センスメイキングとは、一体何でしょうか。ここではセンスメイキングが注目されるようになった背景やその重要性、活用例などについて解説します。
目次
1.センスメイキングとは?
センスメイキングとは、これまでの経験や今起きている事象に対して能動的な意味を与えたり、想定外の出来事や不確実性の高い事象に意味付けを行ったりして、状況を好転させるプロセスのこと。
もともとマインドフルネスを組織研究の分野に応用した考え方で、アメリカの組織心理学者カール・ワイク氏を中心に発展、現代ではさまざまな分野で活用されているのです。ここではセンスメイキングの意味や例と、その重要性について詳しく説明します。
センスメイキングの研究にて対象となるのは、有意味で知覚可能な事象を構築する能動的な主体がどのように事象を構築し、また構築したものは何に作用するのかといった問題です。
センスメイキングに似た言葉
「センスメイキング」と似た言葉に「エポックメイキング(epoch-making)」があります。エポックメイキングとは、新しい時代につながる革新的な事象を起こすこと。
「革新的な」「画期的な」という言葉で訳されるとおり、「エポックメイキング」の登場する前と後でまったく時代が異なる、明確に線引きされるほどの意義を持つ際に用いられます。
2.センスメイキングの例
センスメイキングの事例として有名なのが、ハンガリー軍の雪山演習です。猛吹雪のアルプス山脈で遭難したハンガリー軍。なす術もなかった彼らは偶然隊員のポケットに1枚の地図を見つけました。
恐怖に震えていた隊員たちはその地図を見て落ち着きを取り戻し、無事下山に成功しました。しかし実のところその地図はアルプス山脈のものではなく、ピレネー山脈の地図だったのです。
彼らにとって大切だったのは地図の正確性ではなく、地図を見つけた結果「これで助かる」というストーリーがセンスメイキングされた点。冷静な状況下なら判断できたであろう勘違いをプラスに思い込み、危機を乗り越えた事例です。
3.センスメイキングの重要性
先の事例からも分かるとおり、センスメイキングでは事実を見極めることより「全員が納得する答え」を導き出し、行動に移していく点が重要になります。センスメイキングは先行きの見えない混乱状況のなかでこそ力を発揮する、といわれるのはそのためです。
「VUCA時代」と呼ばれる近年、不確実性が高く、複雑で予測できない経営環境が相次いでいます。そんな時代だからこそ、センスメイキングの重要性が注目されているのです。
4.センスメイキングが注目される背景
目まぐるしく変わる時代の変化、そして近年ではコロナ禍によって、センスメイキングはますます注目を集めるようになりました。ここではセンスメイキングが注目されるようになった背景について、4つの視点から説明します。
- 技術革新
- 不確実性の高い時代
- 持続可能な社会への関心
- 価値観の多様性
①技術革新
センスメイキングが注目されるようになった背景には、「技術革新」があります。インターネットを中心とするIT技術が人の営みを根本から変えようとするなか、変化なく同じ事柄をこなすだけでは、時代に取り残されてしまいます。
IT技術の発展によって、従来の経営戦略は通用しなくなりました。組織は技術革新を見据えた、新たな戦略を見出さなくてはなりません。
②不確実性の高い時代
2018年から続く米中貿易摩擦、そして2020年に起きた新型コロナウイルス感染症の世界的拡大によって、現代はより不確実性の高い時代となりました。予測不能な環境下にて、これまでの慣習にならった業務を続けていくとリスクを抱える一方となります。
「センスメイキング」によって起こっている事象をどう捉え、どう整理して行動につなげていくかが重要な鍵になるのです。
③持続可能な社会への関心
センスメイキングが注目される背景には「持続可能な社会への関心」もあります。「持続可能な社会」とは地球環境や自然環境が適切に保全され、そのうえで現在の世代の要求を満たす開発が行われている社会のこと。
将来と現代のニーズが満たされる社会を築くために必要なのは、従来の枠組みにとらわれないセンスメイキングを活用した新しい考え方です。
④価値観の多様性
人種や性別、年齢や信仰などにとらわれない「ダイバーシティ」が叫ばれて久しい昨今。企業でもキャリアや経験、働き方に関する新しい価値観が生まれてきています。
多様性の享受やダイバーシティ化は最終的な目的ではなく、あくまでも手段のひとつに過ぎません。センスメイキングにより価値観の多様性を認め、納得性が高い長期ビジョンの確立が求められています。
5.センスメイキングに含まれる要素
組織心理学者カール・ワイク氏を中心に発展してきた「センスメイキング」には、7つの要素が含まれています。
- アイデンティティの構築
- 回顧的な振り返り
- イナクトメント
- 社会性
- 進行中のプロセス
- 抽出されたものは全体の一部でしかない
- 正確さよりも説得性
①アイデンティティの構築
「アイデンティティ」とは自己の存在証明や主体性のことで、自身と自身が所属する組織状況の相互作用を通して構成されるのです。
センスメイキングは「自身や所属する組織」のアイデンティティにもとづいて規定されます。反対にセンスメイキングのプロセスをとおしてアイデンティティが規定される場合もあるのです。
②回顧的な振り返り
数字や感情、行動や写真などあらゆるデータを集めて意味付けを行うセンスメイキングは、過去を振り返ると可能になります。「何が正しかったのか・何が間違っていたのか」などは、過去を検証してみないと分かりません。
データや経験から意味付けを行うのは、過去の振り返りを行う、回顧的プロセスを経由する、という意味でもあるのです。
③イナクトメント
