セクシャルハラスメント(通称:セクハラ)は「性的嫌がらせ」を指します。本記事ではパワハラとの違いやセクハラの定義、判定基準などを解説します。
目次
1.セクシャルハラスメントとは?
セクシャルハラスメント(セクハラ)とは、性的嫌がらせを意味する言葉です。たとえば「髪や肩などをむやみに触る」「愛人になれと迫る」などのわいせつな言動が該当するでしょう。この言動が加害者にとって悪気がないものでも、被害者を傷つけていたことになれば、セクハラとして訴えられる可能性があるのです。
「セクハラ」は法律として厳密に定義があり、被害者が訴えれば裁かれることもあり得るでしょう。企業は「わいせつなことをしたり言ったりすれば、男女雇用機会均等法に抵触するかもしれない」と組織全体で認識していかなければなりません。
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2.セクシャルハラスメントの社会的経緯
「セクシャルハラスメント」が問題視されるようになったのは1980年代です。1989年流行語大賞で「セクシャルハラスメント」が話題になりました。当時は「男性から女性への性的嫌がらせ」という認識でしたが、今は性別に関わらず「人権問題」として定義されています。
2020年6月「女性の職場生活における活躍の推進に関する法律」が一部法改正されました。それにともない、職場でのセクハラ対策も強化。「事業主に対し管理上の義務」や、「自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合の協力対応」などが追加されています。
3.セクハラとパワハラの違い
性的な言動や嫌がらせなどを「セクハラ」というのに対し、立場を利用した嫌がらせなどを「パワハラ」といいます。たとえば「殴る、蹴る」など身体的な攻撃や「無能、役立たず」と怒鳴るなど、精神的な攻撃がパワハラに該当するでしょう。
セクハラと同様に、パワハラも2020年6月に法改正が行われ「パワーハラスメント防止措置」が事業主の義務となりました。セクハラ、パワハラのほかに、妊娠中または出産後の女性に対する嫌がらせ「マタハラ」も取り沙汰されています。
こうした「ハラスメント」は、50種類以上あるといわれており、今後も、企業の取り組みが注目されていくでしょう。
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4.セクシャルハラスメントの定義と判定基準
職場でセクハラ問題が生じた場合、判定基準となるのが男女雇用機会均等法の定義です。法律によるとセクハラとは、「職場」における「性的な言動」に対しての「労働者」の対応によって、労働条件の不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることを指します。それぞれの定義を把握しておきましょう。
「職場」において行われたものか
「職場」とは、従業員が通常就業している場所のこと。それ以外でも業務を遂行する場所であれば、職場と判断されます。
- 取引先:接待席、顧客の自宅など
- 出張先:展示会やイベント会場、移動中の営業車など
- 宴会:歓迎会、送別会、忘年会、新年会など
時間外でも、職務の延長と考えられるものはこれに該当します。
「労働者」の意に反するものであるか
「労働者」とは、正規労働者だけではなく、パート、アルバイトなどの非正規労働者も含みます。つまり「事業主が雇用するすべての従業員」が男女雇用機会均等法における労働者の定義です。
「派遣社員」については、派遣元が事業主に該当します。しかし、派遣先でセクハラが発生した場合、派遣先事業主も、自社の従業員と同様の措置を講じる必要があるため注意が必要です。
「性的な言動」であるか
「性的な言動」とは、立場や性別に限らず、次のようなものを含みます。
- 言葉によるもの:卑わいな冗談、顔や体の特徴をからかう、しつこくデートに誘うなど
- 視覚によるもの:性的な画像を見せたり、掲示物を貼ったり、配るなど人の目に触れさせるなど
- 行動によるもの:髪や肩などに不必要な接触をすること、性的な強要など
5.セクシャルハラスメントの種類
セクハラは「対価型セクシャルハラスメント」「環境型セクシャルハラスメント」のふたつに大きく分類されます。
対価型セクハラ
対価型セクハラとは、「労働者の意に反する性的な言動を拒否したことにより、不利益を受けること」です。たとえば「減給」や「解雇」などが該当します。典型的な例として次のようなものがあります。
- 出張中の営業車内で、太ももや胸を触られた。拒否したところ、降格された
- 性的な関係を求められ、拒否した。その後、不利益な人事異動を指示された
環境型セクハラ
環境型セクハラとは、「労働者の意に反する性的な言動により、就業するうえで見過ごせない支障が生じること」をいいます。典型的な例として次のようなものがあります。
- 上司からデートにしつこく誘われるため、職場環境が苦痛になっている
- 「髪や肩、腰に触られた」などの接触を苦痛に感じ、就業意欲が低下した
6.セクシャルハラスメントに対する企業と加害者の責任
セクハラが発生した場合、企業と加害者にどのような責任や罰則が生じるのでしょうか。
企業の責任
従業員によるセクハラが発生した場合、加害者だけでなく、企業も責任を負います。
使用者責任
従業員(加害者)が第三者に損害を与えた場合、事業主も賠償責任を負わなければなりません。これは「使用者責任」といい、民法第715条1項で定められています。ただし「注意をしても改善がなかった」「それでも損害が生じた」場合はこの限りではありません。セクハラが生じないように、企業として対策を講じましょう。
加害者の責任
