セカンドキャリアとは、定年退職後や出産育児後の第二の人生における職業のことです。ここではセカンドキャリアが注目されるようになった背景や企業実例、具体的な取り組みなどについて解説します。
目次
1.セカンドキャリアとは?
「セカンドキャリア」とは、「第二の人生における職業」のことで英語の「second」と「career」を組み合わせた和製英語です。もともと引退を迎えたプロスポーツ選手のキャリアチェンジを指して使用されてきました。
しかし終身雇用制度が事実上崩壊し、人生100年時代と呼ばれるようになった今日。「中高年層がこれまでの経験やスキルを生かして新たなキャリアを切り拓くこと」を「セカンドキャリア」と呼んでいるのです。
2.セカンドキャリアが注目される背景
これまで日本の働き方は、大学を卒業して入社した企業で定年まで働く「終身雇用制」が一般的でした。しかしこのキャリアパターンは90年代のバブル経済崩壊以降急激に減少。
労働力人口が叫ばれる今日、シニア世代も年齢にかかわりなく能力や経験を生かして働ける雇用対策、労働力の再配置と事業再構築が避けられなくなっています。
とりわけシニア人材の雇用を促進するため、あらゆる企業がセカンドキャリアの支援プログラム整備に力を入れるようになりました。
セカンドキャリアの現状
シニア世代のセカンドキャリアは「40~50歳のミドル世代」と「60歳以降のシニア世代」にわかれます。大企業の人員構成を見ると「ミドル世代」が占める割合は高くなっており、多くの企業が人件費の増加に悩んでいるのです。
リクルートワークス研究所の調査によれば、年齢が上がるほど採用実施割合が低くなるとのこと。つまりミドル世代のセカンドキャリア整備は急務の課題です。
3.年代別、ターニングポイント別のセカンドキャリア
「セカンドキャリア」といっても、労働者を取り巻く現状や課題はそれぞれ異なります。セカンドキャリアの現状や課題を年齢やターニングポイント別に、説明しましょう。
30代からのセカンドキャリア
セカンドキャリアはなにもミドル世代やシニア世代に限定されたものではありません。今後の人生や仕事について意識してくる30代からのセカンドキャリアもあるのです。
まだまだ中途採用の募集も多く、新しいことに挑戦しやすい30代のセカンドキャリアは「自身のキャリアの棚卸し」から始まります。これまで築いてきたキャリアと経験を強みにして「この先どのような生き方をしたいのか」を考えていきます。
40代からのセカンドキャリア
キャリアも経験も豊富になってくるのが40代の頃。ファーストキャリアの行きつく先が見え、「もっと違う生き方はないか」「自分が役立つ場所はほかにもあるのでは」と考え始めます。そこで次の3つを把握する必要があるのです。
- 自分には何ができるのか
- 自分にはどんな能力があるのか
- 自分は何をしたいのか
キャリア作りが苦手な人に不足しているのが「自分に何かできるかを知る」という意識。40代からのセカンドキャリアは「今の自分を知ること」が重要になるでしょう。
50代からのセカンドキャリア
「人生100年時代」と呼ばれる現代、ちょうど折り返しにあたる50代でセカンドキャリアを考え始める人もいるでしょう。
50代になると30代に比べて多くの知識や経験を身につけている反面、動き出すのに躊躇します。知識と経験をつけているがゆえに、行動に移しづらくなっているのです。
50代からのセカンドキャリアでは「頭で考えるよりまず実行」が重要になります。それまでの知識と経験をどう活用するかは、本人の行動力にかかっているのです。
リタイア後のキャリア
かつてリタイア後のスタイルといえば「自分のやりたいことをしてのんびりと過ごす」「趣味に没頭する」などが主流でした。
しかし近年「定年退職後も仕事を続けたい」「会社や家族のためではなく自分のやりたいことをやるために起業したい」と考える人も増えているのです。
少子高齢化と人口減少による人手不足を解消するため、シニア層が働ける環境を整備している企業も増えています。
結婚や出産後の復帰
女性は「出産」「産休明け」「子育て中や子育て後」などさまざまなライフステージを経てセカンドキャリアを迎えます。
セカンドキャリアとしての働き方は独立して起業したり、フリーランスになったりといくつかあるでしょう。しかしもっとも多いのは「同じ職場に復帰して働くこと」。出産では6カ月~2年程度の産休を挟んで、職場復帰する場合が多いです。
スポーツ選手の引退後
