世間から注目を集めているSDGs。国や地方団体が主導して取り組んでいるイメージがありますが、その動きは民間企業にも広がっています。
企業の人事として、どのような取り組みを行っていくべきなのでしょうか。
この記事では、
- SDGsとは?
- 注目される背景
- 人事が取り組むべき4つの目標
- 部門別の具体的な施策例
- 事例
についてご紹介します。
目次
1.SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、「持続可能な開発目標」を意味し、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際的な目標のことです。
貧困や資源、教育やジェンダー格差などのさまざまな社会問題に対し、17のゴールとゴールを細分化した169のターゲットが掲げられています。SDGsは日本でも積極的に取り組まれており、政府や行政機関だけではなく民間企業の経営指針としても注目されています。
SDGsの17のゴール
SDGsを構成する17のゴールは、次のとおりです。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
2.企業がSDGsに注目する背景
近年、4社に1社が積極的と言われるほどに認知度を高めているSDGs。これほどまでに企業がSDGsに注目している背景には、3つのポイントがあります。
環境問題・CSRへの取り組み
1990年代以降、公害問題や地球温暖化などの環境問題に対して企業が取り組み始め、CSRという言葉が浸透していきました。利益の追求だけではなく、社会的責任や持続的な発展が企業に求められるようになりました。
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ESG投資への注目
最近では、投資家が企業経営を環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の観点から評価するESG投資が広がりつつあります。環境や社会に対する取り組みを行っている企業は、「長期的に企業価値を最大化できる」と評価されるのです。日本でもESGの投資額は急激に伸びています。
市場開拓・事業創出への期待
「ビジネスと持続可能開発委員会(Business & Sustainable Development Commission)」によると、2030年までに12兆ドルもの新たな市場機会を生み出すと試算されています。
また、デロイトトーマツによる試算では、各SDGsの市場規模は小さいもので70兆円~大きいもので800兆円程度に上るともいわれており、そのビジネスチャンスに注目する企業が増えているのです。
3.SDGsとESGの違い
SDGsとESGは両者ともに「持続可能な社会の実現」を目指し国連が提唱したもので、根底が似ていますが、その違いはなんなのでしょうか。
SDGsは、地球全体のための目標であり、企業だけではなく国や地方団体などが主体となって社会全体で取り組むべきものです。一方ESGは、投資家が投資判断を行う際の企業の評価軸であり、SDGsに比べると投資の文脈で用いられることが多いです。
また、環境(Environment)と社会(Social)はSDGsと共通する点も多いですが、企業統治(Governance)は法令遵守や内部統制強化のことであり、SDGsとの関連性はそれほど高くありません。
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4.SDGsに人事が取り組む3つのメリット
人事がSDGsに取り組むと、どのようなメリットがあるのでしょうか。3つご紹介します。
ブランドイメージが向上する
社会や環境の課題と向き合い、持続可能な社会に貢献する企業であることをアピールでき、ブランドイメージの向上につながります。
ステークホルダーからの評価が高まる
新たな企業の評価基準の一つとして、SDGsが注目されています。SDGsに積極的に取り組むことで、ステークホルダーである株主や顧客、取引先からの評価が高まります。
人材採用につながる
現在、就職活動生の7割がSDGsについて認知しており、SDGsへの取り組みが「将来性の指標」として企業選びにも影響を与えています。SDGsに取り組むことで、求職者に企業価値や将来性、働きやすさが伝わり、志望度のアップにつながるかもしれません。