加害者の責任は、「民事上」「刑事上」に罰則が定められていますので、事業主として認識しておきましょう。
民事上
「民事上」の責任としては、「金銭面での責任」が挙げられます。不法行為における損害賠償(民法709条)にもとづき、加害者は精神的な苦痛を与えたことに対して慰謝料を支払わなければなりません。なかには「不倫している噂を広められ、評価が下がった」などの理由から、名誉棄損に対する損害賠償に問われることもあります。
刑事上
「刑事上」の責任として、名誉棄損や侮辱罪、強姦罪、強制わいせつ罪などが成立する可能性があります。セクハラに対し被害者が精神的、肉体的にどのような傷を負ったかにより、判決が異なります。刑事上で問われるセクハラは悪質なものが多いとされています。従業員の生命の危険を感じるケースは、速やかに警察へ被害届を提出しましょう。
7.セクシャルハラスメントに対して企業が行う防止策・対応策
厚生労働省は、事業主が雇用管理のために講じるべき措置として、「セクハラ防止の指針 」10項目を定めています。セクハラは企業の社会的評価に悪影響を与える大きな問題です。企業が取り組むべき防止策や対策について説明します。
セクハラの防止策
セクハラ防止対策は一時的なものであってはいけません。自社に合った施策を考え、今後どう継続していくのかを講じていくことが重要です。セクハラを未然に防ぐため、企業としての方針を明確にし、整備していきましょう。
会社の方針の明確化と啓発
事業主は、セクハラに関する方針を明確にし、次のように従業員へ周知し啓発する義務があります。
- 行為者に対する厳正な対処について方針を明確にする
- 「就業規則」「服務規則」などの文書を作成する- セクハラの発生原因や背景、あってはならない旨を記載した社内報やチラシなどを配布、掲示する
- 従業員に対し、研修や講習を実施する
相談体制の整備
まずは人事担当者を決定し、相談窓口を設置しましょう。相談しやすい窓口と職場環境に対するチェックをすることで、セクハラを未然に防ぐことができます。また「発生するかもしれない」微妙な状況も、「いつ」「どこで」「だれが」「どのような状態なのか」関係者へ尋ね、事情を把握することが重要です。社内全体でのフォローを目指しましょう。
被害者と加害者のプライバシー保護
被害者と加害者のプライバシー保護も重要です。
- 被害者と加害者のプライバシー保護のためマニュアルの作成する
- 相談窓口の担当者に、マニュアルにもとづいた研修を行う
- プライバシー保護の措置を講じていることを、ホームページや社内報などで周知する
このような手順を講じることで、従業員が安心して相談できる環境を実現できるでしょう。
セクハラの対応策
セクハラが発生した場合、どのように対応するべきなのでしょうか。企業としての取り組み方を説明します。
被害者・加害者・周囲への事実確認
セクハラが発生した場合、まずは相談窓口の担当者が事実関係を確認します。被害者と加害者から事情を聞き、迅速かつ適正に対処しましょう。双方の主張にズレが生じているのであれば、第三者からの事実確認も必要です。それでも確認が難しい場合、男女雇用機会均等法18条にもとづき、調停の申請を行えば第三者機関に紛争処理を委ねることができます。
加害者に対する処遇の検討
セクハラの事実確認ができたら、次に被害者の安全確保を第一に優先しましょう。加害者からの隔離、配置転換、精神的なケアなど、状況に応じた配慮が必要です。加害者の処遇については、事実確認や就業規則などから総合的に判断します。懲戒処分や解雇処分など、事業主にはセクハラ問題に対して迅速かつ適正な判断が求められます。
被害を社内に公表し再発防止策を周知
セクハラの事実を公表し、再発防止のため社内報やホームページなどで啓発を行いましょう。セクハラの事実確認が難しい場合も同様です。たとえば「セクハラはあってはいけない」「どんなことがセクハラになり、処罰されるのか」など。社内報、パンフレットなどの広報や啓発のための資料配布など「見える化」することが重要です。
8.セクシャルハラスメントの裁判事例
セクハラを裁判で訴えると、裁判所はどのような判断をするのでしょうか。過去の事例をもとに、説明します。
性的な言動に関する事例
性的な言動に慰謝料支払いが命じられた事例です。幼稚園の園長が、女性職員に対してセクハラを行い、被害者は体調に不良をきたして退職。裁判では、「退職後の精神的症状すべてが加害行為によるもとはいえないが、因果関係を肯定すべき重要な因子になっている」と判決が下りました。
【神戸地裁 平成15年10月7日】
セクハラとパワハラについての事例
上司による女性社員へのセクハラに対し損害賠償、パワハラに対し遅延賠償が命じられた事例です。大手消費者金融企業に勤務する女性に対し、セクハラとパワハラを行ったとして上司が訴えられました。判決は間接的な証拠、第三者の証言から事実が認定されました。
【京都地判 平成18年4月27日】
加害者の出勤停止・降格処分について事例
加害者が企業に対し出勤停止・降格処分の取り消しを訴えましたが、有効であると判断された事例です。加害者らの訴えに対して最高裁判所は、「セクハラ行為などが企業の秩序や職場規律に及ぼした影響や、企業からの注意や警告を受けなかったことを含め酌量の余地はない」としました。
【最高裁判所第一小法廷判決 平成27年2月26日】
忘年会でのセクハラについての事例
忘年会のセクハラで企業に使用者責任が認められた事例です。生命保険企業の忘年会で、上司ら数名が女性職員に対して腰に両脚を巻きつける、抱きつく、顔をなめるなどの行為をはたらきました。裁判所は、「身体的自由、性的自由および人格権を侵害した、不法行為にあたる」と判断。使用者責任も認められました。
【広島地裁 平成19年3月13日】