シェアドリーダーシップとはチームのメンバー全員がリーダーの役割を担うことです。ここではシェアドリーダーシップが注目される理由やリーダーシップとの違い、シェアドリーダーシップを高めるポイントなどについて解説します。
目次
1.シェアドリーダーシップとは?
シェアドリーダーシップ(Shared leadership)とは、チーム全員がリーダーの役割を担い、それぞれがリーダーシップを発揮している組織の状態を指す言葉です。一般的なリーダーシップと異なり、特定個人に限らず全員がリーダーシップを発揮することで人材育成や生産性向上などの効果が見込めます。
2.シェアドリーダーシップが注目される理由
リーダーといえばチームを牽引するカリスマ的存在の個人を連想します。しかし時代が急激に変化している昨今、企業が抱える課題も多様化してきました。
これまで問題を解決してきた技術や経験、価値観だけでは通用しなくなっているのです。そこで注目されているのがシェアドリーダーシップです。
解決すべき課題の多様化
現代は「VUCAの時代」と呼ばれています。VUCAとは以下4つの頭文字を取った造語で、未来の予測が難しい状況を意味しています。
- V(Volatility):変動制
- U(Uncertainty):不確実性
- C(Complexity):複雑性
- A(Ambiguity):曖昧性
VUCAの時代ではこれまでなかったようなさまざまな課題が発生します。それらを乗り越えて会社の持続可能性を高めるには、メンバー全員が自分の得意分野を生かして周囲をリードしながら課題に取り組む必要があるのです。
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AIやRPAの発展
シェアドリーダーシップが注目されるようになった背景には、AI(人工知能)やRPA(テクノロジーの自動化)の発展もあります。
テクノロジーの進化によって、単純作業の枠を超えた複雑な作業も自動化できるようになってきました。人間は作業負担が軽減した時間を、人間にしかできない分野の業務に充てなければなりません。
意思決定の難しさ解消や、主体性の促進に効果的なのがシェアドリーダーシップというわけです。
人的資本経営の実現
「人的資本経営」とは、人材を投資の対象である「資本」と考えて企業価値を高めようとする経営手法です。個々の能力を最大限引き出して、中長期的な企業価値の向上につなげます。
シェアドリーダーシップでは一人ひとりが自主性を持って課題解決にあたるようになります。結果として個々の能力が高まり、人的資本経営の実現に近づくという考えです。
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3.シェアドリーダーシップとリーダーシップの違い
リーダーシップには次の2種類があります。
- カリスマ型リーダーシップ:特定のひとりが他のメンバーを率いる
- サーバント型リーダーシップ:リーダーが他メンバーのサポートを行う
それぞれ異なる強みを持っているものの、いずれもメンバーの行動に影響を与えるのはひとりのリーダーです。
シェアドリーダーシップでは状況によってリーダーが入れ替わります。状況や環境に応じて最適な特性を持ったメンバーがリーダーとなり、チームに働きかけるのがシェアドリーダーシップの特徴です。
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4.シェアドリーダーシップのメリット
シェアドリーダーシップでは複数のメンバーがそれぞれリーダーシップを発揮するため、通常のリーダーシップでは得られないメリットがたくさんあります。シェアドリーダーシップのおもなメリット4つについて説明しましょう。
モチベーションや組織エンゲージメントの向上
シェアドリーダーシップのメリットとして大きいのが従業員のモチベーションや組織エンゲージメントの向上が期待できる点。トップダウン型リーダーの場合、メンバーはリーダーの指示や命令に従います。そのため自分で考える機会はどうしても少なくなります。
しかしシェアドリーダーシップの場合、メンバー一人ひとりの意思決定にかかわる時間が増えます。その結果当事者意識が生まれ、高いモチベーションやエンゲージメントが生まれるのです。
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生産性の向上
ひとりのリーダー能力には限界があります。すべての課題をひとりのリーダーでカバーするのは困難です。しかしシェアドリーダーシップなら、リーダーの苦手分野をメンバーでカバーできます。
またリーダーの指示だけでなく、メンバー同士がポジティブな影響を与えるための行動をとっていけます。結果チーム全体のパフォーマンスが上がり、企業全体としての業績や生産性向上が期待できるのです。
新しいアイデアの創出
従来のトップダウン型ではリーダーにいわれたことをこなすのが仕事であり、部下が自分から意見を出すことはそう多くありませんでした。
しかしシェアドリーダーシップではメンバー全員がリーダーとなって連携を取っていく必要があります。必然的にメンバー間の話し合いが増え、そこから活発な議論が生まれます。それぞれの意見を出し合うことで、革新的なアイデアが生まれやすくなるのです。
次世代リーダーの育成
シェアドリーダーシップには、社歴の浅い社員でもリーダーシップを発揮しやすくなります。才能のある若い人材は、トップダウン型や年功序列型ではどうしても能力を十分に発揮できません。
しかしシェアドリーダーシップなら入社したばかりでもリーダーシップを発揮できます。シェアドリーダーシップを活用すれば、早いうちから次世代のリーダーを育成できるでしょう。
5.シェアドリーダーシップのデメリット
