労務問題(トラブル)とは、従業員対企業、あるいは従業員同士で起こるトラブルのこと。労務問題は従業員の安全や健康を損ねるだけでなく、人材流出や企業イメージの低下など、企業にとってさまざまなリスクをもたらします。
今回は労務問題(トラブル)について、労務問題の種類や具体例、対応方法や未然に防ぐ方法などを詳しくご紹介します。
目次
1.労務問題(トラブル)とは?
労務問題とは、企業と従業員間、従業員同士で起こるトラブルのこと。代表例にパワハラや解雇、懲戒処分などがあります。
労務とは、給与や労働時間、人間関係や健康問題など、働くうえで必ずかかわるものであり、労務問題が起こると企業側は解決のために大きな労力がかかります。
また、大きな問題であるほど企業イメージへの影響も大きく、場合によっては裁判にも発展する恐れがあるなどさまざまなリスクがあるのです。
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労務問題の現状
厚生労働省「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、令和3年の総合労務相談件数は124万2,579件でした。
内訳は、法制度の問い合わせが83万8,913件、労働基準法等の違反の疑いがあるものが17万70件、民事上の個別労働紛争相談件数が28万4,139件です。
民事上の個別労働紛争における相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全項目で「いじめ・嫌がらせ」の件数が最多となり、人間関係における労務問題が顕著であるとわかります。
2.労務問題の種類と具体例
起こりうる労務問題の種類は、以下のようにさまざまです。ここでは、労務問題の種類と具体例をご紹介します。
- 労働時間・休暇に関する労務問題
- 休職に関する労務問題
- ハラスメント・人間関係に関する労務問題
- 賃金に関する労務問題
- 採用・入社に関する労務問題
- 解雇に関する労務問題
労働時間・休暇に関する労務問題
- 休日出勤を強要する
- 過労死ラインを超える残業が発生している
- 有給休暇の取得が認められない
長時間の残業や有給休暇に関する労務問題は、起こりやすい内容です。長時間労働を防ぐため労働基準法では法定労働時間が定められており、上限を超えた場合は6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます。
また、休日出勤が多く休日が少ない、有給休暇が取得できないといった労務問題も多くみられます。長時間労働や休日がないといった問題は、過労死や健康被害のリスクにつながる重大な問題です。
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休職に関する労務問題
- 会社側が休職を認めない
- 従業員が休職、復職を繰り返す
- 従業員が休職命令に応じない
うつ病のメンタルヘルスの不調により、休職する人も珍しくありません。休職制度は法律による定めがないため、取得条件や期間などは企業側が任意で決められます。
一方、休職制度がそもそもない、あっても基準が曖昧で一律の対応ができないなど、従業員側の休職要望が通らないなどすると労務問題に発展する場合もあるのです。こうした労務問題を防ぐには、就業規則で休職制度の内容をしっかりと定義することが必要でしょう。
休職とは? 休職理由、手当金の申請・計算方法について
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1.休職の定義とは?
