下請法とは、親事業者と下請事業者との間の取引を公正にし、下請事業者の利益を保護するための法律のこと。ここでは下請法の概要や目的、親事業者の禁止事項について見ていきましょう。
1.下請法とは?
下請法とは、親事業者による優越的地位の濫用行為を禁止して、親事業者と下請事業者との間の取引を公正にし,下請事業者の利益を保護する法律のこと。正式名称は「下請代金支払遅延防止法」です。
下請法の目的
下請法の目的は下請代金の支払遅延などを防ぎ、下請事業者に対する親事業者の取引に公正を促すというもの。また下請事業者の利益を正しく保護して、日本経済の健全な発達を導くという意味も含んでいるのです。
正式名称は「下請代金支払遅延防止法」といい、1956年6月1日に公布されました。一般的には略して、「下請法」と呼ばれています。
親事業者と下請事業者の定義
- 親事業者:資本の額や出資総額が一千万円を上回る法人や事業者のことで、資本額や出資総額が一千万円以下の法人や事業者に対し製造や修理などを委託することを意味する
- 下請事業者:資本額や出資総額が一千万円を下回る事業者を指し、親事業者から製造や修理委託を受けるもの
物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
下請法が対象とされる取引は事業者の資本金規模と取引内容で定められており、物品の製造や修理委託や政令で定める情報成果物・役務提供委託を行うケースでは、下記のようになっています。
- 親事業者の資本金が3億円超え→下請事業者の資本金が3億円以下
- 親事業者の資本金が1千万円超え3億円以下→下請事業者の資本金が1千万円以下
情報成果物作成・役務提供委託を行う場合
情報成果物作成・役務提供委託を行う場合(上記の情報成果物・役務提供委託を含まない)では、下記のように定義されています。これは下請法の第2条第1項~第8項で定められているのです。
- 親事業者の資本金が5千万円超え→下請事業者の資本金が5千万円以下
- 「親事業者の資本金が1千万円超え5千万円以下→下請事業者の資本金が1千万円以下」
2.親事業者の義務
下請法の第2条の2、第3条、第4条の2、第5条では親事業者の義務が明確に定義されています。ここでは、下記4つについて説明しましょう。
- 書面の交付
- 書類の作成・保存
- 下請代金の支払期日を定める
- 遅延利息の支払義務
①書面の交付
下請法の第3条では、「親事業者は下請事業者に対して、製造委託あるいは修理委託を行った際、下請事業者の給付内容と下請代金額を記載した書面を下請事業者に交付する必要がある」と定められています。
つまり親事業者が下請事業者に対して発注を行う際には、口頭ではなく、書面で具体的な内容を書かなければならないのです。
②書類の作成・保存
下請法の第5条では、「親事業者は下請事業者に対して製造委託や修理委託を行った場合は、公正取引委員会規則で定義されている、下請事業者の給付や給付の受領、下請代金の支払や取引について記した書類を作成し、また保存する必要がある」とされています。
これも上記と同様に、親事業者が下請事業者に委託する取引内容を口頭で伝えるだけではなく、書面に記載する必要があるのです。
③下請代金の支払期日を定める
下請法の第2条の2では「下請代金の支払期日を定める」とされています。
これは下請代金の支払期日を物品や成果物を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者が役務の提供をした日)から起算して、60日以内かつ可能な限り短い期間内で定める義務があるというものです。
親事業者が下請事業者の給付内容について検査するかどうかにかかわらず、支払い期日を明確に定めなくてはなりません。
④遅延利息の支払義務
下請法第4条の2では「親事業者が下請代金を支払期日までに支払わなかった場合、物品などを受領した時点から60日を経過した日から支払を行う日までの期間分、その日数に応じて当該未払金額に年率14.6%を乗じた額の遅延利息を支払う義務があります。
3.親事業者の禁止事項
下請法では、親事業者に以下の禁止事項が課せられています。下請事業者の了解を得られていたり、親事業者が違法性に気づかなかったりした場合でも、下記の規定に触れる際は違反に当たってしまうので配慮が必要です。
- 受領拒否
- 下請代金の支払遅延
- 下請代金の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用の強制
- 報復措置
- 有償支給原材料等の対価の早期決済
- 割引困難な手形の交付
