従業員の生産性や離職率に課題がある場合、労働環境に問題がある可能性が考えられます。労働環境の整備は、従業員の生産性や定着率の向上、ひいては企業の利益向上や発展に大きく関係するのです。
今回は労働環境について、悪くなる・改善されない原因や改善の取り組み事例、労働環境改善に活用できる補助金などを詳しくご紹介します。
目次
1.労働環境とは?
労働環境とは、従業員を取り巻く環境のこと。具体的にはオフィス環境や人間関係、労働時間や労働条件などを指します。労働環境を整えることは、労働基準法特別法「労働安全衛生法」の3条-1において義務とされているのです。
「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」
参考 労働安全衛生法労働基準法特別法よい労働環境は生産性や定着率、モチベーションの向上につながり、結果的に企業の利益アップ・発展につながります。一方、労働環境の悪い企業は「ブラック企業」とも呼ばれるのです。
2.労働環境の主環境要因
労働安全衛生法では、労働環境の主環境要因として下記3つを挙げています。それぞれの要因を詳しく解説します。
- 気候的な条件
- 物理的な条件
- 科学的な条件
①気候的な条件
気温や湿度、気圧や紫外線、風速などの気候に左右される要因です。
暑すぎたり寒すぎたりして体調が悪くなったり、湿度が高く居心地が悪かったりする環境は、生産性の低下につながります。熱中症といった体調不良を引き起こすこともあり、健康被害につながりやすい要因です。
②物理的な条件
照明や騒音、彩光や振動、超音波などの物理的な阻害要因です。
照明が暗くて見えにくい、騒音で集中できない環境は物理的な条件が整っていません。一時的であれば気にならないものの、常態化しているとストレスが高くなったり、体調を崩したりする恐れもあります。
③科学的な条件
ガスや蒸気、有害物質や粉じん、病原体などの化学物質です。
化学物質は健康被害を起こす可能性が高く、蓄積されて病気を引き起こす恐れもあります。過去には建物の塗料に含まれるホルムアルデヒド物質による「シックハウス症候群」などが社会的な問題となりました。
3.労働環境が悪くなる原因・改善されない原因
なぜ労働環境が悪くなったり、改善されなかったりするのでしょうか。ここでは、その原因をみていきます。
- 暗黙の組織文化
- 人間関係
- 制度・規則の不備
- 人手不足
①暗黙の組織文化
「上司が帰るまで帰れない」「有給を取らない」などの暗黙の組織文化が定着している企業は、労働環境が悪くなりがちです。
昔からの風土が暗黙のルールとして定着しており、そうした状況が当たり前だからと改善の姿勢が見られないことが、改善されない原因として挙げられます。周囲をうかがわなければならず、合わせないといけないストレスは日々積み重なっていくもの。
また、長時間労働やサービス残業が常態化すると、ワークライフバランスが確保できない原因にもなります。上司は、自分たちの時代に当たり前にやっていたことをそれが常識であるかのように従業員に押しつけないことが大切です。
②人間関係
「職場の雰囲気が悪い」「パワハラといったハラスメントが横行している」などの状況も労働環境が悪くなる原因です。改善されない原因には、コミュニケーション不足や相談口がないことが挙げられます。
またハラスメントは、自分がハラスメントしていると自覚できない恐れもある厄介な問題です。人間関係が悪いと職場での居心地も悪くなり、離職につながる可能性も高まります。
③制度・規則の不備
「労働条件が整備されていない」「制度や規則が曖昧な環境」も労働環境の悪さに起因しています。具体的には、評価システムや給与形態が不明瞭である、就業時間が不明確で長時間労働が認められている環境などです。
改善されない原因には「常態化していることで不備に気づけない」「従業員の声を聞き入れる環境が整っていない」ことが考えられます。
④人手不足
人手不足は業務過多や長時間労働・サービス残業の発生、有給が取得できないなど、個の負担が増加する環境をつくりあげてしまう原因です。人手不足による労働環境の悪化により、相次いで離職が発生する悪循環に陥ってしまう可能性もあります。
改善されない原因として挙げられるのは、少子高齢化による労働人口の減少や離職の多さなどです。
4.労働環境悪化がもたらす影響
以下で、労働環境悪化がもたらす影響をみていきます。
- 健康への影響
- 生産性とモチベーションへの影響
- 離職への影響
- 企業イメージへの影響
①健康への影響
長時間労働やサービス残業の常態化、人間関係によるストレスは、うつ病といった健康被害を引き起こしかねません。劣悪な職場環境や化学物質などが、身体面の健康に悪影響をおよぼす場合もあるのです。
健康を害してしまっては、働けなくなるだけでなく最悪、長期間仕事に復帰できなくなる可能性もあります。
②生産性とモチベーションへの影響
労働環境が悪いと生産性やモチベーションが低下し、結果的に業務効率や品質の低下を招きます。サービスや商品の質低下によって顧客離れが起きれば、企業全体の収益にも影響をおよぼすでしょう。
③離職への影響
