セレンディピティという単語は、主に科学の世界で使われていました。しかし近年、ビジネスのシーンでも使われる場合が多くなってきています。
目次
1.セレンディピティとは?
セレンディピティとは、「偶然の産物」を意味する言葉で、主に科学の世界で使われてきました。代表的な事例は、ニュートンが「リンゴが木から落ちる」状況を見た結果、「万有引力の法則」にたどり着いたことでしょう。
セレンディピティの意味
セレンディピティという言葉は1754年、イギリスの政治家・文筆家だったウォルポールが友人のマンに宛てた手紙で使われました。
語源はおとぎ話集の「セレンディップと3人の王子」という本の「セレンディップ」を変形して使ったものだといわれています。
セレンディピティの定義は「偶然と賢明さによって、探していたものと異なるものを発見すること」。その後、20世紀の後半からセレンディピティという言葉が普及するようになっていきました。
セレンディピティの代表例
先述したアイザック・ニュートンの「万有引力の法則」のほか、アレクサンダー・フレミングが成し遂げた「ペニシリンの発見」も、セレンディピティの有名な一例です。
フレミングはぶどう球菌の研究をしていましたが、誤って細菌を培養するシャーレの上で青カビを発生させてしまいました。しかし偶然にもその青カビの周りでは細菌が繁殖しないと気付き、そこから抗生物質であるペニシリンの抽出に成功したのです。
セレンディピティにおけるメリット
セレンディピティは人類の歴史にて、さまざまな功績を残しています。そんなセレンディピティはビジネスの世界ではどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
- 気付きをもたらす
- イノベーションをもたらす
- 経営戦略に役立つ
①気付きをもたらす
自身の行動によって、「新たな一面」「問題や課題」「解決法」などを、自身の意図ではなく、偶然のひらめきとして気付けるようになるのです。
②イノベーションをもたらす
先述したニュートンやフレミングの発見のように、セレンディピティによって得られた情報には、今までの常識を覆すような大きな情報や手法を含む場合があります。その情報や手法を用いると、企業や業界全体にイノベーションをもたらす可能性が高まるのです。
③経営戦略に役立つ
経営戦略を考える際は、さまざまな状況を予測するでしょう。しかし人間の予測能力には限界があります。そこにセレンディピティを組み込むと、今まで考えつかなかったような戦略を取れるようになるのです。
シンクロニシティとの違い
セレンディピティと似たような言葉に「シンクロニシティ」という言葉があります。どちらも「偶然から発生する」という点では同じですが、シンクロニシティはその偶然から何かを発見するというものではありません。
たとえば、「自分が今欲しいと思っていたものが偶然もらえた」のような偶然の現象を指す言葉で、セレンディピティのようにそこから何かを発見して利益を得るものではないのです。
セレンディピティ消費
セレンディピティを使ったマーケティング用語に「セレンディピティ消費」があります。セレンディピティ消費とは、「予測できないこと」を求める消費者をターゲットとしたマーケティングの手法です。
疑似的に、再現性のない1度きりの偶然を引き起こし、消費者に「偶然その商品に出会った」と体感させることで商品の購買意欲を刺激します。
2.セレンディピティが注目されるようになった背景
セレンディピティは、偶然からイノベーションを生み出す起爆剤として、さまざまな面で期待されています。しかしなぜセレンディピティはなぜ注目を浴びるようになったのでしょうか。ここでは、その背景について見ていきます。
- 技術革新
- グローバル化
- 価値観の変化
①技術革新
近年、人々の生活においてインターネットは切っても切れないものになりました。またインターネットもよって普段からさまざまなセレンディピティを体験できる可能性があるのです。
たとえば、インターネットを使って何かについて調べているとき偶然、「ほかに気になっていた事柄に関する答えを発見できた」という場合があるでしょう。これもセレンディピティのひとつです。
②グローバル化
インターネットにも当てはまりますが近年、世界規模で人やもの、お金やアイデアが氾濫しています。世界規模で物事を見る状況が増えた現代だからこそ、今まで得られなかったような経験や知識から、セレンディピティを得られるようになってきているのです。
③価値観の変化
今まであったような年功序列の考え方から、能力が高い人材を重視する考え方に変わってきた結果、「古い慣習に囚われない」「新しい考え方ができる」人材も増えました。
