劣等感とは、自分が他人よりも劣っていると感じる感情のこと。ここでは劣等感が強い人の特徴、原因、苦痛を和らげる対策などを解説します。
1.劣等感とは?
劣等感とは、他人と比較して、現状の自分が劣っていると感じる心理状態のこと。容姿、収入、性格、人脈、社会的地位などさまざまな要因で引き起こされます。
劣等感と似た言葉の「コンプレックス」と両者には明確な違いがあります。コンプレックスとは、過去の経験などが原因で特定の事象に対して抱くマイナスな感情のこと。
劣等感は「他人との比較」によって生じるものの、コンプレックスは比較する対象がなくても生まれる点が異なります。
2.劣等感を感じやすい人の特徴
劣等感を強く抱きやすい人には、共通した特性が存在します。ここでは代表的な8つの特徴を具体的にご紹介しましょう。
自己肯定感が低い
自己肯定感が低いため、自分の弱みを好意的に受け止められない傾向にあります。「自分は人よりも劣っているのではないか」「なぜほかの人のようにできないのか」と自身を否定してしまい、慢性的に劣等感を抱いていることも少なくありません。
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自慢話が多い
過去の栄光、学歴、財力といった自慢話をして、自分は他人よりも優れているように見せます。「人に褒められたい」「認められたい」「見下されたくない」といった欲求から、自信のある面をアピールしてしまうのです。
他人と比較しがち
無意識に相手と自分を比較する習慣が身についていることがあります。
上述したように、劣等感は他人との比較から生じる感情。他人と接すると、無意識に「自分が劣っていると感じるポイント」に注目してしまうため、結果的に落ち込んでしまうのです。
視野が狭い
自分が劣っていると感じている点に注目するあまり、視野が狭くなりがちです。
たとえば「他人よりパソコン入力が遅い」という劣等感がある人は、「入力の速さ」という特定の視点に縛られ、「売り上げ」や「同僚との関係」など、ほかの要素が見えにくくなる傾向にあります。
完璧主義者
完璧主義者は、成功よりも失敗やミスなど「できなかった部分」を意識してしまうため、小さな失敗などにも劣等感を感じる傾向があります。
自分の目標や理想を高く設定することはすばらしいことです。現実的で達成が可能であるか、見極めることが重要でしょう。
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ネガティブ思考
自分への否定が高じてしまい、劣等感が生まれやすくなります。小さなミスや失敗でも「やっぱり自分はダメなのだ」とマイナスにとらえ、自信の評価が低下して「人より劣っている」と感じやすくなってしまうのです。
他人に攻撃的
自分だけでなく、他人の失敗やミスに対して攻撃的になる傾向があります。自分よりも優れている人に対する嫉妬や羨望から「うらやましい」「引きずり下ろしたい」といった気持ちが生じて、反抗や否定といった攻撃的な態度をしてしまうのです。
周囲に流されやすい
自分に自信が持てないため、周囲の影響を受けやすくなります。自己肯定感が低いため周囲の声を必要以上に気にして行動を決め、結果的に自身の強みを生かせない状況に陥ってしまい、劣等感を抱くケースが見られるのです。
3.劣等感がない人の特徴
劣等感を持たない人は自己肯定感が高く、自分軸を持っている傾向にあります。そのため人と自分を比べる必要がなく、自分の興味や目標に向かって前向きにチャレンジできるのが特徴です。
自己評価を重視
自己肯定感が高いため、自分の価値を自分で認める「自己評価」を無意識に重視しています。
自身の長所や短所を客観的に受け入れているため、他人からの評価に振り回されません。自分に対するマイナスな意見があっても、「そう思う人もいるのか」と冷静に受け止めます。
前向きでポジティブ思考
自分の弱点や失敗などネガティブな側面も受け入れるため、基本的に前向きでポジティブです。
対人関係においては相手の失敗が目についても、よい面を見つけて尊重します。そのため仕事でもプライベートでも、良好な人間関係を築く傾向にあるのです。
「現在」を重視
「過去」や「未来」にとらわれず、「現在」をしっかり見つめている傾向にあります。過去の失敗を受け入れ、未来の心配事には「自分なら大丈夫」という気持ちで臨むため、「今楽しいと思えること」に集中できるのです。