「イナクトメント(enactment)」は、「制定」や「法律」といった意味を持つ言葉です。
センスメイキングには「認識(環境)」と「行動」が含まれており、2つは相互に作用しています。行動をとおして自らの認識(環境)を創造するのと同時に、認識(環境)もまた人々の行動を創造しているのです。
このように、センスメイキングでは行動の道理にかなった認識(環境)をイナクト(制定)しています。
④社会性
ビジネスも社会である以上、つねに周囲へ影響を与えており、センスメイキングもまた社会性とは切り離せない相対主義に生きているのです。
センスメイキングは、個人だけでは成立しません。人の行動や内面で行っている事柄は、無意識のうち他者に左右されています。
センスメイキングはあくまで周囲の環境、他者との関係性があって成立するもの。社会性のないセンスメイキングはあり得ません。
⑤進行中のプロセス
先に触れたとおり、センスメイキングは過去を振り返ることで可能になります。繰り返されるプロセスの循環によって成立するため、始まりも終わりもありません。
人はつねに何が生じているかを意味付けて、それを修正していく流れにいます。ときには中断や省略を挟む場合もあるものの、センスメイキングは基本、継続する進行中の概念なのです。
⑥抽出されたものは全体の一部でしかない
人は何にでも意味付けできますが、認識されたものは全体から抽出された一部分に過ぎません。センスメイキングで抽出した個人の認識は、全体の一部でしかない点をつねに認識する必要があるのです。
人は抽出された手がかりをもとに、結論に至る行為を導き出します。センスメイキングで取るべき行動は、抽出された手がかりが起点となっているのです。
⑦正確さよりも説得性
「人は正しさや合理性だけで動かない」という話を、耳にしたことがある人も多いでしょう。自身や他者を納得させるのは正確性ではなく、理にかなった一貫性のあるもっともらしさ。
予想外・不確実性の高い出来事に直面したときほど「これで行こう」と思える説得性、もっともらしさが重要視されるのです。正確さの追及はあくまでも二の次という点は、先に挙げたハンガリー軍の事例からもよく分かります。
6.センスメイキングの活用例
意味付けや納得といった意味合いで用いられる「センスメイキング」。この概念は組織改革やリーダーシップなどさまざまなシーンで活用されています。ここでは「腹落ちの理論」とも呼ばれるセンスメイキングの活用例をいくつか紹介します。
組織改革
組織改革には正しい答えではなく、納得性の高いセンスメイキングが必要です。組織改革を行う際は、関係者によって今後のビジョンにさらなる意味づけを促し、進む方向を変革につないでいく必要があります。
組織改革では、「関係者すべての意味形成によってどのような新しい価値を生み出せるか」に焦点を当てたセンスメイキングが活用できるのです。
リーダーシップ
組織をけん引するリーダーとしての資質や能力を指す「リーダーシップ」にも、センスメイキングは欠かせません。経営者は業務や組織構造などに自分の価値観を反映させ、社員に「自分にとって価値のあるものだろうか」を判断させます。
このリーダーシップに腹落ちする納得性の高いセンスメイキングを活用できれば、組織は強力な推進力を得られるでしょう。
経営戦略
センスメイキングは、自社の経営戦略を練る際の材料になるのです。メンバーが腹落ちできるストーリーを構築し、共通の認識を持てるセンスメイキングは、市場低迷や経営危機、経営理念に疑問が生まれた状況下などで高い効果を発揮します。
経営戦略によって危機的状況を脱したい際や、意図的な変化を起こしたい場合にこそ、センスメイキングは活用できるのです。
7.センスメイキングをビジネスで生かす方法
センスメイキングをビジネスで生かすには、どのような方法を実行すればよいのでしょうか。下記5点から説明します。
- つねに変化に目を向ける
- 人との交流を増やす
- 多様な人材を取り入れる
- 意見を共有する
- 振り返りを習慣付ける
①つねに変化に目を向ける
かつて消費者が持っていた「安ければよい」という価値観は、2000年の調査と比較して大きく減少。これは企業にとって追い風になる可能性があるのです。
自社だけでなく消費者や他社の変化に気を配り、新たな価値を創出し続ければ、企業の存在感を示せるでしょう。
②人との交流を増やす
交流の場はセンスメイキングが作用した「気付き」による自発的な行動と、参加者の主体性を高めます。人との交流を増やすと、それまで持っていなかった異なる価値観や新たな価値観に触れられるのです。
③多様な人材を取り入れる
自社をセンスメイキングに富んだ組織とするには、多様性のある人材の確保が不可欠です。グローバル競争が激化して不確実性が増すなか、自社の競争力基盤を強化するには、従来の人事管理を前提とした働き方を見直さなければなりません。
女性や外国人の活躍を増やすだけでなく、従来の「適材適所の人材像」を変革していく必要もあります。
④意見を共有する
価値観の違いは必ずしもネガティブになるわけではありません。確かに価値観が似ていれば仕事もスムーズに進み、衝突やストレスも少ないでしょう。しかし新たな空気や気付きを与えるのは苦手です。
価値観の異なる人物と意見を共有すると、それまで見えなかった新しい価値観に気付けます。異なる価値観・意見の共有がセンスメイキングの活用につながるのです。
⑤振り返りを習慣付ける
センスメイキングを可能にしていくには「振り返り」が欠かせません。振り返りを行うと、そこに至るまでの道筋が明確になります。同時に振り返りによって、主体性を持たせられるのです。
会議や反省会の場を設けて過去の取り組みを詳しく検証してみましょう。振り返りを習慣付けると、取り組みは正しかったのか、効果があったのかなどを判断できます。