シリアルアントレプレナーとは、事業の立ち上げと売却を繰り返す起業家のこと。シリアルアントレプレナーの特徴や事例などを詳しく解説します。
目次
1.シリアルアントレプレナーとは?
シリアルアントレプレナーとは、連続的に新しい事業を立ち上げる起業家のこと。シリアル(連続的な)とアントレプレナー(起業家)を合わせた造語で、日本語では「連続起業家」と呼ばれます。
次々にベンチャー企業を設立して軌道に乗せ、売却や譲渡して経営から退くという流れを繰り返すのが特徴です。
日本では企業の売却について、ネガティブなイメージを持たれがちでしょう。しかしアメリカのビジネス社会では良い評価を受ける傾向にあります。実際にアメリカでは起業家の3分の1がシリアルアントレプレナーといわれているのです。
2.シリアルアントレプレナーが行う事業
シリアルアントレプレナーの事業に対する行動は実にシンプル。リスクを抑えて企業し、時期を見定めて売却。その資金をもとにまた新事業を立ち上げるという流れです。それぞれの行動におけるシリアルアントプレナーの考え方を説明します。
- ローリスク事業
- 事業の売却
- 新規事業による利益確保
①ローリスク事業
起業して必ず成功するとは限りません。倒産や資金不足などが起こったら、ダメージの低い事業、つまりローリスク事業を立ち上げます。
ローリスク事業では、Webとパソコンがあれば運営できるものが好まれます。同時平行でローリスクな事業を複数立ち上げ、利益を生み出せる算段がついた事業は売却していくのです。
②事業の売却
事業が成長して利益を上げられるようになったら、その事業を大手企業へ売却します。事業が好調なときに売却すると利益が得にくくなるため、一般的には売却せずさらに成長させようとするでしょう。
しかしシリアルアントプレナーは違います。事業を成長させるためのコストと得られる利益を考慮した結果、大きな成長が難しいと判断したら、あえて好調なときに事業の売却や譲渡を行い、別の事業を立ち上げていくのです。
③新規事業による利益確保
シリアルアントレプレナーは連続的に起業しているため、事業を売却した際、利益を手にできます。売却して得た資金で新規事業の設立を繰り返し、利益を生み出して多くの資金を蓄積していくのです。
そうすると金融機関からの融資も受けやすくなります。つまり初めから新規事業に投資できる資源が大きくなるのです。そのため既存事業ではなく新規事業を育てて利益を確保するアントレプレナーも多いとされています。
3.シリアルアントレプレナーに必要な要素
シリアルアントレプレナーは起業の立ち上げと売却を繰り返すため、一般的な企業者に必要とされるスキルにくわえ、いくつかの要素が必要となります。一体何が必要なのでしょうか。
- 自信とモチベーション
- 自制心
- 人望
- 社会性
- イノベーター
- 説得力
- 実行力
- 精神力
①自信とモチベーション
その事業を進めていく確固たる自信が必要です。事業の立ち上げや売却にはほかの人もかかわるため、自信のない説得やプレゼンでは成功しないでしょう。
ただし明確な根拠にもとづいた自信でなければ、過信となってしまいます。また「事業を立ち上げて、利益が得られるようになるまで成長させる」という強い意志と自身のモチベーション維持も欠かせません。
②自制心
事業の責任者かつ企業のトップであるため、つねに決定権を持ち自由に事業を経営できます。しかし自由というのは一方、注意や意見をしてくれる人がいない状況でもあります。たとえば仕事量を減らしたり怠けたりするのも可能です。
事業を成功させるには自身の行動を律する自制心が必要でしょう。
③人望
事業運営のスキルやノウハウだけでなく、人材を集めるための人望も求められます。新しい分野や業界で新規事業を立ち上げる場合や事業が伸び悩んでいる場合は、知識を持った人の協力が必要となるでしょう。
参入する業界に詳しい人やアイデアを実現できる技術を持った人など、そのときに必要な人とチームを組んでいくためには、彼らから信頼を得なければならないのです。
④社会性
さまざまな人たちと人脈を築ける社会性も必要です。多様な人々と情報を吸収していけば、事業のヒントやチャンスをつかめる可能性も高まるでしょう。
また人脈をつくっていくには、自分の運営する事業の分野や業界にとどまらず、幅広い人たちと交流する必要もあります。そのような人たちと信頼関係を築くために、日ごろから業界知識や最新情報などをチェックしておかなくてはなりません。
⑤イノベーター
ビジネスを成功させるには、普遍的なアイデアを独自のものに変えられるイノベーターであることも大切です。「新しいビジネスアイデアが浮かんだものの、すでに世の中にあった」という場合も少なくありません。
アイデアを事業へ発展させるには、オリジナリティや他社にはない価値を持たせる必要があります。日々アンテナを張り巡らせてニーズやアイデアを探していけば、業界に改革をもたらすような事業を立ち上げるのも不可能ではありません。
⑥説得力
ときには自分と違う考えや信念を持つ人を説得しなければならない状況もあるでしょう。たとえば事業運営に必要な人材を確保する場合などです。
説得では事業のビジョンや方向性を、根拠のある数字で説明する必要があります。また達成するための手段や手法も効果的かつ納得できるものでなければなりません。
⑦実行力
事業の立ち上げや成功の際、重要となるのが実行力です。プランを描くだけでは形にできません。
