社内FA制度とは? メリットとデメリット、社内公募制度との違い

社内FA制度とは、社員みずから希望部署への異動を申告する制度のこと。ここでは社内FA制度が導入される理由や社内公募制度との違い、導入のポイントなどについて解説します。

1.社内FA制度とは?

社内FA(エフエーあるいはフリーエージェント)制度とは、社員がみずからの意思で異動や転籍を叶える人事制度のことです。一定の条件を満たした社員が自身の経歴や実績を希望部署にアピールして、マッチングが成立すれば希望部署への異動が可能になります。

社内FA制度の応募者には、保有資格や勤続年数などさまざまな条件が課されます。しかしこれをクリアすれば、社員は高いモチベーションを持って自身のキャリアパスを実現できます。

社内FA制度における人事部の役割

社内FA制度における権利の行使や受け入れの判断は、基本的に上司や人事部を介さず行われます。上司にとって、優秀な人材が他部署に流出してしまうのは避けたいところ。上司に異動希望を出したものの、状況改善などを条件に断られてしまうケースもあります。

社内FA制度ではこの問題を回避できるものの、どうしても全社的なバランスや人員調整などの軋轢(あつれき)が生じます。そこで広く会社全体を見て、第三者的なアドバイスをするのが人事部の役割です。

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2.社内FA制度が導入される理由

年俸制や成果主義への移行とあわせて、社内FA制度に注目する企業も増えてきました。社内FA制度の導入には、働き方の多様化や長期的な人材育成の浸透などさまざまな理由があります。

成果主義や年俸制の普及

かつて国内で主流だった年功序列制度や終身雇用制度は、事実上すでに崩壊しています。現代では社員の能力や成果に注目した人事評価が主流です。

このような社会背景のなか、社員には主体性を持ってキャリアを歩み、自身の能力を発揮することが求められています。成果主義や年俸制の普及が、社内FA制度を後押ししているのです。

長期的な人材育成の浸透

年俸制や成果主義の普及によって、たしかに短期的な実績や成長を求める傾向は強くなりました。そこで懸念されるようになったのが、社員のモチベーションです。

社内FA制度ではみずからの意思で社内に活躍の場を広げられます。つまり社員のモチベーションを高く維持して、長期的な人材育成につなげるのが社内FA制度の役割でもあるのです。

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3.社内FA制度と社内公募制度の違い

社内FA制度とよく似た制度に「社内公募制度」があります。社内FA制度は求職型、社内公募制度は求人型です。社内FA制度ではFA資格を持った社員みずからが異動希望を出しますが、社内公募制度では人材を求める部署が公募を行います。

そのほか社内FA制度では異動募集がなくても申告できるのに対して、社内公募制度では募集がないと手を挙げられないという特徴もあります。

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自己申告制度との違い

「自己申告制度(みずからのスキルや業務経験、異動希望などを人事部に申告する制度)」も社内FA制度、社内公募制度と混同しやすい制度です。

自己申告制度は人事管理の手法であり、情報収集としての性質が強くなっています。一般的には社員の職務状況や適正を洗い出す仕組みとして自己申告制度を活用します。

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4.社内FA制度のメリット

社内FA制度は会社として社員個人のキャリア形成に応える仕組みです。モチベーション向上や優秀人材の確保などさまざまなメリットを持っています。

従業員のモチベーション向上

社内FA制度のメリットとして特に大きいのが、従業員のモチベーション向上に役立つという点。FA制度を利用するには、資格取得や実績を重ねてFA権を行使するスキルを身につけなければなりません。

いわれるままに日々の業務を淡々とこなしていても、FA権は得られません。しかし意欲的に業務に取り組めば、FA権が獲得できるのはもちろん、みずからが描くキャリアビジョンにも近づけるのです。

優秀な人材の獲得

社内FA制度を活用するには、厳しい応募条件をクリアしなければなりません。会社によって最低〇年の勤続年数や、突出する実績などさまざまな条件を設けています。

これは裏を返せば、会社にとって優秀な人材を確保できるということ。FA権獲得に向けて高いモチベーションを持った人材を、社内に留めておけるのです。実力主義を前提として、若手社員を起用する際にも応用できます。

人事部の許可が不要

前述のとおり、社内FA制度では人事部や上司を通さずに異動を希望できます。優秀な人材は上司も手放したくはありません。人事部や上司を介した結果異動が叶わず、これが長期的な人材育成に支障をきたすこともあります。

しかし社内FA制度では社員の自主性を尊重します。さらに社内FA制度は受け入れ部署との親和性を見極めやすいため、異動後もミスマッチが発生しにくいというメリットもあります。

人材流出の抑制

「自分が希望する部署に配属されなかった」「みずからのキャリアビジョンとかけ離れた仕事をしている」場合、社員が考えるのは他社への転職です。そこで社内FA制度を活用し、社員が希望する部署で働くチャンスを与えます。

社内FA制度に高レベルの募集条件を設けると、突出する実績を持った優秀な人材が集まります。人材流出の抑制はもちろん、人材強化も期待できるでしょう。

異動後のミスマッチ防止

異動後のミスマッチが発生しにくいのも、社内FA制度のメリットです。異動先の業務が未経験だった場合、一般的な異動では受け入れ先とのミスマッチが生じる可能性があります。

