政策金融公庫とは「日本公庫」とも呼ばれる政府出資の金融機関のことです。ここでは政策金融公庫の目的や役割、融資のメリットやデメリットについて解説します。
目次
1.政策金融公庫とは?
「政策金融公庫」とは国が100%出資する公的金融機関のこと。国が経営しているため、民間金融機関のように倒産する恐れはありません。銀行や信用金庫など民間の金融機関をフォローする役割を果たしているのが「政策金融公庫」です。
どんな目的で設置されているのか
政策金融公庫の目的は、経済の発展や産業の振興、国民生活の安定などの政策目標を達成すること。国が定めた政策にもとづいて、創業支援や中小企業の事業支援などを行っています。
政策金融公庫の基本理念には「民間金融機関の補完」もあるのです。民間の金融機関では融資されないような、リスクのある事業への融資も政策金融公庫が行います。
一般的な金融機関との違い
政策金融公庫と一般的な金融機関、その大きな違いは「営利目的か、非営利目的か」という点。同じ融資でも、株式会社の形態をとる銀行ではビジネスの一環としてお金を貸しているのです。
対する政策金融公庫では経済の成長や地域活性化を融資の狙いとしています。政策金融公庫が開業1年目で実績のない会社に対しても融資を行っているのは、国が定めるさまざまな政策と連動しているからです。
2.政策金融公庫が担う役割
政策金融公庫に期待される役割は、下記のとおりです。政策金融公庫が手がける具体的なサービスと政策金融公庫が担う役割について解説しましょう。
- 日本経済の成長・発展への貢献
- セーフティネットとしての機能
- 地域活性化への貢献
①日本経済成長・発展への貢献
新たな事業の創出、開業数の増加は雇用確保や経済成長の一助となる取り組みとして、政府の成長戦略に掲げられています。
しかし実のところ資金調達が思うようにいかず、立ち上げに苦心するベンチャー企業は少なくありません。政策金融公庫ではベンチャー企業を立ち上げ時からサポートしたり、新たなニーズに適応したりして日本経済の成長を後押ししています。
②セーフティネットとしての機能
政策金融公庫には、資金繰りに支障をきたしている事業主にとっての「セーフティネット」としての機能も期待されています。
社会的、経済的な環境の変化により一時的に売上の減少をきたしているものの、中長期的には状況が回復すると見込まれる事業主に対して、必要な運転資金を融資します。2016年度には15万262件、2兆2,059億円の融資を行いました。
③地域活性化への貢献
民間金融機関と連携して地域プロジェクトに参画したり、地域の産業振興を通じて融資を行ったりして、地域経済の発展と活性化に寄与することも政策金融公庫が担う役割のひとつです。
なかには創業予定者および創業後3年以内の事業者が借入を希望した際、民間金融機関と情報の提供・紹介を相互に行い、金融の安定化をはかった事例もあります。
3.政策金融公庫の融資の種類
政策金融公庫の融資には、3つの事業分野があります。それぞれ詳しく説明しましょう。
- 国民生活事業
- 中小企業事業
- 農林水産事業
①国民生活事業
「国民生活事業」とは、個人事業主やフリーランス、小規模事業者や創業企業に向けて小口資金や新規開業資金などを融資する事業です。
融資先数はおよそ88万先で、1先あたりの平均融資残高は703万円。融資先の9割が従業者9人以下の小規模事業者であるため、小口融資を主体としていると分かります。
このほかに地域の身近な金融機関として、教育ローンによる支援やソーシャルビジネスの支援なども行っているのです。
②中小企業事業
「中小企業事業」では、日本経済活力の源泉である中小企業および小規模事業者を金融面から支援しています。中小企業事業は国民生活事業に比べて利用可能な企業要件が細かく設定されており、個人での利用はできません。
中小企業事業の限度額は4.8億円で、最長20年の固定金利融資も実施しています。また審査も国民生活事業に比べて厳しいため、融資を受けることで会社の信用度の高さが認められた証になるのです。
③農林水産事業
「農林水産事業」は農林漁業や食品産業を営む事業者に対して支援事業を行い、農林水産業の体質強化、食料の安定供給に貢献している事業です。