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更およびやり直し
①受領拒否
下請業者に責任がないにもかかわらず、親事業者が発注した物品や情報成果物の受領を拒否することは禁じられています。
たとえばテレビ向けの放送番組を下請業者である番組制作会社が作成した後、主演する俳優が不祥事を起こしたという場合でも、テレビ局は、制作されたコンテンツの受領を拒否できないのです。
②下請代金の支払遅延
親事業者が、下請業者に発注した物品などを受領した日から60日以内で定められている支払い期日までに、下請料金を支払わないことは禁止されているのです。検収に時間が必要な場合でも、受領後60日以内に支払わなければ支払い遅延に該当します。
たとえば支払期日が金融機関の休業日にあたるなど、事前に決められていた期日を超えてしまっている場合、合意なしで下請代金を支払うことが禁止行為になります。
③下請代金の減額
下請業者に責任がないにもかかわらず、親事業者が発注時に定めた下請代金を発注後に減額することは禁止されています。原材料の価格の下降をはじめ、名目や方法、金額に関係なく、すべての行為が該当するのです。
たとえばスーパーマーケットが、セールの実施を理由に下請業者から一定金額を減額した場合、禁止事項に該当します。
④返品
下請業者に責任がないにもかかわらず、親事業者が発注した物品を受領後、一方的に返品する行為も禁止されています。一方、物品に不良品が生じていた際には、受領後6か月以内であれば返品が認められているのです。
たとえば、土産物販売店が売れ残った商品を賞味期限などを理由にして一方的に下請業者に返品すると、禁止事項に該当します。
⑤買いたたき
通常支払われる対価と比べてあまりにも低い下請代金を不当に定めることは、禁止されています。この場合の通常支払われる対価とは同種の市価を指し、下請代金は下請事業者と協議を行って、定めなければなりません。
たとえばビルのオーナーからの清掃料金の引き下げ要求があったことを理由に、ビル管理会社が清掃業者に協議を行わずに通常の対価を大幅に下回る代金を定めるといった状況は、禁止事項に該当します。
⑥購入・利用の強制
下請業者に発注する物品や成果物のクオリティ維持を目的とするなど、正当な根拠がないにもかかわらず、親事業者が製品や原材料、保険を強制購入させることは禁止されています。
たとえば生活用品メーカーがキャンペーンを理由に、下請業者にあたる加工業者に目標額を設定して自社製品の購入を強制するなどです。
⑦報復措置
親事業者の違反行為を中小企業庁公正取引委員会に報告したことを理由に、嫌がらせとして下請事業者に対して一方的な取引停止や取引数量の削減など、不利益な対応を図ることは禁止されています。
これは下請法の「第4条第1項第7項」に定められており、不当な報復措置として禁止されているのです。
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済
親事業者が有償支給する原材料で下請事業者が物品の製造を行っているケースにおいて、その原材料が用いられた商品の支払日より早く、原材料費を支払わせることは禁止されています。たとえば食品メーカーが、有償で下請業者に支給する原材料対価を下請代金の支払期日より早い時期に、下請代金から控除することなどが該当します。
⑨割引困難な手形の交付
親事業者が下請代金を手形で支払う場合に、一般的な銀行や信用金庫などの金融機関で、割引が難しい手形を交付することも禁止事項に当たります。
たとえば繊維業において認められる期間が90日を超える手形を、親事業者である衣料品メーカーが下請業者の衣料品メーカーに交付することなどです。
⑩不当な経済上の利益の提供要請
親事業者が自己の利益を目的に、下請事業者に金銭や経済上の利益を不当に提供させると違反行為になるのです。また下請代金の支払いとは別に行われる、協賛金や労働者派遣などの要請についても禁止されています。
たとえばプライベートブランド商品の製造を委託された大規模小売業者が、下請業者であるメーカーに労働者を派遣させるなどです。
⑪不当な給付内容の変更およびやり直し
発注の一方的な取り消しや発注内容の変更、受領後に追加作業を要請する場合に、下請事業者が負担する費用を親事業者が負担しないことも違法行為に当たります。
たとえば従来の基準に満たしていた金型の基準を一方的に変更し、親事業者である工業用機械メーカーが下請業者の製造業者に無償でやり直しをさせることなどです。
4.下請法の対象となる取引
下請法の対象となる取引は、大きく分けて下記の4つです。また委託される内容によって条件はそれぞれ定義されており、適用対象となる取引は多岐に分類されています。
