労災保険とは? 給付条件、補償内容、申請方法をわかりやすく

労災保険とは、労働者が加入する公的保険制度であり、業務中や通勤中の事故などで負った怪我や病気、障害や死亡に対して給付が受けられます。労災保険は雇用形態に関係なく、加入条件を満たす場合に必須で加入が必要です。

今回は労災保険について、雇用保険との違いや給付条件、各種補償内容や申請方法などをわかりやすく解説します。

1.労災保険とは?

労災保険とは、労働者が加入する公的保険制度であり、社会保険(労働保険)の一つです。業務中や通勤中の事故による怪我、病気や障害、死亡した場合に被害を受けた労働者やその遺族に一定の給付金が支給されます。正式名称は「労働者災害補償保険」であり、通称「労災」と呼ばれます。

加入条件を満たした場合、雇用形態に関係なく労災保険への加入が必要です。

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2.労災保険と雇用保険の違い

労災保険と雇用保険の主な違いは、制度の目的です。

  • 労災保険:労働災害によって傷病を負った労働者を保護する保険制度
  • 雇用保険:失業した労働者の生活を保護し、再雇用を促進する保険制度

また、労災保険は企業側が全額負担であるのに対し、雇用保険は労働者も一定割合を負担する点でも違いがあります。

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3.労災保険の適用対象となる災害の種類

労災保険の適用対象となるのは、主に以下3つの災害です。各災害の詳細をみていきます。

業務災害

業務災害とは、業務を原因とした怪我、病気、障害、または死亡のこと。原因が業務に関係しなければならないため、業務中であっても私的な行為・行動や故意による傷病には適用されません。下記は、業務災害と認められる事例です。

  • 工事場の機械に指を挟んで怪我をした
  • 社用車での移動中に交通事故に遭い怪我をした
  • 取引先の倉庫で積まれていた商品が崩れて怪我をした
  • 上司のパワハラによってうつ病と睡眠障害になった など

複数業務要因災害

複数業務要因災害とは、2つ以上の業務を要因とする怪我、病気、障害、死亡のこと。対象となる傷病は、脳・心臓疾患や精神障害です。

傷病等が生じた時点で事業主が同一でない複数の勤務先で同時使用されている労働者、いわゆる「複数事業労働者」が対象となる災害です。複数の勤務先の労働時間やストレスなどを総合的に評価し、労災認定できるかが判断されます。

複数事業労働者であっても、1つの勤務先でのみの業務上の負荷を評価される場合は、通常通り業務災害となります。

通勤災害

通勤災害とは、通勤中の所定の移動中に被った怪我や病気、死亡のこと。ここでいう「通勤」とは、就業に関し「住居と就業場所との間の往復」「就業場所から他の就業場所への移動」「単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動」を合理的な経路・方法で行うことを意味します。

終業後の寄り道など、通勤に関係ない経路での災害は対象外であり、通勤災害として認められる事例は以下のとおりです。

  • 朝の出勤途中に自転車と接触して怪我をした
  • 単身赴任先からの帰省中に事故に遭った
  • 営業先に行く途中の交通事故 など

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4.労災保険の保険内容と給付額

労災の対象となる怪我や病気、障害や死亡については、労災保険からは下記のような給付が受けられます。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 傷病(補償)給付
  • 障害(補償)給付
  • 遺族(補償)年金
  • 介護(補償)給付
  • 葬祭給付
  • 二次健康診断等給付

補償の種類によって、給付内容や給付額はさまざまです。なお、業務災害と通勤災害では同内容の給付でも、呼び方が異なります。

  • 業務災害:療養補償給付
  • 通勤災害:療養給付

そのため、下記では「補償」をカッコ表記としています。

療養(補償)給付

療養(補償)給付は、怪我や病気で療養する際に受けられる給付です。治療費や入院費、薬代や通院の際の交通費などが給付の対象となり、給付額は療養にかかる費用全額です。

「療養の給付」と「療養費用の支給」の2種類があり、療養の給付は無料で診察が受けられる給付内容です。労災保険が医療機関に直接医療費を支払うため、医療機関での支払いが不要となります。

