下請けとは、大企業の統制下で中小企業が仕事を受注する体制です。ここでは、下請けについて詳しく解説します。
目次
1.下請けとは?
下請けとは、ある会社や個人が引き受けた仕事を、また別の会社や個人が引き受けることを意味する言葉です。ビジネスでは主に、中小企業が特定の大企業の統制下で、大企業からの仕事を受注、生産する体制のことを指します。特徴は、大企業と中小企業の単発的な受発注の関係ではなく、両者が持続的関係性にあることです。
日本では大企業よりも中小企業の数が圧倒的に多いため、このような下請け制度が普及しています。そして大企業の一部門・大企業の専門工場に似た関係性があるのです。下請けのしくみは、下記双方にメリットがあります。
- 大企業にとっては低賃金による低コスト、資本節約、安定供給の実現
- 中小企業にとっては安定受注、資金や技術の支援
2.下請けと元請け、孫請けとの関係性や構造
下請けと元請け、孫請けについて、解説します。
- 下請けと関係する元請け、孫請け
- 下請けと元請け、孫請けの構造
①下請けと関係する元請け、孫請け
下請けと関係性のあるものに、元請けや孫請けがあります。ここでは、下請けと関係性のある元請け、孫請けについて解説します。
元請け
仕事を発注した発注者と直接契約をする請負業者のこと。元請けした者や業者を、元請負人や元請業者などと呼びます。元請けは受注した仕事を、自分でやる・下請け企業にまわすことになるのです。
建設業界では建設業法にもとづき、元請け業者は、国土交通省や都道府県知事などから建設業許可を受けます。一次下請けや二次下請けなどに仕事をおろす関係上、責任を明確化させる意味もあり元請けは許可制となっているのです。
下請けと元請けの違い
下請けと元請けの違いは、下記のような契約相手の違いです。
- 元請けは、発注者から仕事を引き受ける
- 下請けは、元請けから仕事を引き受ける
下請けは、発注者と直接契約を行うわけではないので、仕事の指示は元請けからもらいます。建設業界では、元請けが発注先から受注した仕事を一括して下請けに丸投げすることを禁じているのです。
孫請け
下請け体制におけるひとつの階層のこと。孫請けは、下請けの下層階に位置します。孫請けまでの仕事の流れは以下のとおりです。
- 発注者と元請けが契約を結ぶ
- 元請けが下請けに仕事を振り分ける
- 下請けから孫請けに仕事を振り分ける
元請けと下請けはマージンをとるため、孫請けに近づくほど報酬は少なくなります。
②下請けと元請け、孫請けの構造
下請けと元請け、孫請けの構造は、発注者→元請け→下請け→孫請けの順に一本の線で結べます。下請けと元請け、孫請けは、下記のような構造を作っているのです。
- 元請けは発注者である顧客から仕事を請け負う
- 下請けは元請けから仕事を請け負う
- 孫請けは下請けから仕事を請け負う
孫請けのさらに下の階層には、孫請けから仕事を請け負う曾孫請け(ひまごうけ)があります。曾孫請けのさらに下の階層には、玄孫請け(やしゃごうけ)と続くのです。
一次請け
建設事業のように複数の下請け会社がある場合、発注先から発注をうけた元請け業者から最初に仕事を請け負う業者のこと。一次請けや一次請負と呼ばれています。
発注先から発注された元請けを、一次請けと誤解している人も多くいるのです。しかし一次請けとは、元請けから最初に仕事を請け負う「下請け」を指す言葉となります。
二次請け
一次請けの企業の担当する業務を請け負うこと。つまり、下請けのさらに下の階層に位置する孫請けが二次請けに該当します。システム開発を例にあげると、下記のような具合です。
- 発注先から元請けがシステム開発を受注する
- 元請けから一次請けとして下請けが設計を行う
- 下請けから二次請けした孫請けがプログラミングを担当する
システム関連の案件は、このように二次請け、三次請けといった請負のしくみが広く用いられています。
3.下請け構造をふたつの業界から考える
下請け構造について、下記2つの業界から考察し、解説します。
- 建設業界における下請けの構造事例
- IT業界における下請け構造の事例