スポーツ選手の引退後はどうでしょうか。第一線を退いたあとも、監督や指導者としてその競技に従事する場合もあります。しかしすべての選手がその道を選べるわけではありません。
たとえかかわれたとしても、生活の基盤を築く十分な収入が得られない可能性もあります。民間企業に勤務しながら、参加できる範囲で手伝いやボランティアとして競技に携わるのが現実です。
4.セカンドキャリアの見つけ方
セカンドキャリアはどのように見つければよいのでしょうか。ここではセカンドキャリアの見つけ方について説明します。
- キャリアプランを明確にする
- 必要資格を確認する
- キャリアアドバイザーに相談する
- セミナーや講座に参加する
- 公共職業訓練
①キャリアプランを明確にする
セカンドキャリアを見つける際は、はじめに自分自身のキャリアにおけるゴールイメージを明確にします。具体的なゴールイメージが描けていないと、途中でどこへ向かえばよいのかわからなくなってしまうでしょう。
- 何歳まで働くのか
- どのような業界、領域で働きたいのか
- どのような仕事をするのか
あらかじめ、これらを明確にしたキャリアプランを描いておきます。
②必要資格を確認する
自身のキャリアプランを明確にしたら、それに向けて必要な資格を確認します。以下は特に独立開業や転職に優位な資格です。
- 1級ファイナンシャルプランニング
- 1級知的財産管理技能士
- 社会保険労務士
- 介護福祉士
日本の平均寿命は今後もさらに伸びると予想されています。よって「介護福祉士」や難易度の低い「社会保険労務士」などの需要は今後も高まると考えられているのです。
③キャリアアドバイザーに相談する
セカンドキャリアを見つける際、キャリアコンサルティングができる「キャリアアドバイザー」に相談する方法もあります。キャリアコンサルティングとは、求人の提案のみではなく利用者の思考を整理したうえで能力の発見や向上に関する相談に応じること。
キャリアコンサルティングによって仕事に対する意識が高まったり、自身の目指すキャリアが明確になったりするでしょう。
④セミナーや講座に参加する
ハローワークや民間企業が開催しているセミナーや講座に参加してみるのもよいでしょう。セカンドキャリアに必要な情報や知識を得られます。
セミナーに参加しているのは異業種・ほか業界でセカンドキャリアを考える人たち。同じ夢や目的を持つ仲間が見つかり、協力しながら必要な準備が進められるかもしれません。
⑤公共職業訓練
就職に有利な知識を身につけるため厚生労働省が実施している訓練プログラムのこと。東京都では公共職業訓練に50歳以上を対象とした「高年齢科目」というコースを設けています。
本訓練では高年齢者の求人が多いとされている建築や造園、電気関係に特化したコースを受講可能です。公共職業訓練は全国で実施しているため、地域のプログラムを確認してみるとよいでしょう。
5.セカンドキャリア採用を行うメリットと注意点
セカンドキャリア採用を行う企業にとってのメリットは何でしょうか。ここではセカンドキャリア採用のメリットと注意点について説明します。
経験や技術面の高さ
とりわけ20代から30代の層が厚い中小企業は、熟練スキルや指導力のある人材を欲しています。40代・50代のミドル人材はこれまでの勤務で確かな経験と技術を身につけてきました。セカンドキャリア採用により、自社で育成せずこれらの能力を取り入れられます。
人手不足解消
少子高齢化と人口減少による労働人口不足は、現代の日本が抱える喫緊の課題。そんななか、「定年退職後も体は元気だから働き続けたい」「誰かの役に立つ仕事をしたい」と考える人が増えてきました。
あらゆる企業が、まだまだ現役世代として働ける「ミドルシニア」の採用を労働力不足の解決につながる策として期待しています。
企業は受け入れるための環境整備を行う必要がある
セカンドキャリアの採用にはさまざまなメリットがある一方、セカンドキャリア人材を受け入れるための環境を整備しなければなりません。
特にシニア世代に支払う賃金の高さに関する課題は深刻です。労働者の平均年齢は今後ますます高くなり、労務費負担も増加するでしょう。企業はこれを見込んで人事施策を検討しなくてはなりません。
6.セカンドキャリア制度を導入した企業事例
現在、さまざまな企業がセカンドキャリア制度を導入しているのです。ここではセカンドキャリア制度を導入した企業の実例について説明します。
NEC
2005年度、NECでは「高齢者等の雇用安定に関する法律」の施行に対応して雇用延長制度の拡充を行いました。以下はいずれも以前から推奨しているキャリア形成支援施策の一環です。