特にベンチャー企業の場合、タイミングが重要になる場合も多いです。計画を守ることや、機敏に動けるフットワークの軽さも持ち合わせていると非常に役立ちます。瞬時に判断しなくてはならない場合も多いため、思い切りの良さも大切です。
⑧精神力
失敗して諦めるのではなく失敗から学んだことを次の事業に生かす精神力も必要です。起業してから10年以内に倒産してしまう可能性は9割を超えるといわれています。また実際に倒産を経験する人も少なくありません。
事業での失敗から改善策や工夫、代替策などを生み出し、チャレンジを続けていけば事業の成功率は高まるでしょう。
4.シリアルアントレプレナーの陥りがちな失敗
シリアルアントレプレナーは事業の立ち上げや売買の機会が多いため、手続きや契約、資金繰りなどに注意しなければなりません。手続きや契約に誤りがあると、裁判沙汰になるおそれもあります。シリアルアントレプレナーが失敗しやすい点とは何でしょうか。
- 契約書や申請書などの整備が不十分
- 税理士といった専門家に任せきり
- 助成金頼み
①契約書や申請書などの整備が不十分
契約書や申請書などの漏れやミスに注意が必要です。とくに契約書を作成せず口約束で済ませてしまうと、のちに相手と問題が発生したときに証拠を提示できません。裁判に発展してしまう可能性もあるでしょう。
不要なリスクを避けるためにも契約の際は相互の意思確認を明確にした契約書を作成し、証拠として残しましょう。
②税理士といった専門家に任せきり
税理士に事業の経営や運営を任せようと考える事業者もいるようです。しかし税理士はあくまでも税に関する専門家。税理士と密に連携を取るのは重要といえるものの、経営はアントレプレナーがコントロールしなければなりません。
どこまで任せるか悩んだ際は、税理士と相談して「税理士が対応できることとできないこと」を明確にし、お互いの役割をはっきりしておきましょう。
③助成金頼み
助成金や補助金は事業を始める際に大きな助けとなります。しかし支給される前提で計画するのは非常に危険です。助成金や補助金には細かい条件が定められており、申請すればだれもが必ず受給できるわけではありません。
助成金や補助金が受けられなくても事業が運営できるだけの資金は確保しておき、基本は資金内で計画を進めましょう。
5.アメリカにおけるシリアルアントレプレナーの例
起業先進国といわれるアメリカには数多くのシリアルアントレプレナーが存在しています。起業家の3分の1以上がシリアルアントレプレナーだともいわれるほどです。ここではその中から、イーロン・マスク氏とオプラ・ウィンフレイ氏をご紹介します。
イーロン・マスク(Elon Musk)
イーロン・マスク氏は、1995年にオンラインメディアサービス事業を営む会社を立ち上げ、1999年に売却。このとき3,400万ドルもの資産を得ました。さらに同年にオンライン決済システムを提供する会社を設立し、翌年にコンフィニティ社と合併。
合併後は「PayPal」社となり、大きく成長しました。のちにPayPalも売却。この売却で同氏が手にしたのは約1億8,000万ドルといわれています。
成功ポイントのひとつは同氏が自身の先入観を排除してアイデアや問題の基本的要素を明らかにし、そこから思考をスタートさせていたことです。
オプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)
アメリカで大人気のTV番組で司会を務めていたオプラ・ウィンフリー氏は、1986年にはプロダクションを設立し、1988年より同番組の利権を獲得。TV番組出演と並行して1986年に会社を立ち上げてマルチメディア制作を展開しました。
2011年にはケーブルチャンネル局を開設し、2018年にはAppleと提携を結んで注目を集めたのです。成功のポイントには、「自分がやりたいこと」と「ほかのひとの役に立つこと」を重視していたことが挙げられるでしょう。
6.日本のシリアルアントレプレナーの例
日本でもシリアルアントレプレナーが登場し、若い頃から多くの複数の事業を手掛け、現在も第一線で活躍しています。
ここでは、「CAMPFIRE」や「BASE」などのサービスを立ち上げた家入一真氏と、「メルカリ」の創業者である山田進太郎氏の経歴や実績などをご紹介します。
家入一真氏
家入一真氏は多数のインターネット事業を手掛けているシリアルアントレプレナー。設立した事業には以下のものが挙げられます。
- レンタルサーバーサービス「ロリポップ」
- クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」
- カフェ運営「オンザコーナー」
- Eコマースプラットフォーム運営「BASE」
自分の原体験(自分が体験したこと)から事業のヒントを探し出し、自信を持って進めることが成功ポイントとなりました。
山田進太郎氏
メルカリの創業者である山田進太郎氏は、大学在学中に楽天オークションの立ち上げに貢献。そのときのノウハウを生かし、インターネットメディアの企画や運営を行う会社を設立します。
のちにアメリカの大手ゲーム会社へ売却し、このときの買収額は数十億円ともなったのです。2013年にフリマアプリ「メルカリ」を公開し、約2年で2,000万ダウンロードを記録する大ヒットコンテンツとなりました。
成功のポイントはリスクの低いネットビジネスを選んだことといえるでしょう。