いくつか種類がある解雇の中で、少し複雑な存在が諭旨解雇です。
そんな諭旨解雇の詳細について、
- 基本的な部分
- 詳細な特徴
- 注意点
まで幅広くまとめました。諭旨解雇を行う側、そして処分の対象となり得る働く側の人も、ぜひ参考にしてください。
目次
1.諭旨解雇の意味とは?
解雇には、いくつかの種類があります。普通解雇や懲戒解雇などです。最も厳格な措置が懲戒解雇で、諭旨解雇は懲戒解雇の次に厳しい解雇といえます。
しかし諭旨解雇は、ひとまず退職届や辞表の提出を促し、それでもなお提出されなかった際に行う解雇のため、懲戒解雇よりも少しやわらかい印象です。ひとまずの猶予が与えられますし、ペナルティの意味合いも薄まっています。
諭旨解雇の読み方
諭旨解雇は、「ゆしかいこ」と読みます。ここで気になるのは、一般的に聞きなれないであろう諭旨の意味でしょう。諭旨は、趣旨や理由を諭し告げるというニュアンスを持ちます。
2.懲戒とは?
懲戒とは労働契約法第三章第15条の一種であり、
- 譴責(けんせき)
- 減給
- 出勤停止
- 降職・降格
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇
のそれぞれがあります。前述の通り、諭旨解雇は懲戒解雇よりも甘い措置ですが実際のところ、同等の懲戒であることに違いはありません。
本人に反省の色が見える、将来を考えた方がよい余地があるとなった場合に、ひとまずのところ選択権を与える、それが諭旨解雇です。
①譴責(けんせき)
大まかに分けて6つ存在する懲戒ですが、中でも特に軽いのがこの譴責です。馴染みのない人も多い言葉かもしれません。読みは、「けんせき」となります。譴責(けんせき)とは始末書のことで、本人の反省を促し、文面を通して戒めるものです。
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②減給
規則違反や信用失墜行為には、相応の罰を与えなくてはなりません。罰として効果的なのは、減給でしょう。お金を稼ぐことを目的に勤務する人も多いため、減給は大きなペナルティになります。ただ、完全に収入が停止するわけではありません。
③出勤停止
減給よりさらに重い懲戒が、出勤停止です。名目としては出勤を停止するという内容ですが、同時に収入も停止するため、生活において大きな打撃となるでしょう。社内における名誉も汚されるはずです。
④降職・降格
努力して手に入れたポストから降りるとなると、それまでの頑張りが無駄になったように感じます。こちらもまた、効果的な懲戒といえるでしょう。特にそれなりの出世を実現した人物であれば、厳しい措置となるでしょう。
⑤懲戒解雇
懲戒の中で最も厳格なものが懲戒解雇です。会社を辞めさせられるわけですから、収入が減る、名誉うんぬんといった話ではなくなります。完全なペナルティという名目のもとで行う解雇のため、以降の社会生活にも影響するでしょう。
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懲戒解雇の意味
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3.解雇とは?
解雇はあくまで、使用者側が強制的に契約を解除する方法です。解雇には大きく分けて4種類が存在し、場面に応じて用いられます。また、契約内容や法律に則った行使でもあります。4種類それぞれについて、確認しましょう。
- 普通解雇
- 整理解雇
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇
①普通解雇
解雇の中でも比較的穏やかなニュアンスが、普通解雇でしょう。普通解雇は、社内における勤務態度や能力不足を理由に解雇する場合で取られる措置です。とはいえ、勤務態度については判断する人間それぞれで尺度が異なることでしょう。
そのため、以下の要件が定められています。
- 客観的に見て合理的な理由がある
- 社会通念上の相当性
上司や使用者の独断でなく、あくまで客観的に見て解雇に相当すると考えられることが必要なのです。
②整理解雇
4つの中でも、少し異色の部類といえるのがこの整理解雇です。他の解雇については、いずれも対象となる労働者に非があります。ところが整理解雇の場合、必ずしもそうとは限りません。
整理解雇は、いわゆるリストラと表現できます。つまり企業が倒産を免れるため、またプラスの改革を起こすために避けることのできない解雇を指します。
しかし、非のない社員を突如辞めさせるため、問題が起こりやすい措置です。必要条件も多岐にわたるため、慎重に行わなくてはなりません。
③諭旨解雇
今回のテーマである諭旨解雇です。改めて、特徴をおさらいしておきましょう。
まず基本、対象となる労働者に懲戒解雇相当の非があると考えられます。それでもなお、企業が少しでもニュアンスを和らげようと思える余地がある場合に、諭旨解雇が検討されるのです。
つまり情状酌量に値するか否かがポイントといえます。強制的な解雇でなく、自発的な退職をひとまず促すことで、当人の尊厳を幾分か守ることにつなげられます。
情状酌量とは?