チャレンジ精神が旺盛
直面する事柄に対して「自分ならなんとかできる」と楽観的に捉えて、新しいことや困難なことに臆せずチャレンジします。失敗しても「成長の機会だ」「またがんばればよい」とポジティブに受け止め、また新たな挑戦につながるのです。
他者を尊重
自分軸を持っているため、他人を受け入れて尊重できます。「他人と自分は違うのが当たり前」と多様な価値観や考え方を受容し、他人への対応も寛容です。そのため言い争いなども起こしにくく、良好な人間関係を築けます。
4.劣等感を放置するリスク
適度な劣等感は自分の成長に有効である一方、劣等感がコンプレックスになってしまうと心理的に苦しい状態が続きます。職場で懸念される劣等感の悪影響を解説しましょう。
人間関係が悪化
劣等感から周囲との交流を避けるようになり、人間関係が悪化する可能性があります。人と距離を取るだけならまだしも、自分よりも優れている人に対して攻撃的になるかもしれません。
集団からの孤立で交流が減少すると、疎外感が生まれて自己肯定感を低下させてしまい、さらに劣等感が高まるといった悪循環に陥る恐れもあるのです。
モチベーションやパフォーマンスが低下
劣等感を抱き続けることで自己肯定感を得られなくなり、物事への意欲が保てなくなる恐れがあります。「自分は何をやってもだめだ」「自分は周囲の人よりも劣っている」という思考にとらわれすぎて、本来の実力を発揮することが難しくなってしまうのです。
挑戦する意欲が低下するため、仕事へのモチベーションやパフォーマンスを維持できなくなる可能性もあります。
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心身の健康が悪化
劣等感が解消されないと楽しみや喜びを感じにくくなり、憂うつ感など精神的な症状が現れる恐れもあります。憂うつ感は、うつ病に見られる精神症状の一つであり、ほかにも睡眠障害、食欲の低下、けん怠感といった身体症状が伴うことがあります。
また強い劣等感を紛らわせるため、アルコールやギャンブルなどに依存してしまう恐れもあるのです。
5.劣等感を抱く原因
劣等感を抱く理由は本人の心理状態にあることが多いです。なかには周囲の環境が影響しているケースも見られます。一般的に考えられている原因を説明しましょう。
コンプレックス
ネガティブにとらえた自己の短所や否定的な部分がコンプレックスとなり、自己評価が低下して劣等感が後押しされたケースです。
容姿、学歴、能力の差異などにくわえて、周囲のささいな一言や自身の失敗などから経験した嫌な体験がコンプレックスになりえます。とくに解決が難しいコンプレックスは、劣等感を強める要因になるでしょう。
批判的な環境
自分を否定され続けた子どもは自己肯定感が低下しやすく、劣等感を抱いてしまう可能性があります。
「頭ごなしに怒る」「必要以上に叱る」といった親の批判的な態度は、子どもの自信を喪失させかねません。負けず嫌いや完璧主義の親は子どもを他人と比べる傾向があり、やはり「できない部分」を強調しがちです。
このような家庭環境で育つと、「自分は他人よりも劣っている」と思い込みやすくなります。
高すぎる理想
高すぎる理想は自己評価を厳しくするため、劣等感を生み出す要因となり得ます。一般的に見れば十分な成果をあげていても、高い理想を抱く人は「理想に達しなかった」と感じて、自己評価を下げる傾向にあるからです。
とくに完璧主義の人は自分のミスや失敗を受け入れられず、うまくできなかったことにフォーカスし、理想の自分や能力の高い社員と比べて劣等感に苛まれてしまいます。
虚栄心や嫉妬心
実際よりも自分を大きく見せたいと思う「虚栄心」や、自分よりも優位な相手に敵意を感じる「嫉妬心」も、他人と比較して「劣っている」と感じたときに生まれる感情。これらは劣等感の裏返しです。
劣等感を隠そうという心理が働いて、自分が優れた人間であるかのように見せかけたり、妬んだ相手を貶めるような発言をしたりします。
環境への不満
なじめない環境や本来の力を発揮できない環境などに対する不満から、劣等感が引き起されるケースもあります。
身近に成功している人がいると、「他人はできるのに自分はうまくできない」と自分を否定してしまうからです。また自分に合わない職場であってもやめるにやめられない場合は、環境を変えられない自分をふがいなく思い、劣等感が強まる可能性もあります。
