士業とは、専門資格職業の俗称です。ここでは、8士業やそのほかの士業について詳しく解説します。
目次
1.士業とは?
士業とは、弁護士や社会保険労務士など、専門的な資格が必要な職業の俗称です。資格名称の末尾が「士」で終わるため士業と呼ばれます。また「士」を「さむらい」と読むことからサムライ業と呼ぶこともあります。士業の業務にはその資格を持たないと携われない独占業務があり、無資格者がこれを行うことは禁止されています。
なぜサムライ業と呼ばれるのか?
士業は「サムライ業(近代日本の創成期に基礎教育を受けていた侍)」とも呼ばれています。職能資格を取得した侍が多かったため、その名前が付けられました。
士業の主な種類
士業の主な種類には、
- 司法
- 会計
- 不動産
- 建築
- 土木
- 医療
- 福祉
などがあります。これらの分野に関わる士業は、その資格を生かして独立開業し、社会に貢献していくのです。
開業する際は
- 有資格者のみが開業できる
- 開業するには、都道府県など監督官庁への届け出を要する
- 実務経験もしくは実務経験に代わる経験を開業の要件とする
など、いくつかの要件を満たさなければならないケースがあります。
2.8士業とその仕事内容
士業のなかでも、8士業と呼ばれている士業があります。共通する特徴は、職務上、戸籍・住民票などが必要な場合に請求できる請求権が認められている点。戸籍と住民票は両方とも個人情報で、誰でも請求できるわけではありません。
- 戸籍…家族集団を最小単位として、国民を登録する目的で作成されている公文書
- 住民票…市区町村が住民基本台帳法にもとづいて作成した、住民に関する公募記録
それでは8士業それぞれの内容について説明しましょう。
- 弁護士
- 弁理士
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士
- 社会保険労務士
- 土地家屋調査士
- 海事代理士
①弁護士
弁護士とは、基本的人権を擁護し、社会正義の実現を使命とする法律の専門家のこと。弁護士になるため必要なのは、「大学を卒業後、法科大学院を修了」「司法試験に合格」「国家資格である弁護士資格を得る」「弁護士としての登録」です。
仕事には、当事者同士による解決が困難な法律に関するトラブルの相談や依頼人の代理人などが挙げられ、つねに依頼人の利益を最優先に考えた仕事をします。
②弁理士
弁理士とは、知的財産に関する専門家のこと。主な仕事は、「特許出願・実用新案出願・意匠出願・商標出願の代理や知的財産の相談」などで、使命は下記のとおりです。
- 特許や実用新案の観点から的確に発明を捉えて、最適な権利を出願する
- 特許庁の審査に対応し、出願内容を適切に補正するといった最善の策を講じる
- 最新の知的財産に関する知識にもとづき、適切な助言を行う
③司法書士
司法書士とは、人々の財産と権利を守りながらトラブルを法的に解決するといった、⾝近な暮らしにおける法律家のこと。主な仕事は下記のとおりです。
- 登記または供託手続の代理
- 法務局に提出する書類の作成
- 法務局長に対する登記や供託の審査請求手続きの代理
- 裁判所や検察庁に提出する書類の作成
- 法務局に対する筆界特定手続書類の作成
- 家庭裁判所から選任される成年後見人、不在者財産管理人、破産管財人などの業務
④行政書士
行政書士とは、官公庁に提出する書類作成を担う専門家のこと。主な仕事は下記のとおりです。
- 都道府県庁や市役所、村役場や警察署、消防署など官公庁に提出する許認可申請の書類作成
- 法律的な権利義務、事実証明に関する書類の作成や手続き
- 行政手続きに関する相談業務
行政手続きは煩雑なため、書類の不備や記入ミスなどが生じやすく、時間と手間がかかります。司法書士はこのような行政手続きを、迅速・確実に進められるのです。
⑤税理士
税理士は、税金に関する専門家のこと。主な仕事は下記のとおりです。
- 確定申告や青色申告の承認申請、税務調査の立会いや税務署の更正や決定に不服がある場合の申立てといった、税務代理業務
- 確定申告書や相続税申告書、青色申告承認申請書、そのほか税務署などに提出する税務書類の作成
- 税務相談
- 財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行などの会計業務
- 株式会社の役員として、取締役と共同して計算関係書類を作成する会計参与
⑥社会保険労務士
社会保険労務士とは、人材に関する専門家のこと。「労働および社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与する」「事業の健全な発達」「人材の福祉向上」に資するといった使命を持ちます。主な仕事は下記のとおりです。
- 労働社会保険手続き業務
- 良好な労使関係を維持するための労務管理の相談指導
- 年金相談
- あっせんにより簡易、迅速、低廉に問題を解決する紛争解決手続き代理
- 補佐人
⑦土地家屋調査士
土地家屋調査士とは、不動産の状況を正確に登記記録に反映させる専門家のこと。主な仕事は下記のとおりです。
- 不動産の表示に関する登記につき必要な土地、または家屋に関する調査および測量
- 不動産の表示に関する登記の申請手続き代理
- 不動産の表示に関する登記に関する審査請求の手続きの代理
- 筆界特定の手続きの代理
土地家屋調査士は、これらの業務をとおして不動産取引の安全確保や財産の明確化を実現します。
⑧海事代理士
海事代理士とは、海事手続きの専門家のこと。主な仕事は、下記のとおりです。
- 船舶の建造や売買、相続や廃船などの登記、登録や検査、検認手続き
- 船員の雇用や海技資格取得・更新などの手続き