諭旨解雇のポイントとして、情状酌量の余地があるかどうかが挙げられます。諭旨解雇を語る上で、欠かせない特徴といえるでしょう。解雇における情状酌量とは一体どのようなニュアンスなのでしょう。
主に、就業規則の定めに従うかたちとなります。多くの企業の就業規則には「情状によって処分を加重または軽減する」といった文言が添えられています。つまり諭旨解雇における情状酌量とは、規則に則った情状的措置というわけです。
④懲戒解雇
4つの中でも特に厳格なのが懲戒解雇です。懲戒つまり戒める意味合いを伴う解雇のため、当人にとっては負担が大きいでしょう。もちろん、それだけの処分に相当する行為が伴う場合に実行されるものです。
たとえば、企業の印象を大きく低下させる行為や資金の横領などを行ったケースが該当します。解雇するだけでは他の社員や社会に示しがつかないといった情状酌量の余地がない状態のとき、懲戒解雇が下されるのです。
懲戒解雇の理由例
懲戒解雇の理由は、前述の例だけにとどまりません。他にもいくつかのケースが考えられます。
- 業務上での不正行為
- 横領
- 会社命令を拒否(基本的に会社の意向に従うという契約を結んでいるため、重大な違反と見なされる場合がある)
- 長期の無断欠勤
- ハラスメント(セクハラ・パワハラなど)
- 経歴詐称
などです。
4.諭旨解雇と他の言葉との違い
諭旨免職との違い
諭旨解雇には、諭旨免職などいくつかの似た言葉があります。諭旨免職は、諭旨という言葉からも分かる通り、諭し促す内容です。また、諭旨のもと解雇する行為という点でも諭旨解雇と同様となります。
なぜ言葉が違うのでしょう?それは公務員における解雇のケースに使われる言葉だからです。公務員においては、解雇という言葉が使われておらず、免職と表現されます。諭旨免職は公務員における諭旨解雇と捉えておきましょう。
諭旨退職との違い
諭旨退職もまた、諭旨解雇に近い存在でしょう。諭旨解雇は、前述の通り、強制的な解雇の前に一旦自主退職を促し、それでもなお応じない場合に実行される措置となります。対して諭旨退職は、促された退職に応じた場合を指すのです。
ですが、諭旨解雇も諭旨退職も結果が異なるだけで、ほとんど同様の手順といってよいでしょう。そのため、2つをひとまとめにして表現している会社も少なくないようです。
退職勧奨との違い
自主的なものでない特定の社員を退職させる方法は、会社主導ばかりのものにとどまりません。よりやわらかいニュアンスで、退職させる流れも存在します。
退職勧奨という、普段のコミュニケーションで具体的に説明し、会社の力を加えることなく退職に導く方法があるのです。退職するかどうかは労働者本人の自由になるため、あとあと問題が起きにくいというメリットが伴います。
退職させる流れとして多く使われる方法ではないでしょうか。
依頼退職との違い
ここまでは、会社側に何らかの辞めてもらいたい意思があっての解雇や退職を紹介しました。しかし最後は、毛色ががらりと異なります。依頼退職という労働者が会社に対し契約解除を依頼する方法です。
つまり、労働者本人の意思によって、退職する方法となります。同様の言葉に、自己都合退職というものもありますが意味としては同義です。どちらを用いても問題なく通じるでしょう。
5.諭旨解雇の手続きの進め方〜必要書類や手順〜
諭旨解雇は、労働者当人に対して少しばかりの思いやりが伴う方法です。しかし強制的な解雇の一つに他なりません。そのため正規の手続きを踏んで諭旨解雇を実現しなければ、あとあと不当解雇の訴えを起こされる可能性も懸念されるのです。
必要書類や正しい手順を理解して、スムーズに手続きできるよう心掛けましょう。
解雇予告が必要
諭旨解雇は、会社の都合で突然実行できるようなものではありません。あくまで、諭し促す形式の解雇手法です。そのため、実施までに一定の期間を空けての解雇予告が必要となります。
解雇予告を行う期間は、30日前までと定められています。もし予告が正しく行われなかった場合、訴訟を起こされたときに不利となる可能性が出てきますので注意しましょう。
解雇通知書とは?
