労働安全衛生規則とは、厚生労働省が「労働安全衛生法」にもとづいて制定した、労働環境の安全や衛生などの確保を目的とした省令のこと。ここでは労働安全衛生規則について、説明します。
1.労働安全衛生規則とは?
労働安全衛生規則とは、労働者の安全と健康を確保し、快適な作業環境を作り出すため厚生労働省が発行した省令のこと。「通則」「安全基準」「衛生基準」「特別規則」の4つから成り、通称「安衛則」ともいわれています。
現在、製造業界では機械による作業もかなり増えているため、関連した事故が多発するようになりました。そのため事業者は事故を未然に防ぐためにも、改めて労働安全衛生規則について確認し、正しく理解しておかなければなりません。
2.労働安全衛生規則の導入目的
目的は労働者が安心して働けるよう、安全かつ衛生的な環境づくりを進めること。 時代の変化により、仕事や仕事に関する道具によって労働災害が発生する状況は少なくなりました。
しかし現在、長時間労働やパワハラ、セクハラが新しい労働災害の原因となってきています。このような問題を解消するために、労働安全衛生規則で企業が実施すべき基本事項を定めているのです。
3.労働安全衛生法とは?
労働安全衛生法は、1972年(昭和47年)に制定された日本の法律です。目的は「職場での労働者の安全と健康を確保する」「快適な職場環境を作る」。法律のため国民は守る義務があり、法的な拘束力は労働安全衛生規則よりも強いといえます。
この法律に則って具体的な項目を定めているのが労働安全衛生規則です。
対象となる事業者
何らかの事業を行って労働者を使用している事業者は、労働安全衛生法の対象となります。企業やそのほかの法人はもちろん、個人事業でも他者を雇っている事業主は対象です。
ただし自分ひとりで事業を行っている人、いわゆる「ひとり親方」の場合、労働安全衛生法の対象とは見なされません。
適用除外の場合
労働安全衛生法は、さきほどの個人事業主にくわえていくつかの適用除外があります。たとえば「同居している親族のみが勤務する事業の労働者」や、企業や個人家庭の家事に従事する「家事使用人」、船員法の適用を受ける「船員」には適用されないのです。
また適用が一部除外される労働者には、「鉱山、国会職員、裁判所職員、防衛庁職員、非現業の一般職に属する国家公務員、非現業の地方公務員」が該当します。
労働安全衛生法の改正について
2014年に労働安全衛生法が改正されました。改正の背景にあるのは、長時間労働による労働者のストレス増加や、化学物質による健康被害の発生など。労働安全衛生法の4つのポイントを見てみましょう。
労働時間の適正な把握の義務化
管理監督者を含むすべての労働者の労働時間を適正に把握することが、義務化されました。
事業者は労働者の労働時間を客観的に把握するため、タイムカードのデータやパソコンのログインとログアウトの時間などの記録を取ったうえで、3年間保存しなければなりません。
面接指導の強化
これまで労働者に対する医師の面接指導の要件は、1カ月あたりの実働時間が100時間超でした。これが80時間超に引き下げられています。長時間労働が脳疾患や心臓疾患、うつ病やストレスなどと関連しているといわれているためです。
1カ月の実働時間が80時間を超えた労働者から申し出があった場合、事業者は医師の面接指導を実施しなければなりません。
産業医・産業保健機能の強化
50名以上の労働者を使用する事業所は、産業医および衛生委員会を選任しなければなりません。産業医の仕事は労働者のための面接指導や健康相談、健康診断の実施。衛生委員会の役割は、職場環境や労働者の健康と安全を調査し、改善を審議すること。
労働者が50人未満の場合は、産業医の選任は不要です。しかし医師による健康管理に努める必要はあります。
4.労働安全衛生規則の構成
労働安全衛生規則には、安全基準と衛生基準があり、さまざまな業種や職種で共通の事項を定めています。労働安全衛生規則が持つ7つの事項について、確認しておきましょう。
- 安全衛生管理体制
- 機械等並びに危険物および有害物に関する規制
- 安全衛生教育
- 就業制限
- 健康保持・増進のための措置
- 安全衛生改善計画
- 労働安全衛生規則の特別規制について
①安全衛生管理体制
安全衛生管理体制とは、企業の自主的な労働災害防止の取り組みを、組織的かつ効果的に実施するための体制です。
労働者が50人以上の事業所では、危険防止や健康管理を監督する存在として、安全管理者および衛生管理者の専任が義務づけられました。また特定の業種区分かつ事業規模に該当する場合、総括安全衛生管理者の専任が必要です。
②機械等並びに危険物および有害物に関する規制
特定の機械を製造する際、都道府県労働局長による検査を実施し、検査証の交付を受けなければなりません。これらの機械を譲渡や貸与あるいは設置する際は、安全装置を備えるといった対策が義務付けられたのです。
危険物や有害物は労働安全衛生法で制限されており、製造するには厚生労働大臣の許可が必要となります。
③安全衛生教育
