就職や転職を考える際、気になることのひとつが「労働時間」です。働き方スタイルが見直される昨今、労働時間は重要なキーワードになっていますが、実際どういったものなのでしょうか?
ここでは
- 労働基準法における労働時間
- 勤務時間との違い
- 労働時間判定のポイントと具体例
- 勤怠管理の基礎
について掘り下げます。
目次
1.労働時間とは?
労働時間とは雇用主の指揮命令下で被雇用者(労働者)が会社のために働く時間のこと。この場合、労働時間から休憩時間は除きます。また労働時間は、労働基準法によって上限時間が定められており、雇用主は遵守しなくてはなりません。
労働基準法第32条、労働基準法第119条
労働時間は労働基準法第32条と労働基準法第119条に紐付いています。労働基準法第32条では、労働時間は休憩時間を除いて1週間につき40時間、1週間の各日について8時間を超えないことが原則と定められており、雇用主はこれを遵守する義務があるのです。
労働基準法第119条では上記に違反すると、雇用主に6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を処すと定められています。
休憩時間の定義
休憩時間とは、被雇用者(労働者)が業務を離れ、心身の回復を図るために設けられた時間のこと。休憩時間は雇用者の監督下においても、自由に労務から離れることができます。
拘束時間とは?
拘束時間とは、始業から終業までの雇用主の監督下にある時間を指し、実働時間と休憩時間を合計した時間のこと。つまり休憩時間は拘束時間に含まれるのです。
2.勤務時間と労働時間の違い
雇用に関する情報項目でよく見かける勤務時間と労働時間。ここではこの2つの相違点を説明します。
- 勤務時間:企業の就業規則に定められている、始業時刻から終業時刻までの時間
- 労働時間:上記の勤務時間の中から休憩時間を差し引いた時間
3.所定労働時間と法定労働時間の違い
所定労働時間と法定労働時間も混同されやすいワードです。ここではこの2つの相違点について説明しましょう。
- 所定労働時間:就業規則や雇用契約書などの契約で定められた始業時間から終業時間までの時間(休憩時間を除く)
- 法定労働時間:国で決めた労働時間の制限で、雇用主(企業)は「1日8時間、1週間40時間」の範囲内であれば自由に所定労働時間を設定できる
法定労働時間より所定労働時間が短い企業事例
日本では所定労働時間を8時間と定める企業が多いですが、昨今では法定労働時間より所定労働時間が短い企業もあります。ここではそのケースの例として、ZOZO社をご紹介しましょう。
ZOZO社では9時始業、15時終業の6時間労働制を導入しています。就業規則上は8時間労働制ですが「6時間で業務を終了してもよい」という規則を定めており、6時間労働でも8時間分の給与が支払われているのです。
4.変形労働時間制とは?
最近の求人広告でよく登場するようになった変形労働時間制。実際にどのような働き方なのかしっかり理解している人は多くないでしょう。ここでは改めてこの制度について詳しく掘り下げます。
変形労働時間制とは雇用主(企業)の繁忙期と閑散期がある程度決定している場合において、その時期に合わせて勤務する期間や時間を設定できるもの。
労働時間の設定に柔軟性を持たせ、週休二日制や休日数の増加、業務の繁閑に沿った労働時間の配分を実施して長時間労働を削減しようとするものです。現状では以下の4つに分類されます。
- 1カ月単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制
フレックスタイム制における労働時間
フレックスタイム制とは、あらかじめ労使協定で定めた働く時間の総量(平均労働時間)を決めた上で、日々の出勤・退勤時間や働く時間を被雇用者(労働者)が自由に決めることができる制度のこと。
英語の「flex(柔軟な)」という意味にあるように、仕事の状況や私用の予定に合わせて柔軟に労働時間を調整できるのです。企業がフレックスタイム制を導入する際、就業規則に規定を記すことが定められています。
フレックスタイム制とは?【どんな制度?】ずるい?