解雇予告においては、事前にその旨を伝えるかたちとなりますが、口頭のみで伝えるのは避けるべきです。そもそも、解雇はトラブルの起こりやすい措置。そのため万が一のことを考え、最大限にリスク回避を行っておくとよいのです。
諭旨解雇予告におけるリスク回避として、予告内容の記録が挙げられます。口頭だけでは、言った言っていないの食い違いが生じる可能性があるのです。具体的理由や日程を記した解雇通知書という書類を用意し、本人に渡しましょう。
解雇予告手当とは?
解雇予告を行わない場合、労働者当人としては唐突な展開を強要されるかたちとなります。意図しないタイミングでの解雇となれば、精神的、そして退職後の仕事探しなどに支障が出るでしょう。つまり、情状酌量の余地がありながら、大きな負担を強いられてしまうわけです。
そのため予告なしで解雇する場合には、最低30日分の平均賃金を支払うなど一定の保証が必要になることがあります。突然職を失うかたちになっても、ひとまずの生活を保証できるのです。
解雇予告手当とは? 支払い条件、支払日、計算方法を簡単に
解雇予告手当とは、解雇を一定期間前に予告せずに従業員を解雇する場合に、従業員へ支払わなければならない手当です。支払いが必要となるケース、計算方法などについて解説します。
1.解雇予告手当とは?
解雇...
解雇予告手当の計算方法
前項の通り、解雇予告手当は最低30日分の平均賃金となりますが、この定義は少々曖昧かもしれません。何をもってして30日とするのかが、考え方によって異なるためです。主に、次の図の考え方が基準となります。
図内で説明している通り過去3ヵ月間の賃金の合計から同期間の暦日数で割った金額、もしくは過去3ヵ月間の賃金の合計から同期間の労働日数を割った金額に0.6を掛けた値、いずれか高いほうが解雇予告手当となります。
解雇予告手当の支払い時期
解雇されたとしても、基本的に労働賃金自体はそれまで通り支払われます。よほどのことがない限り、末締め翌月末払いや翌々末払いなどそれまでと変わりません。
そうなると解雇予告手当についても、解雇以降に支払われるように感じられるかもしれませんが、そうではないのが実際のところです。
解雇予告を行わず、解雇予告手当の発生を念頭の上で退職させる場合、遅くとも解雇当日までに支払わなくてはなりません。完全に予告なしであれば、当日支払いとなります。労働基準法で定められているため、例外はありません。
就業規則の規定により対応が異なる
会社経営には、労働基準法が密接に関わってきます。しかし、諭旨解雇はそこまで厳格に定められていません。そのため諭旨解雇の対応は、各社就業規則の規定によって変わるのです。
基本的に、諭旨解雇とはまず自主退職を促し、その上で応じなかった場合の解雇処分となります。ですが規定であらかじめ定めているのであれば退職届の提出を勧告した日から一定の日数が経った場合に会社判断で懲戒解雇に変更することも可能です。
退職届が提出された場合(自己都合退職)
諭旨解雇は、比較的特別な位置付けに他なりません。ペナルティとして最も重いクラスに分類される懲戒解雇と同等の懲戒でありながら、情状酌量の余地も伴うという、何とも繊細な位置付けだからです。
だからといって退職届提出への対応まで特別かといえば、そうではありません。退職届提出の流れについては、通常の退職、つまり自己都合退職と同様に扱って問題ないのです。退職届提出前後の流れのみが、特別な対応となります。
懲戒解雇の場合の手順
懲戒解雇を行うための手順は、5項目です。
- 就業規則を確認する
- 弁明できる機会を与える
- 懲戒解雇の方針を社内で共有する
- 解雇通知書を作成する
- 解雇する社員に解雇を伝える
①就業規則を確認する
懲戒解雇では、規則に則った手続きが欠かせません。まずは就業規則で定められている懲戒事由に当たるかどうか、自社の就業規則を見直すところから始めましょう。
常識的に重大な問題を起こした社員がいたとしても、規則に該当しなければ直ちに懲戒解雇できないかもしれません。また、手続きに関する規則もチェックしておきましょう。特別な手続きを要する場合は、それに従って進める必要があります。