休業(補償)給付

休業(補償)給付は、怪我や病気で仕事ができず、賃金が受け取れない際に受けられる給付です。4日以上の休業が対象であり、給付額は「休業4日目から1日につき給付基礎日額の80%相当」です。休業(補償)給付の場合は、「給付基礎日額の60%+休業特別支援金として給付基礎日額の20%」が給付されます。

休業3日目までは、企業側が労働基準法による休業補償として平均賃金の6割を支払う義務があり、それ以降は労災保険から支払われます。

傷病(補償)給付

傷病(補償)給付は、怪我や病気の治療を開始して1年半以上経過しても治ゆしていない、または傷病による障害が傷病等級に該当する場合の給付です。給付額は、傷病等級に応じて下記のように支給されます。

障害(補償)給付

障害(補償)給付は、怪我や病気が治った後も、一定以上の障害が残ってしまった場合に受けられる給付です。それ以上治療を続けても症状が改善されない状態が対象です。

給付は障害等級に応じて、毎年支給される年金と1回限りの支給となる一時金に分けられます。

また、それぞれ特別給付金・特別年金として下記給付も受けられます。

障害等年金 ①障害特別給付金:159〜342万円
②障害特別年金:算定基礎日額の131〜313日分
障害等一時金 ①障害特別給付金:8〜65万
②障害特別一時金:算定基礎日額の56〜503日分

なお、障害等級は厚生労働省によって定められています。

厚生労働省:障害等級表

遺族(補償)年金

遺族(補償)年金は、業務中の事故などで労働者が死亡した場合に遺族が受けられる給付です。給付には、「遺族(補償)年金」「遺族(補償)一時金」の2種類があります。

遺族(補償)年金 ①遺族の数に応じて給付基礎日額を支給
・1人:給付基礎日額の153日分
・2人:給付基礎日額の201日分
・4人以上:給付基礎日額の245日分
②特別遺族支給金
一律300万円
③遺族特別年金
遺族の数などに応じて算定基礎日額153〜245日分
遺族(補償)一時金 ①給付基礎日額1,000日分の一時金
②遺族特別支給金として遺族の数に関わらず一律300万円
(※遺族補償年金を受け得る遺族がいないとき)
③遺族特別一時金として算定基礎日額の1,000日分の一時金

遺族(補償)年金は、定められた優先順位の最上位に該当する遺族が受け取ります。優先順位が高い遺族は、死亡した労働者の収入によって生計を立てていた配偶者、子、父母、孫など。

配偶者以外の遺族が受け取る場合は年齢などその他条件が付与され、同時に2人以上の遺族が対象となる場合には支給額が等分されます。

また、遺族(補償)年金を受け取る遺族がいない、あるいは遺族(補償)年金の受給者が全員失権して他に受給する人がおらず、それまでに支払われた年金の合計額が給付基礎日数の1,000日分未満の場合は遺族(補償)一時金の給付となります。

介護(補償)給付

介護(補償)給付は、障害(補償)年金または傷病(補償)年金の給付を受けている人で一定以上の等級に該当し、実際に介護を受けている場合に給付されます。とくに障害の程度が大きい障害等級第1級と第2級の精神神経障害や胸腹部臓器の障害がある場合が対象です。

介護が必要な程度、家族や親族から介護を受けているかどうかによって給付内容が異なります。なお、介護の程度には「常時介護」と「臨時介護」の2種類があり、程度が重いのは常時介護です。

常時介護の場合 親族または友人・知人の介護を受けていない場合、介護の費用として支出した額を給付:上限171,650(172,550円)

親族または友人・知人の介護を受けているとともに
・介護の費用を支出していない場合:一律定額75,290(77,890)円
・介護の費用を支出しており、その額が75,290(77,890)円を下回る場合:一律定額、75,290(77,890)円
・介護の費用を支出しており、その額が75,290(77,890)円を上回る場合:その額を支給 ※上限:171,650(172,550)円

臨時介護の場合 親族または友人・知人の介護を受けていない場合、介護の費用として支出した額を給付:上限85,780(86,280)円

親族または友人・知人の介護を受けているとともに
・介護の費用を支出していない場合:一律定額37,600(38,900)円
・介護の費用を支出しており、その額が37,600(38,900)円を下回る場合:一律定額37,600(38,900)円
・介護の費用を支出しており、その額が37,600(38,900)円を上回る場合:その額を支給 ※上限:85,780(86,280)円

