サービス残業は当たり前ではありません。ここでは当たり前と化しているサービス残業の実態やその理由、当たり前にしないための対策について解説します。
目次
1.サービス残業は当たり前ではない
サービス残業は当たり前ではなく違法です。いわゆる「タダ働き」をしている状態に不満を感じつつも、「みんながやっているから」「働くとはそういうものだから」と諦めている人も多いとされています。
しかし「労働時間の大原則」を超えた残業は違法であり、労働者には断る権利があるのです。
サービス残業とは
時間外労働をしているにもかかわらず、その分の賃金が支払われない残業のこと。
労働基準法では「休憩時間を除いて1日8時間、1週間40時間を超えた労働をさせてはならない」という労働時間の大原則を定めています。これを超える労働は原則として時間外労働とみなされ、割増賃金の支払いが必要です。
このときに割増賃金の支払いをともなわないとサービス残業になり、労働基準法違反にあたります。
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2.当たり前と化しているサービス残業の実態
サービス残業が当たり前と化している会社は少なくありません。ここではサービス残業の実態について説明します。
サービス残業している労働者の割合
2015年、日本労働組合総連合会が報告した調査によると、約4割の労働者が「サービス残業をせざるを得ない状況になったことがある」と回答しています。正規労働者は51%、非正規労働者は30%の割合です。
正規労働者のなかでも一般社員は48%、主任クラスは57%、係長クラスは63%となっており、役職が上がるにつれてサービス残業を経験する割合が多くなることもわかっています。
参考 労働時間に関する調査日本労働組合総連合会サービス残業の平均時間
同調査によれば、サービス残業の平均時間は1カ月に16.7時間。こちらも就業形態別にみると正規労働者は20.0時間、非正規労働者は9.5時間です。正規労働者は月20日勤務のうち毎日1時間ずつサービス残業をしている計算になります。
役職別には一般社員が18.6時間、主任クラスが19.6時間、係長クラスが17.5時間ですが、課長クラスになると28.0時間と急激に増えているとわかったのです。
サービス残業が当たり前になっているのは正社員だけではない
先の調査からもわかるとおり、正社員に比べれば割合は少ないものの、パートやアルバイトで働く労働者でもサービス残業が当たり前になっています。
「実際は開店準備をしているのに勤務時間に含まれていない」「清掃や片付けはタイムカードを押してから」これらをあらかじめ雇用条件として明示していない場合、その働かせ方は違法です。
休日出勤のサービス残業は違法
休日出勤の場合はどうでしょう。休日出勤自体は、「休日手当の支払い」「36協定の締結」が満たされていれば違法ではありません。
ただし休日に働いたにもかかわらず、支払われるべき休日手当や振替休日、代休取得がなければ「サービス休日出勤」となり、違法になるのです。労働基準法では休日出勤をした労働者に対して3割5分の割増賃金支払い、振替休日や代休の付与を定めています。
3.サービス残業が当たり前になってしまう理由
サービス残業が違法であるのは明らかなのに、なぜサービス残業はなくならないのでしょう。ここではサービス残業が当たり前になってしまう理由を会社側、労働者側からそれぞれ説明します。
上司や経営層の問題
サービス残業が当たり前になっている原因が上司や経営層にある場合、下記のような問題が潜んでいます。
- 法令遵守の意識が低い
- コスト削減
- サービス残業の強要
①法令遵守の意識が低い
サービス残業が当たり前になっている状況は、固定残業代制が適切に運用されていない状況でもあります。また「裁量労働時間制」や「みなし労働時間制」が適切に運用されていない可能性もあるでしょう。
上司および経営層はあらためてこれら制度の在り方、自社の法令遵守意識について見直さなければなりません。
②コスト削減