安全衛生教育とは、労働者の就業に必要な安全衛生の知識を与える教育のことで、安全管理者や衛生管理者によって実施されます。雇用時や作業内容の変更時、危険な作業や有害な作業に就く時などは必須です。なお安全衛生教育の費用は事業者が負担します。
④就業制限
免許や技能講習、資格などを有していない労働者が特定の危険な業務に従事してはならないと定めています。たとえば発破作業やボイラーの取り扱い、クレーン車の操作やガス溶接などの作業です。
このような危険な特定業務に従事する労働者は、業務遂行時に免許や資格などを証明する書面を携帯していなければなりません。
⑤健康保持・増進のための措置
労働者のより良い健康状態を維持するため、「作業環境を優良な状態に管理する」「労働者の健康管理」「作業の適切な管理」が義務づけられています。
たとえば作業環境における有害物質の量や温度の調査、機器や器具、作業の安全性の調査、労働者の健康診断などです。
⑥安全衛生改善計画
安全衛生改善計画とは、事業所の安全衛生状態を良好にするため具体的な改善法を計画すること。都道府県労働局長が「要改善」と判断した事業所には、安全衛生改善計画の作成が命じられます。
計画で策定すべき内容は、「事業所で認識されている安全衛生の課題やリスク」「経営層の安全衛生に対する方針」「課題やリスクへの対策と実施項目」「実施結果の評価」などです。
⑦労働安全衛生規則の特別規制について
労働安全衛生規則の特別規則では「建築業に所属する事業の元方事業者は、様々な危険防止に努めなければならない」と定めています。
「土砂崩れが起こりそう」「機械が転倒する可能性の高い」場所で業務を行う場合、「標識や合図の統一」「定期的な巡回」「機械や設備を配置する計画の作成」を行わなければなりません。
5.労働安全衛生規則の罰則について
労働安全衛生規則で定められている内容に違反した場合、違反と見なされます。その際にはもちろん罰則が適用されるので、注意が必要です。
3年以下の懲役または300万円以下の罰金
労働者に大きな健康障がいを与える行為が該当するもので、労働安全衛生法違反のなかでもっとも重い刑罰となります。たとえば労働者の意思に反して労働を強制した結果、精神障がいや自殺などが発生した場合です。
また政令で製造や輸入、あるいは譲渡や提供、または使用が制限されているものを使用し、労働者の健康被害を与えた場合も同様となります。
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
「特定の機械や化学物質などを許可なく製造した」「機械の性能検査で使用停止が命じられているにもかかわらず使用した」場合に、罰則が適用されます。
また指定試験機関の役職員や、労働安全あるいは衛生コンサルタントが、職務をとおして得た情報を漏えいした場合も同様です。
6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金
主に安全管理や衛生管理、および教育が不十分であった場合に適用されます。たとえば危険や有害な作業に対する特別教育や作業環境の測定を実施していない場合です。伝染病といった定められている病気にかかった労働者を働かせた場合にも、適用されます。
50万円以下の罰金
罰則は、以下のようなさまざまなケースで見受けられます。
- 安全管理者、衛生管理者などが選任されていない
- 指定された機械に対して、定められたとおりの検査の実施や検査が行われていない
- 安全衛生教育が定められたとおりに行われていない
- 健康診断が実施されていない
- 必要とされる書類や記録が保存されていない
6.労働安全衛生規則を遵守するために必要なこと
労働安全衛生規則を遵守していくためには、安全衛生委員会の設置や企業の安全衛生管理体制の構築などが必須です。詳しく見てみましょう。
安全衛生委員会を設置する
安全衛生委員会とは、 事業者と労働者との間で安全衛生に関して調査や審議を行う組織のこと。労働者が50人以上の事業所では設置が義務付けられています。
安全委員会は、総括安全衛生管理者または事業を統括管理する者のいずれかと、安全管理者、そして労働者の三者で構成されます。
なお衛生委員会は、総括安全衛生管理者または事業を統括管理する者のいずれかと、衛生管理者、そして産業医と労働者の四者で構成されているのです。
安全衛生管理規程を作成する
安全衛生管理規程とは、安全衛生管理にまつわる社内ルールをまとめたもの。安全衛生管理体制や各管理者の職務、安全衛生教育や訓練、日常で行うべき安全衛生管理などを定めています。
労働者が理解しやすい労働災害防止のための規律を作成して、労働者と使用者が一体となって取り組むことが重要です。
安全衛生教育の準備を行う
労働災害を防止するため、事業者は労働者へ安全衛生教育を行わなければなりません。たとえば「安全衛生教育を行うための作業マニュアル作成」「スキル習得の訓練」「講師や教材、教育などの選定」です。
経営者が体制を整える
職場における安全衛生管理体制を整えるためには、事業者が自ら基本方針の策定や周知を行う必要があります。
事業者が安全衛生の重要性を説明してもあまり伝わらない場合、実際に現場に出向き、自分から率先して安全衛生の行動を行うとよいでしょう。