぐに具体的な改善策や実行プランを考えられるようになり、迅速に実行へ移せるのです。
そのためリアルタイムフィードバックを行うと、成果の向上や目標の達成につながりやすくなります。
②上司と部下間のコミュニケーションが増加
フィードバックがひんぱんに行われるため、上司と部下のコミュニケーションが活発になり、意思疎通や認識の相違、ミスやすれ違いなどの問題を早期に解消できます。
またメンバーは定期的にフィードバックを受けるため、自分の業務やパフォーマンスについて正確な理解を持てるのです。上司と部下のコミュニケーション頻度が上がると、お互いの意見やニーズを理解し合えるようになり、相互の信頼も深まるでしょう。
③納得感のある人事評価が可能
フィードバックが連続的に行われるため、人事評価においてより納得性の高い評価が可能となります。また部下は業務への取り組みや成果に関して即座にフィードバックを受けられるので、自己評価や改善点の把握が容易となるのです。
さらに日々の行動やコミュニケーションのなかでフィードバックの記録が積み重ねられます。フィードバックの履歴や内容を継続的に記録しておくと、より客観的かつ納得性の高い人事評価が可能になるでしょう。
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④成長スピードが加速
成長段階にいる社員が具体的なアドバイスを即座に受けられるため、学習や改善のPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを迅速に実行できます。
具体的なアドバイスや指摘を受けた社員は自己評価や改善点を把握しやすくなり、それに対する改善策を考えられるようになるのです。リアルタイムフィードバックを活用してこのようなプロセスを繰り返すと、社員の成長速度も変わるでしょう。
⑤目標への軌道修正に対し柔軟な対応が可能
リアルタイムフィードバックによる軌道修正は、目標に向かって進むための柔軟性を生み出します。リアルタイムフィードバックを通じて、社員は「どれだけ進んでいるか、目標にどれくらい近づいているか」など現状を把握可能です。
自身の目標達成度を客観的に把握したのちに具体的なフィードバックを受けとると、適切な調整や改善策を見つけられるようになります。
4.リアルタイムフィードバックのデメリット
リアルタイムフィードバックには、コストや時間がかかるため形骸化させない仕組みが必要です。ここでは3つのデメリットを解説します。
- コストが増加
- フィードバックを考えるのが困難
- コミュニケーションが煩雑化
①コストが増加
リアルタイムフィードバックの導入時には、ツールやシステムを利用することがあります。しかし導入ツールの選択を誤ると、期待した効果が得られないままコストだけが増加する可能性もあるのです。
とくに社員数が多いとツールの利用料も高額になります。費用対効果を高めるためにも、自社の課題解決に合ったシステムツールを選択しましょう。
②フィードバックを考えるのが困難
リアルタイムフィードバックは高い効果が期待できるものの、個々の社員に対して日々効果的なフィードバックを行うのはたやすくありません。
社員に関するデータを収集し、価値のあるフィードバックとそうでないものを見極めるためには、時間や経験、スキルや知識などが必要だからです。フィードバックを行う側にも高い能力が求められるため、導入したものの継続が難しくなることもあります。
③コミュニケーションが煩雑化
リアルタイムフィードバックでは、上司と部下のコミュニケーション量が増加するため、一部の場合にはストレスが増える可能性もあります。上司が複数の部下を持つ場合、適切なリソース配分や時間管理が必要でしょう。
フィードバックの質とバランスを保つために、十分な時間とリソースを上司と部下の双方へ割り当てましょう。
5.リアルタイムフィードバックのやり方
リアルタイムフィードバックの効果を高めるためには、適切な方法で行うことが重要です。ここではやり方について説明します。
- 目標や評価基準の共有
- 成果を承認
- 行動の内容や重要性などを説明
- フィードバック後も注意してチェック
①目標や評価基準の共有
リアルタイムフィードバックを実施するためには、まずチーム全体と個人の目標を設定する必要があります。上司と部下が共通の目標に向かって進んでいることを認識し、評価やフィードバックを行う基準とするためです。
目標の進捗や達成度を確認する方法を明確に共有するのも重要でしょう。目標の進捗状況を定期的にチェックし、達成度を把握するための評価基準や指標を事前に明確にしておきます。
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②成果を承認
