労務管理システムは、従業員の勤務時間の記録や休暇管理、社会保険や労務手続きなど、人事労務管理に関わる多岐にわたる業務をサポートします。これにより、人事労務担当者の作業効率が向上し、法令遵守の観点からも企業のリスク管理にも貢献します。
しかし、労務管理システム導入時には、自社の規模や業種、必要とする機能、予算など、複数の要素を考慮する必要があります。また、システムの使いやすさや、既存のシステムとの互換性、サポート体制なども重要な比較ポイントです。
そこでこの記事では、労務管理システムの種類や機能、選定における重要なポイントや導入の流れを解説します。
目次
1.労務管理システムとは?
労務管理システムとは、従業員の勤務時間や給与の管理、社会保険や労働保険の手続き、就業規則の作成や管理、年末調整の作成サポートなど、労務関連業務を効率的に管理するためのシステムです。
このシステムを導入すると、従業員の勤怠情報や健康状態を正確に把握できるだけでなく、福利厚生管理、労使関係、安全衛生管理を一元化でき、人事労務担当者の業務負担を大幅に軽減できます。
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2.労務管理システムの種類
労務管理システムの種類には、オンプレミス型とクラウド型があります。これらの違いについて詳しく紹介します。
オンプレミス型
オンプレミス型は、企業が自社のサーバーにシステムを設置し、管理する形態です。最大の特徴は、データの管理を完全に自社で行えるため、セキュリティ面での心配が少ない点にあります。
しかし、システムの導入やメンテナンスには専門知識が必要であり、初期投資も高額になる傾向があります。
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クラウド型(SaaS)
クラウド型は、インターネットを通じてサービス提供者のサーバー上でシステムを利用する形態です。この方式の利点は、初期投資が少なく、システムの更新やメンテナンスをサービス提供者が行うため、企業側の手間が省ける点です。
また、場所を選ばずアクセスできる柔軟性も魅力の一つ。企業がクラウド型の労務管理システムを導入した場合、コスト削減とともに、従業員が自宅から勤怠管理を行うテレワークの導入が容易になります。
しかし、クラウド型はインターネットの接続がないと利用ができません。また、オンプレミス型と比べると、カスタマイズの自由度は低いです。
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3.労務管理システムの機能
労務管理システムを導入することで、各種手続きや書類の作成を効率化できます。ここでは、労務管理システムの主な機能を紹介します。
入退社手続き
労務管理システムにおける入退社手続きの機能は新入社員の情報登録から退職者の情報管理まで、従業員の雇用ライフサイクル全般をサポートします。
システムを通じて、必要な書類の作成、提出、承認プロセスがデジタル化され、手続きを迅速かつ正確に進められます。
たとえば、新入社員が入社する際には、個人情報、給与情報、健康保険や雇用保険への加入情報など、多岐にわたるデータの入力が必要となります。労務管理システムを利用すれば、これらの情報を一元的に管理し、関連する各種手続きを効率的に行えるのです。
また、退職時には、退職に伴う書類の作成や最終給与の計算など、複雑な手続きが必要となります。しかしシステムを活用すると、これらのプロセスもスムーズに進められます。
雇用契約書の作成・締結
雇用契約書の作成・締結機能は、労務管理システムの中でも特に重要な機能です。企業は雇用契約書のテンプレートを事前にシステム内に設定し、新入社員ごとに必要な情報を入力するだけで、かんたんに契約書を作成できます。
さらに、電子署名機能を備えたシステムを使用することで、物理的な書類のやり取りを行うことなく、雇用契約の締結を完了可能です。
また契約書のデジタル化により、契約書の保管や管理も容易になり、必要なときにすぐアクセスできるというメリットもあります。
Web給与明細の配布