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ハラスメント・人間関係に関する労務問題
- 上司からパワハラを受けている
- 同僚からいじめを受けている
近年増加しているのがハラスメントといった、人間関係に関する労務問題です。ハラスメントやいじめ、嫌がらせのような人間関係のトラブルは、安全配慮義務違反あるいは職場環境整備義務違反として企業が責任に問われます。
近年はセクハラやモラハラだけでなく、マタハラやアルハラなどハラスメントの種類も増加。たとえばパワハラには認定基準があるため、基準を満たさない場合は認められないケースもあるものの、従業員から申し出があった以上、企業は何らかの対応が必要です。
ハラスメントとは? 意味や定義、種類一覧、実態、対策を簡単に
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賃金・給与に関する労務問題
- 残業代の未払い
- 給料の未払い
- 不当な賃金カット
- 規定にない退職金を要求される
経営不振による賃金未払いや不当な賃金カットなど、残業代の未払いは法律違反です。一方で、必ずしも支払い義務があるわけでない退職金を要求され、応じないことで訴えると従業員に脅されるようなケースもあります。
規則にない賃金カットのような不当なケースは企業側の責任になるものの、企業側に問題がなくとも訴えるといわれるケースも珍しくありません。賃金は生活にもかかわる重要な要素であるため、従業員側も敏感になってしまうのです。
給与とは?【意味を簡単に】給与所得控除、計算方法、手取り
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採用・入社に関する労務問題
- 採用内定通知後に内定が取り消された
- 試用期間中に解雇された
入社前の段階でも労務問題に発展する恐れもあります。たとえば、内定通知後の取り消しは基本的にあってはなりません。しかしどうしても必要な場合は和解金の支払いにより解決可能です。
また、試用期間中の解雇なども労務問題に発展しやすい内容でしょう。試用期間があれば入社日から14日は解雇予告の手続きなく解雇できるものの、それ以外かつ就業規則に記載がない場合は試用期間を理由に解雇はできません。
ただし、企業側は就業規則に記載があるからと、どのような理由でも採用を拒否できるわけではない点に注意が必要です。
内定取り消しとは?【会社都合の取消が認められる条件(理由】
一般的に採用や役職への就任が正式に決まる前に「内定」が出されます。しかし、対象者の都合や企業側の都合から内定が取り消しとなる場合もあるのです。
ここでは、
法的・社会的通念から内定の取り消しが認めら...
解雇に関する労務問題
- 就業規則での周知なく懲戒解雇処分にされた
- 業績悪化のためにパート社員を整理解雇した
- 無理な解雇を強要する
さまざまな理由で解雇が発生する場合もあるものの、解雇は労務問題に発展しやすいため要注意です。労働者は労働基準法で守られており有利な立場になりやすいため、強気に出られる可能性もあります。
また、経営者の独断では解雇できず、安易な解雇は不当解雇として訴えられる恐れも。従業員側に問題があったとしても、安易な解雇は控えるべきといえます。
さらに従業員の訴えによって解雇が無効になると、それまで支払われる予定だった賃金の支払い義務が発生し、大きな損失が起こるでしょう。
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3.労務問題が起こってしまった際の対応の流れ
企業側がしっかり対策していても、労務問題が発生してしまう場合もあります。労務問題が起こってしまった際に備え、対応の流れを確認しておきましょう。
- 現状把握
- 過去事例の確認
- 第三者機関や専門家に相談
①現状把握
まず行うべきは、関係者へのヒアリングによる現状把握です。どんな問題が起こっているのか、原因は何か、結果どうなっているか事実を確認しましょう。時系列を整理して労務問題の全体像を把握し、その後は対象者の勤怠状況といった必要な情報を調査します。
関係者へのヒアリングをおろそかにしたり、企業側に有利になるよう従業員側の事実を聞き入れなかったりすると、より問題が複雑化してしまいます。従業員側も企業への信用を失い、問題を大きくしてしまう恐れもあるため入念に現状把握を行いましょう。
②過去事例の確認
次に、就業規則や類似した過去の事例を確認します。まずは就業規則を確認し、労務問題にあたると判断できる客観的根拠を見つけます。過去に類似した事例があれば、その時の対応や結果を確認して今回の労務問題の対応に生かしましょう。