そういった新しいことを柔軟に取り入れる姿勢からも、セレンディピティを得られるようになってきています。
3.ビジネスにおけるセレンディピティの事例
ビジネスシーンでのセレンディピティの成功事例は、多くあります。今では誰もが何の疑問も持たずに使っているものにも、セレンディピティによって誕生したものがあるのです。ここでは、セレンディピティの成功事例について解説します。
- ポスト・イットの開発
- ホンダの戦略転換
- グッドイヤーによる天然ゴムの加硫法の発見
- Googleの誕生
①ポストイットの開発
ポストイットは、強力な接着剤を開発しているときに偶然生まれた副産物から誕生しました。開発者であるスペンサー・シルバーは、偶然生まれた「くっつきやすく剝がしやすい」性質のある接着剤を廃棄しなかったのです。
従来の接着剤にはないこの性質を、どうにかしてうまく商品として転用できないかと試行錯誤した結果、見事ポスト・イットを完成させました。
②ホンダの戦略転換
ホンダがミニバン標準型の開発に至った経緯もセレンディピティの成功事例です。当時、ホンダは商用車の生産ラインを持っていませんでした。しかし商用車の生産ラインを持っていないという偶然から、乗用車をベースとした商用車の生産に成功。
そしてその後のミニバンの標準形を作り出すという、大きなイノベーションを巻き起こしたのです。これは「ホンダが商用車の生産ラインを持っていなかった」という偶然から生まれたセレンディピティの一例となります。
③グッドイヤーによる天然ゴムの加硫法の発見
グッドイヤーが「加硫法」という天然ゴムの加工方法を開発した経緯もセレンディピティの成功事例です。当時グッドイヤーは、天然ゴムを実用に耐えるものにする方法を探していました。
そのとき、硫黄と天然ゴムが混ざったものをストーブの上に落としてしまったのですが、そこから生まれた塊が、優れた特性を持つと気付いたのです。この特性から、加硫法という加工方法が見つかりました。
硫黄と天然ゴムが混ざったものを「偶然」ストーブの上に落とした結果、セレンディピティを得られたのです。
④Googleの誕生
Google社は、「アメリカにあるスタンフォード大学の大学院生2人」が偶然出会った点を機に作られました。もしこの2人のセレンディピティがなければ、Google社という企業は誕生していなかったでしょう。
現代において、Google社が存在しない社会は考えられません。それほどのイノベーションが、セレンディピティによって起こったのです。
⑤Twitter
現在でも多くの人が利用しており、特に日本では人気の高いSNSである「Twitter」もセレンディピティの成功事例です。Twitterからセレンディピティを得る場面は非常に多いでしょう。
Twitterでは、自身がフォローした人以外のtweetも配信されます。意識していなかった事柄を「誰かのtweet」から偶然気付き、それによってセレンディピティを得らえる場面も多いでしょう。Twitterは、セレンディピティの事例を数多く作っているアプリなのです。
4.セレンディピティを高める方法
セレンディピティに出会うためには、どうすればよいのでしょう。セレンディピティを高める方法について解説します。
- 人とのつながりを持つ
- 何事にも好奇心を持つ
- 気付きを記録する
- チャレンジ精神を持つ
①人とのつながりを持つ
「人脈は財産」とよくいわれますし、人と積極的にかかわるとセレンディピティに出会う確率も高まります。相手や会話によって自分と違う考え方に触れられるからです。
②何事にも好奇心を持つ
さまざまな事柄に好奇心を持つと広い視野も伴うようになるため、ふとした瞬間にセレンディピティに出会い、それに気付けるのです。
③気付きを記録する
「すぐメモを取る」という人がいます。こういった人の場合「メモを取る」行為によって、あとからセレンディピティに気付きやすくなるのです。
④チャレンジ精神を持つ
セレンディピティに気付いたら、自ら動いて一歩進めましょう。動いて初めて結果に結び付けられるのです。
5.セレンディピティの課題
一見万能そうなセレンディピティにも課題があります。最後にセレンディピティにおける課題について見ていきましょう。
発見までに時間がかかる
セレンディピティは性質上、出会う可能性を高めてはいけるものの、「いつか必ず出会える」保証はありません。自分が欲しいと思っているときにセレンディピティと出会えるとは限らないのです。
アイデアを生み出す思考力が求められる
セレンディピティに気付くきっかけに出会えても、そこから発展させてビジネスに活用できる発想やアイデアにたどり着けるかは、その人次第といえます。きっかけをつかめたら固定観念や通説などにこだわらず、さまざまなものと組み合わせてみましょう。