従来、紙ベースで行われていた給与明細の配布を、Web上で行えるようになります。これにより給与明細の印刷、封入、配布といった手間が省けるだけでなく、従業員はいつでもどこでも自分の給与明細を確認可能になります。
社会保険・労働保険の手続き
社会保険や労働保険の手続きは、企業にとって複雑で時間を要する業務の一つ。労務管理システムを利用すると、これらの保険の加入手続きや変更手続きをかんたんかつ迅速に行えます。
システムは従業員の情報を基に必要な書類を自動で生成し、オンラインでの提出をサポートします。これにより、手続きの正確性が向上し、企業のコンプライアンス体制の強化にも寄与します。
また従業員は自分の保険の加入状況をシステム上で確認できるため、透明性が高まります。
年末調整の手続き
年末調整は、従業員一人ひとりの所得税の精算を行う重要なプロセスです。従業員はオンラインで必要な情報を提出し、システムはこれらの情報をもとに自動で計算するため、年末調整の手続きが大幅に簡素化されます。
使用中の給与ソフトと連携させると、所得税や控除額も自動で算出できます。法改正や税制改正、書類の様式変更にも自動で対応できるので安心です。また下記のような悩みから解放されるでしょう。
- 年末調整の書類を従業員から期日までに収集できない
- 書類の記入ミスや文字が読みにくいことでの差し戻しが多発
- 紙の書類の保管が大変
マイナンバーの管理
マイナンバー制度の導入により、企業は従業員のマイナンバーを適切に管理することが法律で定められています。労務管理システムを利用すると、マイナンバーの収集、保管、利用の各プロセスを安全かつ効率的に行えます。
システムは高度なセキュリティ対策を備えており、不正アクセスや情報漏えいのリスクを最小限に抑えられます。
4.労務管理システム導入のメリット
ここからは、労務管理システム導入で得られるメリットをより詳しく見ていきましょう。
書類作成・管理時間を短縮
労務管理システムの導入は、書類作成と管理の時間を大幅に削減できます。
従来、人事部門は従業員の入退社手続き、勤怠記録、給与計算などにかかわる多数の書類を手作業で作成し、管理していました。これらのプロセスは時間がかかるだけでなく、ヒューマンエラーのリスクも伴います。
しかし、労務管理システムを導入すると、これらの業務がデジタル化され、自動化されます。従業員の情報を一元管理し、必要に応じて書類を自動生成できるため、人事部門の作業負担が軽減し、より重要な業務に集中できるようになります。
給与計算をサポート
基本的に給与計算については、労務管理システムとは別の給与計算システムを利用するか社労士等に依頼することになります。
労務管理システムを導入していれば、従業員の勤務時間、残業、休暇などのデータを正確に追跡できるため、給与計算をサポートできます。給与計算のミスを大幅に減少させ、計算プロセスをスピードアップします。
ペーパーレス化で文書保管も簡単
労務管理システムの導入によるペーパーレス化は、文書の保管と管理をかんたんにします。給与明細、勤怠記録、人事ファイルなど、従来、紙ベースで管理されていた多くの文書がデジタル化されます。
これにより物理的な保管スペースの削減、文書へのアクセスの容易さ、情報の検索効率の向上などのメリットがあります。
また、災害時のリスク管理においても、デジタルデータのバックアップと復旧が容易になり、企業の重要な情報を保護できます。さらに、環境にも優しく、コスト削減にも貢献します。
人事労務全体を効率化
労務管理システムは、人事労務業務全体の効率化を実現します。従業員の勤怠管理、給与計算、福利厚生管理など、人事労務にかかわるあらゆるプロセスがシステムによってサポートされます。これによりデータの一貫性が保たれ、情報の二重入力や矛盾を防げるのです。
また、システムの分析ツールを使用すると、従業員の勤務パターン、給与コスト、人材の流動性などに関する情報を得られ、より戦略的な人事政策の策定が可能になります。
5.労務管理システム導入のデメリット
労務管理システムの導入は、企業にとって多くのメリットをもたらすものの、デメリットに対する適切な対策と準備も必要です。導入する際に問題にならないか、事前に確認しておきましょう。
クラウド型の場合インターネット接続が必要