6.劣等感の克服方法
強すぎる劣等感はさまざまなリスクをはらんでいるため、できるだけ軽減したいものです。劣等感を克服する方法を解説します。
原因を探り把握
劣等感の深層には根本的な原因があります。まずはその原因を深く掘り下げて把握することが重要です。
たとえば「他人よりも仕事が遅い」という劣等感には、「周囲から仕事が早いと認められたい」という欲求が潜んでいる可能性もあります。仕事の手順を見直す、パソコンスキルを高めるといった行動でこの欲求が解決できれば、劣等感が軽減されるでしょう。
人との違いを理解
劣等感を克服するには、他人との違いを理解して受け入れましょう。
人はそれぞれ異なる特性や価値観を持っており、ときと場合によって長所にも短所にもなりえるため、これらに一定の基準で優劣をつけるのは困難です。
このように広い視点から自分を見られるようになると、必要以上に欠点へこだわる気持ちが薄れて、劣等感が弱まる可能性があります。
小さな成功を蓄積
小さな成功体験であっても積み重ねると、「自分ならできる」という自己効力感を高めます。自信や満足感が生まれると自己肯定感が高まり、劣等感が軽減する可能性があるのです。
「毎日30分早く起きて資格の勉強する」「週末にその週の振り返り日記を書く」など、達成可能な小さな目標をいくつか設定し、ひとつずつクリアしてみましょう。
完璧でないことを理解
自分を責めたり他人と比較したりするのではなく、不完全な自分を認めて受け入れることが大切です。
どんなに仕事ができる上司や先輩でも、過去には自分と同じような挫折や失敗を経験している可能性があります。「できないのは自分だけじゃない」と安心できれば、自分の欠点や失敗を責めず前向きな反省や改善へつなげられるでしょう。
自分の長所を見つめる
自分の長所にフォーカスし、他人との比較ではなく自分独自の価値を見いだしましょう。
劣等感を抱きやすい人はつねに他人と比較しており、自分の短所にばかり目を向けて自信を喪失してしまう傾向にあります。自分だけの長所を見つけると「自分ができること」を意識できるようになるため、劣等感を和らげる効果が期待できるのです。
ポジティブに思考変換
劣等感をポジティブな視点でとらえ、目標達成の原動力や推進力へ変換しましょう。心理学者のアドラーも著書のなかで「劣等感があるのは当然」「劣等感をバネにするか否かが成功をわける」というような文を残しています。
劣等感が生まれる要因のひとつは、理想と比べてが「劣っている」と感じている状態。劣等感を成長の機会ととらえ、前向きに受け入れてみましょう。
7.劣等感の苦しさを改善する方法
強い劣等感は心身に苦痛をもたらします。そのため自分に合った向き合い方を見つけることが大切です。劣等感の苦しさから解放される具体的な方法を紹介します。
良い部分を見つける習慣
ネガティブな思考が劣等感につながるため、物事のよい面に目を向ける習慣をつけましょう。
自分自身を無理にポジティブにとらえるのが難しい場合は、日常生活で「好き」「便利」「美しい」といった要素を考えてみるのも手です。
たとえばビジネスツールの「便利だ」と感じる点や、上司や同僚に対して「こういうところが好きだ」と感じる点を考えるだけでも、長所を見る訓練になります。
強みを知る
劣等感を強く抱くと自分の弱点や欠点ばかりに目が向いてしまい、苛立ちや嫉妬といった負の感情でつらくなりがちです。自分の強みを見つけて理解すると少しずつ自分に自信がつき、劣等感の苦痛が和らぐ可能性があります。
先に挙げた良い部分を見つける習慣が身についてきたら、自分の強みを探ってみましょう。
考え方や行動を改善
劣等感の苦痛は、考え方や行動を変えることで軽減できます。劣等感は心の問題です。心と体は連動しているもの。強い劣等感を抱いたときに、頭痛、不眠、食欲の減退といったストレス反応が現れ、身体的にも苦痛を感じている可能性があります。
前向きな考え方や行動を心がけると、劣等感から生じる心身の苦痛が和らぐでしょう。
生きていることに意識を向ける
自分の現状を嘆くのではなく、「それでもよい」「生きていること自体がすばらしい」ととらえてみましょう。また自分が得た経験や人物に対して、感謝するのも効果的です。感謝は幸福感や満足感を高めるため、ポジティブな精神状態を保ちやすくなります。