労働環境悪化によって離職が発生すると、残された従業員の負担が増加します。結果、業務過多による長時間労働が起こり、さらなる労働環境の悪化から新たな離職が発生する可能性も高いです。
離職は慢性的な人手不足を引き起こし、業務効率は上がらず、品質も低下したままになってしまいます。
④企業イメージへの影響
労働基準法の違反やハラスメントなどによる労働環境の悪化によって、訴訟が生じる場合もあります。また、こうした環境であると外部に漏れれば、企業自体のイメージが悪くなり、取引先の減少や人材確保の難化を招くでしょう。
5.労働環境の改善に向けた取り組み例
労働環境を改善するには、自社の労働環境を客観的に把握し、必要に応じた施策を講じることが大切です。ここでは、労働環境の改善に向けた取り組み例をご紹介します。
- 多様な働き方の導入
- メンタルヘルス対策
- 社内アンケートの実施
- ITツールの導入
- 制度活用の促進
- コミュニケーションの活性化
- オフィス環境・設備の整備
①多様な働き方の導入
リモートワークやフレックスタイム制、時短勤務制など一人ひとりに合わせた働き方を実現できる制度の導入は有効な取り組みで、働き方改革でも推進されています。
多様な働き方ができればライフスタイルの変化に対応しながら継続して就業できるため、離職率の低下や優秀人材の損失にもつながるのです。また、希望する働き方ができるために状況に左右されず働きやすくなり、エンゲージメントも向上するでしょう。
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②メンタルヘルス対策
メンタルヘルス対策は、精神的負担を軽減するためのサポートです。厚生労働省の指針では、下記4つのメンタルヘルスケアが提示されています。
- セルフケア
- ラインによるケア
- 事業場内産業保健スタッフによるケア
- 事業外資源によるケア
「自分でケアできるスキルを身につける」「職場の管理監督者によってケアされる環境」「産業医や保健師、地域の保健センターなどの第三者によるケア」の整備が大切です。
自分でメンタルケアができればベストではあるものの、実際は難しいです。周囲が気づいてケアできる環境や自分から助けを求めにいける環境は必要でしょう。
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③社内アンケートの実施
社内アンケートにより、従業員の不満を把握できます。労働環境の改善は現場を巻き込んで行う必要があり、従業員の声を聞かないと改善点も明確になりません。しかし上司や経営者に直接不満を伝えるのは難しいもの。その代わりに社内アンケートを活用しましょう。
個人が特定されない状況なら従業員の本音も聞きやすいです。よってアンケートは匿名性を確保して慎重に行いましょう。従業員のリアルな声から不満や要望を聞き出し、改善のための具体的な施策が実施できます。
くわえて自分の声が受け入れられていることで、従業員のエンゲージメント向上にも有効です。
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④ITツールの導入
業務効率化や多様な働き方のサポート、労働環境改善の取り組みのためなど、さまざまな目的に応じたITツールが存在します。
たとえば、人手不足なら業務効率化に有効なツールを導入したり、リモートワークを推進するためWeb会議システムを導入したりすれば、問題に対処できます。
人手だけで労働環境を改善するには限界があるもの。内容によってはITツールに積極的に頼るのも必要です。導入の際は、自社の目的に合ったツールを導入しましょう。
⑤制度活用の促進
「有給休暇を取りにくい」「産休や育休などの制度が使いにくい」環境を改善するためにも、上司が積極的に制度を利用して活用を促しましょう。暗黙のルールや会社の空気で制度が利用できない状況は、いち早く改善しなければなりません。
⑥コミュニケーションの活性化
コミュニケーションが滞っている職場は人間関係がよくなかったり、業務が円滑に進められなかったりなどして労働環境が悪くなります。
コミュニケーション活性化にはチャットツールの導入や社内イベントの開催、オープンスペースの設置などが有効です。また、上司と部下の関係を良好にするため、1on1を実施するのもよいでしょう。
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⑦オフィス環境・設備の整備
快適に仕事ができる環境では従業員のパフォーマンスも向上します。しかしそうでない環境は生産性やモチベーションの低下につながるもの。デスクやチェアなどの業務ツール、照明やエアコンなど設備に不備がないか、定期的にチェックしましょう。
6.労働環境を改善する際の注意点
以下は、労働環境を改善する際の注意点です。
- 従業員の声を聞き入れる
- 業務が属人化しないようにする
- 実行して終わりにしない
①従業員の声を聞き入れる
労働環境の改善は、現場の従業員の声を聞き入れ、満足度を測りながら進めることが重要です。アンケートで従業員のニーズや不満を引き出し、反映する形で改善に取り組みましょう。