クラウド型労務管理システムの最大のデメリットは、インターネット接続が必要なことです。インターネットが不安定な場所では、システムへのアクセスが困難になることがあります。
また、サイバーセキュリティの脅威に対しても、つねに警戒し、適切な対策を講じる必要があります。データの暗号化、アクセス制御、定期的なセキュリティ監査など、クラウドサービスプロバイダと協力して、データ保護のための措置を講じることが重要です。
自社に合ったシステムの導入が必要
労務管理システムには、さまざまな種類が存在するため、自社のニーズに合ったシステムを選択することが重要です。不適切なシステムを選択すると、期待した効果を得られず、投資の無駄につながる可能性もあります。
システム選択時は、従業員の数、業種、必要な機能、予算などを考慮し、複数のシステムを比較検討することが推奨されます。また、将来的な事業拡大や変化に対応できる柔軟性も、システム選択の重要な要素です。
従業員の教育が必要
労務管理システムの導入には、従業員への教育が伴います。とくに、システム操作に不慣れな従業員にとっては、新しいツールの習得がストレスとなることがあります。
効果的な導入には従業員向けのトレーニングプログラムの提供、質問や不明点に対するサポート体制の整備が必要です。
また、従業員からのフィードバックを収集し、システムの改善に反映させることで、従業員の受け入れを促進し、システムの利用効率を高められます。
6.労務管理システムの料金形態・導入費用
ここからは、労務管理システムの料金体系や導入費用をみていきます。
労務管理システムの料金形態
労務管理システムの料金形態は、提供されるサービスの種類や機能、利用するユーザー数によって大きく異なります。一般的には、以下のような料金形態が存在します。
- 月額固定費用型
- 従量課金型
- 初期費用+月額費用型
①月額固定費用型
システムの利用にあたって、毎月一定の料金を支払う形態です。ユーザー数や利用する機能に応じて、複数のプランが用意されていることが多いです。
②従量課金型
実際に利用した分だけ料金が発生する形態です。たとえば、従業員の人数が増えるごとに料金が増加するなど、利用規模に応じて料金が変動します。従業員の人数が増える場合のシステム料は、1ユーザー当たり300円~600円程度が相場です。
③初期費用+月額費用型
システム導入時に一定の初期費用が発生し、その後は月額で利用料金を支払う形態です。初期設定やカスタマイズに関わる費用が初期費用として設定されることがあります。
労務管理システムの導入費用
労務管理システムの導入費用は、選択するシステムの種類や必要な機能、企業の規模によって大きく異なります。一般的に考慮すべき費用は以下の4つです。
- 初期導入費用
- 月額利用費用
- 追加機能やカスタマイズ費用
- メンテナンス・サポート費用
①初期導入費用
システムのセットアップやカスタマイズ、従業員への研修など、導入初期に必要な費用です。これには、ハードウェアの購入費用や、外部コンサルタントへの支払いが含まれる場合があります。
②月額利用費用
システムを継続的に利用するための費用です。サービスプロバイダによっては、利用する機能や従業員の人数に応じて料金が変動します。
③追加機能やカスタマイズ費用
特定のニーズに合わせて、システムに追加機能を導入したり、カスタマイズを行ったりする場合に発生する費用です。
④メンテナンス・サポート費用
オンプレミス型のみ必要となるもので、システムの定期的なメンテナンスやアップデートにかかわる費用です。これは、システムの安定性やセキュリティを維持するために重要です。メンテナンス・サポート費用は初期費用や月額利用料に含まれる場合もあります。
クラウド型では、メンテナンス・サポート費用は必要ありません。
7.労務管理システム導入の流れ
労務管理システムの導入は、企業運営において大きなメリットをもたらします。その成功の鍵は慎重な準備と計画です。下記のステップを踏むと、自社に最適なシステムを選び、スムーズな導入と運用を進められるでしょう。
- 自社に必要な機能を洗い出す
- 労務管理システムに連携させたい自社システムを見直す
- 労務管理システム導入の予算を決める
