生理休暇とは、生理日の体調不良を理由に取得できる休暇のことです。生理休暇は労働基準法で定められている法定休暇であり、女性従業員から請求があった場合に企業は応じる義務があります。
今回は生理休暇について、取得条件や給与の扱い、制度を設けるメリットやポイントなどを詳しくご紹介します。
目次
1.生理休暇とは?
生理休暇とは、生理日において女性が就業困難な場合に取得できる休暇です。半日単位や時間単位、1日単位で取得できます。法定で定められている休暇であり、法定外の特別休暇とは異なるため、企業が独自で従業員に与える休暇ではありません。つまり、すべての女性従業員が法定で取得できるものです。
生理休暇の目的
生理中は生理痛や頭痛、貧血による倦怠感などPMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)の一部として、特有の体調不良が生じる場合もあります。症状やその程度には個人差がありますが、就業が困難になるケースも珍しくありません。
無理な就業はさらなる体調悪化やパフォーマンスの低下につながるため、女性を保護することを目的に生理休暇が設けられています。
生理休暇に関する法律
生理休暇は、労働基準法第68条にて規定されている法定休暇です。
生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合には、その者を生理日に就業させることはできません。
生理に伴う下腹痛や腰痛、頭痛等によって就業困難な女性に対し、従事している業務を問わず休暇を請求できるとしています。生理に伴う体調不良の程度や就労難易は人によって異なるため、就業規則やその他規則によってその日数を限定できません。
2.生理休暇取得の現状
生理休暇の取得率は現状、極めて低いです。厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」によると、平成31年4月1日から令和2年3月31日までの間に生理休暇の請求者がいた事業所の割合は3.3%でした。
平成27年度は2.2%であるため、請求者の割合はわずかに増えているものの、それでも申し出る人の割合は極めて低いです。
また、女性労働者のうち生理休暇を請求した人の割合は0.9%と、制度はあるものの生理休暇を利用していないことがわかります。
また、厚生労働省「働く女性と生理休暇について」内のデータによると、生理による不快な症状について「症状が強いが我慢している」女性の割合が66.4%にものぼります。
大企業は制度化されている
同じく、厚生労働省「働く女性と生理休暇について」内のデータによると、大企業ほど生理休暇を制度化しているとわかります。職場に生理休暇があると回答した企業の割合を、企業規模別に見ていきましょう。
- 従業員数1,000人以上:74.7%
- 従業員数300〜999人:71.4%
- 従業員数100〜299人:58.3%
- 従業員数10〜99人:41.0%
- 従業員数9人以下:25.2%
従業員規模が小さいほど人手も足りないため、制度化していないケースが多いと考えられます。
3.生理休暇の取得条件
生理休暇の取得にあたって、明確な条件は設けられていません。労働基準法においては「生理日の就業が著しく困難な女性」を対象としています。生理による体調不良やその程度は個人差があり就労の難易は人によって異なることからも、明確な取得条件は定義されていないのです。
取得に医師の診断書は必要か?
取得条件は「生理日の就業が著しく困難」である場合です。その程度には個人差があり、かつ男性にはない体調不良であるからこそ判断基準が難しいもの。しかし、取得にあたって医師の診断書のような厳格な証明を求めることはありません。
手続きを複雑化すると制度自体が使われなくなってしまう恐れもあるから、原則、特別の証明がなくても取得できる仕組みになっています。企業側は女性従業員から申し出があった場合に速やかに対応することが必要です。
生理休暇の取得日数の条件
取得日数の制限はなく、時間単位や半日単位での取得も可能です。症状は個人差があり、生理日当日だけの取得とは限らないでしょう。たとえば午前中に生理痛の症状が重く、午後から回復したため出社するなど、柔軟に利用できるものです。
就業規則で生理休暇の日数を限定することは労働基準法において許されていないため、企業側が取得日数を制限することはそもそも認められません。
4.生理休暇中の給与は無給か有給か?