しかし社内FA制度ではみずからの意思で異動希望部署の情報を収集するため、必然的に部署との親和性を見極めます。結果としてミスマッチが発生する機会は少なくなるのです。

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5.社内FA制度のデメリット

社内FA制度にはさまざまなメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。導入の際は各デメリットをしっかりと理解しておくことが重要です。

FA権獲得の難易度

社内FA制度には厳しい条件が課せられます。ある程度のハードルは競争を促す要因になりますが、あまりにも高いとFA権を目指す社員がいなくなる恐れもあります。また希望を叶えられなかった社員の不満を高める原因にもなるため注意が必要です。

中小企業には不適当

事業規模の小さい中小企業では、社内FA制度を導入しても期待する費用対効果を得られない可能性があります。

中小企業では各部署を少人数で運営するため、ひとりが抜けただけで他社員の業務範囲が拡大し、かえって業務の効率を下げる恐れもあるのです。時間や労働力に余裕がない企業の場合は、社内公募制度や自己申告制度のほうが適しています。

人間関係の悪化

社内FA制度では上司や人事部を介さず異動の希望を出します。そのため異動希望が上司にとって納得のいかないものだった場合、人間関係の悪化を招く恐れもあります。

また上司の反対を押し切って異動を実現させたとしても、残ったメンバーや他社員の意にそぐわない異動などが発生することもあります。社内FA制度を運用している企業のなかには上司への報告を義務付けている例もあるため、検討してみるのもよいでしょう。

昇進や昇給への影響

若手起用のイメージが強い社内FA制度ですが、近年では30代以上の中堅社員や、管理職登用に活用する動きも見られます。

これは年功序列や終身雇用などに身をゆだねてきた社員にとって厳しい動きです。FA制度を利用しなかったことで、昇進や昇給に影響がでることも考えられます。

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6.社内FA制度導入のポイント

社内FA制度を導入する際は、利用する社員に不利益が生じないよう考慮しなければなりません。ここでは導入時のポイントを3つに絞って説明します。

FA宣言の公表

社内FA制度導入時は、宣言した社員を社内に公表するかどうかを検討しなければなりません。異動を希望したものの、条件が合わず実現に至らなかったというケースは十分あり得ます。この場合、FA宣言を公表していると現職上司との人間関係が悪化する可能性があります。

また先にも触れたとおり、FA宣言を知った上司が引き留めを行うことも考えられます。FA宣言を公表する場合は、上司が部下のキャリア開発を後押しする風土を作ってこれをサポートしましょう。

人事部の関与範囲

社内FA制度における人事部の役割は、基本的に制度を用意するだけです。実際のFA権行使は当事者同士に委ねられるものの、なかには自身の能力や適性を把握できていない社員もいます。

このような社員にカウンセリングを行い、キャリア開発を支援するのが人事部の役割です。

異動希望者へのフォロー

異動希望者へのフォローアップも重要です。希望どおりの異動が叶った先で無事業務を遂行できているか、メンバーと良好な関係を築けているかなどをフォローします。

また希望が叶わなかった社員にも、本人の強みや経歴を活かした働き方を考えます。十分なフォローが行えるよう、支援方法は制度導入前にしっかりと考えておきましょう。

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7.社内FA制度の導入企業事例

各企業がさまざまな工夫をこらして、自社にふさわしい社内FA制度を導入しています。ここでは実際に社内FA制度を導入した企業とその効果について説明します。

ソニー株式会社

ソニー株式会社では2015年の制度開始以来、延べ3,500人以上が社内FA権を獲得しています。同社では一定期間を過ぎ、さらに一定以上の評価を得た社員に対してFA権を付与しています。

新たな職場を経験したい社員はFA権を行使して、FA権行使者の受け入れに興味のある職場と面談を進めます。その後受け入れに興味のある職場からオファーを出すという流れです。

もちろん本制度によって「優秀な人材が引き抜かれてしまう」と心配していた職場もありました。しかし導入後には「優秀な人材が獲得できるチャンス」と前向きな反応に変わったのです。

参考 挑戦を後押しする制度ソニーグループ株式会社

帝人株式会社

帝人株式会社は「社員が究極の経営資源」という企業理念にもとづいて、さまざま仕組みに挑戦し続けている企業です。同社で社内FA制度を利用しているのは若手や中堅社員だけではありません。事業会社社長に就く幹部クラスも本制度を活用しています。

公募で募集人材の資格や時期などを開示。社員が自身の能力や経験を異動希望先に開示し応募します。異動が内定するまで直属の上司には知らされないため、異動を阻害されることはありません。

社員が自律的にキャリアを形成できると同時に、優秀な人材を求める部署にとっても有効な制度として活用されています。

参考 人的資本帝人株式会社

株式会社日立製作所

株式会社日立製作所では2003年から社内FA制度を実施しています。目的はおもに以下の3つです。

  • 社員個人が仕事を選択する自由度を高める
  • 自律的な人材を流動化させる
  • 社員個人の意欲にマッチした配置を実現して人材の活性化とモラルの向上、挑戦気風を醸成する

同社の社内FA制度には、社員がチャレンジしやすい条件が設定されています。グローバルに戦う人財集団を目指して、みずから手を上げるカルチャーに変革している企業の事例です。

参考 「FA(フリー・エージェント)制度」の導入について株式会社日立製作所