フレックスタイム制とは、従業員が始業・終業時刻などの労働時間を自ら決められる勤務体系のことです。
目的、導入率、メリット・デメリット、働き方改革関連法による新フレックスタイム制、導入方法などについて紹...
5.みなし労働時間制とは?
みなし労働時間制とは被雇用者(労働者)が職場や事業場以外で業務を行い、実際にかかった労働時間ではなく、あらかじめ設定しておいた時間分の労働をしたものとみなす制度のことで、現在、以下の3種類があります。
- 事業場外労働のみなし労働時間制
- 専門業務型裁量労働制
- 企画業務型裁量労働制
労働基準法では所定労働時間を原則としていますが、その所定労働時間を超えることが見込まれるケースでは、通常必要となる時間がみなし時間とされるのです。
①事業場外労働のみなし労働時間制
事業場外労働のみなし労働時間制とは、被雇用者(労働者)の業務が会社や事業場以外で行われるなど、被雇用者の労働時間の把握が難しい場合に、あらかじめ決められた時間分を労働したと見なす制度のこと。
労働基準法ではこの事業場外で労働した時間は、1日単位で決める必要があると義務付けています。
②専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、専門性の高い性質を持つ業務に就いている被雇用者(労働者)に対し、あらかじめ労使協定で定めを行った場合は、その協定で定めた時間分を働いたものと見なす制度のこと。以下のような業種が代表例です。
- 取材・編集
- デザイナー
- 研究開発
- システムコンサルタント
- ゲーム用ソフトウェア開発
- インテリアコーディネーター
- 証券アナリスト
- 建築士
- 弁護士
- 税理士
③企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制とは、事業運営に関する決定が行われる企業の本社などにおいて、「企画・立案・調査及び分析」を行う従業員(労働者)を対象にした制度のこと。
また、労働基準法では企画業務型裁量労働制を導入できる企業(事業場)は「対象業務が存在する事業場」と定められています。本社・本店の事業場あるいは該当する事業場が属する、企業の事業運営に多大な影響を及ぼす決定が行われる事業場とされているのです。
6.労働をしない労働時間とは?
実際に業務をしなくとも、労働者が雇用主の指揮命令下にあり労働をしていない時間、すなわち作業と作業の間の待機する必要がある時間を「手待ち時間」といいます。
休憩時間と手待ち時間の違い
休憩時間とは、雇用者の指揮命令下から完全に解放され、労働者が自由に過ごせる時間のこと。一方で実際に業務していなくても、雇用者からいつ就労の要求があるかもしれない状態で待機している時間を「手待ち時間」といいます。
具体例
運送業などで、ドライバーが荷物の積み降ろしを待つ時間が「手待ち時間」に該当します。実際には、労働をしていないことになりますが、客からの呼び出しがあればすぐに作業に取りかからなくてはならないため、雇用主の指揮命令下にあると考えられるのです。
従って、手待ち時間も労働時間と見なされます。また業務から離れていても、電話に応答する必要がある時間も手待ち時間に該当します。
7.労働時間判定のポイント:使用者の指揮命令下
労働基準法における労働時間とは、休憩時間を除いた実働時間を指します。雇用者の指揮命令下にあるかどうかが労働時間判定の重要なポイントです。
雇用者からいつ就労の要求があるかもしれない状況、いわゆる「手待ち時間」や作業前後の準備・整理などの時間あるいは労働者が自由にその場を離れられない間は、雇用者(使用者)の指揮下にあるものとして労働時間と見なされているのです。
また労働基準法施行規則第22条では出張や職場・事業場外における業務など労働時間の算定が困難な場合は、雇用者(使用者)の特別な指示がない限り、通常の労働時間を就労したものと定義しています。
8.間違えやすい! 労働時間として認められる時間
ここでは意外と間違えやすい、労働時間として認められる時間について以下の例を使ってご紹介します。日頃、始業前の着替えや準備、終業後の掃除や後片付けなどを行う人も多いでしょう。改めてチェックしてみませんか?