上司や経営層が労働基準法を正しく理解していても、やむを得ない事情からコスト削減のためにサービス残業を放置している場合もあります。単純に「残業代の削減=サービス残業の容認」と考える経営者も少なくありません。
確かに残業代が少なくなれば企業にとっては大きなコストカットになるでしょう。しかし実際の仕事量が減るわけではありません。現場はサービス残業を強いられているという状況が続きます。
③サービス残業の強要
とくに悪質なのが、上司や経営者がサービス残業を強要するケース。
「君だけじゃなくてほかの人もみんなやっているから」「会社の方針だから」と言い聞かせるケースもあれば、あえて直接的な言葉を使わずに労働者が断れない雰囲気を作り出して、サービス残業を強いる会社もあります。
労働者側の心情と負担
サービス残業が当たり前と化している原因が、必ずしも上司や経営層にあるわけではありません。なかには労働者の心情や負担がサービス残業を当たり前にしているケースもあります。
- サービス残業をしないと罪悪感
- 多すぎる業務量
①サービス残業をしないと罪悪感
「自分の仕事は終わったけれど、まだほかの人が仕事しているから帰りにくい」「先輩がまだ仕事をしているので帰れない」と感じたことのある人もいるでしょう。本来、定時で帰ることに罪悪感を覚える必要はありません。
しかし職場環境や人間関係などさまざまな理由から「サービス残業をしなければ」と労働者みずからが思い込んでいるケースも多いのです。
②多すぎる業務量
業務量が多すぎる場合、通常の勤務時間内に仕事が終わらず、結果としてサービス残業になっている可能性があります。そのサービス残業が労働者の自主的な判断によるものだとしても、会社は時間外労働として割増賃金を支払わなければなりません。
4.サービス残業が当たり前になっている業界とその理由
サービス残業はどのような業界で常態化しやすいのでしょう。ここではサービス残業が当たり前になっている業界とその理由について説明します。
- 介護職
- 飲食店
- 建設業
- 看護師
- 保育士
- 公務員
①介護職
2022年に全国労働組合総連合が発表した「介護労働実態調査報告書」によると、施設介護労働者の4人に1人はサービス残業をしているとわかっています。
介護職では勤務時間ぎりぎりまで利用者をケアし、結果、介護記録の入力や申し送りなどを勤務時間外に行っている場合も多いです。また勤務時間外に勉強会や家族への対応が発生するときもあるため、サービス残業が常態化しやすくなっています。
②飲食店
飲食店の場合、接客や調理の時間のみを労働時間として扱い、シフト作りや食材棚卸し、売上管理や契約書更新などの事務作業は労働時間に含まないとする場合もあります。
また「アルバイトに何か聞かれた」「小さいクレームに対応している」とき、休憩との線引きが難しいため労働時間にカウントしないというケースもあるのです。
これらを防ぐためには、会社側で「事務作業も労働時間に含める」「労働時間は1分単位でつける」など、条件をきちんと明示するとよいでしょう。
③建設業
建設現場で工事を計画通りに進めるための施工管理には、残業がつきものとされています。天候不良や設計変更などによる工期の遅れ、資材の未着や事故発生など予期せぬトラブルの発生があるからです。
建設業や運送業は「36協定」の適用除外業種となり、残業に上限がありません。そのため月に80時間を超える残業の実態があっても記録に残さず、サービス残業としてしまう会社もあるのです。
④看護師
2008年に日本看護協会が行った「時間外勤務・夜勤・交代制勤務等実態調査」によると、交代制勤務者の約4.3%、およそ23人に1人が月60時間を超える時間外勤務をしていると明らかになりました。
回答者の8割以上が就業時間前に業務を開始する「前残業」をしており、そのうちの97.8%がこれを時間外勤務として申請していません。これには職員定数を増やせない事情や長年の慣例、習慣があるためと考えられています。
⑤保育士
「ノー残業」を掲げている保育園もあるものの、持ち帰りの仕事が大量に発生しているのが実情です。休憩時間に子どもたちの連絡帳を書いたり、行事の打ち合わせをしたりする保育士も少なくありません。