①建設業界における下請けの構造事例
建設業界は、幾重にも重なる下請け構造があるのです。具体的な下請け構造は以下のようになっています。
- 発注者は国や地方公共団体、一般企業など
- 元請け業者はゼネコン
- 下請け業者はサブコン
- 孫請けは工務店や職人を抱える業者
発注者は、建設する建築物の概要を元請けに提示します。元請けのゼネコンは工事全体の工期、品質や安全管理、原価の管理などを行うのです。下請け業者や孫請け業者は、実際の作業にあたります。
ゼネコン
大手の総合建設会社のこと。総合請負業者として、国や公共団体、企業などと建築土木の請負契約を結びます。ゼネコンが手がける建築物は多種多様です。たとえば、ビルやマンション、ダムやトンネル、橋など比較的規模の大きい建築物を手がけます。
ただし、ゼネコンが施工すべてを担うわけではありません。下請けや孫請けなど企業と契約を結び、それら事業者を取りまとめながら契約を履行していきます。
サブコン
元請け業者であるゼネコンから工事を請負う下請け業者・建築土木関連における専門工事を請け負う業者のこと。英語では「subcontractor」といい、サブコントラクターを略した言葉です。
サブコンの業務には、足場の設置・電気工事・上下水道や排水設備工事などがあります。
設計事務所
建築物の設計を行う事業所のこと。ゼネコンやハウスメーカーには社内に設計を専門とする部署を持っています。設計事務所は、そのような設計を担当する部門が独立したようなもので、設計に特化した業務を専門に扱っているのです。
工務店
地域密着型の建設会社です。リフォームや修繕などを行う工務店から自社ブランドを展開したりフランチャイズに加盟して営業エリアを広げたりする工務店もあります。
IT業界における下請け構造の事例
IT業界においても、下請け構造があります。ここでは、IT業界における下請け構造の事例を解説しましょう。
一次請け
「顧客が構築したいシステムの詳細を打ち合わせながら、最終的な仕様書にまとめる」「システム設計のベースを決定する」「予算とスケジュールを管理するといったシステム構築に関するマネジメント業務」を行います。
一次請けの段階でプログラミングの実務を行うことはあまりありません。システムエンジニアとしての能力より、交渉力や調整力、管理力などがより求められます。
二次請け
元請けが顧客とともに作成した仕様書や設計書をもとに、実務を進める業者の階層です。
二次請けが担う業務は、プログラミングやシステムの動作確認、運用や管理マニュアルの作成、システム開発の進捗確認など。システムエンジニアとしての技術をフル活用した業務が多くあります。
場合によっては三次請け、四次請けも
IT業界には、場合によって三次請け、四次請けがあります。三次請け、四次請けといった階層も出現するケースとして、多くのシステムエンジニアの力を借りなければならないような、複雑・大規模なシステム開発など。
三次請け、四次請けでは、プログラミングやテストといった単調な作業を繰り返し行うような業務が多くなるのです。顧客との打ち合わせ、企画、開発という業務はほとんど発生しないと考えてよいでしょう。
4.下請けいじめ
下請けいじめとは、企業の請負関係下で発生するいじめです。
優位な立場にある発注側がその立場を利用して、弱い立場である下請け企業に無理を強いること。取引先を失うことを恐れる下請け企業や中小企業は、発注側である大企業の無理を受け入れ、泣き寝入りするケースが多く見られます。
働き方改革のゆがみや新型コロナウイルス感染症の影響などで、大企業自体も厳しい状況が続くなか、下請けいじめの事例は増えているのです。下請けいじめの事例を5つあげ、それぞれについて、どのような点がいじめと判断できるのか、解説します。
- 買いたたく
- 支払いを渋る、支払い金額を削る
- 報復的な取引中止
- 利益供与の要求をする
- 購入や利用の強制
①買いたたく
通常の対価・市場価格と比較して、著しく低い代金を不当に定めること。このような買いたたきを行うことは下請法違反です。
②支払いを渋る、支払い金額を削る
