セルフキャリアドックとは、キャリア促進、支援を目的とした企業の取り組みのことです。この記事では、セルフキャリアドックについて解説します。
目次
1.セルフキャリアドックとは?
セルフキャリアドックとは、キャリアコンサルティングとキャリア研修を組み合わせることで、従業員のキャリア支援を目的とした企業の体型的な取り組みです。
セルフキャリアドックには、
- 従業員のキャリア形成
- 従業員のパフォーマンス向上
- 組織の活性化
- 経営目標の達成や経営目標の実現
といった効果があります。
セルフキャリアドックの定義
セルフキャリアドックは、企業がその人材育成ビジョンや方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせながら、体系的、定期的に従業員の支援を実施し従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み。また、そのための企業内の仕組みのこと、と定義されています。
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2.セルフキャリアドックが注目されている背景
セルフキャリアドックが注目されている背景を見てみましょう。
- 労働力人口の減少
- 変化の激しい社会
- 改正職業能力開発促進法
を例にあげて、セルフキャリアドックが注目されている社会背景や要因について解説します。
労働力人口の減少
セルフキャリアドックが注目されている背景のひとつは、労働力人口の減少です。
日本では、少子高齢化が進んでいます。生産年齢の減少による労働力の不足は深刻な社会問題となっており、求人募集が休職者を上回る売り手市場が続いています。
そのため企業はより質の高い労働力の確保を目指し、セルフキャリアドックに取り組むようになりました。
変化の激しい社会
セルフキャリアドックが注目されているふたつ目の背景は、変化の激しい社会です。急速なIT技術の進歩により
- 国際競争の激化
- ビジネスモデルの変容
- 新たなイノベーションの創造
などが求められる時代になりました。
企業は、それら変化の先を進めるよう、従業員や企業が、持っている能力を最大限発揮できる環境を整えていかなければなりません。
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改正職業能力開発促進法
セルフキャリアドックが注目されている3番目の背景は、改正職業能力開発促進法です。
改正職業能力開発促進法とは、
- 従業員のキャリアの自律
- 従業員自身がキャリア形成を行うことの重要性
を柱としている法律です。
セルフキャリアドックは、この改正職業能力開発促進法の柱を実現させるための取り組みなのです。
3.セルフキャリアドックと助成金
セルフキャリアドックには助成金が交付されていましたが、現在では助成金は廃止となっています。その代わりに、人材育成や能力開発を目的とした助成金として、人材開発支援助成金(制度導入助成)があります。
これは、継続的な人材育成に取り組むため
- 所定の人材育成制度の導入
- 被保険者への制度実施
を行った事業主や事業主団体等に交付される助成金です。
参考 人材開発支援助成金厚生労働省4.セルフキャリアドックがもたらすメリット
セルフキャリアドックは、労使双方にメリットがあります。それぞれのメリットをあげて、ポイントを解説します。
従業員側のメリット
セルフキャリアドックの従業員側のメリットは、自身が成長できることです。従業員はセルフキャリアドックの実施によって
- 自分自身のキャリアの明確化
- 仕事に対する目的意識の向上
- プランに沿った能力開発
ができます。
また、仕事を通して自身を成長させるだけでなく、
- 働くことの満足感
- 高いモチベーション
を得られます。
企業側のメリット
セルフキャリアドックの企業側のメリットは、以下の4点があります。
- 生産性向上
- 新卒社員の定着
- 育児、介護休業者の円滑な職場復帰
- シニア社員の活性化
生産性向上
セルフキャリアドックの企業側のメリットのひとつは、生産性向上です。セルフキャリアドックは従業員に、
- 自主的な取り組みの実施
- モチベーションの向上
- 定着率のアップ
といった影響をもたらします。
このように、目的意識を持った能力の高い従業員を育成できれば、
- 組織力の強化
- 生産性の向上
の原動力になります。
新卒社員の定着
セルフキャリアドックの企業側のふたつ目のメリットは、新卒社員の定着です。セルフキャリアドックは、