農林漁業には投資回収に長期間を要したり、天候などの影響を受けやすく収益が不安定だったりと、ほかにはない特性があります。
自然災害や家畜伝染病などにより一時的に経営が悪化した際、長期運転資金をはじめとする融資を行いセーフティネットとしての機能を発揮するのが、政策金融公庫における農林水産事業の役割です。
4.政策金融公庫の新創業融資制度
新創業融資制度とは、新たな事業を始める事業主や事業を始めてまもない事業主などに、担保・保証人のいらない融資を行う制度のこと。ここでは新創業融資制度の利用要件や融資限度額、返済期間について解説しましょう。
利用要件
「新創業融資制度」を利用できるのは、以下の要件すべてを満たす事業主です。
- 対象者の要件:新たに事業をはじめる人、または事業開始後に税務申告を2期分終えていない人
- 自己資金の要件:創業時に創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる人
- なお次に該当する場合、「自己資金の要件」を満たしているものとされます。
- 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める人
- 産業競争力強化法に定めた「認定特定創業支援等事業」を受けて事業を始める人
融資限度額と返済期間
新創業融資制度の融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)と定められています。これらは新たに事業をはじめるための資金として、あるいは事業開始後に必要となる設備にあてる資金、運転にかかる資金として使うのです。
返済期間は「各融資制度に定める返済期間以内」としており、おおむね5~7年程度の返済期間が設定されます。
保証人は不要
先に触れたとおり、新創業融資制度は担保や保証人がなくても融資を受けられます。金融機関で融資を受ける際、一般的には保証人をどうするかを尋ねられるもの。
しかし新創業融資制度は原則、無担保無保証人の融資制度ですので、代表者個人に責任はおよびません。ただし保証人の有無によって返済する際の金利は変わります。
5.政策金融公庫の融資のメリット
政策金融公庫の融資にはどんなメリットが存在するのでしょうか。ここでは5つのメリットについて説明します。
- 金利の低さ
- 審査を通過しやすい
- 事業についてアドバイスを受けられる
- 返済期間が長い
- 社会的信用を得られる
①金利の低さ
政策金融公庫の融資を受ける最大のメリットは民間の金融機関に比べて金利が圧倒的に低い点です。先に述べた「新創業融資制度」の基準利率は2.41~2.90%(令和3年7月1日現在)。対する民間の金融機関は3.00%が多いとされています。
利率が低いため、そのほかの条件が同じであれば民間金融機関に比べて総返済額を減らせる可能性が高くなるのです。
②審査を通過しやすい
政策金融公庫の目的は、「民間金融機関が行う金融を補完」「中小企業の資金調達を支援」となっています。
「民間金融機関から融資を断られた」「会社としての実績がないため、資金調達が難しい」といった場合でも、政策金融公庫の融資を受けられる可能性があるのです。
③事業についてアドバイスを受けられる
政策金融公庫では、融資はもちろん事業の発展や今後の展開について相談できます。過去に政策金融公庫の支援を受けた事業者がその後どのように事業を展開していったのか、どのような過程を経て成功、失敗したのかの情報を蓄積しているのです。
また全国にある政策金融公庫支店には相談窓口が設置されています。窓口をとおして税理士や中小企業診断士に相談することも可能です。
④返済期間が長い
政策金融公庫の融資は長期借入が主体です。利用する融資制度によるものの、運転資金は最長7年、設備資金は5年以上20年以下で返済期間を選べます。
一方、民間金融機関の融資期間は数カ月から数年ほど。政策金融公庫では10年以内を希望する事業者が多いため、民間金融機関に比べて安定した返済計画を立てられます。
⑤社会的信用を得られる
事業資金を借りる際、どこから借りるかは事業主を悩ませる問題のひとつです。ノンバンクや消費者金融から借りた場合、取引先や出資者に悪い印象を与える可能性があります。