- 導入検討のシステムについて比較する
- 試験導入し本導入するシステムを選ぶ
①自社に必要な機能を洗い出す
導入前の最初のステップは、自社に必要な機能を明確にすること。
勤怠管理、給与計算、人事情報管理、休暇管理など、どの機能が必須であるかを洗い出します。このプロセスでは、現場の声を集めることが重要で、実際に業務を行う従業員の意見を反映させることで、より実用的なシステム選定が可能になります。
②労務管理システムに連携させたい自社システムを見直す
次に、労務管理システムと連携させたい既存の自社システムを見直します。会計ソフトなどほかシステムとのデータ連携が必要な場合、連携可能な労務管理システムを選ぶ必要があります。システム間の互換性を確認し、スムーズなデータのやり取りが可能かを検討します。
③労務管理システム導入の予算を決める
労務管理システムの導入には、初期費用とランニングコストがかかります。予算計画を立てる際はこれらのコストを総合的に考慮し、長期的な視点でのコストパフォーマンスを評価します。予算内で最大の効果を得られるシステムを選定します。
④導入検討のシステムについて比較する
必要な機能、予算、既存システムとの連携可能性を踏まえたうえで、複数の労務管理システムを比較検討します。この段階では各システムの特徴、料金体系、サポート体制などを詳細に調査し、自社に最適なシステムを選ぶための情報を収集します。
⑤試験導入し本導入するシステムを選ぶ
最終的に、候補となる数社のシステムについて試験導入を行います。まずは、小規模で試験導入をしてみましょう。試験導入を通じて、実際の業務フローにおけるシステムの適合性、使いやすさ、問題点などを確認します。
このフィードバックをもとに、最終的に本導入するシステムを選定します。試験導入は、導入後のトラブルを未然に防ぐためにも重要なプロセスです。
8.労務管理システムの選び方・比較ポイント
労務管理システムを選ぶ際には、自社のニーズに合ったシステムを選定することが重要です。以下に、選定時の主要な比較ポイントを挙げます。
初期費用およびランニングコストが自社に見合っているか
労務管理システムを導入する際の最初の検討点は、コストの問題です。初期費用とランニングコストを合わせて、長期的な視点でコストパフォーマンスを評価する必要があります。予算に合わせて、最適な料金プランを提供するシステムを選ぶことが重要です。
必要な機能がそろっているか
次に考慮すべき点は、自社が必要とする機能がシステムにそろっているかどうか。勤怠管理、給与計算、人事情報管理、休暇管理など、企業が求める基本的な機能はもちろん、将来的に必要になる可能性のある機能も考慮に入れる必要があります。
セキュリティ対策も重要なポイントとなるため、導入時は必ず確認しましょう。また、法改正などに柔軟に対応できるシステムかどうかも重要なポイントです。
使いやすいか
システムの使いやすさも重要な選定基準です。直感的な操作性、見やすいインターフェース、必要な情報へのアクセスのしやすさなど、日常的にシステムを使用する従業員の負担を軽減する設計になっているかを確認しましょう。
実際にデモ版を試用することで、操作性を事前に確認することが推奨されます。
既存システムとの連携が可能か
既存のシステムや他のビジネスツールとの連携が可能かどうかも重要な選定基準です。たとえば会計ソフトとのデータ連携がスムーズに行えるかどうかを確認することで、業務の一元管理が可能になり、作業の効率化が図れます。
システム選定時には、APIの提供やカスタマイズの可否についても確認しておくと良いでしょう。
電子申請(e-Gov)に対応しているか
電子申請(e-Gov)への対応は、社会保険の手続きや税関連の申告など、政府への各種申請をオンラインで行え、手続きの効率化が図れます。電子申請に対応していると、紙ベースの手続きに比べて時間とコストを削減できます。
労務管理システムを選定する際には、これらのポイントを総合的に検討し、自社の現状と将来のビジョンに最も合致するシステムを選ぶことが重要です。
適切なシステムを選定することで、労務管理の効率化はもちろん、従業員の満足度向上や業務プロセスの最適化にも寄与します。