②弁明できる機会を与える
懲戒に相当する行為があったとしても、問答無用で即刻解雇するわけにはいきません。
なぜなら、当人に弁明の機会を与える必要があるためです。万が一懲戒に当たる事柄に関わっていなかった場合、問題となってしまいます。また、その問題に当たって訴訟を起こされるとなれば、さらにやっかいです。
裁判において弁明の機会が与えられなかったと訴えられると、大きな不利を被ります。人道的にそして法的な観点から、弁明の機会を与えることを忘れないように努めましょう。
③懲戒解雇の方針を社内で共有する
直属の上司が懲戒解雇相当と判断したからといって、独断で辞めさせることはできません。懲戒解雇は、会社全体における大きな問題ですし、もし不当解雇で訴えられれば、対会社の構図となります。ですから、管理職の立場であっても独断で辞めさせる権限は持てないのです。
そのため懲戒解雇についての情報を社内全体で共有しましょう。幹部や人事、また上司以外が話を進めている場合、関係者を洗い出して各所と情報を共有してください。
④解雇通知書を作成する
のちのち言った言っていないの問題になるため、解雇の通知は口頭だけで行ってはいけません。解雇通知書の作成が、基本の流れです。
内容は、
- 「貴殿を何月何日に懲戒解雇します」といった文言
- 就業規則内における該当する懲戒解雇事由
- 事由が適用される具体的な理由
などです。あらかじめ確認した規則をもとに、解雇が成立する理由を理論的に記載しましょう。
⑤解雇する社員に解雇を伝える
最後に、解雇通知書を手に解雇を伝える運びとなります。ここでのポイントは、先に弁明内容の話から始めるということ。弁明と確認した事実を照らし合わせ、さらに社内での話し合い、顧問弁護士との相談を踏まえ、厳密な審査のもと解雇に至ったと伝えましょう。
適切な手順により、解雇事由の深刻さを該当の人物に認識させることが可能です。もちろん、反論や質問についても細かに対応しましょう。遺恨が生じないよう、しっかり話し合うことが重要です。
6.解雇後の注意点
解雇し終えたからといって、油断はなりません。むしろ、不当解雇などの訴訟は基本的に退社後のタイミングで行われるものなので、解雇後のほうが重要とさえいえます。以下の3つのポイントを理解しておきましょう。
- 情報漏洩対策を取る
- 労働組合からの団体交渉の申し入れを断ってはいけない
- 内容証明郵便や労働審判にはすぐに対応する
①情報漏えい対策を取る
まずは、二次被害を防ぐための作業に注力すべきでしょう。懲戒解雇に至った行為に続き、さらなる負担を被ることとなるかもしれません。
特に重要なのが、情報漏えい対策です。インターネットの普及した昨今において、情報管理は会社にとっての死活問題とすらいえます。
- 社内の情報共有ツールの使用権限を停止
- 解雇後は会社関連のパソコン操作を不可とする
- 会社に関する情報をスマホや個人のパソコンから削除させる
など、徹底して情報漏えい対策を取りましょう。
②労働組合からの団体交渉の申し入れを断ってはいけない
解雇に至ったのち、当人が会社に関われなくなるかというとそうではありません。懲戒はペナルティのため、以降の関係を絶つようなニュアンスがあるように見えますが、例外が存在することもあるのです。
それは解雇時にどのような約束を交わしていたとしても拒否できないかたちとなる「労働組合から団体交渉を申し入れられる」ケースです。法的に定められているので、会社の意思に関係なく強制的に受けなければならないのです。
③内容証明郵便や労働審判にはすぐに対応する
解雇後特に重要なやりとりとして、不当解雇の訴えが挙げられます。懲戒的解雇を通じて強制的、もしくは半強制的に辞めさせているわけですから、反感が生じることも大いに考えられます。不当解雇の主張も、いつ何どきにもあり得ることだと理解しておきましょう。
対応のポイントは内容証明郵便や労働審判があったときには、すぐに応じるということです。対応が遅れると、訴訟において不利になる、保証が大きく課されることにもなりかねません。