シェアドリーダーシップにはモチベーション向上やイノベーション創出などさまざまなメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。
それまでトップダウン式を取っていた組織は、シェアドリーダーシップの定着に向けて経営側、従業員側の意識改革を行わなければなりません。
責任の所在が不明瞭
メンバー全員が主体性を持ってリーダーシップを取ろうとするシェアドリーダーシップはフラット至上主義に陥りやすいという課題を抱えています。
平等に発揮させようとするあまり、言いたいことは言えるけれど結局行動につながらないという問題もあるでしょう。この問題を避けるためにも、シェアドリーダーシップでは責任や権限の所在を明確にしておくことが重要です。
人間関係の悪化
メンバー全員がリーダーシップを持って発言するシェアドリーダーシップでは、どうしても意見の食い違いが生じやすくなります。もちろん食い違いそのものはそこから建設的な議論、新たなイノベーション創出につながる可能性があるため悪しきものではありません。
しかし意見の食い違いから人間関係が悪化すると、シェアドリーダーシップに支障をきたすどころか、フォロワーシップの関係すら崩壊する恐れがあります。
6.シェアドリーダーシップを高めるポイント
シェアドリーダーシップのデメリットからも、このシステムにはメンバー一人ひとりの主体性が大きく影響するとわかります。シェアドリーダーシップを高める際は、以下の3点に注意しましょう。
- 目的の共有
- エンパワーメントを進める
- 心理的安全を確保する
①メンバー全員に目的を共有
シェアドリーダーシップでは、メンバー一人ひとりの主体性が求められるため、最終的なゴールを統一しておく必要があります。誰がリーダーになっても同じ目標、同じ方向性に進めるよう、ゴールを共有しておきましょう。
シンプルでわかりやすいビジョンはチームに浸透しやすく方向性もぶれにくいもの。最終目的だけでなく、その目的を達成するのに必要な情報も共有しておくとより一貫性を持って動けるようになります。
②エンパワーメントを実施
エンパワーメントとは、メンバーに裁量権を与えて能力開花を促すこと。裁量権を持ったメンバーには当事者意識が生まれ、より自主的に、より主体性を持って行動するようになります。
エンパワーメントを実施した結果、潜在的なスキルが開花する可能性も十分あり得ます。個人の成長はもちろん、リーダー育成としての効果も期待できる取り組みです。
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③どのような意見でも尊重
不確実性の高いVUCAの時代、メンバー一人ひとりが主体性を持って行動するには「心理的安全性(組織のなかで誰に対しても自分の気持ちや考えを安心して発信できる状態)」が必要です。
たとえば上司の間違いを指摘できず、新たな提案もしにくい雰囲気で自発的な行動を望むのは困難でしょう。シェアドリーダーシップには、質問やアイデアを投げかけても受け止めてもらえると信じられる環境づくりが欠かせません。
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7.シェアドリーダーシップの注意点
シェアドリーダーシップを導入する際は、以下の2点に注意する必要があります。
- 経験の浅いメンバーをフォローする体制を構築
- 上層部の理解と協力を得る力
①経験の浅いメンバーをフォローする体制を構築
メンバーの誰もが豊富なリーダー経験を持っているわけではありません。シェアドリーダーシップでは組織に配属されたばかりのメンバーにもリーダーシップが求められます。
業務上必要な知識や進め方などは、業務を進めるうえである程度身についていきます。しかしスキルのブラッシュアップ方法やメンバーとのかかわり方など、周囲が強制しても身につかないものもあるでしょう。
経験の浅いメンバーがいるチームには、それをフォローする体制づくりが重要です。近くに経験豊富なメンバーを配置したり、研修で学びを深めたりしてフォロー体制を整えましょう。
②上層部の理解と協力を得る
シェアドリーダーシップを定着させるには、人材開発担当者や現場だけでなく経営陣の理解と協力が欠かせません。
上の命令を下にとおすには、カリスマ型リーダーシップのほうが簡単です。そのためシェアドリーダーシップそのものにあまり乗り気でない上層部も少なからず存在します。
上層部はシェアドリーダーシップによってメンバーの主体性が高まること、そこから生産性の向上が期待できることを理解して、シェアドリーダーシップを歓迎する雰囲気を作りましょう。
8.シェアドリーダーシップに関する企業事例
国内でもさまざまな企業がシェアドリーダーシップに注目し、その成果を挙げています。ここではシェアドリーダーシップを実際に導入した企業とその効果について説明します。
キヤノングループ
キヤノングループでは営業部門と製造部門のそれぞれでシェアドリーダーシップを実施。営業部門では各専門スキルを持ったメンバー10名でチームを作り、顧客の要望に対応しました。
メンバーは営業担当やITソリューションスペシャリストなどさまざまな専門スキルを持った人たち。多種多様なメンバーがお互いのスキルや立場などを考えながら、プロジェクトを成功に導きました。
株式会社JR東日本テクノハートTESSEI
新幹線車両の清掃を行う株式会社JR東日本テクノハートTESSEIは、現場に権限委譲を徹底しているのが特徴です。あるリーダーは従業員に活気がなく、モチベーションも低いことに気付いて改善に着手しました。
仕事を単なる「清掃業」ではなく、お客様のためを考えた「サービス業」と再定義。さらに現場正社員の割合を増やして責任感を作り上げ、仕事のミスやクレームを激減させました。
メンバーに仕事の意義や価値を再認識させ、自主性と主体性を与えた結果、組織全体としての好評価につながったという事例です。