- 始業前・終業後
- 研修時間
- 自発的残業時間や持ち帰りの残業時間
- 仮眠時間
①始業前や終業後の時間
企業や事業所で制服着用が義務付けられている場合、始業前に制服に着替える場合があるでしょう。この始業前の着替えも厳密には、労働時間に含まれます。
また始業10分前から始まる朝礼に参加義務がある、終業後に清掃を命じられているようなケースなども、その時間は労働時間に含まれるのです。
始業前後の労働時間に関する判例
各企業や事業所によって曖昧になりがちな労働時間。特に始業、終業前後の準備や後片付けなどの扱いについては、就職や転職前にしっかりと雇用主に確認しておきたいところです。
労働時間に焦点を当てた判例も多くあります。「三菱重工長崎造船所事件」(最高裁平成12年3月9日判決)を例にご紹介します。
労働者は雇用主から、就業を命じられた業務の準備行為などを事業所内にて実施すると義務付けられていました。しかしそれらは、該当する所定労働時間外において行うものとされていたのです。
裁判所の判断は、業務との関連性の有無、業務上の必要性の程度、法令上の義務の存否、就業規則・内規上の根拠の存否、強制的契機があるか否かなどによって判断されたと当時注目を集めました。
②研修時間
企業・事業所(雇用主)が命じる研修時間は、労働時間に当たるのでしょうか?これに関しては「出席が強制かどうか」という点が判断のポイントになります。業務の一環として雇用主の指示で研修に参加する場合、労働時間と見なされて賃金が発生するのです。
また研修時間が夜間になる、深夜手当や宿泊費、交通費がかかる場合、雇用主がそれを負担する必要があります。出席の強制がない「自由参加」によるものであれば、時間外労働にはならないというケースもあるのです。
研修時間に関する判例
ここでは研修時間に関する代表的な判例を「昭和26年1月20日基収2875号、平成11年3月31日基発168号」からご紹介しましょう。
争点は、雇用主(使用者)が自由意思によって行う従業員(労働者)の技能水準向上のための技術教育を所定時間外に実施する点。
これについては、就業規則上の制裁などの不利益取り扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働には当たらないという判断になりました。
③自発的残業時間や持ち帰りの残業時間
上司の許容がある場合や、客観的に残業をしなければ仕事が終わらない場合、残業時間に当たり残業代を請求できます。
従業員の私的な場所である自宅などで行われる持ち帰り残業は、雇用主の指揮命令下に置かれているとはいえず、原則、労働時間には該当しません。雇用主からの業務の指示に承諾して業務を行った場合、労働時間に該当する可能性があります。
④仮眠時間
従業員は、雇用主の指揮命令下に置かれているといえる状況であれば仮眠時間も労働時間に当たると判断されます。深夜勤務、夜勤の合間などに設けられた実作業に従事していない仮眠時間もこれに当たるのです。
9.労働時間として認められない時間の具体例
労働時間として認められない時間の具体例は、下記の通りです。
- 通勤時間
- 休憩時間
- 自由参加の研修
- 出張の移動時間
上記の時間が労働時間に含まれると認められなかった過去の裁判の判例「最高裁第一小法廷平成30年7月19日判決」もあります。
10.年次有給休暇は労働時間にカウントされる?
年次有給休暇とは労働基準法第39条で認められた権利のことで、行使により賃金が支払われる休暇を取得できます。年次有給休暇は実労働時間にはカウントされませんが、所定労働時間にはカウントされます。
11.時間外労働時間(残業時間)とは?
時間外労働時間(残業時間)とは労働基準法で定められた労働時間(原則的に1日8時間、1週40時間)を超えて行われた残業のこと。本来決められている労働時間以外に働くことで、定時を超えて働く残業と同じような意味を持ちます。
時間外・休日労働に関する協定(36協定・サブロク協定)とは?