5.SDGsで人事が取り組むべき4つの目標
SDGsには17個の目標がありますが、人事部門が注力するべき目標は主に次の4つです。
目標3.すべての人に健康と福祉を
一つは、「3.すべての人に健康と福祉をーあらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」です。
日本では過労死につながる過酷な労働環境が問題となっています。労働環境の整備や従業員の健康を意識した健康経営、メンタルヘルスケア、健康診断の拡充などが取り組むべき施策にあたります。
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目標5.ジェンダー平等を実現しよう
二つ目は、「5.ジェンダー平等を実現しようージェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」です。
ターゲット5.5には、「政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する」とあります。世界的にも男女間での管理職比率の差は課題となっているのです。企業は女性活躍推進や女性管理職比率の改善に取り組むべきといえます。
他にも、ジェンダー平等という意味では男性の育休取得推進やLGBTへの配慮などに取り組んでいる企業もあります。
目標8.働きがいも経済成長も
SDGsの17のゴールの中で、企業がもっとも注目しているのが「8.働きがいも経済成長もー包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」です。
人々が働きがいを持って自分らしく働ける環境と、企業の業績向上の両方を実現するということです。
具体的な取り組みには、同一労働同一賃金の導入、時間外労働の短縮、人材育成、タレントマネジメントなどがあげられます。
目標10.人や国の不平等をなくそう
「10.人や国の不平等をなくそうー各国内及び各国間の不平等を是正する」も、人事が取り組めるゴールの一つです。
具体的には、障害者雇用、シニア活用、グローバル人材の雇用などがあります。
障害者雇用促進法や高年齢者雇用安定法などの雇用法を遵守するとともに、自社ならではの視点を持って取り組める施策がないか考えてみましょう。
6.【部門別】SDGsのために人事ができること
SDGsのために人事部門ができることは、具体的にどのような取り組みなのでしょうか。人事労務・人材採用・人材育成・人事戦略の4つの部門に分け、具体例をご紹介します。
人事労務関連
人事がSDGsに取り組むにあたって、人事労務は重要な役割を持っています。労働基準法や男女雇用機会均等法など、労働関連法の遵守がSDGsにつながっているからです。
普段からしっかりと労働法を守りながら、さらにどのような取り組みができるのか考えてみましょう。
具体例
- 健康経営に関する取り組み
- 健康診断の拡充
- スポーツジム利用の推奨制度
- 女性活躍推進
- 時間外労働の短縮
- 同一労働同一賃金
- 待遇改善
- シニア人材の活用
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人材採用関連
採用部門では、幅広い人材を雇用し活用することが求められます。
障害者雇用促進法など採用に関する法律を守るだけではなく、ジェンダーやグローバルの視点を取り入れながら施策を考えてみましょう。
具体例
- 障害者雇用
- グローバル人材の雇用
- LGBT人材への配慮
障害者雇用とは?【条件・対象者】雇用枠、義務、罰金
一億総活躍社会では、障害のあるなしを問わずすべての人が自らの能力を発揮して就労する機会を持つことを目標としています。そのためには、企業も障害者雇用に積極的になる必要があるでしょう。
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海外で活躍できるグローバル人材は、大企業だけではなく中小企業でも需要が高まってきています。その分、優秀な人材を採用するのが難しくなってきており、社内でグローバル人材を育成する企業が増えてきています。今...