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
①製造委託
製造委託とは、物品の販売や製造を請け負っている事業者が規格やクオリティ、デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造を委託すること。これにおける「物品」とは動産にあたり、住宅やマンションなどの建造物は該当しません。
②修理委託
修理委託とは、物品の修理を請け負っている事業者が業務を自社以外の事業者に任せたり、修理の一部を他の事業者に任せたりすること。
たとえば自動車ディーラーが請け負った乗用車の修理業務を他の修理業者に委託したり、 自社工場の設備を修理する工作機器業者がその作業を他の修理業者に委託したりする場合などです。
③情報成果物作成委託
情報成果物作成委託とは、情報成果物の作成を請け負っている、あるいは提供する事業者が他社に委託することで、TVゲームソフトや会計ソフトなどのプログラム、映画や放送番組など音響により構成されるもの、設計図やポスターなどが該当します。
たとえば、広告会社が広告主から受注したCM制作を、CM制作を専門とする業者に委託するなどです。
④役務提供委託
役務提供委託とは、請け負った役務を再度委託する行為のこと。役務の提供を本業とする事業者が、その提供のすべてもしくは一部を他の業者に委託するケースなどが当てはまります。
たとえば、自動車メーカーが販売する自動車の保証期間内の修理作業を自動車整備業者に任せたり、貨物運送業者が請け負った貨物運送業務の一部経路の業務を任せたりといったものです。
5.罰則で最高50万円の罰金が科せられる
下請法では、違反行為を行った際、違反者の個人と親事業者が罰せられると定められており、その際、最高50万円の罰金が科せられる場合もあります。また公正取引委員会や中小企業庁による立入検査を拒否したり、妨害したりする場合も罰金が処せられるのです。
発注内容を記載した書面の交付義務違反
さまざまなトラブルを防ぐため,親事業者は発注を行うにあたって口頭ではなく、親事業者や下請事業者の名称や発注内容を記した書面を下請業者に交付しなければなりません。
発注書面の交付義務を怠った場合、違反行為をした本人のほか、企業においても50万円以下の罰金が処されると下請法で定められています。
取引内容を記載した書類の作成、保存義務違反
製造委託や修理委託などの下請取引が完了した際、親事業者は委託内容や下請代金の金額などの取引に係る記録を書類として作成し、2年間保存しなくてはなりません
この取引記録に関係する書類の作成や保存義務を怠った場合、違反行為をした本人だけでなく、会社も50万円以下の罰金に処せられることと定義されています。
報告徴収に対する報告拒否、虚偽報告
公正取引委員会や中小企業庁の担当者による立入検査を拒否・妨害すると、最高50万円の罰金が処せられる可能性もあります。
また下請業者が親事業者への定期的な書面調査で的確に報告しなかったり、虚偽の報告が行われたりする際、罰金が科せられる場合があるのです。
立入検査の拒否、妨害、忌避
公正取引委員会と中小企業庁は、下請取引が公正に実施されているかどうかを把握するため、定期的に親事業者と下請事業者へ書面での調査を行っています。また必要があれば、親事業者が保存する取引記録の調査や立入検査を行っているのです。
これらの公的機関からの検査にて、拒否や妨害、忌避を行うと、最高50万円の罰金が科せられる場合があります。
6.その他の違反行為の取り締まり
発注書面の交付義務を怠るなどの違反行為を行った場合、最高50万円の罰金を科せられますが、罰金以外の取り締まりもあるのです。これらは下請法の第9条における「報告及び検査」で定義されています。
書面調査・立入検査
公正取引委員会は、親事業者の下請事業者に対する製造委託や修理委託に関する取引を公正に導くため、必要があると認める際は、親事業者と下請事業者へ取引に関して報告させることができます。
また下請法の第9条にもとづいて、公正取引委員会の職員は親事業者と下請事業者の事務所に立ち入り、帳簿書類などを検査する権利を持つのです。
勧告の公表
公正取引委員会は、親事業者が下請法の第四条第一号、または第二号にある行為を行っていると認める場合は、その親事業者に対して下請事業者の給付を受領し、その下請代金を支払うように勧告できます。
また前二項の規定による勧告がなされた際、親事業者がその勧告に従わないとその旨を公表できるようになっているのです。公正取引委員会からの勧告を受けると、インターネットで企業名が公表される場合もあります。