たとえば「前回ミスしたから、今回は支払わない」「ミスしたら代金を一銭も支払わない」「ミスした分、値引きしてくれ」など、契約上の支払いを渋ったり、拒んだりすること。
契約書に沿った正当な請求をしている限り、このような行為は下請けいじめとなります。
③報復的な取引中止
下請事業者が発注側の下請けいじめを、中小企業庁・公正取引委員会などに通報したことを理由に、取引停止や減少など報復的措置を講じることも下請法に違反します。
④利益供与の要求をする
たとえば、「元請けの地位を利用してキックバックを要求する」「下請けに対し、仕事を発注するかわりに金品を要求する」なども、下請けいじめになります。そもそも「キックバックや金品の要求」は下請けいじめ以前に、違法である可能性も高いです。
⑤購入や利用の強制
「キャンペーンと称し、下請け事業者に発注側の自社製品を購入させる」「必要のないものを下請け会社にノルマを設け、購入させる」といった行為は、下請けいじめに該当します。
このように正当な理由なく下請事業者に対して指定物品を強制的に購入させる行為も下請法に違反するのです。
4.下請けいじめを取り締まる下請法
下請けいじめを取り締まるのが、下請法で正式名称は、「下請代金支払遅延等防止法」です。
資本金の大きい会社が、「資本金が小さい会社」「個人事業主の下請け事業者に発注した商品やサービスについて、不当に代金を減額する」「不当な返品をする」「支払いを遅らせる」などを禁止するための法律です。
下請法の適用範囲企業は、資本金の額の要件を満たさなければなりません。
下請法の対象となる取引
下請法の対象となる取引は以下のとおりです。
- 物の製造や加工について、発注者側が規格や品質を指定して他社に発注する製造や加工を委託する取引
- 物の修理を他社に委託する、顧客から請け負った修理を再委託するなどの修理委託取引
- プログラムやコンテンツ、デザインなどの作成を他社に委託する、顧客から請け負ったコンテンツ、デザインなどを再委託する情報成果物作成委託取引
- 建設業者による建設工事を除く、運送や倉庫保管、情報処理やメンテナンスなどその他の顧客向けサービスを他社に委託する役務提供委託における取引
親事業者に科される4つの義務と禁止事項
親事業者に科される、4つの義務と禁止事項があります。
- 4つの義務
- 禁止事項
①4つの義務
4つの義務とは、以下のとおりです。
- 具体的な発注内容を記した書面を発注後、すぐに交付する書面の交付義務
- 下請事業者と合意後に、発注した物品を受領した日から60日以内でできるだけ短い期間に設定した支払い期日を定める義務
- 違反行為の注意や公正取引委員会などによる調査に役立てるための取引記録の書類作成義務と2年間の保存義務
- 親事業者が支払期日までに下請代金を支払わなかった場合にかかる年14.6%の遅延利息の支払義務
これら4つの義務は、発注側と下請け事業者とのさまざまなトラブルを未然に防ぐために最低限必要な義務です。違反行為が認められれば、公正取引委員会などから指導や勧告の対象となります。
②禁止事項
禁止事項とは、下請け事業者に責任がないにもかかわらず、下記を行うことです。
- 注文した物品の受領を拒む
- 下請け代金を定められた期日までに支払わない下請代金の支払遅延
- 下請代金を減額する
- 物品を返却する
- 市場価格と比較して著しく低い代金を定める
- 親事業者が指定する物品購入やサービス利用の強制
- 不正行為を通報したことによる報復措置
- 有償原材料の対価の早期支払いの強要
- 割引困難な手形の交付
- 注文の取り消しや内容の変更
下請法に違反した際の罰則
親事業者が下請法に違反した場合、勧告・指導・罰金などが行われます。たとえば、親事業者が勧告を受けた場合、公正取引委員会のサイトに企業名・違反内容・勧告概要が公表されるのです。
悪質な場合、50万円以下の罰金が科されるときもあります。それにより、親事業者側は社会的地位が失墜してしまうでしょう。普段から、このような事態に陥らないような認識の徹底と心構えが必要です。