そのほか日常的な業務内で従業員の働き方や様子から改善できる箇所を探すのも必要です。
ただし、労働環境の改善が従業員の負担になる場合も考えられます。管理者側のみの判断で進めないよう注意しましょう。
②業務が属人化しないようにする
労働環境を改善する際に、業務フローを改善する場合もあります。その際は、業務が属人化しないよう注意が必要です。
属人化はその業務に精通した人が担当するため、一見、効果的に見えます。しかし離職や休職で担当者がいなくなった場合の負担が大きいため、中長期的にみてリスクがあるのです。
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③実行して終わりにしない
労働環境の改善は、一筋縄ではいかないことがほとんど。改善施策を実行して終わりにせず、実行後に従業員満足度調査やアンケートを行って効果を検証し、必要に応じて改善を図りましょう。
つまり労働環境の改善には、PDCAを回すことが重要なのです。
施策によっては、定着に時間がかかるものもあるでしょう。また、いきなり実行して従業員の負担になるかもしれない施策は、段階的に取り入れることをオススメします。従業員の負担にならないよう配慮しながら進めるのが大切です。
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7.労働環境改善の企業事例
企業によって労働環境に関する課題も異なるため、取り組むべき内容もさまざまです。企業事例も参考に、自社の労働環境改善のアイデアとして押さえてみましょう。
- 味の素
- 日本航空
①味の素
年間総労働時間1,800時間の削減を目標とし、2017年4月から「労働時間を7時間15分に短縮」「給与の一律1万円アップ」の施策を当初の予定より2年前倒しで実行しました。
前倒しで実行した理由は、施策の効果が出ることに時間がかかることを見越し、早期に労働環境の改善を図りたかったからです。
給与の一律1万円アップのうち半分は純粋なベースアップ、残り半分は残業代を当てにしてしまう状況を改善するための諸手当の見直しを意図したものとなっています。
こうした取り組みの結果、生産性向上によりもたらされた利益は、人材に還元されました。
②日本航空
日本航空では、誰もが生き生きと活躍できるよう、さまざまな取り組みを実施しています。
たとえば、フリーアドレス制度といったオフィス環境の改善やテレワーク制度の充実、長期休暇の取得推進のためのワーケーションやブリージャー制度の導入です。
2018年からは業務プロセスの見直しや定型業務の集約化加速のため、AIの活用を開始。2019年度からは、コミュニケーション活性化や業務効率化を高めて新しい働き方を実現するため、コミュニケーションスペースの拡大に取り組みました。
さらに、労働時間の適正化に向けた取り組みも行い、2021年度は年次有給休暇取得率74.5%(14.9日)、一人当たりの月間平均時間外・休日労働時間は9.9時間の結果になったのです。
総労働時間1,850時間を目指して取り組んだ結果は1,890時間となり、目標の97.9%まで到達しました。くわえて2019年度よりスーパーフレックス制を導入し、1日1時間からの勤務を可能にしてより柔軟な働き方ができる仕組みを整えています。
8.労働環境改善に使える制度・補助金
労働環境改善には、コストも発生するもの。ここでは、労働環境改善に使える制度・補助金をご紹介します。コスト面の問題から労働環境の改善に取り組めていない企業は、ぜひ活用を検討してみましょう。
- 働き方改革推進支援助成金
- 両立支援等助成金
- 職場定着支援助成金
①働き方改革推進支援助成金
生産性を高めながら労働時間の縮減等に取り組む中小企業・小規模事業者や、傘下企業を支援する事業主団体に対して助成する制度です。中小企業における労働時間改善の促進を目的としています。
働き方改革推進支援助成金では、下記5つのコースを用意しています。
- 参考 適用猶予業種等対応コース厚生労働省
- 参考 労働時間短縮・年休促進支援コース厚生労働省
- 参考 勤務間インターバル導入コース厚生労働省
- 参考 労働時間適正管理推進コース厚生労働省
- 参考 団体推進コース厚生労働省
②両立支援等助成金
仕事と家庭の両立を支援する制度であり、下記3つのコースを用意しています。
- 出生時両立支援コース
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
ライフスタイルの変化に合わせて従業員が柔軟に働ける環境をつくるには、子育てや介護をサポートできる体制が欠かせません。とくに、今後は介護需要も増加するため、介護離職防止支援コースは注目度も高いでしょう。
③職場定着支援助成金
職場への定着を促す取り組みの実施や制度の導入に活用できる助成金です。助成内容として、2023年6月時点で下記4つのコースを用意しています。
- 雇用管理制度助成コース
- 介護福祉機器助成コース
- 保育労働者雇用管理制度助成コース
- 介護労働者雇用管理制度助成コース
制度導入に必要な助成金にくわえ、目標離職率の達成状況に応じて助成金が支給されます。