生理休暇中の給与は、無給・有給どちらでも可能です。給与の扱いについて労働基準法における規定はなく、無給としても違法ではないため職場の方針に依存します。
約3割の事業所が有給としている
厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」によると、「有給」とする事業所の割合は 29.0%でした。そのうち、65.6%が「全期間100%支給」としています。生理休暇を有給とする企業の割合は、現状、低下傾向にあります。しかし直近では割合が増えているため今後の有給化に期待が高まります。
有給 | 全期間100%支給 | 無給 | |
令和2年度 | 29.0% | 65.6% | 67.3% |
平成27年度 | 25.5% | 70.6% | 74.3% |
平成19年度 | 42.8% | 70.0% | 54.8% |
生理休暇は確実に取得でき、かつ日数制限ができない休暇です。また、有給にした場合のコストがかかるため、無給の割合が多いと考えられます。しかし、無給にすると「無理してでも働こう」と本来の生理休暇の目的に反してしまう恐れもある点は課題です。
5.生理休暇のメリット
生理休暇は法定休暇であるため申し出があった場合、企業は応じる義務があります。しかし「そもそも生理休暇の存在を知らなかった」「人手不足な状況下で申請しにくい」などから、申請をためらう女性従業員も少なくありません。
生理休暇の取得を推奨することは、企業に以下のようなメリットをもたらします。リソースやコスト面ではデメリットと感じられる制度であるものの、メリットにも着目してみましょう。
女性従業員のモチベーションが高まる
生理による体調不良は業務パフォーマンスに支障をきたすだけでなく、生活の質も低下させてしまいます。女性特有の症状に対して企業が理解を示し、サポートしてくれる姿勢を持ってくれることで従業員が働きやすさを感じられるでしょう。
そうした企業の姿勢にむくいようと貢献意欲が高まり、結果的に仕事に対するモチベーションが向上し企業にプラスに働きます。
安全衛生管理体制が強化される
生理によって体調が優れないなか業務を遂行すると、ミスや怪我につながるなどさまざまなトラブルに発展する恐れもあります。たとえば、体調不良によって従業員が転倒して怪我をしてしまった場合、その責任は使用者である企業にあるのです。
職場における従業員の安全と健康を守ることは、企業の義務。生理休暇は女性従業員の安全と健康を守るためにも必要であり、生理休暇によって無理な就業を防ぐと、職場と従業員双方の安全性を確保できます。
企業イメージが向上する
女性にとって生理は切っても切り離せないもので、生活・仕事に大きく影響をおよぼす事柄です。生理休暇が周知されており、しっかりと取得できる職場であるかは、女性従業員にとって大切なポイントの一つ。
求人情報に生理休暇の利用状況が明記されていれば、女性に対する理解がある企業としてイメージもアップし、優秀な女性従業員を確保しやすくなる効果が期待できます。
6.生理休暇導入のポイント
生理休暇を導入するにあたって、以下のポイントを押さえておきましょう。
就業規則に記載する
就業規則の「休暇」の項目に「生理休暇」をくわえることが必要です。労働基準法では、就業規則の絶対的必要記載事項とされています。
あわせて「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合、必要日数の休暇を与える」といった内容でルールも記載しましょう。
上司以外にも申請できるようにする
休暇申請は上司にするのが一般的であるものの、上司が男性である場合も多いでしょう。申請相手が男性だと「生理というのが恥ずかしい」「理解してもらえないかも」といった理由から申請をためらってしまう人が出てくるかもしれません。
実際に生理休暇を利用しにくい要因として、約6割が「男性上司に申請しにくい」といった理由を挙げています。
一方、女性上司でも症状に個人差があるため生理による就業困難へ理解を得られない場合もあります。そうした状況によって生理休暇が取得できない事態を回避するためにも、上司以外にも申請できる仕組みを整えるとよいでしょう。
不正利用防止策も検討する
労働基準法によって、申し出があった場合、生理休暇の取得が定められています。一方で証明が難しいことから、不正利用の防止についても検討する必要があります。