「1日8時間、週40時間」の 法定労働時間は保育士にも適応されます。しかし深刻な人手不足や先輩や上司の手前早く帰れないという理由から、サービス残業が常態化しているのです。
⑥公務員
「公務員の平均残業時間は37時間」とされているものの、部署によってはこれとは比べものにならない量のサービス残業が発生しています。たとえば窓口が17時に閉まっても、業務が17時で終わるわけではないのです。
そもそも公務員には残業の上限がありません。しかし公務員はあらかじめ決められた「予算」の範囲内で仕事をしなければならないため、実際に残業が行われていたとしても「サービス残業」に換算されてしまうのです。
5.違法の可能性もある自主的なサービス残業
先に触れたとおり、サービス残業が労働者の自主的な判断で行われたとしても、会社は時間外労働として取り扱わなくてはなりません。自主的なサービス残業には違法の可能性もあるため、会社としても放置しておくわけにはいかないのです。
サービス残業を自主的にするケース
自主的なサービス残業には次のようなパターンがあります。
- 自宅やカフェなどに仕事を持ち帰る「持ち帰り残業」
- 朝早く出勤して始業時間前に仕事をする
- 在宅勤務の残業を申告しない
- 社外打ち合わせを時間外に行う
- 就業時間を実際よりも短く申請する
会社や上司が迷惑する場合もある
自主的なサービス残業は本人が正しい評価を受けられないだけでなく、会社が処罰を受ける可能性もあります。実際に本人の意思でサービス残業をしていても、状況によっては「会社の指揮監督下にあった」と判断されることもあるからです。
こうなると会社は労働基準法上違法となり、賃金不払いとして処罰を受ける可能性が出てきます。
自主的なサービス残業を見つけた場合
会社が労働者従業員の自主的なサービス残業を見つけた場合、なぜその労働者がサービス残業をしているのかを正しく把握しなければなりません。
もしサービス残業が恒常化しているなら、会社はマネジメントや労働環境に重大な瑕疵があると考えて、改善策を講じる必要があります。
単純に業務量を調節するだけでなく、労働者数の増減や評価制度の見直し、業務効率化に向けた研修など、幅広い領域にわたって対策を講じることが重要です。
6.サービス残業分の残業代を請求する方法
そもそもサービス残業は違法です。しかし未払いになっている残業代はどのように請求すればよいのでしょう。
サービス残業の証拠を集める
まず「実際に未払のサービス残業代がある」という証拠を集めましょう。サービス残業の証拠になり得るものは、以下のとおりです。
- サービス残業が会社の指示によるものだと証明する資料(サービス残業を指示するメールや書面)
- 労働時間が分かる資料のコピー(タイムカードや出勤簿、業務用メールアカウントの送受信記録履歴など)
- 残業中の労働を立証する資料(業務日報やパソコンのログイン、ログオフ時間など)
サービス残業代請求権は2年間
未払いになっているサービス残業代の請求期間は、請求日から遡って2年間。これ以降は時効となり、請求権は消滅するのです。なお支払日が2020年3月31日までに到来する場合は2年間ですが、2020年4月1日以降に発生する残業代の時効は3年になります。
これは2020年の民法改正時に「時効期間は5年にするべきではないか」とも審議されており、経過措置として3年になっているためです。将来的に時効が延長される可能性もあるため、最新の情報を確認したほうがよいでしょう。
退職後の請求も可能
「会社に属していながら会社を訴えるのは抵抗がある」「今後の関係性が悪くなるかもしれないから請求しづらい」と考える人もいるでしょう。
未払のサービス残業代は、退職後に請求するのも可能です。退職後なら上司や同僚と顔をあわせる機会がないのでストレスは少なく済むでしょう。しかし在職中に比べて証拠を集めにくいため注意が必要です。
7.サービス残業を当たり前にしないための対策
サービス残業を当たり前にしないためには、企業側と労働者側の双方から対策を講じる必要があります。サービス残業の常態化を防ぐための対策について説明しましょう。