目標の達成や予想以上の成果を上げた際に、即座に承認や評価を行うのも重要です。成果をリアルタイムで承認し評価すると、部下の自信や満足感を高め、生産性やモチベーションの向上につながります。
また承認や評価のフィードバックを受けると、自己成長の実感を得られるでしょう。そのため承認や評価の迅速さも重要な要素となります。
③行動の内容や重要性などを説明
部下の行動に対して具体的な指摘を行ったあとは、その指摘の理由や行動の重要性について丁寧に説明しましょう。具体的な指摘を受けた部下は、自身の意識や行動を改善ができ、フィードバックの効果を実感しやすくなります。
ただし部下の性格や人格を否定するようなフィードバックは避けてください。リアルタイムフィードバックは成長や改善を促すことが目的です。できる限り、建設的な指摘やアドバイスを行いましょう。
④フィードバック後も注意してチェック
リアルタイムフィードバックを行ったあとは、フィードバックが実際に生かされているか、確認しましょう。具体的には、「指摘した点が改善されているか」「目標と一致しているか」「部下のモチベーションが維持されているか」です。
これらの観察を通じてフィードバックの効果や部下の成長状況を確認し、必要に応じて追加のフィードバックやサポートを提供しましょう。
6.リアルタイムフィードバックの注意点
リアルタイムフィードバックを成功させるためには、いくつかの点に注意が必要です。ここでは4つの注意点について説明します。
- フィードバックスキルが必要
- 実現可能な到達点を設定
- 上司による積極的なフィードバック
- 上司の負担を考慮しスケジュール調整
①フィードバックスキルが必要
フィードバックスキルは経験を通じて向上する場合もあります。しかし場合によってはフィードバック研修や学習プログラムの導入が必要になるかもしれません。
フィードバック研修では、フィードバックの基本原則や進め方、効果的なコミュニケーション方法などのほか、実践的な演習も行われます。
このような研修を通じて上司が適切なフィードバックスキルを身につけると、部下の成長や組織のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。
②実現可能な到達点を設定
フィードバックの内容は、相手の能力や経験、勤続年数などを考慮して実現可能な範囲に収めましょう。現実的な目標や改善点を伝えると、部下が取り組みやすくなるからです。
フィードバックを行う前に部下の業務環境や責任範囲を把握したうえで、適切なフィードバック内容を検討し、部下にとって負担のない改善点や成長の方向性を示しましょう。
③上司による積極的なフィードバック
リアルタイムフィードバックの効果を最大限に引き出すには、上司自身が積極的にフィードバックを行うことが重要です。部下の仕事内容を正確に把握し、フィードバックを行うための時間をスケジュールに組み込むなどの工夫が求められます。
上司自身がフィードバックの重要性を認識して積極的な姿勢でフィードバックを行うと、リアルタイムフィードバックの成功につながるでしょう。
④上司の負担を考慮しスケジュール調整
リアルタイムフィードバックの実施においては上司の積極的な取り組みが不可欠です。しかしそれによって上司に多くの負担がかかることも忘れてはいけません。そのため上司の業務量や進め方に合わせてスケジュール調整を行うことが重要です。
企業は上司がフィードバックに適切な時間を割けるよう、ほかの業務とのバランスを考慮する必要があります。そのうえで企業全体としてもフィードバックの実施における上司の負担を適切に管理する体制を整えることが重要です。
7.リアルタイムフィードバックの導入事例
リアルタイムフィードバックを実施する際は、企業の導入事例を参考にできます。「Adobe」と「J.P. Morgan」の導入事例を説明しましょう。
Adobe
Adobeは従来の年次や半期ごとのフィードバックを行っていました。しかし社員から「適切なフィードバックが受けられていない」との声が多く上がり、よりひんぱんなリアルタイムフィードバックを導入したのです。
アンケートを使わずに行えるCheck-In制度を採用し、3か月に1度以上の頻度で個別ミーティングを実施。この取り組みで社員の自主性が高まり自主退職率が30%減少しました。
J.P. Morgan
J.P. Morganでは、「Insight360」というソフトウェアを導入し、リアルタイムフィードバックを社内の誰からでも受けられる仕組みを構築しました。
社内では会議やプロジェクトの終了後にマネージャーや同僚から直接評価を受けるといったように、社員同士が気軽にフィードバックを求め合う風土が形成されたのです。
またフィードバックの提供や受け取りをとおして、組織内のコミュニケーションが活発化するという効果も見られています。