③第三者機関や専門家に相談
まずは、当事者間の話し合いでの解決を目指します。しかし、企業側と従業員側で言い分が異なる場合もあるため、話し合いが困難になるケースも多いもの。
そうした場合に備えて、法律の専門家や働基準監督署や労働委員会などの第三者機関を仲介してもらうのもひとつの方法です。それでも解決しない場合は、訴訟や民事調停、労働裁判での解決となります。
4.労務問題対応の注意点
労務問題に対応する際は、以下に気をつけましょう。
多様な価値観を受け入れる
近年は男性の育児休業や女性の管理職進出など、価値観の多様化も進んでいます。そのため、労務問題においてもこれまで事例になかったことが増えるでしょう。
過去事例に囚われず、多様な価値観を受け入れて時代に即した臨機応変な対応が求められます。とくに、性別による価値観に囚われず、労務問題の本質をしっかりと見極めることが大切です。
証拠の改ざん・隠蔽をしない
企業は労務問題に対して、誠実かつ公正な対応が求められます。企業側からすると損失はなるべく抑えたいと思うのが本音かもしれません。だからといって証拠の改ざんや隠蔽は厳禁です。
そのときに損失を小さくできても、あとあと発覚すれば企業の信用はさらに低下し、書類送検などの厳しい処分を受ける場合もあります。企業側は日頃から正しい労務管理を行い、公正な立場でいることが重要です。
5.労務問題を未然に防ぐ方法
労務問題は、未然に防ぐことが最も重要です。以下ポイントを押さえ、労務問題の防止に取り組みましょう。
雇用契約書や就業規則を整備する
労務問題は、企業と従業員間の「決まりごと」が曖昧・不明確な場合に起こりやすいもの。たとえば、口頭でお互いが了承した条件も雇用契約書がないため無効となる場合があります。互いの認知のずれを防止するためにも、雇用契約書や就業規則の整備は必須です。
企業側が従業員側に何らかの処分を下す必要がある場合も、根拠となるのは雇用契約書や就業規則となります。雇用契約書や就業規則は定期的に見直し、自社にとって不利になる要素がないかもチェックしましょう。
雇用契約書とは?【もらうタイミング】雛形、記入例
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就業規則とは?【要点を簡単に】作成・届出の方法と流れ
就業規則は、常時10人以上の従業員を使用する使用者が作成しなければならない規定です。職場のルールや労働条件に関わる内容が記載されているため、従業員もその内容を把握しておく必要があります。
ここでは、
...
法律や就業規則の理解を促す
就業規則は整備するだけでなく、従業員に正しく理解してもらうのも労務問題の防止に有効です。あわせて、法律についても理解してもらうとより効果的です。
従業員が法律や就業規則を正しく理解していると、本人も問題があった時に自分の責任なのか、企業側に責任があるのかを判断しやすくなり、話し合いによって解決しやすくなります。
なかでも就業規則は周知義務があり、おこたると周知義務違反として規則自体が無効となるのです。定期的な研修によって理解を促す、電子データで保管していつでも閲覧できるようにするなど、すべての従業員に平等な情報を与えるとよいでしょう。
相談窓口を設置する
相談窓口を設置すると、問題が大きくなる前に解決できる可能性も高まります。従業員にとっても、相談窓口があることは心理的安全性が高まる要素です。
相談や問い合わせがしやすい体制が整っていると客観的な事実を収取しやすくなり、労務問題が起こってしまってもスムーズに物事を進めやすくなります。
労災防止を徹底する
企業には、従業員が安全に業務を遂行できるよう環境を整える安全配慮義務があります。
健康被害につながる可能性のある残業や長時間労働、休日出勤の防止呼びかけ、作業に使用するツールの選定やガイドラインの充実など、心身の健康維持のための取り組みが欠かせません。
労務管理システムを活用する
企業側が管理すべき労務は多岐にわたります。細かい作業が求められるため、労務問題の発生予防や対応に労力がかけられるよう、労務管理システムの活用により、労務・情報管理の効率化を図ることがポイントです。
労務管理にかかる工数を削減し、従業員への丁寧な対応や労務問題防止の取り組みに労力をかけることが、結果的に労務問題の防止につながります。
労務管理システムとは? 機能やメリット、比較ポイントを簡単に
労務管理システムは、従業員の勤務時間の記録や休暇管理、社会保険や労務手続きなど、人事労務管理に関わる多岐にわたる業務をサポートします。これにより、人事労務担当者の作業効率が向上し、法令遵守の観点からも...