時間外・休日労働に関する協定(36協定・サブロク協定)とは、「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えた労働(残業)を可能にするための、雇用主と労働者の間での協定を意味します。
企業や事業場に過半数の労働者で構成される組合がある場合、その組合あるいは事業場の過半数労働者の代表者が雇用主側と書面で協定し労働基準監督署に届け出た場合に、法定労働時間を超えて労働させることができるというもの。
時間外労働の上限
一方、時間外労働における上限もあります。
36協定(サブロク協定)は、残業時間の上限を原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がない場合、これを超えることはできないと定めています。また臨時的な事情があったとしても以下を超えることはできません。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内 休日労働を含む
- 月100時間未満 休日労働を含む
上記の月80時間は、1日当たり4時間程度の残業に相当するものです。また原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月までとされています。
12.労働時間に関するトラブルの例
ここでは「労働時間」に関するトラブルについてご紹介します。
長時間労働における過労死や精神疾患
長時間労働が原因となった過労死や精神疾患は昨今のニュースでも度々報道されています。
長時間労働が続くことで、精神・身体共に衰弱します。積もり積もると業務効率が低下するだけでなく、心身の不調(うつ病)などを引き起こし、さらには過労死のリスクを高めます。
みなし労働時間制における残業代の未払い
みなし労働時間制とは、雇用主(企業)が従業員(労働者)の正確な残業時間を把握できない場合において、従業員の残業時間をあらかじめ定めておくこと。
あらかじめ見込んだ時間分を働いたと見なす労働時間制度ですが、設定された残業時間より多く残業しなければならないというケースもあり、結果的に残業代未払いが発生するといったトラブルの要因にもなりやすいのです。
13.労働時間の計算方法
労働時間は1年間の合計の所定労働時間を12(1年分の月数)で割り、1カ月当たりの平均の所定労働時間から算出できます。労働基準法では事業主が従業員に給与を支払うにあたっては、支払上のルールが定められているのです。
賃金全額払いの原則
労働基準を定める日本の法律が労働基準法です。日本国憲法第27条第2項の規定に基づいており1947年に制定。労働組合法、労働関係調整法と合わせて労働三法と呼ばれています。
労働基準法では、賃金は対象期間に応じてその全額を支払われる必要があり、原則として金額の控除は認められていません。
例外的に法令による税金や保険料の控除、労使協定で定めた場合に行う控除が挙げられますが、このケース以外にも労働時間の通算時における端数処理が認められています。
労働時間の計算における端数処理について
端数処理とは、給与の計算途中において算出された数値を一定のキリがいい数値に置き換える行為のことで、端数処理を行っても労働基準法違反になりません。
「切り捨て」あるいは「切り上げ」を使用した給与計算が必要であり、定められている処理方法以外で行うと労働基準法違反になる可能性もあります。
労働時間の端数処理の具体例
ここでは労働時間の端数処理の具体例をご紹介しましょう。
端数処理の例として下記のようなケースがあります。
たとえば1カ月の間に従業員が行った時間外労働、休日労働、深夜労働におけるそれぞれの時間数を合計し、その数値に1時間未満の端数が発生した場合、30分未満の数値を切り捨てて1時間に切り上げることができます。
端数処理は割増賃金の計算においても認められています。1カ月間の時間外労働や休日労働、深夜労働から算出されたそれぞれの割増賃金の総額に1円未満の端数が発生した場合、1円未満の数値を四捨五入することとされているのです。
この割増賃金で認められた端数処理方法は「労働基準法第37条」に定められています。
14.世界における日本の労働時間
ここでは世界における日本の労働時間について掘り下げて説明しましょう。
下記の図表から分かる徹り、日本の平均年間総実労働時間(就業者)を中期的に見ると、1988年の改正労働基準法の施行をきっかけに労働時間は着実に減少を続けています。
2009年には1,714時間を記録し、その後若干増加したものの 2016年では1,713時間となっています。
また主要諸外国についても減少、横ばい傾向を示しており、2016年はアメリカ1,783時間、イタリア1,730時間、イギリス1,676時間、スウェーデン1,621時間、フランス1,472時間、ドイツ1,363時間となっています。