- マインドセット
- キャリアパスの明示
を行うことで、
- 仕事に対する姿勢
- 仕事に取り組む際の気持ち
を安定させると共に、さらなる向上を目指すように導く仕組みです。これから自分のキャリアを考えていく立場にある新入社員をサポートできます。
育児、介護休業者の円滑な職場復帰
セルフキャリアドックの企業側の3点目のメリットは、育児、介護休業者の円滑な職場復帰です。セルフキャリアドックを実施すれば、
- 育児
- 介護
といった事情を抱える従業員の
- 仕事との両立への不安感の払拭
- 両立にかかわる問題の解決
をサポートできます。
職場への復帰プランを作成すれば、計画的な職場復帰も支援できます。
シニア社員の活性化
セルフキャリアドックの企業側の4点目のメリットは、シニア社員の活性化です。セルフキャリアドックを活用すれば、セカンドキャリアを考えるシニア社員に対し、
- 職業能力や適性などへの自己理解
- 自分らしい職業生活の設計
ができる機会の提供が可能です。
また、管理職層が抱える課題を解決するためのサポート役も果たせます。
5.セルフキャリアドックの導入方法
セルフキャリアドックの導入方法には、5段階のプロセスがあります。ここでは、スムーズにセルフキャリアドックを実施するために、それぞれのプロセスごとに押さえておきたいポイントをあげて解説します。
プロセス①人材育成ビジョンの明確化
セルフキャリアドックを実施する際の最初のプロセスは、人材育成ビジョンを明確化することです。人材育成ビジョンとは、企業の経営理念実現のため
- 従業員へ求める人材像
- 人材像に近づけるための人材育成、教育方針
です。
経営者のコミットメントと社内周知
設定した人材育成ビジョンに対しては、
- 経営者のコミットメント
- 社内周知
が不可欠です。
経営者のコミットメントと周知の方法は、
- セルフキャリアドックの仕組みの具体化により明確化する
- 職業能力開発促進法規定された、従業員へのキャリアコンサルティング機会の確保を行う
- 従業員に対し、セルフキャリアドックについての明示、宣言をする
といった手順で行います。
プロセス②セルフキャリアドック実施計画策定
セルフキャリアドックを実施する際の2番目のプロセスは、セルフキャリアドック実施計画を策定することです。
設定した人材育成ビジョンや方針に基づいたセルフキャリアドックの具体的な実施内容を詰め、実施計画にとりまとめます。
実施計画に盛り込む項目
セルフキャリアドック実施計画に盛り込む内容は、以下のとおりです。
- 対象となる従業員属性やキャリア形成上における課題別の実施時期
- キャリアコンサルタント面談の実施回数
- 双方が安心して面談が実施できる面談場所
- キャリアコンサルタント面談にかける時間
- キャリアコンサルタント面談実施後のフォロー体制
面談シートやアンケートの作成
事前準備として、
- 面談シート
- アンケート
を作成します。
面談シートは、面談対象者に、属性など基本的な情報や面談で話す内容をあらかじめ記載してもらうものです。アンケートは、面談対象者から面談後のフィードバックを受けるための活用するためのものです。
これらを作成することで、キャリアコンサルタント面談をより充実したものにできます。
プロセス③インフラ整備
セルフキャリアドックを実施する際の3番目のプロセスは、インフラ整備です。インフラを整備する際に抑えておくべき項目があります。
ここでは、
- 責任者の決定
- キャリアコンサルタントの確保
をあげて解説します。
責任者の決定
セルフキャリアドックのためのインフラ整備に欠かせないのは、責任者の決定です。責任者は、セルフキャリアドックに関するキャリアコンサルタント全体を統括する役割を担います。
当然、従業員のキャリア育成に大きな影響力を持つため、社内全体の中から適任者を選ぶことが必要です。責任者を決めたら、実務担当者なども含めた実施組織を構築します。
キャリアコンサルタントの確保
セルフキャリアドックのためのインフラ整備に欠かせないもうひとつのポイントは、キャリアコンサルタントを確保することです。セルフキャリアドックを実施するためには、キャリアコンサルタントの存在は不可欠です。
- キャリア研修
- キャリアコンサルティング面談
- フォローアップ
を担う人材を社内外から確保します。
プロセス④セルフキャリアドックの実施
セルフキャリアドックを実施する際の4番目のプロセスは、セルフキャリアドックを実施することです。人材育成ビジョンに基づきセルフキャリアドック実施計画を策定しインフラ整備を整えたら、