ライフデザインセミナーの実施:マネープランをとおして今後の人生設計を考える研修(対象は55歳以上の労働者)
再就職支援サービスの提供:新たなキャリアへのチャレンジを希望する労働者に対して、グループ会社を通じた再就職支援サービスを提供
シャルレ
女性下着や化粧品などの訪問販売を手がけるシャルレでは、所定の退職金にくわえて「セカンドキャリア選択支援金」を上乗せし、再就職支援サービスを提供する「セカンドキャリア選択支援制度」を導入ました。
対象は50歳以上の正社員および再雇用嘱託社員で、人数は定めていません。制度には働き方改革の推進に加え、中長期的な人員構成の適正化を促す狙いがあります。
7.セカンドキャリアの支援対策と取り組み
各企業はじめ、厚生労働省でもセカンドキャリアを支援しています。セカンドキャリアの支援対策と具体的な取り組みについて説明しましょう。
採用時の年齢差別禁止
新卒中心採用や年功序列処遇など、日本では年齢制限を設けた採用・人事処遇が行われてきました。これにより中高年齢者の就労機会が、制限されていたのです。
2007年、雇用対策法の改正により募集、採用に係る年齢制限の禁止が義務化されました。事業主は年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません。
助成金制度
中高齢者雇用対策を実施するため、政府は各種支援施策を実施しています。
- 定年引上げ等奨励金:かつての継続雇用定着促進助成金。労働者の雇用維持を図る
- 高年齢者の労働移動支援コース:離職者の円滑な労働移動を支援する
- 特定求職者雇用開発助成金:労働者を新たに雇い入れる際の助成金
- キャリア形成促進助成金:職業能力の向上を図る際の助成金
中途採用等支援助成金
中途採用者の雇用管理制度を整備し、拡大を図る事業主が受給できる助成金です。下記の2つがあります
- 「中途採用拡大助成」:中途採用者の拡大、45歳以上の初採用または情報公表、中途採用者数の拡大を図る事業主に対する助成
- 「生産性向上助成」:中途採用拡大助成の支給を受け、一定期間経過後に生産性が向上した事業主に対する助成
両立支援等助成金
職業生活と家庭生活の両立を支援して、女性の活躍推進に取り組む事業主を支援する助成金です。以下4つのコースで職業生活と家庭生活の両立を支援しています。
- 出生時両立支援コース:男性の育児休業取得を促進
- 介護離職防止支援コース:円滑な介護休業の取得・復帰を促進
- 育児休業等支援コース:仕事と育児の両立が困難な時期の労働者を支援した事業主に助成
- 再雇用者評価処遇コース:妊娠や出産などを理由に退職した労働者が就業可能になった際、復職できる再雇用制度を導入した事業主に助成
8.セカンドキャリア支援サービス
政府が設けた助成金制度以外にもさまざまなサービスがセカンドキャリアを支援しているのです。ここでは3つのセカンドキャリア支援サービスについて説明しましょう。
- シルバー人材センター
- 独立行政法人高齢・障がい・求職者支援機構
- 産業雇用安定センター
①シルバー人材センター
各都道府県知事の指示を受けて設置されたのが「シルバー人材センター」。「高年齢者等の雇用安定等に関する法律」にもとづき、市区町村ごとに設置されたセンターが独立して事業を運営しています。
シルバー人材センターの目的は「高齢者が仕事を通して生きがいを得る」「事業をとおして地域社会の活性化に貢献する」です。原則、60歳以上の高齢者に仕事を提供しています。
②独立行政法人高齢・障がい・求職者支援機構
「独立行政法人高齢・障がい・求職者雇用支援機構」では、高齢者の雇用に取り組む事業主に対して相談窓口を設け、助成金の受付、イベントやセミナーの開催、調査研究に関する情報等の提供を行っています。具体的な業務は以下のとおりです。
- 高年齢者等の雇用促進のため、給付金の支給
- 高年齢者等の雇用に関する、事業主への相談および援助
- 求職者支援訓練の認定および訓練の実施に必要な助言や指導
③産業雇用安定センター
勤労意欲のある人に就労の支援・失業の予防などを行って雇用の安定を確保しているのが「産業雇用安定センター」です。
厚生労働省そして全都道府県に設置された事務所と連携を図りながら、労働者の再就職、出向の支援事業に取り組んでいます。年間支援件数は9千件前後。1987年の設立以降「失業なき労働移動」を支援し続けています。