企業側の対策
サービス残業を当たり前にしないため、企業は「フレックス勤務や早朝出勤の導入」、「残業の事前承認制」などの対策を行います。
- フレックス勤務や早朝出勤の導入
- ノー残業デーの設定
- 残業を事前承認制にする
- 入退室管理を義務化する
①フレックス勤務や早朝出勤の導入
仕事を開始する時間と終了する時間を従業員が自主的に決める「フレックス勤務」は、各従業員が独立して仕事を行える部門や職種、育児や介護の現場などに活用できます。
ただしフレックス勤務や早朝出勤によって労働時間の管理をあいまいにし、長時間労働やサービス残業を強いることにならないよう注意が必要です。
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②ノー残業デーの設定
前述のとおり、従業員がサービス残業をしてしまう原因として「みんなが仕事をしているなかで自分だけが帰るのはきまずい」という理由があります。これを解消するのに効果的なのが「ノー残業デー」の設定です。
「毎週〇曜日はノー残業デー」と全社的に決めてしまえば、社内での共通認識が生まれ、早く帰りやすい雰囲気を醸成できます。
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③残業を事前承認制にする
「事前承認制」にはサービス残業を当たり前にしないだけでなく、残業の要否と長さを上長が管理、把握できるメリットがあります。また事前承認制では残業をするための合理的な理由が必要になるのです。
仕事に期限を設けられるため、従業員のモチベーションアップ、業務の適正化によるメンタルヘルスの改善なども期待できます。
④入退室管理を義務化する
サービス残業の常態化や長時間労働による精神疾患を防ぐため、会社は従業員の労働時間を客観的に記録、管理しなければなりません。適切な勤怠管理を証明するために効果的なのが、入退室の管理です。
入退室の情報だけでは適正な労働時間を把握できません。しかし勤怠管理システムと連携すれば労働者の自主的なサービス残業を早期に発見できます。
労働者側の対策
労働者側から、サービス残業を常態化させないための対策ができます。サービス残業を当たり前にしないための具体的な方法は、以下の4つです。
- 会社に直接訴える
- 業務効率化の提案
- サービス残業しないことを宣言
- 労働問題に詳しい弁護士や労働基準監督署に相談
①会社に直接訴える
サービス残業は労働基準法に違反しており、本来あってはならないもの。サービス残業が常態化していても、じつは上層部が従業員の状況を把握していないだけで、上司や部署のトップに直接訴えればサービス残業をなくせる可能性があるのです。
また会社によっては相談の窓口を設置しています。まずは直接訴えて、会社側の態度を確認してみましょう。
②業務効率化の提案
単純に業務量の多さから残業せざるを得ない状況に追い込まれている可能性もあります。勤務時間を有効に使えているか、一度確認してみるとよいでしょう。
業務の効率化を図ることで、サービス残業をなくせるかもしれません。「会議時間を短縮する」「メールの文章を簡略化する」「定期的に作成が必要な書類はフォーマットを作成する」など、日々のなかで効率化できることはないか探してみましょう。
③サービス残業しないことを宣言
あえて周囲に「サービス残業はしない」と宣言するのも効果的です。誰に強要されているわけでもないのに、職場の雰囲気に流されてサービス残業をしている場合、この宣言が状況を変えるきっかけになるかもしれません。
④労働問題に詳しい弁護士や労働基準監督署に相談
自分の努力だけではどうにもならない場合、思い切って労働問題に詳しい弁護士や労働基準監督署に相談してみましょう。誰かに代理してもらうのではなく、自身も主体的にサービス残業を解消したい場合、労働組合を利用するのも効果的です。
また「労働条件相談ほっとライン」では労働関係に詳しい相談員から電話で助言を受けられます。もちろん匿名での相談も可能です。
参考 労働条件相談ほっとライン厚生労働省