人材育成関連
人材育成・開発部門では、雇用形態や性別の垣根を越えた、平等な教育機会を提供することが求められています。
スキルアップの機会を提供することで、「4.質の高い教育をみんなにー働く技能を備えた若者と成人の割合を増やす」にもつながります。
具体例
- 研修や通信教育の提供
- 女性社員の管理職代行体験
人事戦略関連
人事戦略部門では、ジェンダー格差の解消や働きがいの向上を目指した施策が求められます。
これまでの人材配置に男女による先入観があれば見直しましょう。またタレントマネジメントなどの生産性と働きがいを高める仕組みを取り入れましょう。
具体例
- 女性管理職の登用
- タレントマネジメント
7.SDGsとタレントマネジメント
近年、人事戦略として注目が高まっている「タレントマネジメント」。企業の生産性を高め働きがいを向上させる効果があり、人事が取り組めるSDGs施策としても有効です。
企業が注目する「目標8.働きがいも経済成長も」
SDGsの17のゴールの中で、各企業がもっとも注力しているのが「8.働きがいも経済成長も」です。
働き方改革などすでに注目されているテーマを含んでいることや、事業内容にかかわらず取り組める目標のため、企業の関心を高めています。
働きがいやワークエンゲージメントの向上が企業の業績に影響するともいわれており、従業員の働きがいをどう高めるかがポイントとなっています。
クリアすべき3つのポイント
「8.働きがいも経済成長も」には12のターゲットが定められていますが、それらをまとめると、企業がクリアするべきは次の3つのポイントです。
- 経済生産性を向上させること
- 社員が働きがいのある仕事ができること
- 労働環境が整備されていること
これらを達成できるような取り組みが求められています。
タレントマネジメントがSDGsにつながる
人事が「8.働きがいも経済成長も」に取り組む際におすすめなのがタレントマネジメントです。
タレントマネジメントとは、人材の資質やスキルを可視化し、適材適所の配置や育成をすることによって成果を最大化する戦略人事です。
タレントマネジメントを導入すれば、従業員のやる気や新たな可能性を引き出し、経済生産性の向上と働きがいのある仕事を同時に実現できます。
日本企業は、少子高齢化に伴う労働力人口・生産年齢人口の減少という課題を抱えています。今後の持続可能な発展にとっても、一人ひとりの生産性を高めるタレントマネジメントは重要な施策となってくるでしょう。
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8.人事がSDGsに取り組む際の留意点
人事がSDGsに取り組むにあたって、どのような点に留意すべきなのでしょうか。3つご紹介します。
経営理念や社全体の方針と一致させる
人事の取り組みが経営理念に沿っていて、会社全体のSDGs施策と方向性が合っているかどうかを確認しましょう。
また、経営者がSDGsの必要性を理解していない場合には、「SDG Compass」などの資料を活用しながら、経営者の理解を得ることも必要です。
参考 SDG Compass SDGsの企業行動指針SDG Compass長期的な運用を前提に取り組む
SDGsは2030年に向けた取り組みです。短期的な施策で終わることのないよう属人化を避け、長期的な運用を前提とした体制構築が重要です。
SDGsウォッシュを避ける
SDGsウォッシュとは、SDGsに取り組んでいるように見せかけて実態が伴っていない状態のことです。
SDGsウォッシュを避けるために、
- 根拠や情報源が不明な表現を避ける
- 事実より誇張した表現を避ける
- 言葉の意味が明確でない曖昧な表現を避ける
このような点を意識しましょう。
9.人事のSDGs実施事例
実際に企業の人事ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。事例を2つご紹介します。
日本郵政
日本郵政では、人事戦略領域で「働き方改革の推進」「ダイバーシティの推進」「社員の人材力アップ」の3つを目指す姿と定め、多岐にわたる施策に取り組んでいます。
具体的には、次のような項目です。
- 働きやすい職場づくり
- 時間外労働の削減・テレワークの推進等、育児・介護・病気治療と仕事の両立支援、環境変化に対応した人事諸制度の実現、パワーハラスメント・セクシャルハラスメント等の根絶、健康経営の推進
- ダイバーシティの推進
- 意識啓発・行動改革、女性活躍の推進(女性管理者比率の向上)、高齢者の就業促進、障がい者雇用の促進、性の多様性への対応
- 人材育成
- お客さま本位のサービス提供ができる人材の育成、日本郵政グループの成⾧を支える人材の育成
SOMPOホールディングス
SOMPOホールディングスではSDGsに幅広く取り組んでいますが、人事領域では特にダイバーシティ推進の施策が充実しています。女性活躍推進では、独自の育成プログラムを実施し女性管理職比率を大きく引き上げ、外部からの評価も高まっています。
代表的な取り組みは次の通りです。
- 女性活躍推進
- 女性管理職比率の向上
- 女性育成プログラムの実施
- LGBTへの配慮
- 配偶者がいる場合の福利厚生を同性パートナーがいる場合にも適用
- 障害者雇用促進
- 管理職向けマニュアルの作成
- 全国に相談員を配置
- ワークスタイルイノベーション
- テレワークの推進
- シフト勤務
- 仕事とプライベートの両立支援