葬祭給付

葬祭給付は、死亡した労働者の葬祭を行う際に給付されます。給付額は「31,5000円+給付基礎日額30日分」または「給付基礎日額の60日分(前者の合計が給付基礎日額の60日分に満たない場合)」です。

二次健康診断等給付

二次健康診断等給付は、職場の定期健康診断で脳・心臓疾患に関する異常があると診断された場合に対象となる給付であり、二次健康診断と特定保健指導を年1回無料で受診できます。ただし、対象となるのはそれまでに脳・心臓疾患の症状がない、特定の検査項目で異常の初見があると診断された場合です。

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5.労災保険の申請方法

労災保険の給付を受けるには、所轄の労働基準監督署への申請が必要です。申請方法をステップごとにみていきます。

  1. 請求書を取得する
  2. 請求書を記入する
  3. 労働基準監督署に提出する

①請求書を取得する

まずは、申請する補償の種類に応じた請求書を取得します。請求書は所轄の労働基準監督署や厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」から入手できます。企業の担当者、補償を受ける従業員のどちらが入手しても問題ありません。

②請求書を記入する

請求書の記入も企業の担当者、補償を受ける従業員のどちらが対応しても問題ないです。ただし、いずれの場合も企業側が労災の発生状況など、記入内容に相違がないかを証明するための署名が必要となります。

補償の種類によっては、療養している医療機関などから傷病名や傷病の経過などの記入が必要です。スムーズに補償を受けるためにも正確に記載しましょう。

③労働基準監督署に提出する

補償の種類にあわせて、必要な添付書類と請求書を所轄の労働基準監督署に提出します。労働基準監督署では、添付書類と請求書を調査し、労災に該当するかを審査します。スムーズに認定を受けるためにも、労災に該当することが証明できる証拠があれば残しておくことがおすすめです。

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6.労災保険の加入条件

従業員を1人でも雇用している事業所または事業主は加入義務があります。ただし、一部の個人経営の農林水産業を除きます。加入対象者となる従業員の雇用形態や勤務形態、就業期間は問われず、1日だけアルバイトを雇用する場合でも加入が必要です。

労災保険の加入対象者

労災保険の加入対象者は、下記のとおりです。

  • すべての一般労働者(雇用形態問わず)
  • 船舶所有者に雇用されている船員保険被保険者
  • 派遣労働者(派遣元で加入)
  • 海外出張中の従業員

一方、下記のように加入対象外となる人もいます。

  • 法人、企業の代表権・業務執行権をもつ役員
  • 事業主の親族
  • 海外派遣中の従業員

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7.労災保険の保険料と計算方法

労災保険料は、従業員に支払っている給与の総額や業種によって異なります。下記は、保険料の計算式です。

労災保険料=前年度1年間の全従業員の賃金総額×労災保険料率

賃金総額には毎月の給与と賞与も含まれます。なお、前年度1年間の全従業員の賃金総額は「平均賃金×従業員数」で算出できます。

業種ごとの保険料率は、下記のとおりです。

出典:厚生労働省「労災保険率表

業務における危険度が高い業種ほど、保険料率が高めに設定されています。

労災保険の支払いは基本的に年1回であり、4月から翌3月分をまとめて雇用保険料と一緒に支払います。

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8.労災保険の加入手続き

労災保険に加入する場合、下記2点の書類を指定の場所に提出します。

書類名 提出場所
保険関係成立届 所轄の労働基準監督署またはハローワーク
労働保険概算保険料申告書 所轄の労働基準監督署または都道府県労働局、日本銀行の代理店または全国の銀行・信用金庫・郵便局のいずれか

保険関係の成立日は、初めて従業員を雇い入れた日です。従業員を1人でも雇う場合は労災に加入が必要となるため、忘れずに手続きしましょう。

また、一部業種を除いて労災保険と雇用保険はまとめて加入手続きするのが一般的です。その場合、労災保険の加入に必要な書類とあわせて、雇い入れ通知書などの被保険者関係書類の提出も必要です。