その点、日本政府が100%出資している政策金融公庫は審査が厳密だと知られているため、政策金融公庫の融資を受けている点が、「厳密な審査を通過できる会社、あるいは個人事業主」であると証明してくれるのです。
6.政策金融公庫の融資のデメリット
政策金融公庫には低金利や社会的信用の獲得、長期の返済期間確保などさまざまなメリットがあるものの、同時にいくつかのデメリットも存在するのです。ここでは政策金融公庫のデメリットを4つ説明します。
- 審査に時間がかかる
- 借り換えができない
- 繰り上げ返済ができない
- 担当者を選べない
①審査に時間がかかる
消費者金融であれば数日、銀行であれば1週間程度で融資が決まるのに対して、政策金融公庫では3週間から1カ月ほど時間がかかります。これは政策金融公庫には地方自治体、信用保証協会、民間金融機関の三者が絡んでおり、それぞれに審査が必要なためです。
②借り換えができない
「自分がすでに融資を受けている銀行より、政策金融公庫のほうが低金利だから借り換えをしたい」と思っても借り換えはできないため注意しましょう。
これは「借り換えの結果、民間金融機関を圧迫しては、政策金融公庫の基本理念に反する」と考えられているためです。
③繰り上げ返済ができない
政策金融公庫で融資を受けた場合、「国民生活事業」であれば繰り上げ返済できますが「中小企業事業」であれば繰り上げ返済はできません。
金融機関はお金を貸し、それに係る利息を得て売上を立てます。繰り上げ返済が行われると金融機関側の不利益になる場合もあるのです。
そういった事情から、融資金額が比較的少ない国民生活事業では繰り上げ返済を可能とし、融資金額が比較的多い中小企業事業では繰り上げ返済を不可能としています。
④担当者を選べない
政策金融公庫で融資を受ける際は基本、納税地の住所で支店が決まるため、利用したい支店を選べません。また担当者の指名もできないため、必ずしも自社業界に精通した担当者になるとは限らないのです。
事業内容に明るくない職員が担当になると、まずは事業内容の説明から始まります。「どのような職員が担当になるかは運によるところが大きい」というのもデメリットのひとつです。
7.政策金融公庫の融資の流れ
政策金融公庫から融資を受ける際はまず窓口で相談し、次に「借入申込書」を含む必要書類を提出、そのうえで面談を受けます。ここでは政策金融公庫から融資を受ける際の流れについて、解説しましょう。
- 必要な書類
- 相談と申し込み
- 審査
- 契約・融資
①必要な書類
政策金融公庫の融資を受けるには、さまざまな書類が必要です。
- 創業計画書
- 過去2年分の源泉徴収票もしくは確定申告書
- 運転免許証のコピー
- 半年分の通帳のコピー
- 印鑑あるいは印鑑証明書
- 不動産の登記簿謄本
必要書類は個人営業か法人営業か、現在取引があるかないかでも変わってくるため、提出前に必ず担当者に確認しましょう。
②相談と申し込み
政策金融公庫の融資を受ける際は、はじめに最寄りの政策金融公庫支店に電話、もしくはホームページを確認して相談の予約をします。その後支店窓口を訪問して融資の相談をし、申請に必要な「借入申込書」や「創業計画書」などを受け取るのです。
初期相談の時点で、創業計画書の書き方や融資を受けやすい対策などを聞いておくとよいでしょう。
③審査
その後借入申込書の提出、担当者との面談を経て公庫内での審査がはじまります。借入申込書の提出後、1週間ほどで担当者から面談の日時についての連絡が入るのです。
面談の所要時間は30分から1時間程度。提出した創業計画書や資料についての質問が中心です。場合によっては面談後に追加資料の提出や補足説明を求められる場合もあるため、あらかじめ質問内容を予測して準備しておくと安心でしょう。
④契約・融資
面談が終わると担当者は開業予定地を調査したり、申込者の書類をチェックしたりして審査を進めます。すべての審査が終わり、融資が決定すると決定の通知と融資実行のために必要な書類が送られてくるのです。
これらの書類に必要事項を記載・返送し、政策金融公庫に書類が到着してから3営業日後にようやく着金となります。書類内容に不備があると着金が遅くなるため、十分確認したうえで送りましょう。