- キャリア研修の実施
- キャリアコンサルタント面談
を実施します。
キャリア研修の実施
キャリア研修の実施とは、セルフキャリアドック実施対象となる従業員に対し、
- キャリアの棚卸し
- キャリアビジョンやアクションプランの作成
といった研修を行うことです。
個別にキャリア研修を実施することは非現実であるため、これらは集合研修により実施します。集合研修では、同席するほか社員から学べることも多くあり、相互啓発効果も期待できます。
キャリアコンサルタント面談の実施
キャリアコンサルタント面談では、面談対象従業員に対し、職務や業務を通して得た成長・経験・スキル・キャリアなどにおける自己の気づきの棚卸しを行います。
面談を通して当該従業員の、
- 企業から求められている役割
- 将来に向けた新たなキャリア設計
などをキャリアコンサルタントと一緒に確認していきます。
プロセス⑤フォローアップ
セルフキャリアドックを実施する際の5番目のプロセスは、フォローアップです。キャリアコンサルティング面談が終了したら、面談が済んだ従業員に対してのフォローアップを行います。
人事として管理すべきフォローアップは以下の3点です。
キャリアコンサルタントから人事部へのフォローアップ
管理すべきフォローアップのひとつ目は、キャリアコンサルタントから人事部へのフォローアップです。キャリアコンサルタントは、面談の結果をとりまとめた個別報告書を作成します。作成された個別報告書は、キャリアコンサルタント同士や人事と共有します。
人事部から経営層へのフォローアップ
ふたつ目にあげられるのは、人事部から経営層へのフォローアップです。キャリアコンサルタントからあがった個別報告書の内容の中から、
- 従業員のキャリア意識の傾向
- 従業員自身の課題と組織的な課題
- 課題への解決の方針や解決策
- 組織として、とくに検討や対応が必要と思われる重要な事案
などを経営層に報告します。
従業員へのフォローアップ
管理すべき3番目のフォローアップは、従業員へのフォローアップです。具体的には、キャリアコンサルタント面談の終わった従業員に対し、
- 追加面談を実施する
- 上司に対し、面談前後の当該従業員の様子に関するコンサルテーションを実施する
- 必要に応じて産業医などを含めた関係各部署へのリファーを検討、実施する
ことです。
6.課題に応じたキャリアドックの実施例
課題に応じたキャリアドックの実施例を知ることで、キャリアドックの活用方法への理解を深められます。
ここでは、キャリアドックは企業の課題に応じて柔軟に実施している例をよっつあげて、それぞれポイントを解説します。
キャリアドックは企業の課題に応じて柔軟に実施
キャリアドックは、企業の課題に応じて柔軟に実施することが重要です。しかし、セルフキャリアドックの導入目的や実施方法などは、企業によってさまざまです。そこで、企業が直面しやすい課題をピックアップして解説します。
課題例1、新規採用者の離職
キャリアドックの課題は、新規採用者の離職です。キャリアドックを実施することで、新規採用者に対し
- 仕事に向かう心構えや仕事に対する意欲といったマインドセット
- 自身のキャリアパス設計のための支援
ができます。
新規採用者の
- モチベーションを高める
- 労働意欲を引き出す
ことで、離職を防止できます。
課題例2、中堅社員のモチベーション低下
キャリアドックのふたつ目の課題は、中堅社員のモチベーション低下への対応です。従来型雇用形態の、
- 年功序列
- 終身雇用
が崩れていく中、中堅社員を活性化させることは企業が抱える喫緊の課題です。
キャリアドックの実施により
- 後半戦に備えたキャリアプランの設計
- 棚卸しをした能力を活かした就労の実現
ができます。結果、中堅社員の活性化が果たせます。
課題例3、シニア社員の人生設計
キャリアドックの3点目の課題は、シニア社員の人生設計です。
- 定年年齢の引上げ
- 少子高齢化による労働人口不足
などで、生涯現役で働くシニア社員が増加しています。
シニア社員の長期にわたるキャリアの充実のためには
- シニア社員の能力発揮を支援する研修
- キャリアコンサルティング面談の実施
を両輪としたサポートが必要です。
課題例4、育児・介護休業者が職場復帰しない
キャリアドックの4点目の課題は、育児・介護休業者が職場復帰しないことです。セルフキャリアドックを実施すれば、
- 育児・介護休業者の復帰に対する精神的な負担軽減
- 復帰後の長期的なキャリア設計
を支援できます。
休業後の職場復帰を心配している従業員に対し、円滑で安心できる職場復帰を促せます。