よくある対策例として、欠勤扱いや無給扱いにすること、同僚からの証言を得ることが挙げられます。ただし、欠勤や無給の扱いは利用を阻んでしまう原因にもなりうるため注意が必要です。
出勤率に配慮した仕組みをつくる
生理休暇が欠勤扱いとなる場合、有給休暇の付与に影響が出てしまう恐れもあります。なぜなら有給休暇の付与には8割以上の出勤率が必要であるからです。
そのため、有給休暇に影響が出ないよう出勤率算定時に「出勤」扱いにする、生理休暇のうち有給に充てる日を設けるなどといった策も取り入れてみましょう。
7.生理休暇導入時の注意点
生理休暇を導入する際は、下記ポイントに注意しましょう。
雇用形態に関係なく適用する
生理休暇は雇用形態に関係なく、すべての女性従業員が使用できる制度です。正社員にだけ使用を許可し、アルバイトの申請を却下することは認められません。また、雇用形態に応じて限定的なるルールを設けることもNGです。
取得日数を制限しない
労働基準法によって、取得日数に制限を設けることは禁止されています。「年あるいは月◯日まで」といったように規定を設けられません。
ただし、「半日単位」「時間単位」「1日単位」といった取得単位は、企業のルールで定めることが可能です。従業員の希望や管理体制などをふまえて規定を整えましょう。
診断書の提出を求めない
生理に関する症状やその程度には個人差があり、客観的な判断は難しいもの。しかし、休暇申請にあたって診断書の提出は求められません。客観的な証明を求める場合、同僚から証言を得るといった程度であれば認められます。
8.生理休暇の取得率を上げるために企業ができること
生理休暇の取得率を上げることは、女性従業員の心理的安全性の向上や働きやすい職場づくりにつながります。ここでは、取得率を上げるために企業ができることをご紹介します。
社内で周知・取得推進を啓蒙する
「生理休暇の存在を知らなかった」「利用している人が少なく申請しにくい」など、制度が知られていない、知っていても利用しにくいといった理由から取得率が上がらない企業も少なくありません。
制度自体を知らなければ取得にはつながらず、制度があっても利用しにくい状況では取得率も上がらないでしょう。まずは制度を社内で周知し、かつ取得を推進する姿勢を見せることが大切です。
申請しやすい体制を構築する
複雑な申請方法は、取得をためらう原因にもなります。申請のハードルが高くならないようメールやチャットでかんたんに申請できる、申請先は必ずしも直属の上司でなくてもよいなど、手続きしやすい体制を構築することも企業ができることです。
相談窓口を設置する
生理に関する相談ができる窓口を設置することも有効です。生理痛を我慢し、対処していない人が多いゆえに取得率も上がりにくい状況にあります。
相談できる窓口があることで生理に関する理解やサポートが得られていると感じ、我慢することなく休む意識が芽生えやすくなります。
生理に関するリテラシーを高める
生理休暇は女性従業員の権利であり、企業の義務であることを知ってもらうためにも、リテラシー向上につなげる研修を実施するのも1つの方法です。
生理休暇を申請しにくい理由に、男性従業員や症状が軽い女性従業員からの理解が得られにくいことも挙げられます。生理における体調不良は個人差があり、客観的に証明が難しい事柄であることからも個人差がある点や症状など生理について理解を深めるのも必要です。
9.生理休暇を取りすぎるとどうなる?
取得日数に制限を設けられないものの、常識の範囲内での限度はあります。生理休暇を取得し過ぎると、場合によっては通常の有給休暇が利用できなくなる可能性が考えられます。
とくに生理休暇を欠勤扱いとする企業では、有給休暇の付与に影響が出てしまうでしょう。生理休暇を与えることは企業の義務。一方、生理休暇日をどういった扱いにするかは企業に委ねられます。
10.生理休暇取得を断られたら?
対象の従業員が休暇取得を申し出た際、企業は生理休暇を与える義務があり、請求を拒否すると労働基準法違反として30万円以下の罰金が科せられます。
請求を断られた場合は、人事や労務に相談するのも方法の1つ。請求先の上司が生理休暇について十分に把握していない可能性もあるため、法律上の扱いを知っている部門に相談すると対応してもらえるでしょう。