ただし、一元適用事業か二元適用事業かによって労災保険と雇用保険の適用の仕方を区分する必要があり、書類の提出方法が異なるため、下記で解説します。

一元適用事業の場合

一元定用事業とは、労災保険と雇用保険を一元的に取り扱う事業です。提出書類とその提出先、提出期限は下記のとおりです。

提出書類 提出場所 期限
保険関係成立届 所轄の労働基準監督署 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内
概算保険料申告書 下記いずれか
・所轄の労働基準監督署
・所轄の都道府県労働局
・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可)
保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内
雇用保険適用事業所設置届 所轄の公共職業安定所 設置の日の翌日から起算して10日以内
雇用保険被保険者資格取得届 所轄の公共職業安定所 資格取得の事実があった日の翌月10日まで

二元適用事業の場合

二元適用事業とは、労災保険と雇用保険の適用の仕方を区分する必要がある事業です。一般的に、農林漁業や建設業が該当します。提出書類とその提出先、提出期限は下記のとおりです。

提出書類 提出場所 期限
保険関係成立届 所轄の労働基準監督署 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内
概算保険料申告書 下記いずれか
・所轄の労働基準監督署
・所轄の都道府県労働局
・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可)
保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内

加入手続きを怠った場合

労災保険への加入が必要にもかかわらず、手続きを怠った場合は行政庁によって手続きと保険料の認定決定が行われます。ある意味で手続きを代行してもらえる形になりますが、遡って保険料を徴収するほか、あわせて追徴金が徴収されます。

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9.労災保険の特別加入制度とは?

本来労災保険の対象外となる事業主や自営業者などが特定の条件を満たすことで、例外的に労災保険への加入を認められる制度です。

特別加入制度の対象者は、下記のとおりです。

中小事業主

  • 金融業、保険業、不動産業、小売業:50人以下
  • 卸売業、サービス業:100人以下
  • 上記以外の業種:300人以下

一人親方および自営業者

  • 運送事業(個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)
  • 土木、建築事業(大工、左官、とび職人など)
  • 漁業(※に該当する事業を除く)
  • 林業
  • 医薬品の配置販売(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)
  • 廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
  • 船員が行う事業(※)
  • 柔道整復師が行う事業
  • 社会貢献事業に係る高年齢者が行う事業
  • あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師が行う事業
  • 歯科技工士が行う事業

特定作業従事者

  • 特定農作業従事者
  • 指定農業機械作業従事者
  • 国または地方公共団体が実施する訓練従事者
  • 家内労働者およびその補助者
  • 労働組合等の一人専従役員(委員長等の代表者)
  • 介護作業従事者および家事支援従事者
  • 芸能関係作業従事者
  • アニメーション制作作業従事者
  • ITフリーランス

海外派遣者

  • 日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人
  • 日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業に事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人
  • 独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人

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10.労災保険の注意点

あわせて、労災保険の注意点も押さえましょう。

すべての損害が補償されるわけではない

労災による給付は治療日数や賃金日額に応じて支給されますが、給付額がすべての損害をカバーしきれない場合もあります。労災保険は手厚い保険制度ですが、必ずしも全損害が補償されるわけではない点に注意しましょう。

公的年金も給付される場合には調整される

労災からの給付と公的年金からの遺族年金や障害年金は平行して受給できますが、併給調整によって労災の給付額が減額されます。

併給調整があるのは、労災保険と公的年金の両制度から受け取る年金額の合計が労災前の賃金より高くなることを防ぐためです。

減額率は組み合わせにもよりますが、最も調整される場合でも本来の73%水準が支給されるため、そこまで大きく減額されるわけではありません。

療養(補償)給付では健康保険証を使用しない

労災による怪我や病気で医療機関を受診する際、健康保険証を使用しないよう注意が必要です。というのも、受診料は健康保険からの給付を受けず、労災保険から給付されるためです。

誤って使用してしまった場合には、健康保険証を使用して受診した分を返還し、窓口負担分とあわせて療養費用を労働基準監督署に請求する必要があります。従業員が何らかの災害で医療機関にかかる際は、この点をあらかじめ知らせましょう。