- 旅客船事業や船舶による貨物運送事業、港湾荷役や造船業といった各種事業の許認可・登録の取得など海上交通にかかわる手続き
海事代理士になるためには、海事代理士試験に合格し、海事代理士としての登録が必要です。
3.10士業とその仕事内容
士業には、8士業以外に10士業と呼ばれている括りがあります。具体的には、8士業から海事代理士を除き、公認会計士・中小企業診断士・不動産鑑定士の3つを加えたものを10士業と呼びます。
こちらでは、8士業では紹介できていなかった3つの士業の概要とその仕事内容を紹介します。
- 公認会計士
- 中小企業診断士
- 不動産鑑定士
①公認会計士
公認会計士とは、監査・会計の専門家のこと。独立した立場での監査証明や会計・税務・コンサルティング業務を行えます。具体的な業務内容は、下記のとおりです。
- 監査…独立した立場で監査意見を表明する、財務情報の信頼性を担保するなど
- 税務…税務の代理や税務署類の作成など
- コンサルティング業務…経営戦略の立案や組織再編、システムコンサルティングなど、経営全般に関わる相談や助言
②中小企業診断士
中小企業診断士とは、中小企業の経営課題に対応するための診断や助言を行う専門家のこと。主な仕事は、下記のとおりです。
- 成長戦略の策定に関する専門的知識をもとにした助言
- 策定した成長戦略を実行するため、具体的な経営計画の立案
- 実績や経営環境の変化を踏まえたサポート
中小企業に特化した専門的知識を駆使し、企業と行政さらには企業と金融機関などをつなぐ、重要な役割を担っています。
中小企業診断士とは? 難易度、試験内容、仕事内容、メリット
中小企業診断士とは、中小企業に対して成長戦略の診断、アドバイスを行う専門家のことです。ここでは中小企業診断士の仕事内容や求められるスキル、中小企業診断士になる方法などについて解説します。
1.中小企業...
③不動産鑑定士
不動産鑑定士とは、地域の環境といった要素を考慮して不動産の有効利用を判定したり適正な地価を判断したりする専門家のこと。主な仕事は、下記のとおりです。
- 不動産鑑定…不動産の経済価値を地理的状況や市場経済などの要因を踏まえて鑑定し、評価額を決めること
- 調査・分析・コンサルティング…不動産に関するさまざまな角度からの分析、顧客ニーズに合わせたアドバイスなど
4.8士業の年収目安
8士業として働く人の平均的な年収について、説明しましょう。厚生労働省の賃金構造調査によると、下記のようになっています。
- 士業の平均年収…約501万円
- 士業の平均年齢…41.7歳
厚生労働省以外のシミュレーションでは、20~65歳まで働いた場合の士業の生涯賃金は、平均約2.25億円となっています。
弁護士の平均年収
弁護士の平均年収は、2013~2015年にかけて行われた日弁連といった機関の調査によると、2015年における10~15年目程度の平均年収は800~900万円程度で、収入は2,000万円程度となっています。
国税庁などの調査数字をもとに独自調査を行う「平均年収.jp」では、2017年の平均年収は1,029万円になっていました。
弁理士の平均年収
弁理士の平均年収は、平均して約700~760万円だといわれています。しかし勤務先によって幅があるとされているのです。
規模の小さい勤務先では300万円程度、大手勤務の場合は約900万円程度、独立開業した場合は1,000万円以上となっています。年収を左右するものとして挙げられるのは、年齢や経験、語学力や営業スキルなどです。
司法書士の平均年収
司法書士の平均年収は、平成28年度の司法書士実態調査集計結果によると、250~600万円程度。小規模事務所や大手事務所に勤務する司法書士の場合、年収ベースで250~400万円程度となり、一部の大型事務所勤務では500~700万円程度となっています。
独立開業した場合、2,000万円を稼ぐケースもありますが、平均年収は500万円程度です。
行政書士の平均年収
行政書士の平均年収は630万円程度ではあるものの、300~1,000万程度の間でばらつきがあります。
「行政書士の働き方が行政書士を専業とする独立開業型」「週末だけ・紹介を受けたときだけ仕事を受託する副業型」「勤めて働く勤務型」など、働き方が多様化しているからです。
税理士の平均年収
税理士の平均年収は、勤務税理士で400~500万円程度、開業税理士で700万円以上もしくは800~900万円程度と分かれているのです。
税理士の報酬は、顧問料や作業料金、オプション費用で構成されています。従来、税理士の報酬金額に法的な規定があったものの、現在は個々で自由に決定できるようになっているのです。
社会保険労務士の平均年収
社会保険労務士の平均年収は、450~750万円。社労士連合会の社会保険労務士年収事情調査によると、平均年収670万円・平均給与42.3万円・ボーナス162万円となっています。
また厚生労働省が実施した社会保険労務士の年収統計では、平均年収は526万円と算出されました。
土地家屋調査士の平均年収
土地家屋調査士の平均年収は、600万円程度。土地家屋調査士の資格によって勤務先から資格手当がついたり、資格を生かして経験や実績を積んで独立開業したりするといったケースでは、年収が上がる傾向にあります。
なお土地家屋調査士における資格手当の相場は、1万~2万円程度だとされているのです。
海事代理士の平均年収
海事代理士の平均年収は、開業した場合で500万円程度。海事代理士は、会社員や行政書士といった職種の副業として位置付けられるケースが多い資格です。
また資格保有者数が少ないため、正確に平均年収は算出しにくくなっています。そうしたなかでも独立開業して10年のベテランが一定顧客を獲得できるようになり、年収1,000万以上になったというケースがあるのです。